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_2017.02.21  GALLERYを更新しました(シオン1枚)
_2016.11.11  GALLERYを更新しました(綾2枚)
_2016.11.06  いただいたイラストを公開しました
_2016.10.03  新作の短編を公開しました

短いですが、久しぶりの腹責めパートです。清書(製本)時にはもっと腹責めシーンのボリュームを増やしたいですね。




 地下室の空気は淀んでいた。
 窓は無く、微かに汗や体液の臭いが混じった湿気が汚れた床すれすれの高度に滞留している。天井には大型の換気扇が埋め込まれていたが、今は稼働していないらしい。
「ん……ぅ……」
 話し声が聞こえて、美樹は目を覚ました。身体が動かないのは、おそらく拘束されているからだろう。漆喰を目の前に押し付けられた様な曖昧なグレーの視界の隅に、久留美の薄桃色の髪の色が浮かんだ。
「ゔぁッ……あ……はずと……さん……ッ……」久留美の声が聞こえ、美樹は顔を上げた。次第に明瞭になってきた視界の隅で、久留美は釣り針にかかった魚の様に顎を上げ、天井を見ながら呻いた。「も……無理……でず……ッ」
 ひび割れた白いタイルと薄汚れたコンクリートで造られた地下室には、久留美と蓮斗、そして美樹がいた。地下室はそれなりの広さがあったが、所狭しと拷問器具が置かれている。久留美は拘束は自ら壁に背中を付けて立ち、自分からシャツを捲り上げて、白魚の様に滑らかな身体のラインを晒している。そしてその久留美の華奢な腹部を、蓮斗は握った拳で嬲る様にグズグズとこね回していた。
 久留美の苦しそうな息遣いには少なからず女としての悦びの色が混じっていた。
 美樹は先刻、蓮斗に浴びせられた人工チャームにより苦痛が快楽に変わる感覚を味わった。不意のことで一時はその感覚に流されそうになったが、時間の経過とともに効果が薄れていることと、普段からの精神鍛錬の賜物で今では何とか正気を保っていられている。だが、久留美は自分とは違いごく一般的な年端もゆかない少女だ。数日間の監禁による恐怖は耐え難いものだっただろう。監禁や誘拐などの被害者は、閉鎖空間で長時間に渡り緊張状態や恐怖を味わうと、しばしば加害者に対して好意を抱いたり、加害者に気に入られたりするような行動をとることがある。少しでも犯人に気に入られて自分に危害を加えられる可能性を少なくするための生存本能に基づいた合理的行動だ。その心理に加え、薬物に似たチャームの効果で久留美が正気を失ってしまうのも無理はない。蓮斗のサディスティックな欲望を満足させるためのマゾヒストとして……。
 いつ終わるとも知れない恐怖と苦痛に耐え続けるよりは、偽りでも……たとえ正気を失ってでも快楽に押し流されてしまった方が良い。人間とはそういうものだと美樹は思った。そしてその行動は悪ではない。
 美樹は顔を上げる。
 蓮斗も久留美も、まだ美樹が目覚めたことに気がついていない。
「久留美ちゃん……まだ頑張れる?」
 気怠るそうな声で蓮斗が久留美の耳元で囁いた。久留美は立っているのもやっとな様子で膝をガクガクと震わせながら頷く。まるで二回戦目の性交に挑む恋人同士の様だ。
 蓮斗は久留美の肩を抱いて拷問器具が置かれている部屋の隅に連れて行くと、久留美の肩を押して座るように促した。久留美は不安そうな表情を浮かべたまま素直に従う。蓮斗は久留美を背後から抱きしめる様な格好で自分も床に腰を下ろすと、近くにあった器具を手にとって久留美に見せた。
「ひ、ひぃッ?!」
 その禍々しい器具を見た瞬間、久留美は思わず喉の奥で悲鳴を上げた。
 それは羽の様な取っ手の付いた、黒いエナメルを巻きつけた馬の男根にような形をしていた。
 怒り狂った様な亀頭は子供の頭ほどもあり、久留美を睨みつける様に反り返っている。
「は……蓮斗さん……ま、まさか……」恐怖のあまり久留美の歯がガチガチと鳴る。久留美は性行為の経験は無いが、一般的な男性器の大きさは把握しているつもりだった。だが、蓮斗の持つ凶暴すぎる器具は明らかに規格を超えていた。こんなもので貫かれたら命に関わるのではないか。
「大丈だよ。アソコには入れないから」蓮斗が久留美の耳を舐める様にして囁く。「でも、こっちには挿れちゃうけどね」
 蓮斗が久留美のヘソにディルドの亀頭をあてがう。久留美の肩が恐怖からびくりと跳ねた。蓮斗は取っ手を両手で握ると、力を込めて自分の身体に向けて引き付ける。ぐぽりと音がして、蓮斗の身体とディルドに挟まれた久留美の腹部に凶悪な鬼頭が埋まった。
「ぐぷッ?! がッ?! あああッ!」
 蓮斗がディルドを引く力を強めると、華奢な久留美の腹部に黒光りしている暴力が更にめり込む。胃を潰され、久留美の喉の奥から濁った悲鳴が漏れた。
「げぅッ?! げあぁッ! ばずど……ざんっ……おなが……ぐる……じ……」
「いいよ……もっと気持ちよくなって……」
 久留美が限界だと訴える様に必死に首を振るが、蓮斗は興奮をますます昂らせている様だ。蓮斗は押し込んでいたディルドを一瞬引き抜くと、リズミカルに久留美の腹部にディルドを押し込み始めた。まるで性交の時のピストン運動の様に、久留美の腹部にぐぽぐぽと黒い先端が埋まる。M字型に足を開いてめくり上がったスカートから覗く久留美のショーツが、分泌液で徐々に透けていく。
「ゔあッ!? ごッ! がぁッ! やらッ! はずどさん……はすと……さんッ!」
 久留美の久留美が背後を振り返り、蓮斗に向かって舌を突き出した。蓮斗はその唇を吸う。久留美も蓮斗もお互い目を閉じて、貪る様に舌を絡ませている。
 その隙を、美樹は見逃さなかった。
 美樹は頭を素早く横に振る。後ろで一つに縛った黒髪が揺れ、さらりと顔にかかる。その中の一本を美樹は素早く咥えた。ぐいと引っ張る。再びさらさらと髪の毛が元に戻った時、美樹は一本の細長い黒い針金を咥えていた。全身に隠した武器のうちのひとつで、緋色のリボンで留めて髪の毛の中に隠していたものだ。美樹はそれを器用に咥え直すと、手首を拘束している腕輪に付いた南京錠の鍵穴に差し込んだ。無骨な鍵ほど仕組みは単純だ──人間と同じ様に。
 美樹はものの数秒で片手を自由にすると、一分かからずに全身の拘束を解いた。
 二人はまだ唇を吸いあっている。
 美樹は素早く飛び出し、蓮斗に向かって突進して行った。

先日見事に完結した宮内ミヤビさんに書いていただいたレジスタンスシリーズ二次創作の後日談を書いてみました。
本編の息抜きとして書いていたのですが、先に書きあがってしまったので公開します。
セルフ二次創作みたいな感じになりますので、キャラクターのイメージを損なう可能性がありますが、本編とは別物として楽しんでいただければと思います。
また、特に推敲などせすにかなりラフに書いてしまったので、本当に息抜きとして呼んでいただければ幸いです。

ミヤビさんの二次創作はこちらから。
今回書いたのはこちらの後日談となります。




 目抜き通りから少し入った通りには洒落た飲食店が建ち並んでいて、その日はちょうど暑くも寒くもない土曜日だったから、日付が変わったにもかかわらず通りを歩く人の数は多かった。ほとんどの人は晴れ晴れとした顔をしていて、日頃の疲れを癒す様に友人や恋人と連れ添って歩いている。
 一軒だけ入口のカーテンが降ろされたレストランには「本日貸切」の札がかかっていた。
 その店は雑誌やテレビで何回も取り上げられ、アジアの料理店ランキングに載ったこともある有名店だ。ここを貸し切れるなんてどんな人物なのだろうと通りを歩く人々の何人かは思った。

 店の中の凄惨な状況など想像もせずに。

「あの……シオンさん……?」
 赤いチェックのスカートにライダースジャケットを羽織った綾が心配そうに声をかけるが、相手からの返事は無い。テーブルの上にはワインやウオッカの瓶が並んでいる(数本は倒れたままになっていた)。綾はオロオロとうろたえ、黒いスーツを着た美樹は諦めたように天井を見ていた。
「あの……」
 再び声を掛けようとした綾の肩に、美樹が手を置いて諦めたように首を振る。
「もう無理だ。私が残るからお前も帰れ」
「でも……」
「掃除も片付けも済んでいるから、あとはこいつが目を覚ますのを待つだけだ。二人もいらんさ」
 屍累々となったシオンの祝勝会が開かれたイタリアンレストランには、綾と美樹、そしてシオンだけが残っていた。シオンの料理を食べたアンチレジストの面々は、ある者は椅子ごと後ろに倒れ、ある者はテーブルに額を打ち、ある者は口を押さえたまま固まった。シオンはその様子を見て悲鳴を上げ、すわ敵の襲撃かと能天気にも原因が自分にあるとは知らずに泣きながら介抱した。
 まずかったのは唯一の男性である鑑を介抱した時に「この馬鹿!」と罵られたことだ。「味見くらいしろ! 冗談は目のやり場に困るメイド服だけにしておけ!」
 無論、鑑は本心から言ったわけではない。普段の彼は心の底からシオンの人柄や仕事ぶりを尊敬しており、彼女の右腕として生徒会の運営やアンチレジストの任務において陰から日向からシオンをサポートしている。今回彼が発した暴言は、いわば生存本能が発した心にも無い暴言だった。自分の命を脅かす敵がとどめを刺そうと近づいてきた時に威嚇する動物的行為。問題だったのは、その防御反応の対象が自分が憧れるシオンであったこと、そして、その威力は彼女にとって効果抜群だったことだ。普段の彼からは想像もつかない暴言にシオンの心は砕け、ギャグ漫画の様に白眼になり、ピシッという音と共にガラスのように固まった。
 数刻が経った後、正気に戻った鑑は固まっているシオンを見て困惑し、続々と目を覚ました組織のメンバーに的確に片付けの指示を与え、最後まで残ると言った綾と美樹を除いた他のメンバーを率いて帰路に着いた。

