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_2017.02.21  GALLERYを更新しました(シオン1枚)
_2016.11.11  GALLERYを更新しました(綾2枚)
_2016.11.06  いただいたイラストを公開しました
_2016.10.03  新作の短編を公開しました

現在鋭意制作中です。
このブログにUPしている本編とは細部が少し異なりますが、より良いものが出来ると確信しています。
詳細が決定次第連絡いたしますので、今しばらくお待ち下さい。

MxuCie9E

2月開催のりょなけっと3 に参加します。
新作として[PLASTIC_CELL]の上巻と、既刊をいくつか持って行く予定です。
新キャラの鷹宮美樹と水橋久留美の初お披露目となります。
詳細が決まり次第当ブログにて発表しますので、よろしくお願いします。

サークルカット

 卯木 紗絵(うつぎ さえ)について

 卯木紗絵の最も新しい写真は、失踪から半年前に撮られた大学の研究室の集合写真である。暗いブラウンに染めたショートヘアに切れ長の目。体つきは定期的にジムに通っているためスレンダーに引き締まっており、整った顔立ちと相まって中性的な印象だ。あまり写真が好きではないらしく、不満そうな表情でカメラのレンズから目を背けている。
 以下は、発見された卯木絵理の日記、テープレコーダーに録音された音声、およびフィールドワークの報告書から要点を時系列順に抜粋したものである。
 後半に行くにつれ、不明確、不可解な表現、音声が散見されるが、原文ママ記載する。また、音声については携帯式のテープレコーダーを使用している。一部相手の許可を得ないで録音したもの、沢井絵理が意図せずボタンを押して録音された音声も含まれている。




・昭和五十九年十二月十八日
 明日のプレゼンテーションで私の将来が決まると思うと、準備はいくらしてもし足りない。まだまだ新しい学問である民俗学。民俗学はオカルト趣味の延長であり、学問ではないと揶揄されたことは何度もある。家族からは一般企業に勤めて、早々に結婚して子供でも作って……とプレッシャーをかけられている。
 冗談じゃない!
 民俗学は自分達のルーツを知るための重要な学問だ。
 私は、私達がどこから来て、どこへ行くのかを知りたい。そしてその答えにつながるヒントは、日本中の歴史や伝承にある。私は生涯をかけて、この永遠のテーマを追求していきたい……。
 そのためには、何としても鷺沢教授の助手にならなければならない。鷺沢教授は最も将来を期待されている民俗学者だ。スポンサーも多く、教授自身も裕福だ。多くの民俗学者達のように、研究の時間を割いて資金集めのためにスポンサー集めに奔走し、頭を下げてまわる必要はないのだ。
 現在、鷺沢教授のゼミには十八人が所属している。
 明日のプレゼンテーションは卒業試験も兼ねているが、それ以上に上位五人に入れば、鷺沢教授の大学院のゼミに入ることができる(大学院に進めばの話だが、当然ゼミ生は全員それを望んでいる)。
 そして鷺沢教授の元で、必ず成果を出し、ゆくゆくは独立する。
 私は自分のしたいことをして生きたい。絶対に。

・昭和五十九年十二月十九日
 最悪な一日だった。
 私はもうダメかもしれない。

・昭和五十九年十二月二十日
 何もする気が起きない。
 撞舞(つくまい)。
 関東地方に伝わる雨乞いや無病息災を祈る神事が現代にも残っている。今では祭りの一部になっているが、以前は飢饉の折、神に捧げられた人柱の名残だったという説がある。その説を裏付ける……まぁ、仕方がない。却下されてしまったという結果は変わらないのだから。

・昭和五十九年十二月二十二日
 昨日は日記をサボってしまった。
 午後五時半。鷺沢教授から電話があった。食事の誘いだった。
 研究室に行くと、呼ばれたのは私だけだとわかり少し狼狽えた。他愛もない話をしてから二人でタクシーに乗り、普段なら入るのを躊躇うほどの高級なレストランに着いた。

「問題なくテープが回っているな。これを持って行きなさい。会話の録音は基本的に相手の許可を取ってからするように。旅費や調査費はこの封筒に入っている。十分な額だとは思うが、足りなくなった場合は連絡をしなさい」
「……本当に、私でよろしいんですか?」
「何がだね?」
「……私は、試験で上位に入れませんでした。これ以上研究室にいられないものだとばかり」
「正直言って、迷っている。確かに研究室には定員があり、君の『撞舞』に関する研究は上位の生徒に比べてやや稚拙ではあった。しかし、フィールドワークは良く出来ていた。将来的に伸びしろがあるとも感じてる」
「……実技試験という訳ですか?」
「そういうことだ」
「でも……一体どのような儀式なのでしょうか? その……『りよなのかね』という奇祭は……?」
「それを確かめるのが君の役目だ。『離れた世の為に撞く鐘』と書いて、『離世為の鐘』。その儀式が今でも行われていたことは間違いないが、実態は全くわからない。奇祭が行われている十二月三十一日、その村は完全に閉鎖される。部外者は村に入れず、村人は村から出ることが出来ない。どのような儀式で、どのような意味があるのかは誰もわからないのだ。もちろん、撮影や取材は全て断られている。しかし、今回は村の内通者と接触が取れた。それなりの金も払った。君はその人の孫という名目で、儀式中の村に入ることになる」
「……責任重大ですね」

 今回の調査は明らかに非公式なものだろう。
 鷺沢教授からは、録音は「基本的に」許可を取ってから行えと言われた。つまり、例外があるということだ。プロ用の超小型カメラを貸してくれたことからも、今回の調査は盗撮、盗聴をしてでも調査を成功させろという指示と受け取っていい。よくある話だ。取材NGの儀式や遺跡などは全国にごまんとある。そして一人に許可が出された場合、他の研究者がこぞって「うちにも許可を出せ」と詰め寄る。あとはスピード勝負だ。少しでも有利になるために、事前に調査を進めておくことは珍しく無い。
 そして……今日は正直言って、教授に抱かれるのではと思った。
 ある種の特別待遇を受けるためには、それなりの代償がいるのは理解している。私自身経験は無かったが、「離世為の鐘」話を聞いた時、覚悟は決めていた。
 しかし、教授にそれとなく話を振った時、教授にその気がないことがわかった。教授は、自分は不能者だと言った。


・昭和五十九年十二月三十日
 東京から仙台駅まで行き、仙台駅から更に電車を乗り継いで二時間半。お尻の痛みが限界になる頃、ようやく目的地の駅に着いた。
 何も無い所だった。目的地の村には、ここからバスでまた長時間揺られることになる。
 鷺沢教授の指示通り駅前の喫茶店に入ると、店の奥に厚手のウールのジャケットを羽織った身なりの良い七十代と思われる男性が座っていた。他の客は五十代と思しき作業着を着た男性。作業着の男性は、私が入っても視線を新聞に落としたままだった。ウールジャケットの男性が、「卯木さんですか?」と聞いてきた。この男性が、鷺沢教授から教えられた「案内役」の鳥巣(とす)氏だった。目的地のバスを待つ間、目的地の村のことを大まかに聞くことができた。

(中略)

「録音ボタンを押しました。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。鳥の巣と書いて、鳥巣と申します。鷺沢さんから話は聞いています。卯木紗絵さんでしたね」
「はい」
「こんな遠くまで、よく来られましたね。お疲れでしょう?」
「ええ、まぁ……。鳥巣さんは、今日私が行く『けうど村』のご出身だと聞いているのですが……」
「そうです。何もない村ですよ。働き口も無ければ、これといった産業も無い。昔は各家が炭を焼いたり、牛を飼ったり、畑を耕したりしてなんとか家族の食う分くらいは賄っておりましたが、私の子供の頃……もう六十年も前ですが、その頃からは若い衆のほとんどが街に出稼ぎに行くようになりました。私も十六歳の頃に親戚のツテを頼って、仙台の工場で働くようになりました。二年前に妻を亡くして……子供も授からなかったので、死ぬなら生まれた村でと戻ったのです。何もなくても、故郷は故郷ですからね」
「わかるような気がします。いかがでしたか? 村に戻られて」
「相変わらず何もなかった……。いや、更に何も無くなってしまっていた。まるで人が過去の記憶を徐々に忘れて行くように……。村の中心にある寺や、古くからの家は残っていましたが、細々としながらも主要産業だった炭を作る炭焼き小屋は一つも残っていませんでした。牛も各家に一頭か二頭いるだけで、以前のように街に売る分まで飼っている家は一軒もありませんでした。今でも、村が残っているのが不思議なくらいです。もしかしたら、あの祭りのご利益かもしれません……」
「離世為の鐘」
「ええ、そうです。離世為の鐘の儀式……あなたが調べたがっている祭りです。鷺沢さんからお話は聞かれていますか?」
「教授も詳細は知りません。それを調べる為に、私が来ました」
「結構……では……おっと、バスが来たみたいですね。詳しくは村に行ってから、住職から話があると思います。宿も住職にお願いして、離れの一室を借りております。あいにく私の家には客間が無いものですから……。あくまでも私の孫ということになっておりますので、ひとつよろしくお願いします」
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 村には街灯がほとんど無く、道路も舗装されていなかった。薄暗がりの中に浮かぶ家は土壁で、屋根は茅葺き。まるでタイムスリップしてしまった様な錯覚を覚える。村は現在では三十数世帯しか住んでおらず、また、そのほとんどが六十歳以上の高齢者だという。もはや過疎という言葉が生易しいほどの、消滅寸前の集落だった。
 バスを降りると、運転手は「また来年」と言った。明日の大晦日から元旦にかけて、離世為の鐘のために村が閉鎖される。当然、バスの運行もストップになる。
 鳥巣さんに案内された寺は、その粗末な村に不釣り合いなほど大きく、そして、奇妙だった。
 門をくぐると、本堂を隠すように大きな梵鐘が目に入った。奇妙な配置だ。参拝する人々はこの梵鐘を迂回しなければ本堂にたどり着けない。また、撞木は本堂に背中を向けて撞く様な配置になっていた。つまり鐘を撞くためには、本堂に尻を向けなければならない。私は何回もポケットから小型カメラを取り出して、鳥巣さんに気付かれないように写真を撮った。
 本堂は村人全員が入れるのではないかと思うほど広かった。そして仏像の代わりに、高さ二メートル、横三メートル程の長方形のガラス板の様なものが安置されていた。
 ここは、寺院なんかではない。
 便宜上「寺」と呼んでいるだけで、全く独自の宗教が信仰されているのだと私は確信した。
 鳥巣さんが本堂で住職の名前を呼ぶと、神経質そうな初老の住職が顔を出した。事情を手短に話すと、鳥巣さんは祭りの準備があるからと言って自転車で帰宅してしまった。
 私は離れに案内され、荷物を置くと例のガラス板が安置されている本堂に来るように指示された。私はあらかじめ準備しておいた予備のカセットレコーダーの録音スイッチを押してから、本堂へと向かった。

