update_information

_2017.02.21  GALLERYを更新しました(シオン1枚)
_2016.11.11  GALLERYを更新しました(綾2枚)
_2016.11.06  いただいたイラストを公開しました
_2016.10.03  新作の短編を公開しました

こんばんは。
いよいよ28日はりょなけっと2の開催日となりました。
先日無事に製本と発送が終わりましたので、事故が起こらなければ無事に会場で配布が出来そうです。
今回は下記の3点を配布致しますので、よろしければスペースまでお越し下さい。


サークル名:515project
スペースNo:殴1


配布物1
515project
HYBRID_#1-trailer-
200円

一撃さんの合同サークル、515projectの第一段作品となります。
と、言いましても今回は時間の関係でコピー本。腹責め描写少なめの「予告編」となりますので、ご満足いただけるかは人それぞれになるかと思います。
ああ、こいつらはこういう雰囲気の話を作ろうとしているんだなぁ……と寛大な気持ちで手に取っていただけるとありがたいです。

1


配布物2
Яoom ИumbeR_55
COLLECTION_011: [GHØSTS]
1500円

連載シリーズ、RESISTANCEの総集編となります。
今回は再販のため、若干価格を下げることができました。

名称未設定-1


配布物3
さるみあっき
H!
2500円

自分も参加している腹責め小説合同誌を委託配布させていただきます。
500ページ超えのボリュームある本となっております!

hyoshi



ではでは、当日はよろしくお願い致します。


お品書き

りょなけっと2サークルカット



9月28日開催のりょなけっと2に参加させていただきます。

今回はいつもお世話になっている一撃さんとタッグを組み、全く新しい話を2人で考えています。

書いたことの無い世界観や大物とのタッグという環境でプレッシャーも大きいですが、楽しみながら書かせていただいています。よろしければ会場で手に取ってみて下さい。


りょなけっと2
日時:2014/09/28(日) 11:00〜15:00(終了後アフターイベント有り)
会場:東京卸商センター3F展示場
※詳細や注意事項等は公式HPをご参照下さい。

登録サークル名:515project(ゴーイチゴープロジェクト)

配布物:HYBRID -trailer-

内容:「ハイブリッド」というオリジナル作品の予告編的なコピー本となります。文章とイラストを収録予定です。価格、ページ数等は決定次第連絡致します。

では、よろしくお願い致します。

表紙5


35


サークルカットおよびサークルロゴは一撃さんに作成していただきました。
ありがとうございました!

腹責め合同誌「H!」のサンプルを掲載します。
全体の雰囲気だけでも知っていただければ。



合同誌タイトル:「H!」
配布イベント :コミックマーケット86
配布日時   :8月17日(日)
配布場所   : 東ナ 54b M.M.U.様スペースにて委託販売



number_55参加タイトル
「鶇(ツグミ)」



鶇(つぐみ)
鳥綱スズメ目ツグミ科ツグミ属に分類される鳥類。命名には諸説あるが、「(日本では)鳴かない鳥=口をつぐむ鳥」「つぐむ」が変化して「つぐみ」と命名されたとの説が有力。

(中略)

「人に興味が無い事は、悪い事じゃない」真里亞が悪戯っぽく笑いながら言った。「私も同じだから」
「……同じ?」
「そう。さっきも言ったけれど、私が興味があるのはお金だけ。他のことはどうだっていい。確かに飲食業は人に興味を持ち、人が求めるモノを提供することが成功への近道だよ。あくまでも教科書の中ではね。でも私はそんなことは端から信じていない。貧乏臭い大衆居酒屋のトイレに貼ってある、人の満足や笑顔がどうのこうのなんて薄気味悪い台詞は大嫌いだ。私の目的は人からいかに金を巻き上げるか……その一番の近道で、なおかつ法に触れない手段がたまたま飲食業だっただけ。今の店だってそうさ。ある程度顔が良くて胸の大きい女の子を集めて、安酒を運ぶ時にちらっと谷間でも見せておけば、馬鹿な男共が金を落としていく」
 真里亞はツグミに祈る様に手のひらを合わせた。人差し指に唇を付けて、下から見上げる様にツグミから目を離さずに言った。
「でも、このまま本店の猿真似をしていても何も始まらない。ただの色モノチェーン店の雇われオーナーで終わってしまう。それじゃあ稼げない。だから、ちょっとした悪巧みをしようと思うんだ」
「悪巧み?」ツグミが首を傾げながら聞いた。
「そう、悪巧み。今まで以上に客単価を上げて、なおかつ固定客ができるサービスを提案する。そのためには多少の汚いことをしても構わない。でも、ただの優秀な人間の出す企画ほどつまらないものはない。そんなものはとっくにどこかの店でやっている。私が求めているのはもっと『振り切れた』アイデアなんだ。馬鹿な男から増々金を搾り取れるようなギリギリのライン……バレなければ犯罪じゃあないからね。でもその為には、冷徹で口が堅く、聡明だけれどある程度頭のネジの外れた人間が必要なんだ。そう、例えば胸を触られただけでアイスピックを相手の目に突き立てようとするクールビューティーなバーテンとか……」
 ツグミは話を聞きながら、身体の底で微かに沸き上がる熱を感じた。学校から退学処分を受け、家から手切金代わりにマンションの部屋を与えられて縁を切られて以来、身体の芯はずっと冷めたままだった。死ぬことも考えたが、死ぬエネルギーすらもツグミからは消え去っていた。この二年間、ツグミは「生命を維持せよ」とプログラムされた機械の様に生きていた。機械的に呼吸をし、機械的に食事をし、機械的に眠った。あらゆることに対する欲や興味は全く無くなり、仕事に必要な身だしなみや衣類は定期的に整えたが、そこに自分の意志は全く介在しなかった。
「面白そうね……」ツグミは言った。面白そうという感情はずいぶん久しぶりだった。
 目の前に座る少女の様に見える真里亞。真里亞も「金以外は」という注釈がある以外は、概ね私と同じような人種なのだろう。身体の芯が冷めているため、外面までも冷めてしまったツグミと、身体の芯が冷めているからこそ、それ以上に外面が熱くなった真里亞。私ももしかしたらこういう風になっていたのだろうかとツグミは思った。根は同じでも、水と油。陰陽の太極図みたいなものかもしれない。私と真里亞は。
「じゃあ決まりだね……待遇はとりあえず今の給料の百五十パーセントと考えてもらっていいよ。もちろん貢献度によっては昇給するし、そうなると期待しているから。あと、最後に条件がひとつだけ……」真里亞はツグミのグラスに瓶に残ったワインを注ぎ、目の高さにグラスを上げた。ツグミもそれに合わせた。「私に敬語は禁止。上下関係ってやつが嫌いなんだ」
「……わかったわ」ツグミが言った。
 二人はワインを一息に飲み干すと、グラスを床に叩き付けて割った。

(中略)

「は……初めまして……楠瀬……は、はすみと言います……」
 楠瀬はすみは、事務所の四人掛けのテーブルに座りながら言った。声が震えている。ツグミは斜向いの椅子に座って、履歴書の写真と目の前に座っている少女の顔を確認した。同一人物であるという事務的な確認。学歴や職歴、特技や趣味の欄は読んでいない。そもそも字が汚いうえに、震えていて読み辛い。典型的な「読む気を失くさせる文字」だ。目の前で小さくなっているこの子は、履歴書を書いている時ですら緊張していたのかもしれないとツグミは思った。
 ツグミははすみの頭から胸まで視線を数回往復させた。顔立ちは中学生と言っても通りそうなほど幼いが、可愛らしく整っている。黒髪で、耳を隠す様にサイドの髪が長い。いわゆる触覚ヘアーも、おとなしそうな雰囲気によく似合っている。胸は……ギリギリ合格点と言った所か。それほど大きくはないが、綺麗な形をしている。真里亞の指示通に従えば、このまま会話をせずに出勤日だけ決めて帰宅させてもいい。
「煙草……」とツグミは言った。「吸っていいかしら?」
「……え? は、はい。大丈夫……です」
 慣れた手つきで短い煙草に火をつける。はすみはまるで興味深い化学の実験を見ている様に、ツグミの煙草に火をつける様子を食い入る様に見ていた。
 ツグミがちらりとはすみを見るとと、はすみは慌てて下を向いた。ここまで気の弱い女の子がなぜルーターズで働こうと思ったのか、ツグミは微かな興味を抱いた。ルーターズはどちらかといえば派手でセクシー系の店だ。はすみが仮に頭が悪い子だとしても、事前に店のホームページくらいは確認してから応募するだろう。そして何故、あえて自分のイメージとは対極にあるルーターズに応募したのか。
「……はすみちゃんだっけ?」ツグミが天井に向けて煙を吐きながら言った。
「は、はい! はすみです」
「……なんでルーターズで働こうと思ったの?」
「あ、えと……」はすみは母親に悪戯が見つかった子供の様に下を向いた。「お金が……必要で……」
「お金?」ツグミが言った。
「はい……恋人に……誕生日プレゼントを買ってあげたくて……」
「恋人?」ツグミ思わず聞き返した。なるほど。おとなしそうに見えて、やることはやっているらしい。
「大切な……人なんです……」はすみが下を向いた。
 ツグミは煙草を灰皿で揉み消しながら言った。「確かにウチのバイト代は他の飲食店に比べて高めに設定されているわ。でもそれは、それなりに大変だからよ。あなたもウチのホームページくらいは見たでしょう? あの衣装を着て、客に給仕するのよ? セクハラや下品な誘いは日常茶飯事。それを笑って受け流せるくらいじゃないと務まらないわ」
「は、はい……い、い……一生懸命頑張りますっ」
 はすみは肩の前で両方の拳を握ってみせた。「ん?」とツグミははすみのある一点を見て目を細めた。はすみの拳。人差し指と中指の付け根の関節。いわゆる拳骨の部分の皮膚が若干厚くなっている。
「……あなた、何かやっているの?」
「え……?」はすみが狼狽える。ツグミは落ち着く様に手のひらをはすみに向けた。
「変な意味じゃないわ。手の甲にタコみたいなものが出来ていたから……なにかの病気ならごめんなさい」
「あ……これは……」はすみは慌てて両手をテーブルの下に隠した。「空手をやっていて……拳ダコが出来てしまって……」
「空手?」ツグミが言った。恋人といい空手といい、はすみという少女はつくづくイメージから外れた答えをさらりと持って来る。「失礼だけど、あまりイメージ出来ないというか、少し意外だったわ」
「よ、よく言われます……」はすみは両手をテーブルの下に下ろした。