「Ужас!!!」
 突然シオンがテーブルに突っ伏したまま叫んだ。綾の肩がビクッと跳ねる。
「え……なに……? ウジャ……?」
「ロシア語だな。最悪だ、とか畜生とでも訳しておけばいい」
「……つまり、結構汚い言葉ってこと?」
「まぁ、あまり綺麗ではないな」
 ガバリとシオンが顔を上げる。白い肌が赤くなって目が据わっていた。
「なんですか……?」シオンが頬を膨らませながら言った。「私の料理がそんなに汚いって言うんですか?」
「え……誰もそんなこと……」綾がオロオロしながらフォローを入れる。
「いいんですよ……どうせ私は料理下手で、破廉恥なメイド服を喜んで着ている露出狂ですから。露出狂のロシア人ってなんか語呂が良くて素敵じゃないですか……はは……」シオンが床に視線を泳がせたまま、半笑いで器用にグラスにワインを入れる。「いいんですよ別に……アンチレジストや学院の皆さんから自分がなんて言われているかくらいちゃんと知っているんですから。いやらしい身体をしているから遊びまくっているはずだとか、完璧に振舞っているけれど根はエロいとか、ドスケベメイドとか……男性とは手を握ったこともないのにですよ!」
 シオンが両手で作った握りこぶしで机を叩いたから、新しくワインの瓶が倒れた。もう何本空けたのだろうかと綾は思った。
 鑑の暴言でフリーズから溶けたシオンは虚ろな目をしたままフラフラと勝手に店のワインセラーを開け、棚からウオッカの瓶を取り出し、無言のまま飲み始めた。美樹の付き合いでグラス一つくらい付き合うことはあったが、ここまでしっかりと飲酒しているシオンを綾が見たのはこれが初めてだった。
「なんで自分が可愛いと思う服を着ただけで笑われなきゃいけないんですかぁ……それにこの身体だって好きでこうなったわけじゃないのにぃ……。私だってスレンダーな身体に憧れてもいるんですからぁ……」
「重傷だな」美樹が頭を掻きながら言った。「いいかシオン、片付けはもう済ませたから、あとは何も心配せずに家に帰って寝るんだ。タクシーの手配をしよう。そして朝起きたら熱いシャワーを浴びて、いつもみたいに紅茶を淹れて飲め。心配するな、これくらいで誰もお前を嫌いになんかならないさ」
 殺されかけたことは「これくらい」とは言えないんじゃないかなぁと綾は思ったが、黙っていることにした。
「まだ飲みたいです……」
「ダメだ、もう帰るんだ。一応入口のカーテンは閉めてあるが、巡回に来た警察に見つかったら補導だぞ。アナスタシア聖書学院の生徒会長が未成年飲酒で補導なんてシャレにならん」
「ロシアでは十八歳から飲酒が認められていますからセーフです……」
「アウトに決まっているだろう。ここは日本だぞ。郷に入れば郷に従え」
「うぅ……わかりました……」と、シオンは残念そうに頷いた。
「タクシーは一時間後に来てもらうように手配するからな」美樹がタバコを咥え、スマートフォンを耳に当てながら店を出て行った。
 美樹がいなくなり、店内は水を打ったように静かになった。はぁ……とシオンが深いため息を吐く。
「ねぇ……綾ちゃん……」とシオンがグラスの縁を指先でなぞりながら言った。「私って……そんなに変なのかなぁ」
「へ、変じゃないよ。私は好きだよ……シオンさんのこと」と綾は本心からそう言った。
「ありがとうございます……私も綾ちゃんのことが好きですよ」
 とろんとした目をしたままシオンが言った。上気した顔で上目遣いで見つめられ、綾は同性ながらどきりとした。ビスクドールが動き出した様な見た目は怖いくらい美しかった。その顔はずっと眺めていられるほど整っている。まるで吸い込まれるようにシオンの顔を近くに感じた。今ではシオンの吐息まで感じられる。
「好きですよ……」
 目の前でシオンが言った。
 目の前?
 綾がはっと気付いた時にはもう遅かった。
 シオンはいつの間にか綾とゼロ距離の間合いに移動していた。しまった、と綾は思った。そうだ、この人は私以上に戦闘に長けて……。
 ふにゅっと唇にマシュマロの様な柔らかいものが触れた。
「んぅッ?! ゔぅッ?!」
 キスされた! と思った瞬間に綾は負けていた。シオンは一瞬のうちに綾の腰に片手を回し、同時にもう片方の手で綾の後頭部をがっしりと固定していた。身長差もあり、綾は上から押さえつかられるように押さえ込まれていた。
「んぅッ?! んんー! んふぅッ?!」
 一瞬のうちにシオンの舌が綾の口内に侵入し、綾の上唇や舌の裏側をなぞった。ぞわりという刺激が綾の背骨を駆け上がり、腰から力が抜けるのを感じる。軽いアルコールに花とミルクを混ぜ合わせた様な甘く蠱惑的な香りが綾の鼻をくすぐった。その間にもシオンの舌は綾の口内の弱いところを的確にさぐり当て、容赦のない暴力的な愛撫を続けていた。
「ん……んふぁ……んぅっ……」
 全身の骨を抜かれてしまった綾が蕩けきった表情でシオンの腰に手を回したと同時に、美樹が店に戻ってきた。そしてそのまま何も見なかった様に店から出て行った。

短いですがこちらの続きです。
今年中には完成させたいですね。



 シオンはコンポストの中に隠された階段を降り、アルミ製のドアを開けた。かすかなカビと湿気の匂い。キン、キン、と死にそうな音を立てる蛍光灯に照らされて、白い壁や薄い緑色の樹脂で出来た床が浮かび上がった。
 まるで遺棄された病院の様だ。
 美樹や久留美は無事だろうか……とシオンは廊下を進みながら思った。随分と時間が経ってしまった気がする。孤児院の地下にあるこの奇妙な施設の調査も進めたいが、まずは二人と合流しなければならない。それに、人妖と行動を共にしている蓮斗の目的や経緯を、できれば本人から直接聞かねばならない。どの様な理由から人妖に協力しているのか。他にも協力者はいるのか。また、かつて対峙した冷子も蓮と共にこの施設にいるはずだ。やらねばならないことは多い。
 シオンは蓮斗のことを思った。
 蓮斗がこの施設に収容されることになったきっかけの凄惨な事件。十歳の子供があの様な恐ろしい犯行を行えるものだろうか。
 凄惨な現場写真や調書を調べている間、シオンは何度も嘔吐き、頭痛を覚えてソファに倒れ込んだ。物心がついた……ちょうど父と死別した頃から、死を連想させる事象に対して生理的な嫌悪感を感じるようになった。だから、蓮斗の犯行を記録した資料は、シオンにとっては目を覆いたくなるほど耐え難いものだった。
 資料によると、蓮斗は太った体型を理由に六歳の頃から虐められ始めた。蓮斗は何度か教師に相談をしたが、教師は首謀者の家が生活保護を受けていることを理由に首謀者に同情し、肩を持ったという。両親と蓮斗の仲も良好とは言えず、蓮斗が八歳になる頃には虐めはクラス全体を巻き込んだ大きなものへとエスカレートしていった。味方のいない蓮斗はあるとき鬱憤を晴らすように学校で飼育していたウサギを生きたまま焼却炉に放り込み、教師から厳しく叱責される。また、知らせを聞いた蓮斗の両親はその日、雪が降る夜に蓮斗を家から放り出した。
 蓮人は自分を虐めていたクラスメイト達が大した咎を受けず、ウサギを殺した自分だけが糾弾されたことに納得がいかなかった。また、ウサギを殺したことを弱いもの虐めだと教師や両親から罵られたが、それでは今自分が受けている仕打ちは何なのだろうか。
 蓮斗が身体の奥から黒いものが湧き上がるのを感じながらショッピングセンターで途方に暮れていたところ、目の前を虐めの首謀者が家族と共に通った。家族と楽しそうに笑う首謀者を見た瞬間、蓮斗は「口から内臓が飛び出すほどの憎悪」を感じたと調書に書いてあった。
 蓮斗は公衆トイレで凍えながら一夜を明かすと、自宅に忍び込んで包丁と金属バッドを持ち出して学校へと向かった。授業には出席せず、放課後に首謀者が一人になったところを見計らって背後からバットで殴り昏倒させると、グラウンドの隅にある体育倉庫の中に主謀者を監禁、拘束した。学校から完全に人がいなくなったことを確認すると、蓮斗は首謀者を裸にし、腹部を内臓が破裂するほどバットでめった打ちにし、首から性器の辺りまでを包丁で裂いて殺害した。警察の調査で首謀者の露出した内臓に付着している蓮斗の精液が検出された。
 蓮斗は首謀者の身体をゴミ捨て場に棄てると、血まみれのまま、学校の近くに住む虐めに加わっていた母子家庭の生徒の家に侵入。バットで殴り昏倒させると、母子の手足をロープで縛り、母親の目の前で生徒の腹部を滅多刺しにして殺害。母親の狂ったような悲鳴を聞いて近所の住人が警察に通報した。警官が駆けつけた時には生徒は四方に内臓を飛び散らせた無残な姿になり、蓮斗は一心不乱に母親の裂いた腹部の中を掻き回していた。後の調査で、蓮斗は下着の中で何度も射精した跡が発見された。
「ゔっ……げほっ……」
 シオンは眩暈を覚えて、口元を押さえて床に片膝を着いた。フラッシュの様に明滅する凄惨なイメージを頭を振って払拭する。なぜ幼い子供がここまで歪み、凶行に及んだのか。原因は酷い虐めによると調書には記載されていたが、蓮斗の感じた憎悪はそれほどのものだったのだろうか。
 シオンはふらふらと立ち上がり、髪の毛を手櫛で梳いてから目を閉じて大きく息を吐いた。しっかりしなければ。まずは目の前の状況に集中するべきだ。
 ここ数日はほとんど寝ていない。
 アンチレジストともほとんど連絡を取らず、この孤児院……CELLAのことも報告していない。通常任務であれば当然受けられる組織からのバックアップは無く、危機が迫っても自分のみの力で解決しなければならない。解決できなければそれまで……それは先にこの施設に侵入しているはずの美樹も同じだ。
 シオンは慎重に薄暗い廊下を進んだ。
 おそらく孤児院の敷地全体にこの地下施設が広がっているのだろう。廊下は細かく枝分かれしており、廊下から中を覗けるように大きな窓が嵌まっている部屋が続いている。ほとんどの部屋の中には数台のパイプベッドが置かれていた。しばらく歩くと、コンピューターが置かれたナースステーションの様な部屋があった。中に入る。強盗にでも入られたかのようにファイルや紙の資料が散乱していた。シオンは足元に落ちているファイルを手に取って中を見る。顔写真付きの履歴書の様な紙が多くファイリングされていた。
 シオンは手早くファイルをめくる。
 いた。
 蓮斗だ。
 おそらくこの施設に来てしばらくしてから撮影されたのだろう。十歳前後の頃の、脂肪で膨れた頬と顎をした蓮斗が、どんよりと地を這う様な視線で写真の中からシオンを睨みつけている。書類には神経質そうな細かい文字がびっしりと書き込まれていた。
「な……え……?」シオンは思わずファイルをぐいと顔に近づけた。「人妖……適性……?」
 書類には蓮斗の細かい身体情報や経歴、蓮斗の起こした事件の調書の他に「人妖適性」なる見慣れない所見が書かれていた。