「鳥巣さんのお孫さんでしたかな? 名前は何と?」
「鳥巣……紗絵と申します。本日はお泊めいただき、ありがとうございます」
「構いません。このように広い寺ですし、離れは元々客間として造られたものです。昔はあなたの様な村人の家族や親戚が訪ねて来られた際に、離れを使っていただくことは珍しくありませんでした。最近はすっかり減ってしまいましたがね」
「ご自分の家には泊まらずに?」
「ここは貧しい村です。広い家を建てる余裕のある家は一軒もありません。この寺は、村の守り神を祀る為の施設であると同時に、昔の村人達が集会場や共用の宿泊場も兼ねて、金銭を出し合って建立されたと聞いております」
「守り神? その……仏像ではなく?」
「見ての通りです。この透明な板……これが御本尊です。まぁ、とても透明とは言い難いですがね。まるで何年も海の底に沈んでいた難破船の窓ガラスの様に燻んでいますが、大切なものです」
「あ、その……突然で申しわけありませんが、お話を録音させていただいてもよろしいでしょうか?」
「録音ですか?」
「ええ。実は東京の大学で民俗学を学んでおりまして、このような神社仏閣に興味があるんです。このように貴重なお話を聞ける機会がいつあるかわからないので、常にテープレコーダーを持ち歩くようにしています」
「民俗学と言いますと?」
「各地方に残っている伝統や伝承、祭りや儀式等から、現在の生活文化のルーツを考察しようという比較的新しい学問です。祖父からこの村の話を聞いて、ぜひ儀式を観てみたいと思い、伺いました」
「……離世為の鐘を?」
「そうです」
「…………申し訳ありませんが、録音は遠慮していただきたい。儀式のことをあなたに個人的にお話しすることは構いませんが、たとえば録音をされて、それが何らかの方法で不特定多数に広まることは、私はあまり好ましいとは思っていません」
「……わかりました。では、これはスイッチを押さずに置いておきます」
「ありがとうございます。儀式は神聖なものなのです。村人の中にはこのまま村が無くなるなら離世為の鐘で町興しならぬ村興しを……という意見もありますが、私は反対です。不特定多数の者に晒し者にしていいことはあまりありません。儀式は村人と『離世様』の為に粛々と行われれば良いと考えています」
「離世様……ですか」
「御本尊……その板のことです。離世為の鐘は、文字通り離れた世に住まう神様や御仏……我々はまとめて離世様と呼んでいますが……その為に撞く鐘のことです。もっと正確に言えば、離世様に我々の存在を忘れさせないために撞く鐘です」
「忘れさせないため……」
「そうです。今では平仮名表記になっておりますが、元々この村は穢れた人の村と書いて穢人村(けうどむら)と呼ばれていました。穢人村は昔、様々な理由で世間から疎まれ、島流しのような形で各地方から流れてきた人々が集まって作った集落です。今でこそ、わずかな畑や家畜がありますが、昔の穢人村は極貧を極め、毎年のように餓死者が出ていました。当然の話です。穢人村の村人達は何も持っていなかった。祈るべき神や仏も……。あるのは荒れ放題の土地と厳しい気候だけです。しかし村人達には帰る場所がない。穢人村の村人達は雑草を食みながら必死に農地を開拓し、壮絶な苦労をしながら何とか生き残ってきました。その中で自然発生的に生まれたのが、離世様です。神も仏も自分たちを忘れ、見放した。ならばせめて離世様にだけは、自分達の存在を忘れずに覚えておいてほしい。自分達を見捨てないでほしい。だから毎年、年末に鐘を撞いて、離世様に自分達の存在を示すのです。自分達はここにいるぞと……」
「それで……あんな場所に鐘が置かれているのですね」
「そうです。離世様はあの板を通してこちらの世界を見ると言われています。こちらに背中を向けて鐘を撞く奇妙な配置ですが、ちょうど離世様が正面から見られる様に、あの様な配置になっています。正直言って、私には離世様が居るのかどうかなんてわかりません。ですが、離世様の存在が今でも村人達の精神的主柱であることは変わりない。私はそれを……見世物にしたくないのです」

 住職の言う通り、この寺は確かに村人から大切に扱われている。境内の掃除や建物の手入れは隅々まで行き届いている。各村人が当番制で、毎日掃除に来るそうだ。また、住職自身も世襲制ではなく、毎年村の中から選ばれるらしい。次代の住職も決まってはいるが、まだ街へ出稼ぎに行っており当分帰れないだろうと話していた。
 私は、この話を鷺沢教授にどのように伝えようか迷っている。
 現在では貴重な土着信仰が、今でも村人の中心として脈々と受け継がれている。学会でこの話題が知られれば、間違いなく民俗学者はおろか考古学の関係者まで調査に乗り出すだろう。それを歓迎する村人はいると思うが、住職の話す様に信仰を持つ者だけで、静かに信仰を深められればと考える村人も多いはずだ。
 私にその均衡を破るこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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「今…………………………森の中に隠れてる……。    ふふふふ………………。  ふー…………ふー……………。     ひ」


「ふっ……ふっ……ふっ……。嘘でしょ?何であんなにいるの?今までどこに隠れていたの?はっ…はっ…はっはっ…………。怖い……怖い……」
「いたぞ!」
「ひっ!?」


 少しおちついた。かきとめる。もしものことがあるかもしれないから。昭わ5九ねん十二月三目。はなれでかいてた。日記。とびらあいて人人ってきた。たいまつ。ながいぼう。(解読不能)。若い入いっぱいいた。どこかにかくれてたんだ。わたしをみこだと言った。りよなのみこ。かこまれた。にげた。いような(解読不能。雰囲気?)だった。みんな目が光ってた。ギラギラしてた。おそらく、つかまったら、ぎしきに何らかの形で使われるはずだ。りよなのかねのぎしきがどんなものかわからない。たぶんじょ夜のかねと同じだと思っていたけど、ちがうみたい。私はどうなるんだろう。もしつかまったら。(解読不能)。ーーーーーー。(解読不能)。(解読不能)。おちついて。ゆっくりかくの。あたりはまっ暗だし、夜明けもあと何じかんあるかわからない。朝にさえなれば、森にかくれながら逃げられるかな。バスで何時間もかかったけど、二日、三日も歩けば町に出られるかも。けいさつに行かないと。その前に、きょじゅに電語しないと。何かかかないと。おちつかないと。
(以下、同様の内容が繰り返されたため省略)


「……すこし明るくなってきた。まだ村の方が騒がしい……。今のうちに逃げないと……。少しずつ……足音を立てないように……。テープはスイッチを入れっぱなしにして…………(以下、森を進む音がしばらく続く)。大丈夫みたい。だいぶ村から離れた。ひっ!? …………車? ワゴン車? 鳥栖さんが乗っていたみたい……。え? 止まって……? え? え? なんで? なんで一斉にこっちに来るの!?」
「いたぞ! 巫女だ!」
「ひッ!? やっ!? ひッ!?」
「大人しくしろ!」
「やめて! お願い! ゔッ!?」
「気絶させろ。村まで運ぶぞ」
「うぶッ……やめ……ゔぅッ!? お……うぐッ! ごぶッ! ゔッ! んぶッ!? んぐ……ごぶぅッ! あ……ぁ……」
「…………手こずらせやがって」
「まさか逃げられちまうとはな……。しかしまぁ、今年のは特に別嬪さんですね? 鷺沢さん」
「まぁ、私も迷ったがね……。全く将来性の無い学生なら躊躇なく送るんだが、この子は優秀で手放すのが惜しかった。ただ、離世様への捧げ物だ。中途半端な供物は送れんよ……念のためにテープレコーダーに発信機を仕掛けたのは正解だったな」
「流石は、次期住職ですね」
「いつ戻って来られるかわからんがね……。一応薬品を嗅がせておけ。夜まで眠らせておくんだ。また逃げられたら、それこそ取り返しがつかないぞ」