(中略)

「ルーターズでもやるよ、キャットファイトショー。見物料をうんと高くして、変態男共から金を巻き上げる。こういう人種は金に糸目を付けないからね。多少無茶な値段設定でも食いついてくるよ」真里亞が言った。
「……ちょっと待って頂戴」ツグミがデスクに肘を着いて、こめかみを押さえた。「『やる』ってあなた……ルーターズは飲食店なのよ?」
「何を当たり前なことを言ってるの? 何も鞍替えしようってんじゃないよ。定期的にスタッフのダンスショーをやっているでしょ。あれを月イチくらいで格闘イベントにしようってわけ。そんなにお金がかかるもんじゃ無いし。ウケなかったらすぐにでも止めるし」
「でも、ウチには格闘が出来るスタッフなんて……」言いかけて、ツグミは気がついた。二週間前にルーターズに入った陽向紗楽、そして今日面接した楠瀬はすみ。この二人はいずれも空手経験者だ。はすみの実力は不明だが、紗楽は有段者と聞いている。
「ツグミも気がついた?」電話の向こうで満面の笑みを浮かべている真里亞が浮かぶ。「記念すべき第一回の大役は陽向紗楽と楠瀬はすみに務めてもらうよ。キャットファイトは女子プロレスラーや女子ボクサーみたいないわゆるプロよりも、素人同士の戦いの方がウケるらしいんだ。ましてや普段身近に接客しているスタッフ同士のキャットファイト。話題性は結構あると思うよ。諸々の準備は私がやっておく。開催は月末くらいになるかな? はすみはそれまで二人を辞めさせないように引き止めておいて。私は明後日には帰国するから」
 そこまで言うと、電話は一方的に切られた。ツグミは煙草の買い置きを家に忘れたことを心の底から後悔した。

(中略)

 事務所のドアが強めにノックされる。このノックの仕方はおそらく紗楽だろうとツグミは思った。
「……どうぞ」
「おつかれーっす」
 ツグミが返事をすると、紗楽が気怠そうにガムを噛みながらドアを開けた。よくここまで不味そうにガムを噛めるものだなとツグミは思った。
「ツグミさん、在庫表持ってきたぞ」紗楽が在庫表の書かれたクリップボードを団扇のようにひらひらと動かした。
「……そこのテーブルに置いておいて」ツグミは言った。「この書類を作り終わったらチェックするから」
 日々、店のレジから事務所のパソコンに送られて来るデータをまとめるのはツグミの日課だ。年齢、男女比、来店時間と滞在時間、そして注文の内容などの日々の細かいデータを分析する。誰かに強制された訳でもない地味な作業だか、積み上げて行くごとに見えてくるものもある。
 ツグミはデータの入力を終えると、紗楽の座っている四人掛けのテーブルの斜向いに座った。クリップボードを手に取って、内ポケトからショートホープとオイルライターを取り出す。片手で器用に一本取り出して口にくわえ、ライターで火をつけた。
「お、ツグミさん、ヴィヴィアン好きなのか?」紗楽がツグミのライターを指差して言った。土星を宝石で装飾した様なデザインが彫られたライター。紗楽は自分の指に嵌っている小さなプレートが連なった指輪をツグミに見せた。「アタシも好きなんだよな」
「……ああ、これ?」ツグミはオイルライターを眺めて目を細めた。まるで自分がそんなものを持っていることに初めて気がついたように。「私は別に、好きでも何でもないわ……」
「…………ああ、そうかい」紗楽は溜息まじりに言った。ツグミとの会話が盛り上がらないことはいつものことだ。「アタシも一本吸っていいか?」
「好きにすれば?」ツグミがクリップボードに挟まれた資料から目を離さずに言った。「未成年のあなたがタバコを吸ったところで、咎める人なんて誰もいないわよ」
「そうかい、んじゃあ吸わせてももらうよ。灰皿あるか?」
 ツグミが無言でステンレス製の灰皿をテーブルの中央に置いた。
 クリップボードに挟まれた紙には、酒や食材の在庫数が紗楽の見た目に反して丁寧な字で細かく記録されていた。ツグミはボールペンを額に当てながら数字の羅列を目で追って行く。
「……牛肉の減りが早いわね。あとジャガイモ……」
 ツグミが言った。紗楽は頭を掻きながら日々の仕事を思い出した。
「あー……ツグミさんが発案したアメリカンフェアの影響だよ。『一ポンドステーキ』と『山盛りマッシュポテトのグレイビー掛け』がとにかく出てる」
「……そう」とツグミは一週間前の天気予報を聞いたときの様に返事をした。「……牛肉はグレードの低いものに変えるわ。産地も今のアメリカ産からオーストラリア産に変えて……その代わり肉叩きで入念に叩いて、味付けを濃いめにして頂戴。味付けもそうね……香りの強いワサビ、ニンニク、赤ワインをそれぞれベースにしたソースを三種類用意して。肉の味も誤摩化せるし、『選べる三種類のソース』とでも名付ければ客はありがたがって注文するわ」
 高級料理店の顧客ならばともかく、女の子の身体と露出の高い衣装目当てで来店する客に肉の味が解るとは思えない。ツグミはショートホープを灰皿で揉み消すと、頭の中でざっと原価と利益率を計算した。悪くない数字だ。
「わかった。じゃあさっそく業者に問い合わせて、肉の産地を変えさせるように指示するよ」
「その前に、先に見積を取って頂戴」
「見積? 値段は一覧表に載ってるぜ?」
 紗楽が言った。ツグミはちらりと紗楽を見ると、溜息まじりに下を向いた。
「……あれはあくまでも見せ値でしょう? そこからいくら下げさせられるかが、仕事というものじゃないの?」
 ツグミは軽く頭を振りながら言った。そんなこともわからないのかと言いたげなツグミの仕草に紗楽は内心腹が立ったが、いつものことだと自分に言い聞かせた。

(中略)