 ──施術に対する身体的適性は中からやや低と思われる。しかし、虐めに起因する自信の喪失、躁鬱的な心理障害及び他者を無価値なものと認識する性質は人妖化した後の栄養源補給においては有利に働くものと思われる。また、自己嫌悪に起因する自傷的行為、および自身の身体への無価値観、自愛の喪失は、被験者への追加実験や何らかの改造を施す際に抵抗なく受け入れられると思われる。

 なんだ、これは?
 人妖化?
 施術?
 どういう意味だろう?
 人妖は人為的に造り出されたものだとでもいうのか?
 ならば、人妖とは未知の生物などではなく、何者かが何らかの理由と意図の元に生み出したものなのだろうか。では、それを命懸けで追い、調査し、戦っている自分達やアンチレジストという組織は何のために存在しているのか。アンチレジストはこのことを知っているのか? 自分達は一体何と戦っているのだろうか……。
 不意に、虫の羽音のような音とともにブラウン管のモニターが点いた。粗いノイズ混じりの画面に、見慣れた顔が映る。
「何をぐずぐずしているの? 早こっちに来なさいな」
 うねるような画面の中に、スーツを着た女性の胸から上が映っている。女性は退屈そうに椅子に座っているらしく、アームレストに片肘をついたまま呆れたような視線を送っていた。
「冷子……さん……」
「私の庭を荒らさないでくれるかしら? この施設は古いけれど、まだまだ利用価値があるの。学園の研究棟以上にね」
「……この施設は何なんですか?」
「結論を急ぐんじゃないわよ、貴女らしくもない……あまり私を失望させないでくれる? 貴女みたいな奴が涼の仇だと思うと情けなくなってくるわ。それよりも、積もる話は直接会って話してあげるから早くロビーまで来なさい。そこの廊下をまっすぐ進んでドアを開ければ出られるから。決着が着いてから好きに調べればいいわ。貴女が生きていられたらだけど……」
 ブツンと言う音と共にモニターが切れた。モニターは青い顔をしたシオンの顔を嘲る様に反射していた。

いさあき(http://isaaki.web.fc2.com)さんの描かれたイラスト、「端境さん」で二次創作させていただきました。

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こちらの絵はいさあきさんが描かれるイラストの中でも特に好きなものです。
「和服とマスク」「彼岸花と向日葵」「和傘と傷跡」など、どこかアンバランスで不穏な空気感。「端境さん」自体の美しいけれど虚ろでどこを見ているのかわからない表情。どのようにでも解釈ができるとても懐の深い絵なので、書いていてとても楽しかったです……。

今回は初めて文庫本サイズで書いてみたのですが、やはりイラストが無ければこちらの方が読みやすい気がしますね。
後半にいつも通りテキストを載せますが、文庫本サイズのPDFもダウンロードできるようにしてありますので、お好きな方でお読みください。
いさあきさん、ありがとうございました!


_PDFはこちらから
※リンクが開けない場合は下記URLをそのままコピーしてブラウザでお読みください
http://roomnumber55.com/端境.pdf







_テキストは「続きを読む」からご覧ください。


続きを読む

ありがたいことに、普段仲良くしていただいている宮内ミヤビさんが二次創作をして下さっています。
現在物語が佳境であり、自分としても続きが本当に楽しみです。
是非こちらからご覧下さい。


また、自分としてもキャラ動かしの練習を兼ねて前日譚的なものを書いてみましたので、お時間があればご覧ください。
※腹パンやリョナはありません







 レイズ・バーは東京駅に直結している会員制の店で、その好立地に反して客の入りはまばらだった。人気が無いのかと思いきやどうやら完全予約制で、他の客との距離にゆとりを持たせるために一日の客数を制限しているらしい。
 サンローランの黒いタイトスーツを着た鷹宮美樹はソルティードッグのグラスを傾けながら店内を見回した。
 豪奢なテーブル席がメインで、一面ガラス張りの眼下には東京駅が見える。
 一人客は自分しかいないようだ。
 ほとんどが二人連れか四人連れで、年齢層は高め。男性も女性もかなり身なりが良い。騒いでいる客は皆無で、客たちは静かに話をしたり声を出さずに笑ったりしている。
 どうにも居心地が悪い、と美樹は思った。
 任務とはいえ、年齢を偽ってバーで酒を飲むなど今までしたことがない(もっとも酒を飲めとは言われていないのだが)。店の雰囲気を見るに、紹介さえあれば誰でも入れる名ばかりの会員制ではなく、料金でもふるいをかけているのだろう。いきがった勤め人や学生は一人もいなかった。
 空になったソルティドッグのグラスをコースターの上に置きながら、美樹は任務を頭の中で思い返した。
 ある男が人妖ではないかとの疑いをかけられている。
 人妖とは人間を栄養源とする怪物だ。恒久的に栄養源を得るため、目立った行動を嫌う性質がある。しかしその男は他の人妖とは違い、日本のウイスキーメーカーの代表を務めている。当然おいそれと会える人物ではなく、疑う材料はあるものの決定的な証拠に欠けるため、最終手段として囮として近づき人妖の特徴である「獲物を見つけた時に縦に裂ける瞳孔」を直接目視することになった。人妖でなければそれでめでたし。だが仮に人妖であった場合、当然至近距離で対峙することになるため今回の任務では美樹に白羽の矢が立った。
「失礼致します。例のものをお持ちしました」店の中央で丁寧にアドリブを弾いていたピアニストが交代すると同時に、疲れた表情のバーテンダーはうやうやしく一本のウィスキーボトルをカウンターの上に置いた。ラベルにはタロットカードの「皇帝」の絵柄が描かれている。バーテンダーは愛おしそうにそのボトルを撫でると、慣れた手つきで栓を抜き、足つきのショットグラスに慎重に注いでコースターの上に置いた。そして投げ込んだ石が作った池の波紋が落ち着くのを待つようにじっとウイスキーを見つめてから、隣のコースターに置かれたグラスに水を注いだ。「こちらがレイズモルトのタロットシリーズ、『皇帝』になります。当店にいらっしゃるお客様の中でも、ご指示がなければお出しすることはありません。特に貴女の様な若い方でこれを口にできるのはかなり幸運なことかと思います。正規のルートではない、いわゆるプレミア価格では数十万円に達することもあります。それでも、飲みたいという方が多いのです」
 バーテンはそう言うと、カウンター越しに座っている美樹を見た。綺麗に梳かれた艶のある長い黒髪が凛とした顔つきと見事に調和している。ソルティードックを二杯ほど飲んだ後のせいか、その顔はわずかに赤みを帯びていた。美樹はアメジストの様な瞳で少量注がれた琥珀色の液体をじっと見つめる。
「なるほど……」美樹はグラスをそっと持ち上げて、口の窄まった縁に鼻を近づけた。「素晴らしい香りだ。すまないが、一人でゆっくりと楽しみたい。申し訳ないが……」
「もちろんです。私もできることなら味わってみたいものです。では、ごゆっくり……」
 バーテンが静かに美樹の前から離れると、音楽が少し大きくなった様に感じられた。美樹は少し迷ったが、ウィスキーを少量口に含んだ。飲まない方がいいと言われてはいたが、そこまで絶賛されるほどのものであれば味わってみたい。舐めるような量だったが、プレミア価格で何十万というそのワインはアルコールの刺激が舌を刺す荒々しいもので、香りや甘みは影に隠れてしまっている。美樹はかすかに眉間に皺を寄せ、チェイサーを流し込んだ。
 なんだこれは。
 バーテンを追い払うために香りが良いと世辞を言ったものの、香りも味も好みでは無い。美樹はどちらかといえば下戸な方で、ウイスキー自体にそもそも明るくないが(そもそも未成年なのだが)、これなら数千円で売っているスコッチの方が好みだと思った。こんなものを有難がって数十万の金を払って手に入れる物好きがいるとは信じ難い。
 美樹は自分にしか聞こえない大きさで溜息を吐くと、軽くグラスを押しやった。バッグからショートホープを取り出す。一瞬スーツにタバコの匂いをつけるのもどうかと思ったが、そうせずにはいられなかったのだ。スーツは今日の任務のために組織から支給されたものだし(任務が終われば美樹のものになる)、バーのカウンターに座って目の前の酒に手をつけずにぼうっとしているわけにはいかない。何よりさっきのバーテンに飲まないのかと言われるのも面倒臭かった。
 ターゲットが現れる様子は無い。
 本当に居心地が悪い。
 任務でなければすぐにでも帰りたかったし、自分一人では到底上手くこなせるとは思えない。頼みの綱の助っ人の到着も遅れている。美樹は短くなったタバコを灰皿に押し付けると、続けざまに二本目を取り出した。