・昭和五十九年十二月三十一日
 私の生徒、卯木紗絵は少しトラブルもあったが、無事に離世の巫女としての責務を果たしてくれた。鐘に縛り付けられ、冷水を浴びせられた彼女は覚醒と同時に悲鳴をあげた。私はテープレコーダーの録音ボタンを押して、その様子を眺めていた。住職が
「これより、離世為の鐘を執り行う。撞き手、前へ」
 と宣言すると、若者が鐘撞堂に上がり、手綱を握った。いつもながら、この瞬間は興奮するものだ。彼女の、普段の強気な表情が、今では恐怖に震えている。自分がこれから何をされるのか理解しているのだろう。そして、それをされるとどうなるのか。それはどの程度続けられるのか。果たして自分は生き残ることが出来るのか……。その全てが表情に表れている。
「やっ……やだっ……やだ……」
 恐怖に引きつった表情の彼女の腹目掛け、撞木が酷くめり込まれた。
「ふぶッ?! ごぉえぇぇぇ!」
 ぼぉんという、重く、くぐもった独特な鐘の音だ。そして、巫女の絶叫が響き渡る。ああ、そうだ。これこそ離世為の鐘の音だ。何度聞いても、魂を揺さぶられる音だ。
「んぶぅッ!? ぐあぁ! や……だぁ……おぼぉッ!?」
 ぼぉん、ぼぉんと撞かれるたびに、巫女の顔は苦痛に歪み、涙と涎にまみれてゆく。さぞ理不尽に思っていることだろう。撞き手が交代し、新たな撞き手が撞木を後ろに引き絞る。
「おぼぉッ?! うぶっ……おおぉぉぉ……」
 巫女の喉が微かに膨れ、胃の内容物がびちゃびちゃと粘ついた音を立てて鐘撞堂の床に落ちた。巫女はこの気温の中脂汗をかいているらしく、額に束になった髪の毛が張り付いている。寝ているうちに着替えさせられた巫女装束は前がはだけ、色白の腹には青黒い内出血の跡がいくつも付いていた。
「ゔぅッ!? ぶぐッ!? や……やめ……お腹…………壊れちゃう…………えぶッ!? おゔッ!?」
 時間にして一時間ほど。巫女の声が徐々に弱くなる。壊れた人形の様に頭を無意味に左右に揺らしながら、うわ言のようなものをつぶやいている。そろそろ限界だろう。住職が指示を出し、数人がかりで撞木を後方に引いている。巫女は朦朧とする意識でもその光景が目に入ったらしく、微かに首を振っている。住職の合図で、限界まで引き絞られた撞木が、巫女の腹にずぶりと突き刺さった。
「や……やめ…………ごぼおぉッ!?」
 鐘の音に混じり、ミシミシという音が聞こえた。巫女の背骨が砕ける音だ。巫女はしばらく天を見上げるように顔を向け、ぷつりと何かが切れたように全身を弛緩させた。住職が巫女に対して経を唱える。首に手をやって脈を確認すると、若い衆を促して巫女を鐘から降ろした。
 住職が儀式の終わりを宣言し、拍手に包まれた。
 私はようやく握りしめたテープレコーダーが汗で濡れていることに気がつき、ハンカチで拭いた、同時に、今年も自分が儀式を観て昂ぶっていることにも気がついた。下着の中が濡れている。下着を二枚重ねで履いてきたことは正解だったようだ。
 興奮が治まるのを待って、私は住職に労いの言葉をかけた。住職は首を振った。
「何度やっても慣れないものですな……見ていた時分にはよかったのですが、いざ自分が主導で執り行うとなると……」
「何を言っておりますか。今回も無事に、離世様に鐘の音を届けられた。同時に、我々の存在も示すことが出来たでしょう」
「しかし鷺沢さん。私が言うのも何ですが、他に方法は無いものですかな。何も命まで……」
「生贄とはまさにそういうものです。『人柱』をご存じでしょう? 僅かな代償を払うことにより、大きな利を得る方法です。昔から行われてきた、いわば文化です」
「ではせめて一思いに……」
「残酷な儀式を好む神々は世界中に見受けられます。何もおかしなことではない。かつて残酷な処刑や拷問が人々の娯楽の一部であった様に、神々も例外ではないのです。むしろ今回は、撞き方が甘かったくらいですよ。こう言っては何ですが、とどめを刺すのがいささか早すぎた」
「あなたは……自分自身この儀式を楽しんでいる……そうでなければそのような発言はしないはずだ」
「否定はしません」
「それで、撞き方が甘かったと……?」
「私にとっては」
「では、離世様も満足されてはいないということでしょうか?」
「それは私にもわかりません。しかし先も申し上げた通り、鐘の音は確かに届けられた」
「……鐘の音に満足されたかは、直接聞いてみないとわからないということですか」
「まぁ、そうなりますな。聞くことが出来ればの話ですが……



























いかがでしたか? 離世様?」

 美樹の放った回し蹴りが綺麗に弧を描いて蓮斗の顔面をしたたかに打った。どろりとした鼻血がミミズの様に蓮斗の鼻から這い出る。蓮斗は鼻を押さえることもせずに美樹に向き合い、大振りの前蹴りを放った。重そうなブーツが空を切る。美樹は難無く蓮斗の蹴りを躱すと、背後に回って素早く蓮斗の首に腕を回した。
 美樹の腕が蛇の様に蓮斗の首に巻き付く。綺麗に頸動脈のみを締め上げられ、蓮斗の視界に銀色のオーロラが降りてくる様な明滅が起こった。顔が徐々に膨張する様な錯覚。耳の奥できいんと耳鳴りが鳴り響いている。
 あと数秒で失神すると蓮斗は思った。
 蓮斗は痙攣の始まった手でカーゴパンツのポケットに手を突っ込んだ。硬い感触が指先に触れる。栄養ドリンクに似た瓶のキャップを片手で器用に開けると、中身を背後にぶちまけた。美樹が驚いて手を離す。残りの薬剤を口に含み、霧状にして美樹の顔に吹きかけた。
 美樹は反射的に蓮斗の首から腕を離し顔を手で覆った。呼吸と一緒に霧状になった薬剤を吸い込んでしまい、軽く咽せる。南国の花の様な重く甘い香りが鼻腔の奥に残る。瞬間、チリッとした刺激が脳の表面を駆け巡った。美樹が顔をしかめてこめかみを押さえる。
「先輩……」
 美樹の背後から久留美の声がする。振り返ると、美樹の上着の袖を久留美が掴んでいた。
「先輩……蓮斗さんを傷つけちゃ……嫌です……」久留美は甘えるような声を出すと、背後から美樹の胸のあたりに腕を回して抱き着いた。突然の事に美樹が狼狽する。
「く、久留美? 何を言っている……手を放せ!」
「大丈夫ですよ先輩……。蓮斗さん、とても良い人ですから……。それに、蓮斗さんがお腹を殴ってくれると、すごく気持ち良くなれるんです……」久留美は熱に浮かされた様に上気した顔で呟く。「こんな感情……私、初めてなんです……。先輩も早く、蓮斗さんに気持ち良くしてもらいましょう。大丈夫です、痛いのは一瞬ですから」
「馬鹿なことを言うな! 久留美! 目を醒ませ!」
 美樹が身じろぎしている最中、蓮斗が音も無く近づいた。
「……ッ、貴様! 久留美に何を……」
 美樹が言い終わる前に、ぐじゅっ、と水っぽい音が美樹の身体を通って鼓膜に届いた。蓮斗の拳が、美樹のレオタードに包まれた腹部に埋まっている。
「ぐぼっ!」美樹が悲鳴を上げる。不意打ちを受けた腹は蓮斗の拳を柔らかく包み、温かい粘液の様に絡み付いた。美樹の視界がぐらつき、猛烈な吐気がこみ上げる。同時に、拳を打ち込まれた場所からどくんと脈打つ様な感覚がこみ上げて来た。
「……ッくあぁっ?!」
 美樹がびくりと痙攣しながら、上体を反らして仰け反った。叫んだ瞬間に粘度の増した唾液の飛沫が舞う。
 下腹部の脈動は定期的に続き、まるで下腹部にもうひとつ心臓が発生した様に定期的に信号を脳に送っている。
 それは温かく、柔らかくて甘い泥の中を裸でのたうつ様な信号だった。体全体を泥で汚しながら、甘い香りと優しい温かさに包まれたそれは紛れも無く背徳的で官能的な信号。
 美樹は焦点のズレた目で下腹部を見下ろした。
 アンダーウェアの生地を巻き込んで、蓮斗の骨張った拳が深くめり込んでいた。それを認識した瞬間、どくん……と拳のめり込んでいる腹部のあたりが脈打った。雷の様な快感が美樹の背骨を駆け上がり、頭蓋骨の中で破裂する様子がはっきりとイメージ出来た。
「んぅッ?! くはぁぁぁッ!」美樹は訳もわからずに沸き上がって来た快感に身体を捩らせた。腹部を殴られた苦痛と同時に発生した快感。頭の中を沸騰した嵐が吹き荒れている中、二発目の鉄槌が鳩尾に撃ち込まれた。
「んぶぅッ?! んぶ……ッ……んあぁぁぁぁ!」
「あははは……頬染めちゃって、可愛いなぁ」
「ぎ……ぐぅッ……ぎざま……」美樹がびくびくと痙攣しながら、涙の溢れる目で蓮斗を睨みつける。食いしばった歯の隙間から荒い息が漏れていた。「何を……んくッ……私に……何をした……?」
「あはぁ……美樹先輩……すごく気持ち良さそう……。気持ち良いですよね? 蓮斗さんにお腹殴られると……」久留美がとろんとした笑みを浮かべながら美樹の首筋に舌を這わせると、美樹の身体がビクリと跳ねた。堪えていた息を美樹が吐き出すタイミングで、蓮斗の膝が撃ち込まれる。
「ぐぼぉっ?!」
 膝を腹に打ち込まれた衝撃で美樹の目が見開かれ、舌が口から飛び出す。
 美樹は戸惑っていた。
 臍や鳩尾、胃の辺りを責められる度に、じんわりと熱を持った葛湯の様な甘くとろみのある液体が子宮のあたりに沸き上がるのを強烈なイメージとして感じていた。その液体のイメージは腹部周辺を責められる度に子宮の中に溜まってゆく。
 ぐじゅり……ぐじゅり……と蓮斗は容赦なく美樹の腹を責めた。久留美は美樹の背後から抱き着きながら、苦痛と快感に耐える美樹の顔をうっとりと眺めている。
 美樹の中で無意識な感情が芽生えていた。
 子宮を殴られたい。
 この子宮に溜まった液体を、どうにかして欲しい。
「くぅッ……! 蓮……斗……」美樹が泣きそうな顔になりながら蓮斗を睨んだ。「うッ……はぁ……ぐぅッ……!」
 子宮を殴って欲しい。その骨張った拳で潰して欲しい。
 自分の意志に反した逆らいようの無い欲求。美樹は必死に頭を振ってその甘い欲望の濁流に飲まれない様に耐えた。
「へぇ……頑張るんだな。早く久留美ちゃんみたいに堕ちちゃえばいいのに」
「そうですよ先輩……一緒に気持ち良くなりましょう? 私も最初は痛かったけど、すぐに慣れますから」
「くっ……もう一度聞くぞ……私に何をした……?」
「俺がオーダーメイドした一点物の『チャーム』を使ったのさ。人妖の分泌するチャームを培養して、腹部が性感帯になる様にカスタムした特製のね……。俺に殴られて気持ちよかったでしょ? もうすぐ美樹ちゃんも、久留美ちゃんみたいに自分からお腹を殴って下さいってお願いするようになると思うよ?」
「ふざけろッ! そんなものに……私が屈するものか!」
 美樹は自分に言い聞かせる様に叫んだ。
 蓮斗はその様子を鼻で笑うと、軽い動作で拳を引き絞った。
 ぐぽんッ……と蓮斗の拳が、美樹の子宮を抉った。
 美樹は次の瞬間、熱を持った子宮に溜まった甘い液体が、まるで水風船が破裂した様に体内にまき散らされるのを感じた。それは細胞の隙間を強烈な快感の爪で引っ掻きながら体中に広まった。爪先から脳天まで快感が広がり、美樹の視界は星が散った様に明滅した。
「ふぐあぁぁぁぁッ! はぐッ……くふッ……あああッ!」美樹は身体を仰け反らせ、絶叫しながら快感に耐えた。絶頂の波が絶えず身体を駆け巡り、痙攣する身体を歯を食いしばって必死に抑えた。「んぐぅッ……ぐ……はぁ……はぁー……」
 蓮斗が美樹に近づき、再び拳を引き絞った。拳が腹部に当たる瞬間、美樹は自分が無意識に腹筋を緩めたことに気がついた。自分は、快感に負けてしまったのかと、美樹は底の無い暗い穴に落ちる様な気持ちになった。

遅れましたが、りょなけっと2お疲れさまでした!