 ステージには三人の男が上がっていた。眼鏡をかけた学生風の、短髪で小太りの男。にやついた顔の、太って頭髪の薄くなったサラリーマン風の五十代と思しき男。三十代前半に見えるスキンヘッドで無表情の男だ。
 どの男達も一癖ありそうな連中だ。学生とサラリーマンはにやついた顔で絶えず忙しなく視線を動かし、スキンヘッドは一瞬も視線を離さずにツグミを凝視している。
「じゃあ、まずはもっとも高額な値段を付けた方からー」
 真里亞がステージの下でアナウンスした。サラリーマンが歩み出る。サラリーマンはツグミの顔や首筋に鼻を近づけ、音を立てて匂いを嗅いだ。
「ああ……いい匂いだぁ……ベビーパウダーみたいだよ」
 粘液にまみれた様な声に、ツグミの背筋に鳥肌が立った。
 ずぶり……とツグミの腹部に鈍痛が走った。ベストとブラウスを貫通して、男の脂肪で膨らんだ拳がツグミの華奢な腹部にめり込んだ。
「ゔッ!?」
 今まで味わったことの無い衝撃に、ツグミは嘔吐いた。胃を潰され、先ほど飲んだハイネケンが逆流して来る。
「うごっ……ぁ……うぶっ……!」
「んふぅー……ツグミちゃんの身体の中に俺のが………」
 ずぶり……ずぶり……。
 男の攻撃は単調だが、一撃一撃は重いものだった。
 同じ位置に、同じ強さで、ツグミの腹を陥没させる。
「ふッ……ぐ! おゔっ?! ぐぶッ!」
 ツグミの表情は拳が腹に埋まる度に苦痛に歪んだ。切れ長の目は限界まで見開かれ、頬を膨らませて無理矢理体内の奥から押し出された空気を吐き出している。
「ごぶッ!?」
 ずぶん……ごりっ……と今までで一番重い一撃がツグミの胃を抉った。まるで内臓に芋虫が巻き付いている様な不快感に、ツグミは体中を震わせた。
 男の荒い息づかいが聞こえる。興奮している様だ。スラックスの股の部分が隆起しており、時折もどかしそうにそこをいじっている。
「ツグミちゃん……いつも見てたんだよ……」男が言った。まるで違法な薬を使用しているみたいに、笑顔とも泣き顔ともとれない表情をしている。「いつも氷みたいに無表情でさぁ……え……エッチの時とか、どんな風な顔するのか、いつも考えていたんだよ……」
「……最低」羽交い締めにされたツグミが男を睨みつけながら言う。脂汗で額に髪の毛が貼り付き、唇の端からは唾液が垂れてブラウスを汚している。自然と男を上目遣いで見上げる格好になり、男は増々興奮度を高めている様だ。
「ふひひひ……たまらないよ……」
 ずぷん……と今までよりも重い一撃がツグミの腹を抉った。コットンシルクの華奢なブラウスが捻れ、貝ボタンが弾け飛んだ。
「ゔぐぅッ! あ……ごぶっ?! うぐっ……ぐぶっ?!」
 空いた生腹に連撃を受け、ツグミが嘔吐く。殴られる度に、上着に包まれた大きな胸が上下に揺れた。ステージ下の男達はギラギラとした目でステージの上を凝視している。
「はいそこまでー」
 真里亞の声がアナウンスされ、男は汗だくになりながらステージを降りた。
「ツグミー? 生きてるー?」
 真里亞が言った。ツグミは嘔吐きながら真里亞を睨みつける。
「……っく……はぁ……うぷっ……」
「大丈夫そうだねー。じゃあ次の方どうぞー」
 ステージには学生風の男が登った。にやついた顔で、顔や身体が全体的に丸みを帯びているが、肥満体という訳ではない。どちらかと言えば筋肉質な方だ。
「へへ……じゃあ……」男は笑みを浮かべたまま、ツグミの正面に立った。「楽しむとしますかねぇ」
 どすん……と、地面全体が揺れた様な衝撃がツグミの身体の中心から波紋状に広がった。

コミックマーケット86にて配布される
腹責め小説合同誌:「H!」
に参加させていただきました。


・タイトル
 「H!」

・配布イベント
 コミックマーケット86

・配布日時
 8月17日(日)

・配布場所
  東ナ 54b M.M.U.様スペースにて委託販売

・内容
 文庫サイズ
 512ページ
 フルカラー表紙、カバー付き(カバーと表紙は別イラストとなります)

・あらすじ
 タンクトップとホットパンツという露出の高い衣装が特徴的なカジュアルレストラン
 「ROOTERS(ルーターズ)」
 そこで働く真里亞とツグミ、アルバイトとしてやってきたはすみ、沙楽。
 衆人環視の中で突如として始まったキャットファイトショーと、その後の腹責めショー。
 熱狂と興奮の中、彼女たちは……。

・執筆者(以下、人物名の敬称略)
 ヤンデレない
 宮内ミヤビ
 ミスト
 number_55

・主催
 さるみあっき(ヤンデレない)

・表紙およびカバーイラスト
 スガレオン

・表紙およびカバーデザイン
 有沢めぐみ

・予定配布価格
 2500円

・表紙、カバーサンプル
hyoshi


cover



ちなみに自分は表紙左から2番目、一人だけバーテン服で浮いている「ツグミ」というキャラクターで書かせていただきました。
初めての無口無表情無感動キャラです。
ご期待下さい。

 美樹は境内裏の車庫の中で、養父の軽自動車に寄り添う様に停めてあるバイクに跨がり、エンジンをスタートさせた。身体の中心を震えさせる振動が心地よかった。美樹は数回スロットルを回してエンジンを吹かすと、境内裏のスロープから街道へ乗り、S区を目指してスピードを上げた。
 夜でも明るい市街地から郊外へ。一時間も走ると、等間隔に道路を照らしてた街灯の数も徐々に少なくなり、次第に木々が目立つ様になってきた。美樹は軽快にスロットルを上げて、あらかじめ調べておいた孤児院のある丘を登り始める。山道で不安ではあったが、幸い雪はほとんど積もっていない。美樹は右へ左へとハンドルを切りながら、蛇行する山道をスピードを上げて登り続けた。
 十五分ほど登ったところで、山道を塞ぐ様にそびえる大きな門が目に入った。美樹はスピードを緩め、門の側でバイクを降りる。
 三メートルを軽く超える赤錆びた門は、手前まで来ると威圧する様に美樹を見下ろした。
 鉄の一枚板で出来た門には「CELLA特別児童教育施設」と掘られた、緑青の浮いた銅製のプレートがはめ込まれていた。門は外界を拒絶する様に林道を塞いでいる。門のすぐ横には同じ高さのレンガ造りの壁が森の中の遥か奥まで続いていた。壁の終わりは闇に溶けていて見えない。
「まるで刑務所だな……」
 美樹は施設の壁と平行に移動し、林道の端の森の中へバイクを停めようとハンドルを切った。
 不意に破裂音が響いた。
 美樹のバイクの前輪が何かに掴まれた様に自由が利かなくなり、勢い余って後輪が持ち上がった。慌てて体勢を立て直して倒れない様に持ちこたえる。バイクを降りて前輪を見ると、タイヤの空気が完全に抜けていた。
 美樹はスタンドを立ててバイクの前輪周辺を見ると、目を疑った。レンガ造りの壁の下には、鉄製の剣山がまるで絨毯の様に敷き詰められていた。それは何処まで続いているか分からないが、おそらく壁の下全体に達しているだろう。
 その一本を触ってみた。
 錆び付いてはいるが、針の部分は禍々しいほど鋭利で、殺傷力は十分にあるように思えた。先ほど勢い余って前方に放り出されていたら、背中から串刺しになっていただろう。異様な光景に、しばし呼吸を忘れた。
 美樹は手近の気の側にバイクを停めると、ヘルメットを脱ぎ、ライダースをハンドルに掛ける。戦闘服の乱れを直すと、門を真下から見上げた。門からは、あらゆるものの侵入を拒絶する確かな意志が感じられる。門の上には、壁の下に敷かれた剣山と同様の針状の突起物が見えた。美樹はシオンの言葉を思い出した。『家庭環境や様々な事情により、精神的に深い傷を持つ子供達。その中でも反社会的行動をとる恐れのある子供と、反社会的行動をとってしまった子供達』を収容した施設。
「いくら問題のある子供だからといっても、これはやり過ぎだろう……。いや、本当に『それだけ』なのか? この施設はここまでして、一体何を外に出したくなかったんだ?」
 美樹は鉄の塊で出来た門に触れた。
 冷たい。
 閉鎖された異様な施設。
 そこへ呼び出した蓮斗。