「すみません、遅くなりました」
 美樹が四本目のショートホープを灰にした頃、軽く息を弾ませながらようやくシオンがバーの中に入ってきた。肩を出したディオールの黒いワンピースドレスに、真っ白い肌と腰まである長い金髪が映えていた。バーの入口に立ってる店員がずっとシオンを目で追っている。シオンも普段とは違うやや濃いめのメイクをしているため、二十代前半には見えた。
「遅かったじゃないか」と、美樹が灰皿にタバコを押し付けながら言った。
「無茶を言わないでください。許可を取るのが大変だったんですから」美樹の隣に座りながら、シオンが軽く頬を膨らませた。「そもそも今回の任務は美樹さんが受けたものではないですか。複数の上級戦闘員が同一箇所の任務を遂行するのは基本的に禁じられているのはご存知ですよね?」
「ああ、確かターゲットが思わぬ強敵だった場合や、なんらかの事故があった場合に犠牲を最小限にするためだろう。任務以外でも、移動や宿泊は全て個別に行うことが原則だったな」
「そこまでわかっているのなら、今回の許可を取り付けるのがどんなに大変だったかわかりますよね?」
 シオンがぐいと顔を近づけ、美樹の鼻の頭を人差し指で軽く押しながら言った。どうやら本当に大変だったらしい。美樹がわかるさ、と言いながら鼻を押しているシオンの人差し指を握ってテーブルの上に下ろした。
「悪かった。だが、来てくれて助かった。今回の任務はどう考えても私は適任じゃない。どうせ見た目や雰囲気だけで選ばれたんだろう」
「任務の振り分けはAIも関与していますから、適性が無いということは無いはずですが……」
「だがどう考えてもお前の方が適任だ。支配系の人妖の調査にはオペレーターではなく戦闘員が行うことは珍しくない。私も何回か駆り出されたことがある。だが、今日の様に接触が伴う調査は苦手だ。お前みたいに愛想を振りまいたり、誰とでも話を合わせられる豊富な話題を持ち合わせていたりしたのなら、バーテンひとりあしらうのに気を揉む必要もなかった。そしてそもそも私は酒に強くはない。お前は国柄的におそらくザルだろう。たぶん」
「それは人種的偏見というものです」
 再びシオンが唇と尖らせながら美樹の鼻を押した。
「すまない、酒が入っているんだ。少し口が軽くなっている。私が下戸なのは知っているだう?」
「えっ? 飲んだんですか? もう、任務中だというのに……あら?」
 シオンがカウンターの奥に目をやった。バーテンダーがおしぼりを持ったまま会話が途切れるタイミングを待っている。シオンがにこりと笑って会釈をすると、バーテンダーはようやくゼンマイを巻かれた人形のように動き出した。
「……失礼致します。先ほどおっしゃっていた御連れ様ですね。メニューはこちらになりますので、お決まりになりましたら……」
「ありがとうございます。すみません騒いでしまって……まぁ、これは」シオンがおしぼりを受け取りながら、カウンターの上のボトルに目をやった。ふっ、と一瞬シオンの目が細くなる。それは美樹がなんとか気付くくらいの僅かな変化であり、それがシオンの仕事の顔であることを美樹は知っていた。「レイズモルトのタロットシリーズ! 実物を見たのは初めてです!」
「ご存知ですか。おっしゃる通り、レイズモルトのタロットシリーズの一本。世界で二百本ほどしかありません。天才醸造家、薊冷士(あざみ れいじ)氏の産み出した傑作モルトです。卓越した類稀なる技術により、一度飲んだだけではその魅力に気がつくことは難しいですが、まるで麻薬のように虜になる人も多く、数少ないボトルは世界中で奪い合いになっております」
 まるで自分の手柄のようにバーテンダーが言った。シオンの見た目と仕草を見て、心なしか得意げになっているようだ。シオンも自分の口の前で手の平を合わせながら、ウイスキーの製法について話をしている。本当にこいつを呼んで良かったと美樹は思った。おそらくバーテンダーの目にシオンは、日本語が上手くて酒に詳しく、美人で愛想の良い外国人に映っているのだろう。
 シオンが未成年で普段は全く酒を飲まず、レイズモルトの存在を知ったのも美樹が調査同行を頼んだ数日前で、ウイスキーの知識もおそらくそのタイミングで調べたものだと知ったらどんな顔をするだろうか。
「では、レイズモルトの製法はほとんど秘密なのですか?」と、シオンが驚いたような表情で言った。
「そうです。糖化や発酵、蒸留までは社員が行いますが、熟成から瓶詰め直前の段階において薊氏は醸造所から自分以外の社員全員を締め出して一人で醸造所に篭ることがあるとか。一般的な製法であれば熟成の段階で何らかの手を加えることは本来無いのですが、このステップが薊氏の作るレイズモルトがレイズモルトたる所以であると言われております。いやはや、醸造所の中で一体何が行われ、どのような魔法が使われているのか……」
「魔法だなんて、なんてロマンチックなのでしょう……」
 シオンの目が輝いている。バーテンダーの得意顔を見て、美樹はタバコが吸いたくなった。
「そろそろ召し上がってはいかがですか? せっかくの機会です。魔法を味わってみては……」
「……ええ、いただきます」シオンが宝物を抱くようにグラスに口をつけた。少量を口に含み、上品な仕草でハンカチで口元を押さえながら舌の上で転がしている。「はぁ……なんて個性的で素晴らしいのかしら。男性的で逞しく芯がある力強さがありながら、魔女の悪戯の様なスパイスも感じられる……こんなウイスキーが存在したなんて」
「一口ではその癖の強さから全てを理解するのが難しいですが、そのグラスを飲み終えることにはきっと虜になっていると思います」
「魔法にかかってしまうわけですね……薊冷士さん、一体どんな方なのかしら。出来ることならお会いして見たいものですね。きっと素敵な方なんでしょう……」
 シオンが手を組みながらうっとりと言うと、バーテンダーが思わせぶりに咳払いをした。
「……もしかしたら、お会いできるかもしれません」
「まぁ、本当ですか?」
「ええ、表には出していないのですが、このバーの名前の通りと言いますか……オーナーが薊冷士氏その人なのです。本日も奥のプライベートルームにいらっしゃいます。内密にしていただけるとお約束していただけるのなら、お時間があるか聞いてみますので……」
「もちろんです! ぜひよろしくお願いいたします」
 バーテンダーが店の奥に引っ込むと、シオンはグラスの水を飲んだ。
「どうだった? そのお高いウイスキーは?」と、美樹が聞いた。
「お酒のことはよくわかりませんが、好みではないですね……。ただ、味のバランスが崩れているような気がします。絶賛されるほどのものでは……」
「だろうな」
「美樹さんも?」
「ああ、良くはない思う。他の一般的なウイスキーの方が好みだ。バーテンも言っていただろう? 癖はあるが、なぜか虜になる……と。乱暴に言い換えると、美味くはないがなぜか飲みたくてたまらなくなる……と言うことだ」
「……とんだ魔法使いもいたものですね。予想が当たっていないことを祈っていたのですが」シオンが先ほど口元を押さえていたハンカチを取り出す。中心が薄い青色に染まっていた。「おぞましいことを考えるものですね」
「それは?」
「開発途中のチャームの検査薬です。正確さはまだ確かではありませんが、一応黒ですね……」
「……似たような話があったな。ラーメンに麻薬を入れて通い詰めさせるという」
「やめて下さい。チャーム入りのウイスキーに比べたら、麻薬入りのラーメンの方がマシかもしれません」
「違いないな。ん……白黒がはっきりしたら、早く帰りたかったんだが」
 背後を向いた美樹の視線の先をシオンが追う。上等なスーツに身を包んだ男が足音も無くこちらに歩いてきた。両手で大事そうに一本のボトルを持っている。
「失礼。私のウイスキーを気に入っていただけたようで、ありがとうございます」男が恭しく頭を下げた。「薊冷士と申します。あなた方のような若く、そして美しい方々に気に入っていただけるとは光栄です。この『逆位置ラベル』はいわゆるプライベートストックで、私が個人的に親しい関係の方にしかお譲りしていません。本日の素晴らしい出会いを記念して、一本差し上げましょう」
 薊は目つきが鋭く常に笑みを浮かべ、自他共に自分の能力を認めているという雰囲気の男だった。上品な香水の香りと共に差し出したボトルには、逆位置になったタロットカードの法王の絵柄が描かれている。
「まぁ、そんな貴重なものいただけません……」シオンが立ち上がり、軽くスカートの裾をつまんで頭を下げた。
「気にしないで下さい。特にと思った方には必ず差し上げるようにしているのです。よろしければ奥に自室がありますので、この出会いに乾杯しませんか?」
「すみません。パートナーと部屋を取っていますので、これで失礼します。あいにく二人とも下戸なものですから」
 美樹がシオンの肩を抱きながら言った。シオンが少し目を大きく開いて美樹を見る。
「これは失礼。では、このボトルはお持ちください。このボトルを飲んでまた私を思い出していただけたら、いつでもお越し下さい」
「ええ、近いうちにお会いできると思います」
 美樹の言葉に薊は笑みを浮かべると、カウンターの上にボトルを置いて踵を返した。カウンター横の扉を開けて、バーの奥のプライベートルームに戻る。豪奢な調度品の他に、クイーンサイズのベッドやバーカウンターまで備えられている。室内には上品な香りが漂い、間接照明が効果的に使われた趣味のいい部屋だ。薊は葉巻に火をつけると、携帯電話を取り出した。
「ああ、私だ。次のターゲットだが……」