当日はラッシュこそ無かったものの、コンスタントにスペースまで訪問して下さり、予告編でありながら50冊以上という予想以上の冊数を配布することが出来ました。
また、「本編期待しております」との激励の言葉も多くいただけました。
改めまして、当日はありがとうございました。
一撃さんとの合作、HYBRIDはこれからものんびりと温めながら創っていきますので、よろしければお付き合い下さい。



ではでは、参加者視点のレポを書かせていただきますので、よろしければどうぞ


9月28日(土)

【15:00】
福岡空港で前回好評(?)だった「替玉」を仕入れる。奮発して2玉。その後、無事に羽田空港に降り立つ。
友人(ブルジョワ)から「福岡は暑いかもしれんが、東京は半袖だとキツい」とのアドバイスを受けて長袖にウールのハットを被って上京するも、気温は27℃。友人を恨む。

【19:00】
友人とダーツをしてから前夜祭会場へ向かう。
あおさん、原崎さん、はあばあどさん、ひらひらさん、量産型ねこさん、JJJさん、AWAさん、ミストさん、ヤンデレないさんとつつがなく合流。たいじさんは原稿の関係で残念ながら欠席。

【20:00】
独断と偏見で「プレミアム飲み放題」を付けたため、日本酒を飲みまくり、スパークリングワインをボトルで数本頼む。
記憶が曖昧になってくる。
隣のJJJさんと盛り上がり、ヤンデレないさんとアッー!な展開をし(よく憶えてない)、あおさんに日本酒を押し付ける。
ミストさんがヤンデレないさんに「明日スタッフやれよ。9時集合な」と無茶振りされ、何故かミストさんが快諾する。
途中、女性同士が腹パンしあうという俺得な展開に。

【22:00】
二次会突入。
ほとんど憶えていないが、あおさんの東京大学の学生証を酒の中に入れたり何かを食べたりした気がする。そのままの流れであおさんと帰宅した気がする(うろ覚え)。

【22:30】
友人(ブルジョワ)のマンションに移動。ビールを押し付けて「三次会しようぜ」と誘うも、「俺が酒飲めないの昔から知ってるだろ」と返され、早々に風呂に入られる。とりあえず勝手に友人の冷凍庫を開けて、冷凍食品をすべて冷蔵室へ移す。解凍の手間が省けてさぞ喜ぶだろう。
友人は風呂から上がると「最近部屋の観葉植物がよく枯れるんだ」と、至極どうでもいい相談を始める。よく見ると病気になっているっぽい葉っぱが結構ある。「枯れた葉っぱ取り除いとけよ」と適当なアドバイスを返す。
イベントの売り子をお願いするも、予定があるとつれない返事。トイレに行っている間に観葉植物の健康な葉も数枚毟る。


9月29日(日)

【6:30】
イベント当日である。
友人共々中年らしく早朝に目が覚める
前日の酒が全く抜けておらず、フラフラになりながらも出発の準備。
幸い友人宅の立地が良いため、9時半に出発しても十分に余裕があるため、のんびり過ごす。
昨日相談を受けた観葉植物が目に見えて元気が無い様子であるが、気にしないことにする。

【10:00】
会場到着。
前日無茶降りされたミストさんに会場まで案内してもらう。
設営準備中も暑過ぎて汗が止まらない。
参加者の複数名から「だ、大丈夫ですか……」と本気で心配される。絶対何人かは「ああ……たぶんクスリが切れたんだな……」と思われていることだろう。
昨日の打ち上げメンバーの他、高菜さん、mos/¥さん、藤沢さん、シャーさん、かむいさん、スガレオンさんと挨拶。
忙しい中シャーさんに色紙を描いていただき、小躍りする。

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【11:00】
開場。
ラッシュこそ無いものの、コンスタントに手に取っていただける方が耐えない。
「一撃さんの大ファンなんです!」とコメントする方多数。下手な文章かけねぇなと燃える。
Twitter上でしかお話ししていなかった黒葉さんとアクセレイさんが訪問して下さる。特にアクセレイさんには「腹パン好きですか?」と変質者的な質問をする。ドン引きしなかったことを祈りたい。
アフターイベントは参加サークルが100オーバーのため2時間超えの長丁場。
早々に福岡から持参した「替玉」が取り上げられる。

IMG_6270


「しょーもねーモンねーかな?」
「あ、替玉」
「コイツまたかよ!」
「しかも2つに増えてるよ!」
「アホかよ?」
「アホだな」
と楽しい紹介をされ、無事に人手に渡って行った。
次回参加出来れば3つ持って行くことを決意する。
シャーさんの色紙を取り損ねて崩れ落ちる。
アフターイベント終了直前、主催のヤンデレないさんが「例のモノを!」と叫ぶ。なんと「りょなけっと3 2月22日開催」の案内とポスター。飛行機を予約する。


【18:00】
打ち上げ開始、同好の趣味同士盛り上がる。
隣のテーブルに移動すると、全員が一心不乱にチ◯コを描いている。
「55、テメーも描け!」とたいじさんとAwAさんに脅される。

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【21:00】
ミストさん主催のカラオケオフ。
よく憶えていないが23時頃まで歌って飲んでいた気がする。



さてさて、終始ぐだぐだな感じで当日を過ごしてしまったため、失礼のあった方は申し訳ありません。
最後になりますが、あらためて来ていただいた方、ありがとうございました。
やはりイベントは「お祭り」であるということが再認識できました。お祭りとは楽しいもので、娯楽の少ない時代では「自分をさらけ出すストレス発散の場」といういわゆる無礼講な宴の意味合いが非常に強かったのではと思います。表向きに出来ない趣味が許される場。それがオンリーイベントの醍醐味ではないでしょうか。
ではでは、次回はHYBRIDの第1章をお届け出来るべく、今後も頑張ります。

こんばんは。
いよいよ28日はりょなけっと2の開催日となりました。
先日無事に製本と発送が終わりましたので、事故が起こらなければ無事に会場で配布が出来そうです。
今回は下記の3点を配布致しますので、よろしければスペースまでお越し下さい。


サークル名:515project
スペースNo:殴1


配布物1
515project
HYBRID_#1-trailer-
200円

一撃さんの合同サークル、515projectの第一段作品となります。
と、言いましても今回は時間の関係でコピー本。腹責め描写少なめの「予告編」となりますので、ご満足いただけるかは人それぞれになるかと思います。
ああ、こいつらはこういう雰囲気の話を作ろうとしているんだなぁ……と寛大な気持ちで手に取っていただけるとありがたいです。

1


配布物2
Яoom ИumbeR_55
COLLECTION_011: [GHØSTS]
1500円

連載シリーズ、RESISTANCEの総集編となります。
今回は再販のため、若干価格を下げることができました。

名称未設定-1


配布物3
さるみあっき
H!
2500円

自分も参加している腹責め小説合同誌を委託配布させていただきます。
500ページ超えのボリュームある本となっております!

hyoshi



ではでは、当日はよろしくお願い致します。


お品書き

りょなけっと2サークルカット



9月28日開催のりょなけっと2に参加させていただきます。

今回はいつもお世話になっている一撃さんとタッグを組み、全く新しい話を2人で考えています。

書いたことの無い世界観や大物とのタッグという環境でプレッシャーも大きいですが、楽しみながら書かせていただいています。よろしければ会場で手に取ってみて下さい。


りょなけっと2
日時:2014/09/28(日) 11:00〜15:00(終了後アフターイベント有り)
会場:東京卸商センター3F展示場
※詳細や注意事項等は公式HPをご参照下さい。

登録サークル名:515project(ゴーイチゴープロジェクト)

配布物:HYBRID -trailer-

内容:「ハイブリッド」というオリジナル作品の予告編的なコピー本となります。文章とイラストを収録予定です。価格、ページ数等は決定次第連絡致します。

では、よろしくお願い致します。

表紙5


35


サークルカットおよびサークルロゴは一撃さんに作成していただきました。
ありがとうございました!