「そんな所にいたら寒いよ。中に入った方が良い」

 不意に声がかかり、美樹は反射的に後方に飛び退いて身構えた。
 門が悲鳴を上げながら開き、中から真っ黒い服装をした蓮斗が現れた。
「バイクの音が聞こえたからさ……会えて嬉しいよ」
 美樹は飛びかかりたい衝動を堪えながら、無言でゆっくりと蓮斗に近づく。蓮斗は美樹から視線を離さずに後退りすると、門の中へ入る様に促した。
「寒いから早く中へ入ろう。その服はアンチレジストの戦闘服かい? ミニスカートの巫女装束に、インナーは競泳用水着みたいだね。美樹ちゃんらしくて良いと思うけど、とても寒そうだ。とりあえず中へ……」
「お前が先に歩け。後ろから不意打ちでもされたら面倒だ」
 蓮斗はやれやれとジェスチャーすると、門の中へ入って行った。数メートルの距離を置いて、美樹も後に続いて門をくぐる。
 門をくぐると、そこは、静かな庭だった。
 雪は庭のほぼ全てを覆い、それを切り裂く様に赤茶色の煉瓦道がかろうじて顔を出している。煉瓦道の脇には等間隔にガス灯が設置され、赤味を帯びた光を雪の上に落としていた。煉瓦道の続く敷地の奥には、うっすらと二階建ての建物のシルエットが浮かび上がっている。
 煉瓦道を慣れた様子で進む蓮斗に美樹が続いた。足下を見ると干涸びる様に枯れた芝が煉瓦にへばりついていた。歩きながら施設奥に目を凝らすと、鎖だけが垂れ下がっているブランコや、葉が一枚も無い立ち枯れになった楡の樹が風雪にじっと耐えている。
 建物の手前まで来ると蓮斗が歩きながら美樹を振り返る。
「今はもうボロボロだけど、遺棄される前はキリスト教系の結構立派な施設だったんだぜ。庭は柔らかい芝生で覆われてさ、あの二つの尖塔の上の十字架が夕日を浴びるとキラキラ輝いたもんさ。生活圏以外の窓のほとんどはステンドグラスだしね」
 美樹は蓮斗の言葉には応えず、黙って建物を見上げた。
 荒れはじめた庭と違い、建物の方はあまり痛んではいなかった。人が住む分には全く困らないだろう。
 蓮斗の言う通り、なかなかに洒落た感じだ。入り口のドアや、大きく二つ突き出た尖塔は見事なシンメトリーに配置されている。規模は比べ物にならないが、建築様式がどことなくアナスタシア聖書学院を思い出させた。ダークレッドを基調とした屋根や、外壁に使われているくすんだ漆喰の色。暗めな配色のステンドグラスに、建築家独特の癖の様な物が感じられた。
「さぁ着いたよ。汚い所だけど遠慮なくくつろいで……」
 蓮斗がテラスに上がり、真鍮のドアノブを捻りながら振り返った瞬間、美樹が後ろから強烈な掌底を見舞った。蓮斗は顎をしたたかに打ちぬかれ、観音開きの扉をたたき壊すほどの勢いで建物内に転がって行った。
 美樹が注意深く中に入る。
 玄関ホールは広い。
 手入れがされていないため所々痛んではいるが、見事な黒檀の床材が敷き詰められている。大きいがシンプルな装飾のシャンデリアが暖色系のガス灯の明かりを四方に振りまきながら、すきま風に晒されて微かに揺れている。玄関ホールのほぼ中央から伸びている階段は中央の踊り場で二手に別れて二階へと続いていた。
「げほっ……ふ……せっかちだなぁ。本番に入る前は、まず気の効いたトークで雰囲気を盛り上げるのが常識ってものだろう?」
 美樹は階段の側でうずくまっている蓮斗に無言で近づくと、横腹を蹴り上げた。爪先に鉄板の仕込まれた堅牢なコンバットブーツは蓮斗の腹筋を破壊し、内蔵に強烈なダメージを与える。
「ぶごっ!? ふ……ふひゃっ、ひゃっははは! 巫女さんとは思えない暴力っぷり……げぼっ……。大好きだよ、そういうギャップはね! あはははははは!」
 胃をやられたのか、蓮斗は粘ついたどす黒い血の塊をニスの剥げたフローリングの床に吐きながら笑った。立ち上がろうとするが、足元がおぼつかずに尻餅をつく。
「この程度で終わりだと思うなよ。久留美にどのような仕打ちをしたか知らんが、それなりの報いを受けてからアンチレジストへ突き出させてもらう。私は弱いもの虐めをしている奴が一番嫌いなんだ。早めに久留美を開放した方が、病院の天井を眺める退屈な時間が短くて済むぞ」
 瞬間、蓮斗のにやついた表情が消えて無表情になる。あまりの表情の変化に美樹は怪訝な顔をした。その顔には見覚えがあった。アナスタシア聖書学院の生徒会長室で見た写真。昔の太っていた頃の蓮斗のそれだった。
 蓮斗の顔にはすぐに表情が戻り、よろよろと立ち上がる。部屋の中に再び甲高い笑い声が響いた。
 美樹は僅かに乱れた上着の胸元を直すと、幽鬼の様にゆらゆらと蓮斗に近づきノーモーションで爪先を蓮斗の腹に埋めた。
 ぐちゅりという嫌な音がして、蓮斗が呻き声を上げながら前屈みになる。下がった顎をすかさず掌底で跳ね上げた。蓮斗の身体がふわりと浮き、背中から床に落ちる。美樹は蓮斗の逆立てた金髪を掴んで立たせると、額を中央の階段の真鍮で出来た手すりに打ち付けた。額が割れて、蓮斗の金髪が赤く染まる。
「いぎっ! ひ、ひひ……容赦ないなぁ……」
「口がきけるうちに喋れ。久留美はどこにいる?」
 美樹が蓮斗の髪を掴んだまま、耳元で囁く様に問いつめる。
「あははは、こ……こんな場面、前にもあったよね……あのプールの時さ」
「思い出したくもないがな。あまり深手を負わせるのは好きではないが、このまま久留美の居場所を吐かないのなら、腕くらいは折らせてもらうぞ」
「ははは……やさしいなぁ。案内してあげてもいいけど、このままじゃ動けないよ……どうする? 僕を倒した後、一部屋一部屋調べて行くかい……?」
 美樹は少しの間思案した後、蓮斗の身体を投げ捨てる様に解放した。蓮斗はよろけながら立ち上がると、美樹の前で両腕を広げる様なポーズをする。抵抗する気はないという意味に取れた。
 美樹は乱れた髪を手櫛で梳くと、戦闘服の襟を直す。レオタードの様なアンダーウェアが若干汗ばんで肌に貼り付いているが、戦闘服の繊維がすぐに蒸散させるだろう。
「……連れて行け」
 蓮斗はおどけた様子でわざとらしくお辞儀をした後、背中を向けて歩き出した。
 階段の裏手にまわる。くすんだ銀色の観音開きの扉がある。蓮斗がそのアルミで出来たやや周囲から浮いた印象の扉を開けると、地下へ下りる階段が現れた。壁や床はコンクリート打ちっぱなしで、天井には古ぼけた蛍光灯が埋め込まれている。美樹は一定の距離を保ったまま蓮斗の後に続いて階段を下りた。中腹まで降りたあたりで、背後で自動的に扉が閉まった。
 階段を降りきり、突き当たりにある扉を開けると、地下特有の湿気が美樹の身体を包んだ。真冬の外気で乾燥した美樹の長い髪がわずかに重くなる。水はけが悪いのか、廊下の隅に僅かに黒いカビが生えていた。
 地下にはふたつのドアがあり、蓮斗は奥のドアの鍵を開けて中に入った。注意深く美樹も室内に入る。蓮斗は入り口から遠くの壁に背中を付けて腕を組んでいる。部屋の壁には用途不明の様々な器具が置かれ、それらに取り囲まれる様に久留美が制服のまま仰向けに寝ていた。美樹が駆け寄り、抱え上げて呼びかけると、うっすらと目を開ける。
「久留美? 久留美! 大丈夫か? 気をしっかり持て!」
「あ……せ、先輩……?」
「迎えに来た。もう大丈夫だぞ……」
 美樹は静かに言うと、久留美の髪をそっと撫でた。
 久留美はまだ朦朧としているようだが、幸い外傷は無さそうだった。髪を撫でる心地いい感触に久留美の顔がふっと緩む。
 メキリと音を立てて、美樹の右腕に衝撃が走った。鉄パイプが二の腕に食い込んでいた。
「ぐうっ!?」
 美樹は痛みに耐えながらも無事な左手で久留美を寝かせると、片膝を着いたまま蓮斗に向き合う。右肘から先の感覚が無い。鉄パイプが地面を走る様に美樹に向かって唸りを上げ、直角に曲がった継手部分が美樹の腹ににずぶりと食い込んだ。
「ごぶぅっ!? んぐっ……お……っ」
 レオタードむき出しの部分が痛々しく陥没すると、固く冷たい金属の感触が美樹の腹部を中心に全身を駆け巡った。
「何でてめぇはそんなに弱ぇんだよ……」
 美樹が振り返ると、何の感情も読み取れないほど無表情になった蓮斗と目が合った。

 猛烈な感情が腹の底からこみ上げ、気がついたらドアの影に隠しておいた鉄パイプを掴んでいた。
 美樹が苦し気に蓮斗を見上げてくる。
 久留美を背に庇いながら、左手で鉄パイプで殴られた腹を押さえ、しきりに右手を握ったり開いたりして自分の怪我の状態を確かめていた。
 蓮斗は自分が痛いほど勃起していることに気がついた。
 ああそうか、これは『あれ』と同じ場面だ。
 確か十歳よりも前の頃。
 あの頃の自分はまるでサンドバッグだった。
 毎日毎日、何人もの人間に打ちひしがれ、ひたすら頭を抱えてうずくまっていた。そうしていればいつかは終わるのだ。どんなに痛くても、反応すれば向こうは調子に乗る。殴られても蹴られても、髪の毛を引き抜かれても反応をしないただのサンドバッグになっていれば、いつかはこの仕打ちは終わるのだ。
 その日もそう思って、ひたすら心を殺して、何人もの上履きの底を腕と後頭部に感じながら、ひたすら教室の隅で頭を抱えていた。
 気がつくと、腕にぶつかる靴底の感触が無くなっていた。耳を澄ます。高い声で静止する声が聞こえた。
 恐る恐る顔を上げる。
 女の子が自分を庇っていた。
 何と言っていたのかは憶えていないが、数人の男子生徒に向かって必死に止める様に説得している。
 蓮斗は無性に怖くなり、そっと女の子の背後から逃げた。
 教室の入り口まで逃げても、まだ女の子と男子生徒は口論していた。
 不意に、一人の男子生徒が怒声を上げながら女の子の腹を殴った。
 女の子は大きく「うっ」と呻くと、両手で腹を押さえてうずくまった。その声はとても良く通り、自分の耳から脳にダイレクトに届いた。うずくまる女の子は下を向いたまま、時折背中をびくつかせている。長い綺麗な黒髪が揺れて綺麗だ。
 その様子がなぜかとても印象的に思えて、家に帰ってから何度もその場面を思い出して自慰をした。
 久留美の弱々しい姿は、あの頃の自分に似ていた。しかも自分の様に無様に逃げなかったことが、更に苛立たせた。