お礼がかなり遅れてしまい申し訳ありませんが、先日のりょなけっとでは弊スペースまで多くの方にお越しいただき、ありがとうございました。
サークル活動を始めて2回目のイラスト無しの文章のみの本ということで、正直当日までお手にとっていただけるかかなり不安だったのですが、蓋を開けてみると本当に多くの方に手にとっていただけて本当に感謝しております。
さて、今回は先日のりょなけっとで配布させていただいた「COLLECTION_016 RESISTANCE CASE: YUKA_2」について、普段から仲良くしていただいているスガレオンさんがご厚意でイラストを描いてくださいました!
衣装などかなりスガレオンさんらしいアレンジが施されており、またシーンイラストもとても魅力的なものとなっております。
ぜひとも先日の本と一緒に楽しんでいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

_閲覧方法
ブログの「続きを読む」をクリックしていただき、指示に従って「COLLECTION_016 RESISTANCE CASE: YUKA_2」の裏表紙に記載されているPINコード(表記の通り大文字)を入力してください。

※今回のイラストは「COLLECTION_016 RESISTANCE CASE: YUKA_2」を手にとっていただいた方へのお礼となっておりますので、全体公開は控えさせていただきます。申し訳ありませんが、ご了承ください。

友香立ち絵

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続きを読む

無事に入稿が完了しましたので、正式に告知いたします。
久し振りの腹パンチメイン本となりますので、興味のある方は是非お手に取ってみてください。



_配布イベント
 りょなけっと7
 2017/02/26(日) 11:30〜15:00
 東京卸商センター3F展示場
 http://www.ryonaket.com/top.html
 スペース「地8」

_新刊タイトル
 COLLECTION_016 RESISTANCE CASE: YUKA_2

_内容
 とある合同誌のために書き下ろした「COLLECTION_002 RESISTANCE CASE: YUKA」を完全リメイクしました。ストーリーや時系列などすべて新しくした完全書き下ろしとなりますので、前作をお持ちの方でもお楽しみいただける内容になっております。時系列としては「COLLECTION_001 RESISTANCE CASE: AYA」の少し前の話となります。

_装丁
 B5サイズ モノクロ20ページ(上下2段組み)
 ※都合により挿絵はありません。
 イラストを楽しみにされていた方には申し訳ありませんが、文章のみになります。イラストについては完成次第、何らかの形でお届けできればと思います。

_予定配布価格
 500円

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※追記
今回スペースにスガレオンさんが遊びに来ていただけることになりました。
新刊(500円を予定)も持って来ていただけるとのことですので、よろしくお願いします。
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 佳奈が教室を開けると、充満したアルコールの臭いでむせそうになった。
 教卓にどっかりと座った男と目が合う。男はコンビニで買った安物のウイスキーを煽ると、げふっと下品な音を立てて息を吐いた。酒の臭いがさらに強くなる。男は顎ひげに付いたウイスキーの水滴を拭うと、汚く染めた短い金髪をばりばりと掻いた。鉄板で焼いた様な黒い肌に、筋肉を誇示するかの様に黒いタンクトップと切り込みの深いビキニパンツを身につけている。
 場違いな臭いと、場違いな男。
 時刻は夜八時。教室のカーテンは全て閉まっている。佳奈は学校に誰もいないことはわかっていたが、なるべく音を立てないように教室の引き戸を閉めた。
「遅せぇよ、もう少しで時間切れだぜ。時間は守れって学校で教えてくれなかったのか? あ?」
 男の乱暴な口調に佳奈の肩が震えた。
 男は舐めあげるような視線で佳奈を見る。グレーのスカートに濃紺のブレザー。肩に着く程度の長さの髪。遊んでいる風でも、生真面目すぎる感じでもなく、綺麗に整っている今風の生徒。
「す、すみません……」
「次は気をつけろ。ところで、ちゃんと着てきたんだろうな? 見せてみろ」
「……はい」
 佳奈は下唇を噛みながらブレザーを脱いだ。震える指で苦労しながらシャツのボタンを外し、スカートのホックを外して近くの机の上に置いく。しゅるり、しゅるりと布の擦れる音が教室内に響き終わると、佳奈は学校指定の体操服姿になった。男の視線を感じ、佳奈は手を組んで下を向く。
「ひひひひ……いいぜ。俺の言った通りちゃんと体操着で来やがって。イヤイヤ言いながら、やる気満々じゃねぇかよ?」
「……あ、あの」
「あ?」
「これで本当に……あのことは黙っていてくれるんですよね?」
「なんだよはっきり言ゃあいいだろうが? お前と彼氏が放課後の教室でサカってたことだろ。お互い猿みたいにヘコヘコ腰振り合いやがって、傑作だったぜ」
「……ッ」
 佳奈が耳を赤くしながら唇を噛む。
 迂闊だった。
 お互い初めての恋人同士で、先日初体験を済ませたばかりだった。放課後の教室で時間を忘れて話し込んでいるうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。話題も自然と先日の出来事になり、お互い照れながら当時のことを遠慮がちに話しているうちに、自然と体同士が密着し始め、それから先は夢中だった。
 その翌日、教室内での一部始終を収めた写真が靴箱に入れられてた。
 佳奈は、渓谷に架かる吊橋を渡っている最中に足元の板が外れたような気持ちになった。
 写真の裏には、その日の夜に今日と同じ教室に来るように書かれていた。行かなければどうなるかわかったものではない。佳奈はその日を抜け殻の様な気持ちで過ごし、指示された通りの時間に教室に行った。
 教室にはテレビでしか見たことのないような、色黒で筋肉質の男が座っていた。夜の渋谷や新宿を徘徊していそうな雰囲気で、できれば一生関わりたくないタイプの人間だ。男は数十枚の写真をちらつかせ、学校中に知られたくなかったら身体を差し出せと要求してきた。
 断ることなどできるわけが無い。
 なぜ夜の学校にこの場違いな男がいたのかはわからないが、世間に知られたら自分や彼氏が生きていけなくなるようなものを、この男は握っているのだ。
 まだ二回しか経験の無い佳奈を男は床に押し倒し、長い時間をかけて佳奈を愛撫した。
 男の性技は凄まじかった。
 初めは嫌悪感で泣いていた佳奈だったが、身体中のあらゆるところを的確に嬲られ、十五分も経たぬうちに佳奈は学校中に響き渡るような声をあげて絶叫し、腰を痙攣させながら何回も絶頂した。男は上着すら脱いでいなかったというのに。彼氏と長い時間をかけて分け合った快感など、男の指がもたらす暴力的な絶頂の津波にすぐに上塗りされ、ゴミの様に押し流されてしまった。
 佳奈は前戯だけで何回も失神させられ、虫の息の中で彼氏よりもふた回り以上大きな男根を挿入された。
 彼氏のものでは届かなかった場所を簡単に抉られ、押しつぶす様なピストンに頭の中が真っ白になり、佳奈は今までしたことがない様な表情を男に晒しながら狂い果てた。日付が変わる頃にようやく男は佳奈を解放したが、佳奈は身体中を様々な分泌物や男の放出した白濁にぐちゃぐちゃになりながら朝日が昇るまで起き上がることができなかった。
「……あ」
 男は教卓を降り、床を踏み鳴らすように佳奈の元に近づくと、佳奈の履いているブルマーを掴むように下腹部を撫でた。ぐじゅっ……という音を立てて男の指が沈み込む。
「……ひうッ?!」
「なんだこりゃあ? もうぐちゃぐちゃじゃねぇか。どうせこの前のことを思い出してたんだろ? 勝手に濡らしてんじゃねぇぞボケが!」
「ひっ……ふ……す、すみませ……んむっ!?」
 震える佳奈の唇を男が強引に吸うと、近くの机に佳奈を押し倒した。