腹責め合同誌「H!」のサンプルを掲載します。
全体の雰囲気だけでも知っていただければ。



合同誌タイトル:「H!」
配布イベント :コミックマーケット86
配布日時   :8月17日(日)
配布場所   : 東ナ 54b M.M.U.様スペースにて委託販売



number_55参加タイトル
「鶇(ツグミ)」



鶇(つぐみ)
鳥綱スズメ目ツグミ科ツグミ属に分類される鳥類。命名には諸説あるが、「(日本では)鳴かない鳥=口をつぐむ鳥」「つぐむ」が変化して「つぐみ」と命名されたとの説が有力。

(中略)

「人に興味が無い事は、悪い事じゃない」真里亞が悪戯っぽく笑いながら言った。「私も同じだから」
「……同じ?」
「そう。さっきも言ったけれど、私が興味があるのはお金だけ。他のことはどうだっていい。確かに飲食業は人に興味を持ち、人が求めるモノを提供することが成功への近道だよ。あくまでも教科書の中ではね。でも私はそんなことは端から信じていない。貧乏臭い大衆居酒屋のトイレに貼ってある、人の満足や笑顔がどうのこうのなんて薄気味悪い台詞は大嫌いだ。私の目的は人からいかに金を巻き上げるか……その一番の近道で、なおかつ法に触れない手段がたまたま飲食業だっただけ。今の店だってそうさ。ある程度顔が良くて胸の大きい女の子を集めて、安酒を運ぶ時にちらっと谷間でも見せておけば、馬鹿な男共が金を落としていく」
 真里亞はツグミに祈る様に手のひらを合わせた。人差し指に唇を付けて、下から見上げる様にツグミから目を離さずに言った。
「でも、このまま本店の猿真似をしていても何も始まらない。ただの色モノチェーン店の雇われオーナーで終わってしまう。それじゃあ稼げない。だから、ちょっとした悪巧みをしようと思うんだ」
「悪巧み?」ツグミが首を傾げながら聞いた。
「そう、悪巧み。今まで以上に客単価を上げて、なおかつ固定客ができるサービスを提案する。そのためには多少の汚いことをしても構わない。でも、ただの優秀な人間の出す企画ほどつまらないものはない。そんなものはとっくにどこかの店でやっている。私が求めているのはもっと『振り切れた』アイデアなんだ。馬鹿な男から増々金を搾り取れるようなギリギリのライン……バレなければ犯罪じゃあないからね。でもその為には、冷徹で口が堅く、聡明だけれどある程度頭のネジの外れた人間が必要なんだ。そう、例えば胸を触られただけでアイスピックを相手の目に突き立てようとするクールビューティーなバーテンとか……」
 ツグミは話を聞きながら、身体の底で微かに沸き上がる熱を感じた。学校から退学処分を受け、家から手切金代わりにマンションの部屋を与えられて縁を切られて以来、身体の芯はずっと冷めたままだった。死ぬことも考えたが、死ぬエネルギーすらもツグミからは消え去っていた。この二年間、ツグミは「生命を維持せよ」とプログラムされた機械の様に生きていた。機械的に呼吸をし、機械的に食事をし、機械的に眠った。あらゆることに対する欲や興味は全く無くなり、仕事に必要な身だしなみや衣類は定期的に整えたが、そこに自分の意志は全く介在しなかった。
「面白そうね……」ツグミは言った。面白そうという感情はずいぶん久しぶりだった。
 目の前に座る少女の様に見える真里亞。真里亞も「金以外は」という注釈がある以外は、概ね私と同じような人種なのだろう。身体の芯が冷めているため、外面までも冷めてしまったツグミと、身体の芯が冷めているからこそ、それ以上に外面が熱くなった真里亞。私ももしかしたらこういう風になっていたのだろうかとツグミは思った。根は同じでも、水と油。陰陽の太極図みたいなものかもしれない。私と真里亞は。
「じゃあ決まりだね……待遇はとりあえず今の給料の百五十パーセントと考えてもらっていいよ。もちろん貢献度によっては昇給するし、そうなると期待しているから。あと、最後に条件がひとつだけ……」真里亞はツグミのグラスに瓶に残ったワインを注ぎ、目の高さにグラスを上げた。ツグミもそれに合わせた。「私に敬語は禁止。上下関係ってやつが嫌いなんだ」
「……わかったわ」ツグミが言った。
 二人はワインを一息に飲み干すと、グラスを床に叩き付けて割った。

(中略)

「は……初めまして……楠瀬……は、はすみと言います……」
 楠瀬はすみは、事務所の四人掛けのテーブルに座りながら言った。声が震えている。ツグミは斜向いの椅子に座って、履歴書の写真と目の前に座っている少女の顔を確認した。同一人物であるという事務的な確認。学歴や職歴、特技や趣味の欄は読んでいない。そもそも字が汚いうえに、震えていて読み辛い。典型的な「読む気を失くさせる文字」だ。目の前で小さくなっているこの子は、履歴書を書いている時ですら緊張していたのかもしれないとツグミは思った。
 ツグミははすみの頭から胸まで視線を数回往復させた。顔立ちは中学生と言っても通りそうなほど幼いが、可愛らしく整っている。黒髪で、耳を隠す様にサイドの髪が長い。いわゆる触覚ヘアーも、おとなしそうな雰囲気によく似合っている。胸は……ギリギリ合格点と言った所か。それほど大きくはないが、綺麗な形をしている。真里亞の指示通に従えば、このまま会話をせずに出勤日だけ決めて帰宅させてもいい。
「煙草……」とツグミは言った。「吸っていいかしら?」
「……え? は、はい。大丈夫……です」
 慣れた手つきで短い煙草に火をつける。はすみはまるで興味深い化学の実験を見ている様に、ツグミの煙草に火をつける様子を食い入る様に見ていた。
 ツグミがちらりとはすみを見るとと、はすみは慌てて下を向いた。ここまで気の弱い女の子がなぜルーターズで働こうと思ったのか、ツグミは微かな興味を抱いた。ルーターズはどちらかといえば派手でセクシー系の店だ。はすみが仮に頭が悪い子だとしても、事前に店のホームページくらいは確認してから応募するだろう。そして何故、あえて自分のイメージとは対極にあるルーターズに応募したのか。
「……はすみちゃんだっけ?」ツグミが天井に向けて煙を吐きながら言った。
「は、はい! はすみです」
「……なんでルーターズで働こうと思ったの?」
「あ、えと……」はすみは母親に悪戯が見つかった子供の様に下を向いた。「お金が……必要で……」
「お金?」ツグミが言った。
「はい……恋人に……誕生日プレゼントを買ってあげたくて……」
「恋人?」ツグミ思わず聞き返した。なるほど。おとなしそうに見えて、やることはやっているらしい。
「大切な……人なんです……」はすみが下を向いた。
 ツグミは煙草を灰皿で揉み消しながら言った。「確かにウチのバイト代は他の飲食店に比べて高めに設定されているわ。でもそれは、それなりに大変だからよ。あなたもウチのホームページくらいは見たでしょう? あの衣装を着て、客に給仕するのよ? セクハラや下品な誘いは日常茶飯事。それを笑って受け流せるくらいじゃないと務まらないわ」
「は、はい……い、い……一生懸命頑張りますっ」
 はすみは肩の前で両方の拳を握ってみせた。「ん?」とツグミははすみのある一点を見て目を細めた。はすみの拳。人差し指と中指の付け根の関節。いわゆる拳骨の部分の皮膚が若干厚くなっている。
「……あなた、何かやっているの?」
「え……?」はすみが狼狽える。ツグミは落ち着く様に手のひらをはすみに向けた。
「変な意味じゃないわ。手の甲にタコみたいなものが出来ていたから……なにかの病気ならごめんなさい」
「あ……これは……」はすみは慌てて両手をテーブルの下に隠した。「空手をやっていて……拳ダコが出来てしまって……」
「空手?」ツグミが言った。恋人といい空手といい、はすみという少女はつくづくイメージから外れた答えをさらりと持って来る。「失礼だけど、あまりイメージ出来ないというか、少し意外だったわ」
「よ、よく言われます……」はすみは両手をテーブルの下に下ろした。

(中略)

「ルーターズでもやるよ、キャットファイトショー。見物料をうんと高くして、変態男共から金を巻き上げる。こういう人種は金に糸目を付けないからね。多少無茶な値段設定でも食いついてくるよ」真里亞が言った。
「……ちょっと待って頂戴」ツグミがデスクに肘を着いて、こめかみを押さえた。「『やる』ってあなた……ルーターズは飲食店なのよ?」
「何を当たり前なことを言ってるの? 何も鞍替えしようってんじゃないよ。定期的にスタッフのダンスショーをやっているでしょ。あれを月イチくらいで格闘イベントにしようってわけ。そんなにお金がかかるもんじゃ無いし。ウケなかったらすぐにでも止めるし」
「でも、ウチには格闘が出来るスタッフなんて……」言いかけて、ツグミは気がついた。二週間前にルーターズに入った陽向紗楽、そして今日面接した楠瀬はすみ。この二人はいずれも空手経験者だ。はすみの実力は不明だが、紗楽は有段者と聞いている。
「ツグミも気がついた?」電話の向こうで満面の笑みを浮かべている真里亞が浮かぶ。「記念すべき第一回の大役は陽向紗楽と楠瀬はすみに務めてもらうよ。キャットファイトは女子プロレスラーや女子ボクサーみたいないわゆるプロよりも、素人同士の戦いの方がウケるらしいんだ。ましてや普段身近に接客しているスタッフ同士のキャットファイト。話題性は結構あると思うよ。諸々の準備は私がやっておく。開催は月末くらいになるかな? はすみはそれまで二人を辞めさせないように引き止めておいて。私は明後日には帰国するから」
 そこまで言うと、電話は一方的に切られた。ツグミは煙草の買い置きを家に忘れたことを心の底から後悔した。

(中略)