「ごめん、ちょっと嫌なことを思い出したんだ」
 蓮斗が逆立てた金髪を弄りながら、鉄パイプで凝りをほぐす様に自分の肩を叩く。
「せ……先輩……?」
「大丈夫だ……」
 久留美は朦朧とした意識の中でも美樹を気遣い、立ち上がろうとする素振りを見せる。美樹は久留美に手で「寝ていろ」と指示を出した。
 美樹は左手でまだ痛む腹を押さえて立ち上がる。強打を受けた右腕は幸い折れてはいないようだったが、まだ痺れて感覚がなく、自分の意志に反してだらりと垂れ下がったままだ。
 蓮斗はポケットの釦を外し、中から栄養ドリンクの様な小さめの瓶を取り出すと、キャップを開けて中身を一気に飲み干した。
「おえっ……まっず。ったく、冷子さん少しは味にも気を使ってほしいなぁ」
 蓮斗は顔をしかめて口元を拭いながら、空になった瓶をちり紙でも捨てる様に背後に放り投げた。瓶は固い音を立てて二、三回バウンドした後、壁に跳ね返って止まった。
「冷子……シオンを襲った女性タイプの人妖か。なぜ貴様が人妖と関係を持っている知らんが、後でじっくり聞かせてもらう……何を飲んだ?」
「今にわかるよ」
 蓮斗がゆっくりと美樹に近づくと、大きなモーションで鉄パイプを振り下ろした。美樹は素早くそれを避け、流れる様にバックナックルを放つが、蓮斗がしゃがんでそれをかわす。拳が空気を切る音が、美樹の繰り出す拳の速さを示している。美樹がバックナックルの勢いを殺さずに回し蹴りを放と、蓮斗のこめかみにヒットした。蓮斗は一瞬ぐらつきながらも、美樹の脚を掴み、鉄パイプを捨てて美樹の腹部に拳を埋めた。ぐじゅりと音がして、美樹の腹に拳が陥没する。
「ぐぷっ?!」
 美樹の目が見開き、「う」の言葉を発する様に開かれた口から粘度の高い唾液が飛び出る。
 普段の美樹であれば難なくガードが出来たであろうが、片腕が言うことを聞かず、片足立ちでバランスを崩した今の状況では蓮斗の攻撃をガードすることは難しかった。美樹は足首を掴んでいる蓮斗の手を振りほどくと、呼吸を停めて腹の底からこみ上げて来る吐き気を押さえながら、蓮斗の鳩尾に拳を放つ。
「…………」
 美樹の拳は確実に蓮斗の鳩尾に深々と食い込んでいた。人体急所を突かれ、その身体には恐ろしい苦痛が駆け巡っているはずだが、当の蓮斗は涼しい顔をしている。
 美樹は一瞬顔をしかめると、続けざまに顎先、鼻先、果ては金的まで攻撃するが、蓮斗は鼻から血を流しながらもニヤニヤとした笑みを崩さなかった。
「お前……なぜ……」
「ああ、いいね。その混乱した表情、そそるよ」
 ずん……という重い衝撃が美樹の全身を駆け抜けた。この感覚には覚えがある。美樹はおそるおそる視線を下に移すと、自分の鳩尾に蓮斗の拳が半分ほど埋まっていた。急所を突かれた後のことは予想がついた。苦痛。嗚咽。凄まじい吐き気。
「うぐっ!? ぐあぁぁぁぁ!」
 一瞬置いて美樹の身体を苦痛が駆け巡る。
 たまらずに両膝を着き、口内に大量に溢れた唾液を吐き出した。唾液は口から糸を引いて床に垂れ、コンクリートの床に染みを作った。
「冷子さんに頼んで、痛覚を遮断する薬を作ってもらったんだ。コールドトミーとか言ってたかな? なんでも、脳の痛覚を感知する器官を壊死させるとか何とか……。これで俺は一生痛みを感じなくなるんだってさ」
「けぽっ……く、狂ってるな……。痛みは身体の危険を伝えるための大切な信号だ。それに、たとえ痛みを消してもダメージは残るぞ……」
「だから? 俺は今を楽しめればそれで良いんだ。昔からずっとそうだった。我慢して我慢して……ずっと我慢してたんだから、そろそろ好き勝手してもいいだろ?」
 蓮斗は美樹の奥襟を掴んで立ち上がらせると、抉る様に美樹の腹部を突き上げた。レオタードが薄い生地を巻き込む様に陥没し、温かく水っぽい感触が蓮斗の拳を包んだ。心地よさに蓮斗の顔には笑みが浮かび、変わりに美樹の顔は苦痛に歪んだ。
「うあっ!? ぐ……あぁ……ぐぷっ!?」
 腹部に拳を突き込んだまま、更に美樹の奥へと押し込む。美樹が歯を食いしばって蓮斗の突き飛ばし、ようやく動く様になった右手の掌底で顎を突き上げる。腰を落とした重い一撃。蓮斗の顔が仰け反り、切れ長の顎が天井を向きながら身体が宙に浮く。一瞬の滞空の後、背中から地面に落下した。ダメージを感じている様子は無い。顎を跳ね上げられている直前まで、蓮斗の視線は一瞬も美樹から離れなかった。
 蓮斗の攻撃自体は単調だ。決して苦戦する相手ではない。しかし、ダメージが通らずに長期戦になればこちらも消耗してくる。ダメージによる戦意喪失が望めない以上、確実に失神させるほか無い。頭への衝撃では効果が薄いことは先ほどの回し蹴りで実証された。頸動脈を締めて落とす方法が確実だ。
 蓮斗がネックスプリングの要領で首を支点に跳ねる様に起き上がると、凝りをほぐす様に首を鳴らした。蓮斗が血の塊を吐き出す。血塊はかつんと固い音がをたてて床に跳ね返る。赤黒く染まった蓮斗の奥歯が美樹の足下に転がった。
「厄介なものだな……とんだ相手に好かれたものだ」
 美樹が軽口を言うと、蓮斗も血に染まった前歯を剥き出しにして笑う。
「俺は一途なんだ。惚れた女の為なら死んでも尽くすさ……」


「到着しましたが……本当によろしいのですか?」
 シオンはドアを開ける運転手に「ええ」と短く返事をすると、後部座席から降りて分厚い鉄製の門を見上げた。運転手は他にも何か言いたげに口を開いたが、諦める様にシオンの背中を見つめたまま、黙って後部座席のドアを閉めた。
 雪はほとんど止んでいた。孤児院の門や塀の上には錆の浮いた剣山が、氷の様に冷えたまま微動だにせずに立ち尽くしている。
 光沢のあるきめの細かいメルトン地のロングコートを脱いで運転手に手渡すと、さっと風が吹いてシオンのツインテールに纏めた金髪がなびいた。見てるこちらが寒くなりそうなメイド服を基調としたセパレートタイプの戦闘服が露になり、初老の運転手は目のやり場に困り視線を足下に落とした。
「では山岡さん、終わりましたら連絡しますので」
「あの、本当によろしいのですか? 老人の勘と言いますか、何やら厭な予感がするのです。出来ることならこの場で待たせていただいても……ッ!?」
 シオンが白い手袋に包まれた人差し指の腹を山岡の唇に当てて言葉を遮る。シオンは片目を閉じて、穏やかな笑みを浮かべている。現実感の欠如した美しい顔が間近に迫り、山岡はどぎまぎと視線を泳がせた。
「本当に大丈夫です。それに、今日は任務ではなく、いうなれば私のただの暴走……。すぐに解決して帰りますので、ご心配なさらずに」
 山岡はただ頷くしか無く、オールバックに撫で付けた髪を掻きながら運転席に戻って行った。
 シオンは走り去るレクサスを見送ると、門の正面に立った。灰の塊の様な雲が、早足に門の上の空を滑っている。
 それは門というよりは、壁に近かった。あらゆるものの侵入を拒む様な、また、あらゆるものの脱出を許さない様な鉄の一枚板を見ていると、自由という言葉が遠い異国の少数民族の言語の様に思えた。閂が外されて僅かに門が開いている。
「CELLA……神聖な場所……子供達にとっての聖域という意味で付けられたのでしょうか?」
 シオンが門に嵌め込まれているプレートを読んでつぶやいた。自分のシオンという名前にも、聖域という意味がある。この施設を作った人は、どのような思いを込めてセラという名前を付けたのだろうか。
「美樹さん……久留美ちゃん……」
 シオンは自分にしか聞こえない声量で呟くと、扉を僅かに押して施設の中へと入って行った。