 東京を出発してから一時間も経っていないというのに、窓の外に見える灯りの数はかなり少なくなった。
 おそらく田園地帯に入ったのだろう。
 真冬に比べて日が延びたとはいえ、夜に見る田んぼは光を吸収する黒い沼の様で、その中にまばらに浮かぶ家の灯りはさながら沼に浮かぶ船を思わせた。その船の間をくぐり抜けるように、マイクロバスほどの大きさの車両が静かな音を立てて走っている。
 組織の所有する戦闘員専用の輸送車だ。
 大きさに反して、輸送する戦闘員は車両一台につき基本的に一人。なぜならそれは移動できる控え室だからだ。運転席と戦闘員用の後部は完全に仕切られ、中は小さめのプライベートジムの様に改造されている。床は柔らかい樹脂張りで、エアロバイクやロッカーの他に各種計測器具もある。
 その中で上代友香は入念に身体をほぐしていた。
 床に尻をついた状態で足を限界まで広げ、ふうっ……と長く息を吐きながらゆっくりと上体を倒す。胸が押し潰され、顎が床に着くか着かないかというところで、運転席と繋がっているスピーカーから若い男の声が響いた。
「到着しました。現在、二十一時十三分。周囲に人影はありません。問題が無ければ任務開始願います」
「了解……ですっ」
 友香は開脚前屈の体勢から勢いをつけて上体を起こすと、そのまま後方にごろんと転がってから跳ね起きた。とんとんとその場で軽く跳び、身体の状態を確認する。異常はない。身体は軽く汗ばむ程度に温まっているし、関節の可動も良い。脳の出す指令を筋肉が忠実に遂行する準備は万全だ。
 友香は体操服の様な上着の裾や、レーシングショーツに似たショートパンツを直すと、オープンフィンガーグローブを嵌めて自分の頬を両手で叩いた。
「ウォーミングアップ終了しました。上代友香、すぐにでも任務開始可能です」
「わかりました。現在他のチームも予定通り現場に到着、順次作戦開始しています。今作戦の確認ですが、この近辺に複数生息していると思われる人妖の調査と、発見した場合は掃討。こちらのターゲットは下位タイプ……賎妖と思われますが、油断は禁物です。下位タイプは上位タイプと違い、チャームに加えてなんらかの特殊能力を持つ場合が多いので……」
 人妖……人類を栄養源とする未知の生命体。
 見た目は人間と区別できず、男性型と女性型がおり、特殊能力や驚異的な力を持つ。詳しいことはわかっていないが、食事は必要なく、それぞれ異性の粘膜から養分を吸収して活動する。また、捕食を効率的にするために分泌液……通称チャームには人間の異性を魅了する特殊な効果があるという。
「チャームに加えて特殊能力……そんなに抗えないのかしら。チャームって……」
「人間は弱い生き物ですからね。普通に市販されているタバコやアルコールですら、一度依存症を発症してしまうと解脱することは恐ろしく難しい。それが麻薬や覚醒剤をはじめとした薬物依存になるとさらに悲惨です。チャームにそれを上回る依存効果があるとすれば」
「考えたくもないわね……人妖の被害者からの通報は極端に少ないって聞くし、できれば一生味わいたくないものね」友香は双眼鏡を覗きながら言った。輸送車の窓からターゲットが棲むと言われる高校を見る。三階の教室の一つ。厚いカーテンの隙間から光が漏れている。「調査は必要無さそう……学校に棲むなんて、物好きな人妖もいたものね」
「水道や電気が通っていますし、使おうと思えばガスもあります。浮浪者の様な生活をしている賎妖に比べれば、ある意味快適なのかもしれません」
「おまけに栄養源である人間は向こうから集まってくる……か。昼間さえやり過ごせれば確かに潜伏場所としては悪くないのかもしれないわね」
 友香が輸送車を降りると、冷たい夜風が頬を撫でた。
 振り返って運転手に合図を送ると、輸送車は来た時と同様に静かな音を立てて走り去った。こちらから連絡するまで近くの目立たない場所で待機する手はずになっている。
 グラウンドを囲っているフェンスを軽々と越え、そのまま身を隠すようにフェンスに沿ってゆっくりと歩く。プールの脇を抜け、昇降口の近くまで来る。予想通り警備会社のロゴが入ったのセキュリティのランプが緑色になっている。通常、最後に帰宅する職員が操作して、ランプを赤色の警備中に切り替えるはずだ。おそらく栄養源である人間を招き入れるために、人妖内部から切ったのだろう。ということは、ターゲットは今まさに「食事中」か……。
 扉の大きさに反して簡易的な鍵をキーピックで開け、わずかに開いた隙間に身体を潜り込ませるように中に入る。人妖は一体とは限らない。ドミノの様に置かれている靴箱の間を足音を立てないように抜けると、廊下はしんと静まり返っていた。非常口を示す緑色のランプと、火災報知器の赤い光が床や壁を照らしている。普段は活気あふれる場所であるだけに、死に絶えたような今の様子は不気味さに拍車をかけた。
 友香は目を閉じ、耳を澄ます。
 ──音。
 遠くから──くぐもった声のようなものが聞こえる。
 おそらく輸送車から見た三階の教室からだろう。友香はグローブの装着具合を確認すると、緊張した表情で正面の階段を上った。しゃがんだ状態で、階段の内側の壁に沿うようにして一段一段登る。とっさの回避には不向きだが、この方が上階からは死角になりやすい。
 二階を過ぎたあたりから、音は次第にはっきりと聞こえるようになった。
 女性の──嬌声だ。
 むしろ叫び声に近い。
 校舎内が静まり返っている上に、コンクリート製の壁は音をよく響かせる。
 三階に到着すると、廊下の左奥の教室から明かりが漏れていた。
 今や嬌声ははっきりと聞こえ、男の唸るような息遣いや声も聞こえてくる。
 友香はできる限り急いで廊下を進んだ。
 途中、左側に渡り廊下があった。渡り廊下の先は体育館だ。
 教室まで近づくと、友香はスライド式のドアにはめ込まれたガラス窓から中を覗いた。
「ああああッ! も、もうダメッ! もう、い……イッで……イッでるがらぁッ! じぬっ! 死んじゃうッ!」
「オラッ! オラッ! 俺が出すまで止めねえって言ったろうが! 勝手に死んでろクソアマ!」
 友香は反射的にドアに背中を着けた。
 教室の向かいは女子トイレだ。
 緊張と衝撃で早くなった自分の息遣いが聞こえる。
 教室から漏れる光を背負い、トイレの奥の暗がりがやけに濃く感じる。何かが這い出てきそうで不気味だった。
 友香は息を整えると、振り返ってガラス窓から中を覗いた。窓は湿気で曇っていたが、かろうじて中の様子がうかがえる。
 教室の中央あたりで、黒く日焼けした肌の男が腰を振っていた。男はタンクトップだけを身につけ、友香に背を向けている。丸太のような太腿や引き締まった尻が見えた。男の正面の机には学校の体操服を着た女性──おそらくこの学校の女子生徒が半裸で仰向けに寝かされ、男が激しく腰を打ち付けられている。皮膚同士がぶつかる破裂音を立てて男が腰を振るたびに、机と床ががたがたと大きな音を立てた。そしてそれ以上に大きな声で、女子生徒は自分の髪の毛を掻きむしりながら白目を剥いて嬌声をあげている。普通にしていればおそらく美人なのだろうが、涙や涎で顔をぐちゃぐちゃに汚しながら半狂乱に叫ぶその姿は、男に力で屈服させられた一匹の無様な雌にしか見えなかった。
「おがじくなるッ! おがじぐなるぅッ! も……許じ……んぶぁぁッ!」
「おらっ……! 出すぞッ!」
「んあぁぁぁッ! あ……うぶッ!? あぎっ──」
 男は肩を震わせて痙攣すると、それと同時に女子生徒の身体もびくんと跳ねた。
 ──あ……射精……したのかな?
 友香はハッと我に返った。
 獣の様な激しい行為に思わず息を飲んで、時間も忘れて一部始終を見てしまった。結合部こそ見えなかったが、実際の性交を見たのは初めてだった。事が終わった女子生徒は大きく胸を上下させている。頭が机の縁から落ちて、仰け反るように顎を天井に向けたまま失神していた。男が移動すると、女性器から白く濁った液体がゴボリと溢れて床に落ちた。男は捲れ上がった女子生徒の上着を雑巾のように引っ張り、自分の股間の辺りを雑に拭っているらしい。
 男は突然振り返って友香のいるドアの方に向かって歩き出した。色黒の肌に短い金髪、自信と欲望に満ち溢れたような眼光が友香の目に映る。
 咄嗟に友香はドアから離れ、背後の女子トイレに身を隠した。
 呼吸が乱れている。
 手洗い場の鏡には両手で口を押さえる自分の姿が映っていた。
 ──ガラリ。
 ドアが開いた。
 息を止める。
 ライターを擦る音。
 タバコの匂い。
「シャワー浴びたらもう一発するからな。まだ伸びてんじゃねぇぞ」
 男の籠った声が聞こえる。廊下から教室内に向けて言い放ったのだろう。
 友香は男が十分に遠ざかると、そっとトイレから顔を出す。男は体育館の方へ行くらしく、渡り廊下を曲がって消えていった。友香はタイミングを見て足音を立てずに教室に入ると、うっと呻いた。汗と脂が混ざったような甘酸っぱい匂いと、窓が曇るほどの湿気に少し目眩がした。女子生徒は机に仰向けに寝そべったまま、脱力したようにだらしなく脚を開いている。衣服が汗を吸って身体に張り付き、女性器からは白く濁った液体が溢れて机に溜まり、糸を引いて床に垂れている。
「大丈夫? しっかりして」
 友香が女子生徒の肩を軽く叩く。
「あ……きゃあっ!」
「落ち着いて。私は上代友香。あなたを助けにきたの」
「……え?」
「名前……聞いてもいい?」
「……佳奈。木村佳奈……です」
「佳奈ちゃんか……同い年くらいだよね?」
 ゆっくりと話す友香に、女子生徒は徐々に落ち着きを取り戻してきた。友香は手近にあったタオルで佳奈の身体を拭きながら、男のことを聞く。佳奈は涙ぐみながら、男に脅され身体を求められていることを告白した。男は昼間は街中をぶらついたり人を脅して金品を巻き上げたりしており、夜に職員を含めて全員が学校から帰宅すると、戻ってきて空き教室や保健室などで寝ているという。また、弱みを握られ身体を提供している女性は複数おり、毎晩のように行為に及んでいるらしい。
「酷い……」
「私も嫌なの……でも、逆らって写真をネットに上げられでもしたら私も彼氏も生きていけない……。でも、それ以上に許せないのは──」佳奈は目を伏せながら言った。「最近は……自分でも少し期待てて……」
「……期待?」
「き、今日は呼ばれるのかなって……時々。あの人、本当に凄くて……ごめんなさい、こんな自分が許せないの……彼氏がいるのに、最低だよね……」
「大丈夫、佳奈ちゃんは悪くない。それはあいつの持っている能力みたいなものだから」
「……能力?」
「詳しくは言えないけれど、あいつには人を魅了する力があるの。そして、私はあいつを倒す訓練を受けているから、もう安心して。あとは私に任せて。絶対に助けてあげるから……」