 事務所のドアが強めにノックされる。このノックの仕方はおそらく紗楽だろうとツグミは思った。
「……どうぞ」
「おつかれーっす」
 ツグミが返事をすると、紗楽が気怠そうにガムを噛みながらドアを開けた。よくここまで不味そうにガムを噛めるものだなとツグミは思った。
「ツグミさん、在庫表持ってきたぞ」紗楽が在庫表の書かれたクリップボードを団扇のようにひらひらと動かした。
「……そこのテーブルに置いておいて」ツグミは言った。「この書類を作り終わったらチェックするから」
 日々、店のレジから事務所のパソコンに送られて来るデータをまとめるのはツグミの日課だ。年齢、男女比、来店時間と滞在時間、そして注文の内容などの日々の細かいデータを分析する。誰かに強制された訳でもない地味な作業だか、積み上げて行くごとに見えてくるものもある。
 ツグミはデータの入力を終えると、紗楽の座っている四人掛けのテーブルの斜向いに座った。クリップボードを手に取って、内ポケトからショートホープとオイルライターを取り出す。片手で器用に一本取り出して口にくわえ、ライターで火をつけた。
「お、ツグミさん、ヴィヴィアン好きなのか?」紗楽がツグミのライターを指差して言った。土星を宝石で装飾した様なデザインが彫られたライター。紗楽は自分の指に嵌っている小さなプレートが連なった指輪をツグミに見せた。「アタシも好きなんだよな」
「……ああ、これ?」ツグミはオイルライターを眺めて目を細めた。まるで自分がそんなものを持っていることに初めて気がついたように。「私は別に、好きでも何でもないわ……」
「…………ああ、そうかい」紗楽は溜息まじりに言った。ツグミとの会話が盛り上がらないことはいつものことだ。「アタシも一本吸っていいか?」
「好きにすれば?」ツグミがクリップボードに挟まれた資料から目を離さずに言った。「未成年のあなたがタバコを吸ったところで、咎める人なんて誰もいないわよ」
「そうかい、んじゃあ吸わせてももらうよ。灰皿あるか?」
 ツグミが無言でステンレス製の灰皿をテーブルの中央に置いた。
 クリップボードに挟まれた紙には、酒や食材の在庫数が紗楽の見た目に反して丁寧な字で細かく記録されていた。ツグミはボールペンを額に当てながら数字の羅列を目で追って行く。
「……牛肉の減りが早いわね。あとジャガイモ……」
 ツグミが言った。紗楽は頭を掻きながら日々の仕事を思い出した。
「あー……ツグミさんが発案したアメリカンフェアの影響だよ。『一ポンドステーキ』と『山盛りマッシュポテトのグレイビー掛け』がとにかく出てる」
「……そう」とツグミは一週間前の天気予報を聞いたときの様に返事をした。「……牛肉はグレードの低いものに変えるわ。産地も今のアメリカ産からオーストラリア産に変えて……その代わり肉叩きで入念に叩いて、味付けを濃いめにして頂戴。味付けもそうね……香りの強いワサビ、ニンニク、赤ワインをそれぞれベースにしたソースを三種類用意して。肉の味も誤摩化せるし、『選べる三種類のソース』とでも名付ければ客はありがたがって注文するわ」
 高級料理店の顧客ならばともかく、女の子の身体と露出の高い衣装目当てで来店する客に肉の味が解るとは思えない。ツグミはショートホープを灰皿で揉み消すと、頭の中でざっと原価と利益率を計算した。悪くない数字だ。
「わかった。じゃあさっそく業者に問い合わせて、肉の産地を変えさせるように指示するよ」
「その前に、先に見積を取って頂戴」
「見積? 値段は一覧表に載ってるぜ?」
 紗楽が言った。ツグミはちらりと紗楽を見ると、溜息まじりに下を向いた。
「……あれはあくまでも見せ値でしょう? そこからいくら下げさせられるかが、仕事というものじゃないの?」
 ツグミは軽く頭を振りながら言った。そんなこともわからないのかと言いたげなツグミの仕草に紗楽は内心腹が立ったが、いつものことだと自分に言い聞かせた。

(中略)

 ステージには三人の男が上がっていた。眼鏡をかけた学生風の、短髪で小太りの男。にやついた顔の、太って頭髪の薄くなったサラリーマン風の五十代と思しき男。三十代前半に見えるスキンヘッドで無表情の男だ。
 どの男達も一癖ありそうな連中だ。学生とサラリーマンはにやついた顔で絶えず忙しなく視線を動かし、スキンヘッドは一瞬も視線を離さずにツグミを凝視している。
「じゃあ、まずはもっとも高額な値段を付けた方からー」
 真里亞がステージの下でアナウンスした。サラリーマンが歩み出る。サラリーマンはツグミの顔や首筋に鼻を近づけ、音を立てて匂いを嗅いだ。
「ああ……いい匂いだぁ……ベビーパウダーみたいだよ」
 粘液にまみれた様な声に、ツグミの背筋に鳥肌が立った。
 ずぶり……とツグミの腹部に鈍痛が走った。ベストとブラウスを貫通して、男の脂肪で膨らんだ拳がツグミの華奢な腹部にめり込んだ。
「ゔッ!?」
 今まで味わったことの無い衝撃に、ツグミは嘔吐いた。胃を潰され、先ほど飲んだハイネケンが逆流して来る。
「うごっ……ぁ……うぶっ……!」
「んふぅー……ツグミちゃんの身体の中に俺のが………」
 ずぶり……ずぶり……。
 男の攻撃は単調だが、一撃一撃は重いものだった。
 同じ位置に、同じ強さで、ツグミの腹を陥没させる。
「ふッ……ぐ! おゔっ?! ぐぶッ!」
 ツグミの表情は拳が腹に埋まる度に苦痛に歪んだ。切れ長の目は限界まで見開かれ、頬を膨らませて無理矢理体内の奥から押し出された空気を吐き出している。
「ごぶッ!?」
 ずぶん……ごりっ……と今までで一番重い一撃がツグミの胃を抉った。まるで内臓に芋虫が巻き付いている様な不快感に、ツグミは体中を震わせた。
 男の荒い息づかいが聞こえる。興奮している様だ。スラックスの股の部分が隆起しており、時折もどかしそうにそこをいじっている。
「ツグミちゃん……いつも見てたんだよ……」男が言った。まるで違法な薬を使用しているみたいに、笑顔とも泣き顔ともとれない表情をしている。「いつも氷みたいに無表情でさぁ……え……エッチの時とか、どんな風な顔するのか、いつも考えていたんだよ……」
「……最低」羽交い締めにされたツグミが男を睨みつけながら言う。脂汗で額に髪の毛が貼り付き、唇の端からは唾液が垂れてブラウスを汚している。自然と男を上目遣いで見上げる格好になり、男は増々興奮度を高めている様だ。
「ふひひひ……たまらないよ……」
 ずぷん……と今までよりも重い一撃がツグミの腹を抉った。コットンシルクの華奢なブラウスが捻れ、貝ボタンが弾け飛んだ。
「ゔぐぅッ! あ……ごぶっ?! うぐっ……ぐぶっ?!」
 空いた生腹に連撃を受け、ツグミが嘔吐く。殴られる度に、上着に包まれた大きな胸が上下に揺れた。ステージ下の男達はギラギラとした目でステージの上を凝視している。
「はいそこまでー」
 真里亞の声がアナウンスされ、男は汗だくになりながらステージを降りた。
「ツグミー? 生きてるー?」
 真里亞が言った。ツグミは嘔吐きながら真里亞を睨みつける。
「……っく……はぁ……うぷっ……」
「大丈夫そうだねー。じゃあ次の方どうぞー」
 ステージには学生風の男が登った。にやついた顔で、顔や身体が全体的に丸みを帯びているが、肥満体という訳ではない。どちらかと言えば筋肉質な方だ。
「へへ……じゃあ……」男は笑みを浮かべたまま、ツグミの正面に立った。「楽しむとしますかねぇ」
 どすん……と、地面全体が揺れた様な衝撃がツグミの身体の中心から波紋状に広がった。

コミックマーケット86にて配布される
腹責め小説合同誌:「H!」
に参加させていただきました。


・タイトル
 「H!」

・配布イベント
 コミックマーケット86

・配布日時
 8月17日(日)

・配布場所
  東ナ 54b M.M.U.様スペースにて委託販売

・内容
 文庫サイズ
 512ページ
 フルカラー表紙、カバー付き(カバーと表紙は別イラストとなります)

・あらすじ
 タンクトップとホットパンツという露出の高い衣装が特徴的なカジュアルレストラン
 「ROOTERS(ルーターズ)」
 そこで働く真里亞とツグミ、アルバイトとしてやってきたはすみ、沙楽。
 衆人環視の中で突如として始まったキャットファイトショーと、その後の腹責めショー。
 熱狂と興奮の中、彼女たちは……。

・執筆者(以下、人物名の敬称略)
 ヤンデレない
 宮内ミヤビ
 ミスト
 number_55

・主催
 さるみあっき(ヤンデレない)

・表紙およびカバーイラスト
 スガレオン

・表紙およびカバーデザイン
 有沢めぐみ

・予定配布価格
 2500円

・表紙、カバーサンプル
hyoshi


cover



ちなみに自分は表紙左から2番目、一人だけバーテン服で浮いている「ツグミ」というキャラクターで書かせていただきました。
初めての無口無表情無感動キャラです。
ご期待下さい。

 美樹は境内裏の車庫の中で、養父の軽自動車に寄り添う様に停めてあるバイクに跨がり、エンジンをスタートさせた。身体の中心を震えさせる振動が心地よかった。美樹は数回スロットルを回してエンジンを吹かすと、境内裏のスロープから街道へ乗り、S区を目指してスピードを上げた。
 夜でも明るい市街地から郊外へ。一時間も走ると、等間隔に道路を照らしてた街灯の数も徐々に少なくなり、次第に木々が目立つ様になってきた。美樹は軽快にスロットルを上げて、あらかじめ調べておいた孤児院のある丘を登り始める。山道で不安ではあったが、幸い雪はほとんど積もっていない。美樹は右へ左へとハンドルを切りながら、蛇行する山道をスピードを上げて登り続けた。
 十五分ほど登ったところで、山道を塞ぐ様にそびえる大きな門が目に入った。美樹はスピードを緩め、門の側でバイクを降りる。
 三メートルを軽く超える赤錆びた門は、手前まで来ると威圧する様に美樹を見下ろした。
 鉄の一枚板で出来た門には「CELLA特別児童教育施設」と掘られた、緑青の浮いた銅製のプレートがはめ込まれていた。門は外界を拒絶する様に林道を塞いでいる。門のすぐ横には同じ高さのレンガ造りの壁が森の中の遥か奥まで続いていた。壁の終わりは闇に溶けていて見えない。
「まるで刑務所だな……」
 美樹は施設の壁と平行に移動し、林道の端の森の中へバイクを停めようとハンドルを切った。
 不意に破裂音が響いた。
 美樹のバイクの前輪が何かに掴まれた様に自由が利かなくなり、勢い余って後輪が持ち上がった。慌てて体勢を立て直して倒れない様に持ちこたえる。バイクを降りて前輪を見ると、タイヤの空気が完全に抜けていた。
 美樹はスタンドを立ててバイクの前輪周辺を見ると、目を疑った。レンガ造りの壁の下には、鉄製の剣山がまるで絨毯の様に敷き詰められていた。それは何処まで続いているか分からないが、おそらく壁の下全体に達しているだろう。
 その一本を触ってみた。
 錆び付いてはいるが、針の部分は禍々しいほど鋭利で、殺傷力は十分にあるように思えた。先ほど勢い余って前方に放り出されていたら、背中から串刺しになっていただろう。異様な光景に、しばし呼吸を忘れた。
 美樹は手近の気の側にバイクを停めると、ヘルメットを脱ぎ、ライダースをハンドルに掛ける。戦闘服の乱れを直すと、門を真下から見上げた。門からは、あらゆるものの侵入を拒絶する確かな意志が感じられる。門の上には、壁の下に敷かれた剣山と同様の針状の突起物が見えた。美樹はシオンの言葉を思い出した。『家庭環境や様々な事情により、精神的に深い傷を持つ子供達。その中でも反社会的行動をとる恐れのある子供と、反社会的行動をとってしまった子供達』を収容した施設。
「いくら問題のある子供だからといっても、これはやり過ぎだろう……。いや、本当に『それだけ』なのか? この施設はここまでして、一体何を外に出したくなかったんだ?」
 美樹は鉄の塊で出来た門に触れた。
 冷たい。
 閉鎖された異様な施設。
 そこへ呼び出した蓮斗。