 薄暗い蓮斗の部屋。テーブルを挟んだ対面のソファに座った冷子の目の前。蓮斗は小さなビニールパックから微かにピンクがかった細かい結晶を取り出してスプーンの上に載せた。滅菌袋を破って注射器を取り出し、テーブルの上の生理食塩水を慎重に吸い上げる。スプーンの上の結晶に垂らすと、結晶は一瞬の討ちに溶けた。
 蓮斗の喉がごくりと音を立てる。
 一滴も残らない様にスプーンの中の液体を吸いあげ、注射器の針の根元を爪で弾いて中の空気を抜くと、左腕の静脈に慎重に突き刺した。部屋中に病的なまでに設置された多数のキャンドルに照らされ、蓮斗の彫の深い顔には濃い陰影が浮かんでいる。腕を圧迫していないため、注射器内に血液が勢いよく逆流した。蓮斗は落ち着いて自分の血液と混ざり合いどす黒く変色した液体を静脈へ押し込んだ。
 蓮斗が止めていた息を一気に吐き出すと、冷子が溜息まじりに呆れた様に声をかけた。
「何度見ても分からないわ。そんなモノのどこがいいのか」
「こんなモノでしか手に入らない快楽もあるんですよ……」と言いながら蓮斗はソファの背もたれに身体を預けながら天井を見上げた。
「快楽ねぇ……ねぇ、あなた達って何でそんなに快楽を求めるの? 快楽なんて脳内物質の一時的な増減に過ぎないのに。あなたみたいに薬に頼ってまで快楽を求める人間を見ると、真性のマゾヒストじゃないかって本気で疑うわ」
「僕たち人間はコンプレックスの塊なんですよ。人間は生物学的に見れば、おそらくこの地球上で最も弱い部類に入ります。生身で本気でやり合ったとしたら、自分の飼っているペットの犬にすら勝てないんじゃないかな。そのコンプレックスを埋めるためには、必要以上に『持たなければ』ならないんです。服とか、金とか……毛皮や牙の替わりに……」
「ふぅん」
 興味が無さそうに冷子が立ち上がる。いや、事実全く興味がないのだろう。蓮斗は終点の定まらない目で天井に向けてなにかを呟いていた。
「ところで、 鷹宮美樹は本当に来るんでしょうね? あなたの面倒くさい作戦に乗ってやってるんだから、ヘマは許さないわよ。こっちは早急に事を運んで、邪魔なアンチレジストを潰したいんだから。鷹宮美樹を捕まえて、拷問でも何でもしてアジトの場所を吐かせて乗り込む。トップの正体を突き止めて処分する。涼の仇を取る為にね……。トップさえいなくなれば、後は烏合の衆よ。残った戦闘員や職員は一人ずつ殺せばいい」
 蓮斗は開いた口から垂れている涎を手の甲で拭うと、テーブルの上のコーラを一息に飲んだ。
「その点は……抜かりなく……。今朝、鷹宮神社に手紙を置いておきました。美樹ちゃんが律義な人間であれば、あと数時間で乗り込んでくるはずですよ。そのためにこんなクソッタレな薬まで使って体力を絞り出しているんです。いつだって、例えば今日死んでも悔いが無いように生きたいですからね」
 冷子は鼻を鳴らすと、胸ポケットから栄養ドリンクの様な茶色い瓶を取り出し、蓮斗に投げて寄越した。中にはとろりとした液体が入っている様だ。
「今日新でも悔いが無いのなら、これをあげるわ。あなたが欲しがっていた経口摂取タイプの薬剤。飲めば数秒で特定の神経のみを壊死させる事が出来る」
 蓮斗は礼を言うと、瓶をカーゴパンツのポケットに仕舞った。
 冷子はソファから立ち上がり、クローゼットを開けて自分の着ているジャケットを丁寧に掛けた。スカートとシャツも脱いで別のハンガーに掛け、蓮斗の頭を正面から抱く様に跨がった

 冷子との情事が終わると、蓮斗は地下へと降りて行った。湿った空気が鼻につく。黴と、微かに混じった汗の匂い。通路にはくぐもった悲鳴が響いていた。蓮斗は虚ろな表情を浮かべて悲鳴の聞こえるドアを開けた。
 部屋の中の二人が蓮斗の立っているドアに視線を向ける。蓮斗は気にせず部屋の真ん中に座った。
 目の前には破れかかったブラジャーとショーツのみを身に着け、ほとんど全裸になった木附由羅が壁に張り付けられていた。口からだらしなく舌を垂らして荒い息を吐いている。身体は大の字に開かれ、手首と足首はそれぞれ鎖でXの形をした鉄製の器具に固定されていた。
 由里の拳が唸りを上げて由羅の腹部を貫通する様にめり込むと、ぐちゅりという嫌な音が蓮斗の耳にも届いた。
「ゔうっ?! ぐあぁぁっ! あ……ぁ……由里ぃ……」
「由羅……好きだよ……もっと苦しくしてあげるから……」
 双子はお互いの唇を吸い合うと、由里は由羅の下腹部を狙って拳を埋めた。
「うぐぅっ! が……そご……弱いぃ……」
「知ってるよ……由羅はここが一番苦しいものね……。そして次はここ……」
 ごぎりという音と共に、由里の拳が由羅の子宮から抜け、鳩尾に埋まる。由羅は目を限界まで見開いて悲鳴を上げる。息が継げなくなったのか、口からはひゅうひゅうというふいごの様な音が漏れた。
 蓮斗喉がごくりと蠢く。由里が気配を察して、ゴミを見る様な目で蓮斗を振り返った。
「……楽しいですか?」
「最高だよ……」
「まぁ、人の趣味にとやかくは言いませんが、そんなに食い入る様に見られると居心地悪いというか……」
「げぷっ……くふぁ……。アンタ、廃工場にアンチレジストが仕掛けた防犯カメラの映像も……ぐぷっ! こ……こっそり見てるでしょ? どうやって入に手れたか知らないけれど、女の子がいたぶられる姿を見て興奮するなんて、救い様の無い変態よね」
「……君達に言われたくないなぁ。由里ちゃんは加虐、由羅ちゃんは被虐でお互いの愛情を感じ合うなんて、普通じゃないと思うけど」
 由里と由羅はきょとんと蓮斗を見つめた。まるで宇宙人に話しかけられたような表情だ。
「うぐっ……くぁ……何言ってるの? 普通の愛情表現じゃない」
「パパとママも、私達を愛してるって言いながらたくさん殴ったり蹴ったりしてくれたんだよ? 臭いからって言って、熱いお風呂にずっと入れられたり……」
「くっ……はぁ……私も学校の友達と遊んだりすると、階段から突き落とされたりしたっけ。他人を家の中に入れる子は悪い子だって言われて……。だから由里としか遊べなかったものね」
「愛情だから仕方ないよね……」
「でも由里、パパはママが何日か帰って来ない時に、知らない女の人をを家の中に入れてたじゃない?」
「うん……。だから私達が愛情を与えないと、パパは悪い子になっちゃうから……」
「パパと知らない女の人が布団でぐっすり寝てる時に……ね」
「だんだんパパが臭くなってきたから、熱いお風呂に入れてあげたんだよね。何日か後にママが帰ってきて……」
「もの凄く騒いだから二人掛かりでパパの入ってるお風呂に頭を浸けてあげたっけ。いつも私達にママがしてくれたみたいに」
 蓮斗は肩をすぼめると部屋を出て行った。部屋の中からはまた由羅の悲鳴が聞こえ始めた。
 蓮斗は左右のポケットに両手を突っ込んだ。冷たいアンプル瓶の感触。右手には冷子に作ってもらった人間の腹部を性感帯に変える作用をプラスした合成チャームだ。効果は久留美で実証済み。久留美は今ではすっかり快楽に溺れ、人工チャームを使わなくても自分から蓮斗に腹部を痛めつけるようねだってくる。そして左手には数時間前に冷子から貰った「新作」が入っている。
「さて、もうすぐ時間か……。お姫様を助けにきた美樹ちゃんをお迎えに上がりますかね」
 蓮斗が地下室から玄関ホールへと通じる階段を上ると、遠くから唸りを上げるバイクのエンジン音が微かに耳に響いた。