 友香と佳奈は渡り廊下で別れた。
 佳奈は汚れた格好のまま、制服とタオルを持って階段へと向かった。友香の一刻も早くこの場所を離れたほうがいいという提案で、着替えはグラウンドの隅で行うことにした。プールのそばであれば背の高い茂みや水道もある。
 途中、佳奈は何度も振り返って友香に頭を下げた。
 友香は片手を振って返すと、グローブを締め直して渡り廊下の中央に立った。おそらくもうすぐ男が帰ってくるだろう。佳奈をもう一度犯すために。実戦を前に、友香は足の底から熱のようなものが這い上がってくるのを感じた。
 それにしても……と友香は思った。自分と同い年くらいの子があそこまで乱れるほど、チャームというものは強烈なのだろうか。白目を剥き、舌を限界まで出して喘ぐ佳奈の顔が脳裏に浮かぶ。そして、恋人がいるのに心の隅では男に犯されることを期待してしまうとも言っていた。
 ──人間は弱い生き物ですからね。
 ──一度依存症を発症してしまうと解脱することは恐ろしく難しい。
 オペレーターの言葉が蘇る。
 もし自分がチャームに冒されたら、あのようになってしまうのだろうか。
 寒くはなかったが、背中が微かに粟立つのを友香は感じた。
 