「そんな所にいたら寒いよ。中に入った方が良い」

 不意に声がかかり、美樹は反射的に後方に飛び退いて身構えた。
 門が悲鳴を上げながら開き、中から真っ黒い服装をした蓮斗が現れた。
「バイクの音が聞こえたからさ……会えて嬉しいよ」
 美樹は飛びかかりたい衝動を堪えながら、無言でゆっくりと蓮斗に近づく。蓮斗は美樹から視線を離さずに後退りすると、門の中へ入る様に促した。
「寒いから早く中へ入ろう。その服はアンチレジストの戦闘服かい? ミニスカートの巫女装束に、インナーは競泳用水着みたいだね。美樹ちゃんらしくて良いと思うけど、とても寒そうだ。とりあえず中へ……」
「お前が先に歩け。後ろから不意打ちでもされたら面倒だ」
 蓮斗はやれやれとジェスチャーすると、門の中へ入って行った。数メートルの距離を置いて、美樹も後に続いて門をくぐる。
 門をくぐると、そこは、静かな庭だった。
 雪は庭のほぼ全てを覆い、それを切り裂く様に赤茶色の煉瓦道がかろうじて顔を出している。煉瓦道の脇には等間隔にガス灯が設置され、赤味を帯びた光を雪の上に落としていた。煉瓦道の続く敷地の奥には、うっすらと二階建ての建物のシルエットが浮かび上がっている。
 煉瓦道を慣れた様子で進む蓮斗に美樹が続いた。足下を見ると干涸びる様に枯れた芝が煉瓦にへばりついていた。歩きながら施設奥に目を凝らすと、鎖だけが垂れ下がっているブランコや、葉が一枚も無い立ち枯れになった楡の樹が風雪にじっと耐えている。
 建物の手前まで来ると蓮斗が歩きながら美樹を振り返る。
「今はもうボロボロだけど、遺棄される前はキリスト教系の結構立派な施設だったんだぜ。庭は柔らかい芝生で覆われてさ、あの二つの尖塔の上の十字架が夕日を浴びるとキラキラ輝いたもんさ。生活圏以外の窓のほとんどはステンドグラスだしね」
 美樹は蓮斗の言葉には応えず、黙って建物を見上げた。
 荒れはじめた庭と違い、建物の方はあまり痛んではいなかった。人が住む分には全く困らないだろう。
 蓮斗の言う通り、なかなかに洒落た感じだ。入り口のドアや、大きく二つ突き出た尖塔は見事なシンメトリーに配置されている。規模は比べ物にならないが、建築様式がどことなくアナスタシア聖書学院を思い出させた。ダークレッドを基調とした屋根や、外壁に使われているくすんだ漆喰の色。暗めな配色のステンドグラスに、建築家独特の癖の様な物が感じられた。
「さぁ着いたよ。汚い所だけど遠慮なくくつろいで……」
 蓮斗がテラスに上がり、真鍮のドアノブを捻りながら振り返った瞬間、美樹が後ろから強烈な掌底を見舞った。蓮斗は顎をしたたかに打ちぬかれ、観音開きの扉をたたき壊すほどの勢いで建物内に転がって行った。
 美樹が注意深く中に入る。
 玄関ホールは広い。
 手入れがされていないため所々痛んではいるが、見事な黒檀の床材が敷き詰められている。大きいがシンプルな装飾のシャンデリアが暖色系のガス灯の明かりを四方に振りまきながら、すきま風に晒されて微かに揺れている。玄関ホールのほぼ中央から伸びている階段は中央の踊り場で二手に別れて二階へと続いていた。
「げほっ……ふ……せっかちだなぁ。本番に入る前は、まず気の効いたトークで雰囲気を盛り上げるのが常識ってものだろう?」
 美樹は階段の側でうずくまっている蓮斗に無言で近づくと、横腹を蹴り上げた。爪先に鉄板の仕込まれた堅牢なコンバットブーツは蓮斗の腹筋を破壊し、内蔵に強烈なダメージを与える。
「ぶごっ!? ふ……ふひゃっ、ひゃっははは! 巫女さんとは思えない暴力っぷり……げぼっ……。大好きだよ、そういうギャップはね! あはははははは!」
 胃をやられたのか、蓮斗は粘ついたどす黒い血の塊をニスの剥げたフローリングの床に吐きながら笑った。立ち上がろうとするが、足元がおぼつかずに尻餅をつく。
「この程度で終わりだと思うなよ。久留美にどのような仕打ちをしたか知らんが、それなりの報いを受けてからアンチレジストへ突き出させてもらう。私は弱いもの虐めをしている奴が一番嫌いなんだ。早めに久留美を開放した方が、病院の天井を眺める退屈な時間が短くて済むぞ」
 瞬間、蓮斗のにやついた表情が消えて無表情になる。あまりの表情の変化に美樹は怪訝な顔をした。その顔には見覚えがあった。アナスタシア聖書学院の生徒会長室で見た写真。昔の太っていた頃の蓮斗のそれだった。
 蓮斗の顔にはすぐに表情が戻り、よろよろと立ち上がる。部屋の中に再び甲高い笑い声が響いた。
 美樹は僅かに乱れた上着の胸元を直すと、幽鬼の様にゆらゆらと蓮斗に近づきノーモーションで爪先を蓮斗の腹に埋めた。
 ぐちゅりという嫌な音がして、蓮斗が呻き声を上げながら前屈みになる。下がった顎をすかさず掌底で跳ね上げた。蓮斗の身体がふわりと浮き、背中から床に落ちる。美樹は蓮斗の逆立てた金髪を掴んで立たせると、額を中央の階段の真鍮で出来た手すりに打ち付けた。額が割れて、蓮斗の金髪が赤く染まる。
「いぎっ! ひ、ひひ……容赦ないなぁ……」
「口がきけるうちに喋れ。久留美はどこにいる?」
 美樹が蓮斗の髪を掴んだまま、耳元で囁く様に問いつめる。
「あははは、こ……こんな場面、前にもあったよね……あのプールの時さ」
「思い出したくもないがな。あまり深手を負わせるのは好きではないが、このまま久留美の居場所を吐かないのなら、腕くらいは折らせてもらうぞ」
「ははは……やさしいなぁ。案内してあげてもいいけど、このままじゃ動けないよ……どうする? 僕を倒した後、一部屋一部屋調べて行くかい……?」
 美樹は少しの間思案した後、蓮斗の身体を投げ捨てる様に解放した。蓮斗はよろけながら立ち上がると、美樹の前で両腕を広げる様なポーズをする。抵抗する気はないという意味に取れた。
 美樹は乱れた髪を手櫛で梳くと、戦闘服の襟を直す。レオタードの様なアンダーウェアが若干汗ばんで肌に貼り付いているが、戦闘服の繊維がすぐに蒸散させるだろう。
「……連れて行け」
 蓮斗はおどけた様子でわざとらしくお辞儀をした後、背中を向けて歩き出した。
 階段の裏手にまわる。くすんだ銀色の観音開きの扉がある。蓮斗がそのアルミで出来たやや周囲から浮いた印象の扉を開けると、地下へ下りる階段が現れた。壁や床はコンクリート打ちっぱなしで、天井には古ぼけた蛍光灯が埋め込まれている。美樹は一定の距離を保ったまま蓮斗の後に続いて階段を下りた。中腹まで降りたあたりで、背後で自動的に扉が閉まった。
 階段を降りきり、突き当たりにある扉を開けると、地下特有の湿気が美樹の身体を包んだ。真冬の外気で乾燥した美樹の長い髪がわずかに重くなる。水はけが悪いのか、廊下の隅に僅かに黒いカビが生えていた。
 地下にはふたつのドアがあり、蓮斗は奥のドアの鍵を開けて中に入った。注意深く美樹も室内に入る。蓮斗は入り口から遠くの壁に背中を付けて腕を組んでいる。部屋の壁には用途不明の様々な器具が置かれ、それらに取り囲まれる様に久留美が制服のまま仰向けに寝ていた。美樹が駆け寄り、抱え上げて呼びかけると、うっすらと目を開ける。
「久留美? 久留美! 大丈夫か? 気をしっかり持て!」
「あ……せ、先輩……?」
「迎えに来た。もう大丈夫だぞ……」
 美樹は静かに言うと、久留美の髪をそっと撫でた。
 久留美はまだ朦朧としているようだが、幸い外傷は無さそうだった。髪を撫でる心地いい感触に久留美の顔がふっと緩む。
 メキリと音を立てて、美樹の右腕に衝撃が走った。鉄パイプが二の腕に食い込んでいた。
「ぐうっ!?」
 美樹は痛みに耐えながらも無事な左手で久留美を寝かせると、片膝を着いたまま蓮斗に向き合う。右肘から先の感覚が無い。鉄パイプが地面を走る様に美樹に向かって唸りを上げ、直角に曲がった継手部分が美樹の腹ににずぶりと食い込んだ。
「ごぶぅっ!? んぐっ……お……っ」
 レオタードむき出しの部分が痛々しく陥没すると、固く冷たい金属の感触が美樹の腹部を中心に全身を駆け巡った。
「何でてめぇはそんなに弱ぇんだよ……」
 美樹が振り返ると、何の感情も読み取れないほど無表情になった蓮斗と目が合った。