 鷹宮神社の境内にはうっすらと湿り気の無い粉雪が積もり、時折拭く風で頼りなく舞い上がっていた。二十二時。日が落ちてから数時間経ち、昼間に僅かながらに暖められた空気も、今では死に絶えた様に冷えきっている。
 微かに水を打つ音と祝詞の声。音は鷹宮神社の奥、竹薮のそばの井戸から聞こえた。髪を結い上げた美樹が白襦袢一枚の姿で黙々と祝詞を唱えながら、井戸の底につるべを落としては引き上げ、桶いっぱいに溜まった氷の様な水をかぶっている。
「高天原に神留座す神魯伎神魯美の詔以て……」
 見ているだけで皮膚に痛みを覚えるような光景だったが、美樹は顔色一つ変えることなく黙々と水行をこなした。祝詞を唱えながら冷水を浴びること十数回。終えると美樹は丁寧に井戸に蓋をし、桶を直すと両手を合わせた。
「行くか……」
 身体は芯まで冷えきっている。声は震え、消え入る様に小さい。しかし、頭は未踏の地の水源の様に澄み切っている。美樹は井戸に背を向けると、本殿横の離れにある自室に向かった。あらかじめ踏み石に置いておいたバスタオルで襦袢の上から身体を拭き、草履を揃えて部屋に入る。行水の一時間ほど前に火鉢に炭を入れていたため、柔らかい温かさにほっとする。行灯から橙色の灯りが弱々しく広がる十畳ほどの和室。多くの文庫本が入った本棚と、大きめの箪笥と姿見以外は、生活感があまり無い。食事は別室で摂ることが多かったし、好きなバイクや整備道具はまとめて車庫に置いてある。勉強も箪笥に立てかけてある書生机を必要に応じて出した。
 美樹は付書院の戸棚を開け、天板にテープで張り付けてある鍵を取り出すと、箪笥の一番下の施錠された引き出しを開けた。
 丁寧に畳まれた服を取り出す。
 美樹専用の、アンチレジストの戦闘服だ。
 アンチレジストの戦闘服は、季節を通して同じ服で戦うために特殊な繊維が用いられている。伸縮性や対衝撃性は一般的な高機能繊維と同じだが、特筆すべきは温度と湿度の調節効果だ。
 その生地は周囲の温度を感知し、身体から発散される水蒸気をエネルギーとして生地の無い場所も含め身体全体をヴェールで包む様に適正温度に保つ。そのため一見露出の多い戦闘服でも真冬でもコートを着ている様に温かく、真夏は裸でいるよりも涼しい。この繊維を用いてアンチレジストは戦闘員各々の戦闘スタイルや衣服の好みに合わせてカスタムメイドされたものを支給している。
 好みにもよるが、基本的に一般戦闘員のものは防御に特化した戦闘服が多い。関節部分などの急所の保護を目的としたサポーター類をはじめ、素材自体も厚手で露出の少ないものが好まれる。中にはフルフェイスのヘルメットを選択する者もいる。逆に上級戦闘員は極力自分の戦闘能力を高める為に、関節部分は露出、もしくはサポーターの無い薄手の素材を選択する場合が多い。当然、美樹は後者である。
 美樹は襦袢を脱いで全裸になり、あらためて丁寧に身体を拭くと、結っていた髪を解いて姿見の前で丁寧に梳いた。均整の取れた身体だ。女性らしい体つきだが、無駄な脂肪は一切付いていない。適切な運動により腕や脚、腹にはしなやかな筋肉が付いている。
 ふふ……と美樹は笑った。鷹宮の養子になってもう七年が経つ。あらためて見ると、あの頃に比べ自分の身体も変わったものだ。人の為に使おうと決めたこの身体は、美樹の意志に応える様に成長してくれている。
 美樹は児童養護施設で過ごした後に鷹宮家の養子に入った。今の家族は宮司を務める養父だけだ。実の母親は他界し、実の父親にはもう会う事も無いだろう。母親が存命の頃は、美樹の家は裕福とは言えないが、ごく普通の家だった。父親は工場で決まった時間に働き、母親も美樹が学校へ行っている間にパートに出た。よほどの事が無ければ、夕食は家族三人揃って食べた。しかし美樹が八歳の頃に両親が離婚し、美樹の親権と監護権は母親に定められた。離婚の理由は美樹には知る由もないが、幼い美樹でもおそらく父親に原因があることはなんとなく解った。簡単な裁判が終わり、美樹と母親は少し離れた土地へと引っ越し、美樹も転校を余儀なくされた。
 美樹の母親が体調を崩して入院したのは引っ越してから半年後の事だ。病状は重く、美樹は急遽父親の元に戻された。元の家から距離のある転校先の学校に通い続ける事は大変だったが、それ以上に美樹を苦しめたのは父親の変化だった。家には既に美樹の知らない女性が居た。異分子である美樹に女性は辛く当たり、父親も女性の肩を持った。時には美樹に何も持たせずに一晩外に放り出す事もあった。美樹の存在は、父親の第二の人生に対しては邪魔者でしかなかったのだ。しかし関係は長続きしないらしく、短期間で何人もの女性を部屋に連れ込み、その度に美樹は疎まれた。
 母親が他界したのは入院してから半年後、離婚してから一年後のことだ。電話の受話器を戻すと父親は無表情で、美樹に向かって「死んだぞ」と言った。「誰が?」と震える声で美樹が聞くと、母親の名前を言った。
 父親は母親の死により、何かの「たが」が外れたのだろう。父親は美樹に対して性的な暴力を振るうようになった。一線は越えなかったと思うが、母親が他界してから養護院に入れられるまでの記憶を美樹はほとんど持っていない。何かのきっかけによりフラッシュバックする事も無いが、自分が男性に対してあまり興味を抱けなくなったのはその事が原因だろうと思っている。
 美樹が十歳の頃、父親は強姦罪で逮捕され、美樹は養護施設に預けれた。その頃の美樹は全てに於いて無感動になり、特に男性に対しての敵意は凄まじかった。施設に入所してから一年後、美樹が十一歳の時に鷹宮神社の宮司に引き取られても敵意は変わらず、たびたび脱走を試みた。
 美樹の養父は六十代の独り身だった。父親から鷹宮神社を受け継ぎ、数人の通いの職員を遣う以外は境内の裏の離れで一人で暮らしていた。養父は美樹を養子にすると、まずは名前を「美樹」に改名した。鷹宮神社の力強く美しい神木の様に育つように、そして、過去を忘れ、一から人生を歩めるようにと。そして離れの一室を美樹の部屋として与えた。美樹も最初こそ抵抗したものの、養父の「楽に生きればいい。私に心なんて開かなくてもちゃんと食べさせるし、好きな事は出来るだけさせてやる。だから、出来るだけ楽に生きるんだ。そして、出来るだけ人の為に生きるんだ。そして人には優しくしてやれ。人間どうしたって生きて行かなきゃならないんだ。人に優しくしていれば、それだけ優しさが帰って来る。そうすりゃ楽に生きられる。楽に生きられるってことは、楽しく生きられるってことだ。本当だよ」と言う言葉は美樹の乾き切った心にじんわりと染み込んで行った。
 あれから七年。豊かな表情を作るのはまだ苦手だが、養父のお陰で人並みの生活を送れている。まだ恩を返し切れていないのだ。久留美の救出を諦める事は、養父の教えを裏切る事だ。ここで立ち止まるわけにはいかない。
 美樹は綺麗に畳まれた巫女装束を基調とした戦闘服に手を合わせた。
 まずは身体にフィットした光沢のある黒いノースリーブレオタードを身に付ける。水泳部で着用している水着に似たそれも、組織の開発した特殊繊維で作られている。肩紐に指を入れてレオタードのたるみを直すと、白地で太腿の途中まである長いソックスを穿いた。ゴム口には緋色のリボンがスティッチ状に縫われている。
 緋色の短いプリーツスカートを履き、緋色の裏地の付いた白い襦袢を羽織る。襦袢は胸の下あたりまでのショート丈。美樹は作務衣を着る要領で内側と外側に付いた紐で裾を留めた。帯は用いない。激しい戦闘においては締め付けは邪魔になるからだ。袖口は巫女装束や振袖の様に袋状になっており、袖口にはソックスと同じように緋色のリボンが縫われている。
 美樹は姿見の前に立つと、両手で襦袢の中に入った髪の毛をふわりとかき出した。自然と身体が昂揚してくる。髪をポニーテールに結い上げると、全身の着衣の乱れを直した。
 姿見の中の自分はまるで巫女と「くのいち」を足して割ったような姿だ。昼間にこの格好のまま出歩くわけにはいかないが、美樹はなかなか気に入っていた。上級戦闘員の戦闘服にしては身体を覆う部分が多かったが、防御にやや不安のある自分には合っていると思った。
 太腿に黒い革製のレッグホルスターを装着し、握り部分が折りたたみ式になっている樹脂製のトンファーを挿す。同じく革製のオープンフィンガーグローブを装着すると、軽くその場でジャンプしてみた。
 衣服を身に付けていることが不安になるほど軽い。そして生地に使われた特殊繊維の効果で、先ほどまで感じていた寒さが嘘の様に消えていた。
 目を瞑り、足の裏から空気を吸う様にゆっくりを息を吸い込む。そして吸い込んだ空気の塊を丹田に押し込む様に意識を集中し、吸った時の倍近い時間をかけてゆっくりと息を吐き出す。数回繰り返した後、静かに目を開く。
「行くか……久留美、待っていろ。すぐに助ける」
 美樹は箪笥からライダースジャケットを取り出して羽織ると、編み上げのコンバットブーツを履いて外に出た。
 雪は止んでいた。境内の石畳には足跡一つ無い雪が一面降り積もっている。
 暗くて静かで、美しい光景だった。
 美樹はライダースのポケットから潰れかけたショートホープとジッポーを取り出して火をつけた。養父のいるもうひとつの離れを見る。早寝の養父らしく部屋の灯りは消えていた。美樹はゆっくりと煙を吸い込み、蜂蜜に似た甘さを楽しむ様に長い時間をかけて吐いた。空気が冷えきっているため、自分の吐く息の白さと合わせて普段よりも煙量が多く感じる。時間をかけて短い煙草を吸い終わると、美樹は少し迷った後に養父の寝ている離れの踏み石に火の消えた煙草を置き、自分にしか聞こえない声で「行ってきます」と呟いた。