 渡り廊下を半分ほど渡ったところで、男は足を止めた。
 蛍光灯の下には体操服を着た見慣れない女が腕組みをして立っている。一瞬佳奈かと思ったが、佳奈の自信なさげな顔とは違う。少し幼さが残っているところを見ると、歳は佳奈と同じ十七、八くらいだろう。男はシャワーの後でまだ少し湿っている短く刈り上げた後頭部を掻いた。
「なんだぁ……てめぇ?」男は首をかしげながら目を細めた。男の低い声にも友香は微動だにしない。「居残り練習してた陸上部……ってわけじゃあねぇよな?」
「上代友香──あなた達人妖の敵よ」
 友香は男をまっすぐに見ながら、静かに言った。腕組みを解くと、足を肩幅に開いて床の感触を確かめるようにゆっくりと構える。
「ケッ! 例の組織か……アンチレジストとか言ったな? 俺はこの通り昔のツレとは縁切って独りで楽しくやってんだ。見逃してくれよ」
「そうはいかないわ。佳奈ちゃんをはじめ、複数の女の子に暴行しているんでしょう? 弱みに付けいるなんて、随分と卑怯な手段ね」
「あつらも楽しんでるんだぜ? 俺はメシを食うよりも楽に栄養補給が出来て、女達はぶち込まれてよがりまくる。佳奈だって彼氏がどうのって口ではイヤイヤ言いながら、ちょっとばかし焦らしてやると早く入れてくれって股開きやがるぜ。ウィンウィンの関係ってやつだ……お前には関係ねぇだろうが」
「それだってあなた達人妖のチャームの効果でしょう? 佳奈ちゃんだって本心じゃないわ」
「本心だったらどうするんだ? 自分の意思で俺の元に来ているとすれば」
「そんなはずは無いわ」
「そんなはずはあるんだよ……俺にチャームの能力はねぇ」
「……えっ?」
 友香が驚いた顔をする。男は一瞬天井を見ると、友香を見て笑った。
「出来損ないってやつさ……お前らの組織は賎妖って呼んでいるらしいな。まぁ、俺みたいにチャームが全くねぇ奴は珍しいみたいだがな──」
「でも、きっかけは弱みを……」
「きっかけなんて何だっていいんだよ。薬や酒に溺れている奴らは何だってあんなに被害者ヅラしてんだ? 他の人妖から爪弾きにされて以来、色々やって生きてきたぜ。ヤクの売人やってる頃、中毒者たちは最後には決まって俺を非難してきやがった。あいつから買わなければ、こんなことにはならなかったってな。泣きながら売ってくれって頼み込んできたと思ったら、最後には全員俺のせいだと手の平を返しやがる。無理やり勧められたとか騙されたとか言いながら、快感に抗えずに手ぇ出し続けてるのは紛れもねぇ自分自身の選択だろうが。ヤッってる最中の女どもの顔を見せてやりたいぜ。それとも、自分で体験してみるか? あ?」友香は一歩下がって身構えた。男がじりじりと距離を詰める。「よく見りゃあ、なかなかエロい身体つきしてんじゃねぇか。お前もヒィヒィ言わせて、明日には俺のチンポのことしか考えられないようにしてやるよ」
 男が友香に突進するように飛びかかると、友香は軽い身のこなしで躱して距離をとる。男はゆっくりと友香の足元から脳天までを舐めるように見た。動きやすそうな靴に健康そうな太腿。鋭角なラインのレーシングショーツにセパレートになっている上着。肩に着かない程度のスポーティーな長さにカットされた黒髪に、整った顔つき。男は唇を舐めると、口の端に溜まった唾液を音を立てて啜った。
「……あなたの相手なんて、絶対に嫌」
 友香はぎりっと歯を食いしばると、男と距離を詰めながら右足で床を蹴った。そのまま窓枠に左足をかけて飛んだ。友香の身体は床と平行になりながら錐揉み状に回転し、男の頭に打ち下ろすような回し蹴りを放った。男は対処しきれず、友香の足の甲が男の脳天をしたたかに叩くいた。男は、ぐぎっ……という悲鳴をあげる。おそらく自分でも初めて発した声なのだろう。首を押さえながら驚いたような表情を浮かべた。友香は着地と同時に、流れるように男の顎を蹴り上る。そして男が仰け反ると同時に後ろ蹴りを放った。
 男は低い悲鳴をあげながら、ベルトコンベヤーで運ばれるように後方に転がっていった。友香はふっと溜めていた息を鋭く吐く。
「うぐ……ガキがぁ……ッ!」
「……さすが人妖、ずいぶんと丈夫ね」上体だけ起こして睨みつける男に対し、友香がゆっくりと歩きながら距離を詰める。「アンチレジストの戦闘員と戦うのは初めて? ちなみに一般戦闘員の私なんかよりも、上級戦闘員はもっとすごいわよ」
 男は唸り声を上げながら友香に抱きつく様に飛びかかった。友香は難なく横に躱すと、男の鳩尾に膝を突き込んだ。ぐにゃり……と柔らかいゴムの様な頼り無い感触。
「なっ?!」
「ハッ! まさかこんなに早く使わせるとはな!」
 友香は膝蹴りを放っている足を引き、勢いをつけて回し蹴りを放つ。男は避けようともせずにそのまま蹴りを頬に受けた。男の首はスプリングの付いた人形の様に勢い良く左右に揺れる。友香が距離を取ると、男は両手で自分の頭を挟んで振動を止めた。
「……なんなの?」
「へへへ……驚いたか? 俺は自分の身体をゴムの様に柔軟にできるのさ。漫画みてぇに伸ばしたりはできねぇが、攻撃を無力化しているうちにいずれ相手は体力の限界を迎える。攻撃が効かないんなら負けることはねぇ」
「能力をベラベラと……口も柔らかくなったみたいね」
「うるせぇよ……余裕ぶってられんのも今のうちだ!」
 正面から突進して来る男を横に躱し、男の膝を真横から蹴る。通常では折れる角度で男の膝が曲がるが、跳ね返る様にすぐに元の形に戻った。男はバランスを崩したものの、ダメージはほとんど無いらしい。友香は何回も掴みかかろうとする男を躱しながら、関節を狙って攻撃を当てる。まるで蒟蒻を蹴っているような感触だった。友香が顎に伝う汗を拭うと、男は勝利を確信したような笑みを浮かべた。
「消耗してきてるなぁ……大人しくした方が身のためだぜ?」
「確かに厄介な能力ね……打撃系が全く効かないなんて」
「厄介じゃなくて無敵なんだよ。俺は一度も負けたことはねぇ」
「でも戦闘に関しては全くの素人みたいね。攻撃もさっきから掴みかかるばかりだし、本当に相手が消耗するのを待つだけ。技術の習得や努力は全くしてこなかったんでしょう?」
「当たり前だろ? 無敵は努力しても何の意味もねぇ」
「それはどうかしら? あなたの能力の特性はだいたい理解したわ」
「理解したからなんだってんだよ! 攻撃が効かなきゃ意味ねぇだろうが!」
 男が友香に突進する。ワンパターンの攻撃に友香は落ち着いた表情でそれを躱し、男が伸ばした腕を取って肘を膝で蹴り上げた。通常であれば肘が粉々に砕けているだろうが、肘はありえない方向にぐにゃりと曲がっただけだ。男のニヤついた表情。友香は男の腕を取ったまま、裏拳で男の後頭部を叩いた。男の首がぐにゃりと前に折れ、バネ仕掛けのおもちゃの様に後頭部と背中が着く。その瞬間に友香は男の背後に回り、首に腕をまわして一気に締め上げた。
「ぐッ?!」
「やっぱり呼吸は必要なのね……」
「がッ……がァッ!」
 男は手を振り回しながら背後の友香を掴もうとするが、完全に男の死角に入り込んでいるため届かず、その手はでたらめに空を切るだけだった。
「色々わかったわ。軟体化は確かに厄介な能力ではあるけれど、軟体化させている最中は身動きが取れないんでしょう? あなたは私の攻撃を察すると人形の様に動くのを止めて、全くガードをしなかった。もっとも、ガードする必要も今までは無かったのでしょうけれど……」友香が男の首を絞める腕に力を込める。「だから攻撃し続けて軟体化させていれば、あなたは動けずに私は簡単にバックを取れる。あなたがしっかりと防御や攻撃の手段を身につけて、軟体化はあくまでもいざという時の補助にしていれば、私も苦戦したかもしれない」
「げぶッ……」
 男の身体が痙攣し始める。友香は男が落ちてからの対応を考えていた。まずは待機させているオペレーターに連絡を入れ、回収班の到着前に手近なもので拘束を……。
「ま、待って!」
 渡り廊下に声が反響する。
 友香が怪訝そうな表情で男の影から覗くと、佳奈が思いつめた表情で渡り廊下の先に立っていた。
「佳奈……ちゃん?」
「お、お願い……その人を連れて行かないで……」佳奈が小走りで近付いてくる。そばまで来ると男と友香の様子をどぎまぎとしながら交互に見つめた。男が薄く目を開けて呻く。「ご、ごめんなさい……。い、一度は帰ろうとしたんだけど……私もう……その人がいないとダメで……」
「佳奈ちゃん……なんで……?」
「彼氏じゃ……もうダメなの……。満足できないの……何回かしたんだけど……その人と比べると全然ダメで……。さっき帰りながら、もうその人に抱かれることがないって考えたら……頭がおかしくなりそうで……」
「でも、佳奈ちゃんは弱みを……」
「わかってる! でも、もう弱みなんて関係無いの……身体が……きゃあッ!」
 男が力を振り絞って佳奈に手を伸ばす。佳奈を背後から抱き込むようにして細い喉に腕を回し、ギリギリと締め上げる。
「ごいづ……ごろずぞ……」
 男の絞り出すような声。
 友香はくっと息を漏らしながら、男の首を締め上げる力を緩めた。
「ゲボッ! ゲホッ! ウェッ! はぁ……はぁ……てめぇ……」男は佳奈を抱きかかえたまま倒れ込み、激しく嘔吐きながら友香を睨み上げた。佳奈は戦慄した表情で震えている。「許さねぇぞ……俺をここまでコケにしやがって……犯すだけじゃ足りねぇ……ボロボロになるまでいたぶってから、死ぬまでイかせ続けてやるよ」
 男は鬼のような形相で涎を垂らしながら立ち上がる。佳奈を引きずるようにして友香の前に立ち、歯の隙間から肉食獣のような呼吸をしながら友香を見下ろす。友香も悔しそうに男を睨み上げるが、佳奈を救出しない限り迂闊な行動はできない。
「おい、わかってんな。少しでも変な気起こしたらこいつの首の骨をへし折るぞ」
「……卑怯者」
「はっ! こいつに言えよ。おい、まずは棒立ちになれ。両腕も垂らすんだ。防御したり避けたりしたらわかってんだろうな?」男が見せつけるように右手の拳に力を込める。友香は悔しそうな表情のまま、肩の高さで構えていた両拳をゆっくりと下ろした。「──腹にも力入れんじゃねぇぞ!」
 ずぷんッ……! という水っぽい音が渡り廊下に響く。
「ゔぐぅッ?!」
 上着とショーツの隙間、ちょうどヘソのあたりを殴られ友香は呻いた。佳奈はひぃっ……と引き攣った様な悲鳴をあげる。友香は男の指示通りにノーガードで腹筋も固めないでいたため、男の鈍器の様な拳は友香の腹部に深々と埋まり、内臓にダイレクトに衝撃を伝えた。
「へへへ……やはり女の身体だな。随分と華奢じゃねぇか」
 ぐぼっ……と音を立てて男は友香の腹から拳を抜くと、すぐさま二撃目、三撃目を同じ箇所に突き込んだ。ずぷん……ずぷん……と腹を殴られるたびに、友香の身体は男の拳を支点にくの字に折れる。
「ゔぅッ! ぐぶッ!? くっ……は……はぁ……ゔぶッ!」
「ひひ……いい顔するじゃねぇか。さっきまでの余裕はどうした? 抵抗するならしてもいいんだぜ? こいつがどうなってもいいならな!」
「うぅ……くッ……」
 友香が無言で男を睨みつける。明確な侮蔑の視線に男の顔から笑みが消えた。
「なんだその目は? 自分の立場わかってんのかよ!?」
 ぐりゅッ……という音と共に、友香の鳩尾の男の拳が付き込まれた。友香の体は電気が走ったようにビクッと跳ね、今までとは異質の苦痛が足元から駆け上がった。
「がぁッ?!」
「おらおら! ナメてんじゃねぇぞコラ!」
「ゔぅッ! がふッ! うぐッ! あぐッ! げぼッ! おぅッ!」
 友香は腹と鳩尾を交互に連続で殴られ、その度に友香の身体は跳ね上がったり折れたりを繰り返した。膝はすでにガクガクと痙攣し、最後に鳩尾を突き上げられた瞬間一気に力が抜けて崩れ落ちた。尻を床に着けた状態でしゃがみ込み、そのまま両手で腹を抱える様にして前かがみにうずくまる。
「へへへへ……ちょっとばかしキレちまったぜ」
「うぐっ……はぁ……せ、正々堂々と……したらどうなの?」
「うるせぇ、どんな手使っても勝ちゃあいいんだよ。おら、いつまでミノムシみてぇにへばってんだ? まだ俺の気は済んでねぇぞ」
「あぐっ……くっ……あ……?」
 男が友香の髪を掴んで強引に引き起こす。友香が膝立ちの姿勢になると、ちょうど目線の位置に男のビキニパンツがあった。前部が槍の様に隆起している。知識として男の反応を理解している友香は息を飲んだ。
「あ? なんだ、こいつが気になるのか? へへ……スケベめ。仕方ねぇな、見せてやるよ」
 男がパンツを下にずり下げると、赤黒い男根が勢いよく跳ね上がって男の腹を打った。それは何本もの太い血管に覆われた上に何かを埋め込んだような不自然な凹凸があり、まるで男に寄生したグロテスクな芋虫のように見えた。
「ひ……ひぅっ!?」
 初めて見た臨戦態勢の男性器はあまりにも暴力的で、たまらず友香は悲鳴をあげた。同時に、佳奈がうっとりとしたようなため息を漏らす。
「お? なんだチンポ見るの初めてかよ? 俺のは特別スゲェからな。満足するまでいたぶったらたっぷりとコイツの凄さを味わわせてやるよ。処女にはキツイかもしれねぇがな」
 男は友香の奥襟を掴んで無理矢理立たせると友香が力が入らないうちに鳩尾を突き上げた。
「うあ゙ッ?!」
「へへへ……ここが特に効くみてぇだな?」
 ドブン……ドブンと悪夢のような音を立てて男は友香の鳩尾を責め立てた。息も継げないような責め苦に友香は徐々に目の焦点が合わなくなり、舌を出したまま瞳がまぶたの裏に隠れ始める。佳奈は友香の惨たらしい悲鳴が聞こえないように耳を塞ぎながら、目を瞑って震えていた。
「がぁッ?! ごぷっ! んぐッ!」
「おら、そろそろイかせてやるよ!」
 男は倒れかかる友香の身体を、奥襟を掴んで無理矢理立たせる。友香はすでに意識が半分飛びかけ、両腕がだらりと垂れていた。男はまったく容赦をせず、前かがみになった友香の鳩尾を突き上げるように拳を突き上げた。ずぷんッ……という水っぽい音が響き、友香の鳩尾に拳が深々とめり込む。
「があぁぁッ?!」
 友香の身体は反射的にびくんと跳ねた。男がすぐさま拳を引き抜いても、鳩尾を守る上着にはクレーターの様に陥没した跡が残り、その威力の凄まじさを表している。友香は凄まじい攻撃をまともに喰らい、しばらく焦点の合わない目をしながら身体をガクガクと震わせた。男が友香の奥襟を離すと、床に前かがみに倒れ込んだ。
「ったく、手間かけさせやがって。これで終わりじゃねぇぞ。俺に逆らったことをとことん後悔させてやる……」
「あ……あの……」ぐったりとしている友香と男を交互に見ながら佳奈が言った。誰に向けた言葉でもないし、その後の言葉が出てこなかった。どうしたらいいのかわからないという様子だ。友香がここまで酷い目に遭ったのは自分のせいだろう。しかし、友香があのまま男を倒してしまえば自分は一生消えない熱を抱えながら生きていくしかなかったかもしれない。「私は……どうすれば……?」
 ふっ、と視界が暗くなる。
 見上げると、男が目の前に立っていた。蛍光灯を背負い、逆光で影になった顔の中で血走った目が自分を見下ろしている。そして自分の顔の位置には、今まで見たこともないほど強く勃起している男の性器が脈打っていた。
「知るかよ。こいつ殴って興奮しちまった。とりあえずしゃぶれ」
「え……? そん……な……」
「いいから口開けろ便所が! 手加減しねぇからな!」
「え……ゃ……やっ……嫌ッ! むぐぅッ!? ゔぇッ! ごッ!? げぇッ!?」
 男は佳奈の頭を両手で掴むと、力任せに佳奈の喉奥まで男根を突き込んだ。佳奈の後頭部を突き破りそうなほどの勢いで男は腰を振り、渡り廊下には佳奈の内臓を吐き出すような悲鳴が響き渡った。

りょなけっと7に参加いたします。
配布物はまだ作り始めたばかりですが、久し振りに文章メインのものになる予定です。
よろしければ是非お立ち寄りください。

_りょなけっと7
_2017/02/26(日) 11:30〜15:00
_東京卸商センター3F展示場
_http://www.ryonaket.com/top.html

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