 猛烈な感情が腹の底からこみ上げ、気がついたらドアの影に隠しておいた鉄パイプを掴んでいた。
 美樹が苦し気に蓮斗を見上げてくる。
 久留美を背に庇いながら、左手で鉄パイプで殴られた腹を押さえ、しきりに右手を握ったり開いたりして自分の怪我の状態を確かめていた。
 蓮斗は自分が痛いほど勃起していることに気がついた。
 ああそうか、これは『あれ』と同じ場面だ。
 確か十歳よりも前の頃。
 あの頃の自分はまるでサンドバッグだった。
 毎日毎日、何人もの人間に打ちひしがれ、ひたすら頭を抱えてうずくまっていた。そうしていればいつかは終わるのだ。どんなに痛くても、反応すれば向こうは調子に乗る。殴られても蹴られても、髪の毛を引き抜かれても反応をしないただのサンドバッグになっていれば、いつかはこの仕打ちは終わるのだ。
 その日もそう思って、ひたすら心を殺して、何人もの上履きの底を腕と後頭部に感じながら、ひたすら教室の隅で頭を抱えていた。
 気がつくと、腕にぶつかる靴底の感触が無くなっていた。耳を澄ます。高い声で静止する声が聞こえた。
 恐る恐る顔を上げる。
 女の子が自分を庇っていた。
 何と言っていたのかは憶えていないが、数人の男子生徒に向かって必死に止める様に説得している。
 蓮斗は無性に怖くなり、そっと女の子の背後から逃げた。
 教室の入り口まで逃げても、まだ女の子と男子生徒は口論していた。
 不意に、一人の男子生徒が怒声を上げながら女の子の腹を殴った。
 女の子は大きく「うっ」と呻くと、両手で腹を押さえてうずくまった。その声はとても良く通り、自分の耳から脳にダイレクトに届いた。うずくまる女の子は下を向いたまま、時折背中をびくつかせている。長い綺麗な黒髪が揺れて綺麗だ。
 その様子がなぜかとても印象的に思えて、家に帰ってから何度もその場面を思い出して自慰をした。
 久留美の弱々しい姿は、あの頃の自分に似ていた。しかも自分の様に無様に逃げなかったことが、更に苛立たせた。

「ごめん、ちょっと嫌なことを思い出したんだ」
 蓮斗が逆立てた金髪を弄りながら、鉄パイプで凝りをほぐす様に自分の肩を叩く。
「せ……先輩……?」
「大丈夫だ……」
 久留美は朦朧とした意識の中でも美樹を気遣い、立ち上がろうとする素振りを見せる。美樹は久留美に手で「寝ていろ」と指示を出した。
 美樹は左手でまだ痛む腹を押さえて立ち上がる。強打を受けた右腕は幸い折れてはいないようだったが、まだ痺れて感覚がなく、自分の意志に反してだらりと垂れ下がったままだ。
 蓮斗はポケットの釦を外し、中から栄養ドリンクの様な小さめの瓶を取り出すと、キャップを開けて中身を一気に飲み干した。
「おえっ……まっず。ったく、冷子さん少しは味にも気を使ってほしいなぁ」
 蓮斗は顔をしかめて口元を拭いながら、空になった瓶をちり紙でも捨てる様に背後に放り投げた。瓶は固い音を立てて二、三回バウンドした後、壁に跳ね返って止まった。
「冷子……シオンを襲った女性タイプの人妖か。なぜ貴様が人妖と関係を持っている知らんが、後でじっくり聞かせてもらう……何を飲んだ?」
「今にわかるよ」
 蓮斗がゆっくりと美樹に近づくと、大きなモーションで鉄パイプを振り下ろした。美樹は素早くそれを避け、流れる様にバックナックルを放つが、蓮斗がしゃがんでそれをかわす。拳が空気を切る音が、美樹の繰り出す拳の速さを示している。美樹がバックナックルの勢いを殺さずに回し蹴りを放と、蓮斗のこめかみにヒットした。蓮斗は一瞬ぐらつきながらも、美樹の脚を掴み、鉄パイプを捨てて美樹の腹部に拳を埋めた。ぐじゅりと音がして、美樹の腹に拳が陥没する。
「ぐぷっ?!」
 美樹の目が見開き、「う」の言葉を発する様に開かれた口から粘度の高い唾液が飛び出る。
 普段の美樹であれば難なくガードが出来たであろうが、片腕が言うことを聞かず、片足立ちでバランスを崩した今の状況では蓮斗の攻撃をガードすることは難しかった。美樹は足首を掴んでいる蓮斗の手を振りほどくと、呼吸を停めて腹の底からこみ上げて来る吐き気を押さえながら、蓮斗の鳩尾に拳を放つ。
「…………」
 美樹の拳は確実に蓮斗の鳩尾に深々と食い込んでいた。人体急所を突かれ、その身体には恐ろしい苦痛が駆け巡っているはずだが、当の蓮斗は涼しい顔をしている。
 美樹は一瞬顔をしかめると、続けざまに顎先、鼻先、果ては金的まで攻撃するが、蓮斗は鼻から血を流しながらもニヤニヤとした笑みを崩さなかった。
「お前……なぜ……」
「ああ、いいね。その混乱した表情、そそるよ」
 ずん……という重い衝撃が美樹の全身を駆け抜けた。この感覚には覚えがある。美樹はおそるおそる視線を下に移すと、自分の鳩尾に蓮斗の拳が半分ほど埋まっていた。急所を突かれた後のことは予想がついた。苦痛。嗚咽。凄まじい吐き気。
「うぐっ!? ぐあぁぁぁぁ!」
 一瞬置いて美樹の身体を苦痛が駆け巡る。
 たまらずに両膝を着き、口内に大量に溢れた唾液を吐き出した。唾液は口から糸を引いて床に垂れ、コンクリートの床に染みを作った。
「冷子さんに頼んで、痛覚を遮断する薬を作ってもらったんだ。コールドトミーとか言ってたかな? なんでも、脳の痛覚を感知する器官を壊死させるとか何とか……。これで俺は一生痛みを感じなくなるんだってさ」
「けぽっ……く、狂ってるな……。痛みは身体の危険を伝えるための大切な信号だ。それに、たとえ痛みを消してもダメージは残るぞ……」
「だから? 俺は今を楽しめればそれで良いんだ。昔からずっとそうだった。我慢して我慢して……ずっと我慢してたんだから、そろそろ好き勝手してもいいだろ?」
 蓮斗は美樹の奥襟を掴んで立ち上がらせると、抉る様に美樹の腹部を突き上げた。レオタードが薄い生地を巻き込む様に陥没し、温かく水っぽい感触が蓮斗の拳を包んだ。心地よさに蓮斗の顔には笑みが浮かび、変わりに美樹の顔は苦痛に歪んだ。
「うあっ!? ぐ……あぁ……ぐぷっ!?」
 腹部に拳を突き込んだまま、更に美樹の奥へと押し込む。美樹が歯を食いしばって蓮斗の突き飛ばし、ようやく動く様になった右手の掌底で顎を突き上げる。腰を落とした重い一撃。蓮斗の顔が仰け反り、切れ長の顎が天井を向きながら身体が宙に浮く。一瞬の滞空の後、背中から地面に落下した。ダメージを感じている様子は無い。顎を跳ね上げられている直前まで、蓮斗の視線は一瞬も美樹から離れなかった。
 蓮斗の攻撃自体は単調だ。決して苦戦する相手ではない。しかし、ダメージが通らずに長期戦になればこちらも消耗してくる。ダメージによる戦意喪失が望めない以上、確実に失神させるほか無い。頭への衝撃では効果が薄いことは先ほどの回し蹴りで実証された。頸動脈を締めて落とす方法が確実だ。
 蓮斗がネックスプリングの要領で首を支点に跳ねる様に起き上がると、凝りをほぐす様に首を鳴らした。蓮斗が血の塊を吐き出す。血塊はかつんと固い音がをたてて床に跳ね返る。赤黒く染まった蓮斗の奥歯が美樹の足下に転がった。
「厄介なものだな……とんだ相手に好かれたものだ」
 美樹が軽口を言うと、蓮斗も血に染まった前歯を剥き出しにして笑う。
「俺は一途なんだ。惚れた女の為なら死んでも尽くすさ……」


「到着しましたが……本当によろしいのですか?」
 シオンはドアを開ける運転手に「ええ」と短く返事をすると、後部座席から降りて分厚い鉄製の門を見上げた。運転手は他にも何か言いたげに口を開いたが、諦める様にシオンの背中を見つめたまま、黙って後部座席のドアを閉めた。
 雪はほとんど止んでいた。孤児院の門や塀の上には錆の浮いた剣山が、氷の様に冷えたまま微動だにせずに立ち尽くしている。
 光沢のあるきめの細かいメルトン地のロングコートを脱いで運転手に手渡すと、さっと風が吹いてシオンのツインテールに纏めた金髪がなびいた。見てるこちらが寒くなりそうなメイド服を基調としたセパレートタイプの戦闘服が露になり、初老の運転手は目のやり場に困り視線を足下に落とした。
「では山岡さん、終わりましたら連絡しますので」
「あの、本当によろしいのですか? 老人の勘と言いますか、何やら厭な予感がするのです。出来ることならこの場で待たせていただいても……ッ!?」
 シオンが白い手袋に包まれた人差し指の腹を山岡の唇に当てて言葉を遮る。シオンは片目を閉じて、穏やかな笑みを浮かべている。現実感の欠如した美しい顔が間近に迫り、山岡はどぎまぎと視線を泳がせた。
「本当に大丈夫です。それに、今日は任務ではなく、いうなれば私のただの暴走……。すぐに解決して帰りますので、ご心配なさらずに」
 山岡はただ頷くしか無く、オールバックに撫で付けた髪を掻きながら運転席に戻って行った。
 シオンは走り去るレクサスを見送ると、門の正面に立った。灰の塊の様な雲が、早足に門の上の空を滑っている。
 それは門というよりは、壁に近かった。あらゆるものの侵入を拒む様な、また、あらゆるものの脱出を許さない様な鉄の一枚板を見ていると、自由という言葉が遠い異国の少数民族の言語の様に思えた。閂が外されて僅かに門が開いている。
「CELLA……神聖な場所……子供達にとっての聖域という意味で付けられたのでしょうか?」
 シオンが門に嵌め込まれているプレートを読んでつぶやいた。自分のシオンという名前にも、聖域という意味がある。この施設を作った人は、どのような思いを込めてセラという名前を付けたのだろうか。
「美樹さん……久留美ちゃん……」
 シオンは自分にしか聞こえない声量で呟くと、扉を僅かに押して施設の中へと入って行った。

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