「Боже мой…………Боже мой!!」
 固い音を立てて、カップが漆喰の塗られた壁に叩き付けられた。ブルーの絵が入った薄造りのカップはドライフラワーが崩れる様に簡単に四散し、漆喰の壁には蜂蜜を塗った様に紅茶の垂れる跡が残った。
「……か……б……бо……か、神様……」
 シオンは両手で頭を抱え、会長室の執務机に両肘を着いた。白に近い金髪にディスプレイの青みがかった光が反射している。悪い夢から覚めようとする様に首を振る。一瞬でカラカラに乾いた喉の粘膜が貼り付き、思わず咳き込んだ。
「はっ……はぁ……は……」
 呼吸を乱しながらディスプレイを見ないように立ち上がる。ふらつきながら深紅のブレザーと自分で墨染めしたグリーンチェックのスカートを脱ぎ捨てた。給湯スペースの奥のシャワー室に向かいながら下着を取り、シャワーコックを全開にした。冷たい水がレインシャワーから飛び出し、思わず身体が跳ねた。
 吐水が徐々に水から湯に変わる。混乱していた精神が湯に溶かされる様に、徐々に平静を取り戻して行くのがわかった。
 シオンは久留美の捜索と蓮斗の調査をする傍ら、アンチレジストについての調査も進めていた。自分も所属しているとはいえ、あの組織はあまりにも謎がありすぎる。豊潤な資金源や構成員の正確な人数、そしてトップであるファーザーの素性。アンチレジストに対する調査は警察の内部資料を盗み出す以上に大変だった。しかし今日、ハッキングソフトがひとつの答えを出した。そしてそれはシオンを大きく混乱させた。
 頭からシャワーを浴びながら、こめかみを揉んで乱れた心を落ち着かせる。まだ調査が必要だ。自分はまだ氷山の一角を見ただけだ。今は久留美の救出を第一に考えなければ。
 シオンはシャワーから出るとタオルで全身を押さえる様に水を拭き、部屋の姿見で自分の身体を点検した。異常は無い。肌はつるりとキメが細かく、左右のバランスも良好だ。怪我や手術の跡も無い。しかし、シオンは自分の身体があまり好きではなかった。大嫌いというわけではないが、どちらかといえば好きではないという程度に。胸は同年代のそれよりも大きく育ち過ぎて、まるでフィクションの中に登場する娼婦の様だと思っていた。髪の色も肌の色も色素が薄過ぎてどこかに消えてしまいそうだ。そして日本人の要素が全く見られない。自分はどこか間違った存在ではないかと、シオンは常に思っていた。
 新しい下着を付け、髪にタオルを巻き付けたまま割れたカップを片付ける。汚れた壁を拭きながら、カップを叩き付けるなんてどうかしていると思った。ここまで心が乱れた事は今まであっただろうか。まだ、そうと決まった訳ではないのに。偶然の可能性の方が高いはずだ。改姓した人が多いとはいえ、元々はありふれた姓であり、まだその姓のを名乗る人は多く残っている。アンチレジストの送金者リストのトップに記載された姓。ラスプーチナ。まだあの国にはその姓の人は大勢いるはずだ。自分の生家と同じ姓を持つ人は、何人もいるはずだ。しかし、自分の生家と同じ姓で、同様かそれ以上の財力を持つ家系を、シオンは思いつく事が出来なかった。

イベントレポ当日編です。
ちなにみ事実の歪曲多めです。
明日からは通常営業に戻ります。






 イベント当日。
 日暮里にある友人(ブルジョワ)のマンションで目が覚めた。午前七時。外はもう明るい。友人はまだ寝ている。とりあえず友人に
「俺、先週誕生日やったで」
 と声をかけた。卑しくも、あわよくば朝飯を奢ってもらおうという魂胆である。しかし友人は眩しそうに片目を開けると
「そうか」
 と、言いってごろりと寝返りを打った。まるで付き合いの浅い知人から昨日の夕飯の献立を聞いた時の様な反応である。僕は友人の冷蔵庫を開けると、開封していないミネラルウォーターを取り出し、部屋の中の観葉植物に水をやった。植物もたまには贅沢をしたいだろう。
 軽い倦怠感を覚える。初期の二日酔いの症状だが、幸い頭痛は無いようだ。
 会場まで電車で十五分という好立地に泊まったため、のんびりとシャワーを浴びる。髪を洗いながら、昨日の前夜祭のことを思い出そうとしたが、所々記憶が飛んでいる。ここまで痛飲することはめずらしい。なにか迷惑をかけていないといいのだが……。
 昨日は主催のやんでれないさんの計らいで事前に新橋で合流し、少し遅れはしたものの店まで辿り着いた。ちなみに遅れた原因は僕が新宿の改札を出た瞬間にやんでれさんとはぐれたためだ。流石は魔都新宿。よそ者には容赦なく牙を剥く街である。
 用事のあるAwAさん以外は無事に集合場所に到着していた。個室に通され、幹事なので一番下座に座る。
 初めての店なので、常連のたいじさんに注文を見繕ってもらう。それにしても、なかなかこだわりのありそうな店である。なんでも店の料理に合わせて、浦霞の蔵元に日本酒を特注しているらしい。軽く乾杯を済ませ、運ばれてきた料理に箸を付ける。名物はクジラだ。初めて食べたが、魚というより肉……特に馬肉に近い。たいじさんに食べ方を指導してもらいながら次々に口に運び、特注の日本酒をあおる。これがとてつもなく合う。日本酒は濃厚でどっしりとした旨味で、動物的なクジラの脂に負けないパワフルな逸品だった。お互いを補い合う相性。もう結婚してしまえ。
 AwAさんが合流し、あらためて乾杯を済ませて宴は佳境に。
 時間が経つにつれ「拷問」とか「内臓」とか「ホモ」とか不穏な発言が増えてきたが、端から見れば楽しい飲み会である。周りで飲んでいる客や店は、まさかここで飲んでいる男女が猟奇的集団であるとは気がついていまい。
 頻繁に顔を出している店員さんが、「これはクジラの小腸です」と料理の説明をした際に、
「へぇぇ……小腸かぁ……」
「わぁい、小腸さんだぁ!」
「これだけ太かったら巻き取るの大変ですね」
 と、参加者の目が怪しく光った事もおそらく気がついていないだろう。
 終盤、記憶が曖昧になってくる。
 たしかミストさんと腹パンチについて話をして、あおさんの学生証でクリームチーズを食べたことはなんとなく覚えているが、それ以外の記憶が殆ど無い。というかどうやってこのマンションに来たのか覚えていないのだ。迷惑をかけていなければいいのだが……。
 シャワーから出ると、友人はまだ寝ていた。
「あのさ」
 と、僕は声をかけた。
「今日イベントなんだ。売り子手伝っておくれよ」
「……なんのイベントさ?」
 友人は眩しそうに顔をしかめたまま上半身を起こした。
「ほら、俺がいつも書いてるやつ」
「ああ……あの、腹を殴るやつか……。悪いけど、全然興味が無いんだ」
「そう言うなよ。座ってお金を管理してくれるだけでいいからさ。一人だと何かと大変なんだ。もちろんお礼はするし、交通費も出すよ」
「本当に興味が無いんだ。それに、今日は荷物が来るし……」
 そう言うと、友人は話を遮って部屋を出て行った。なんて薄情な奴だろう。僕はトイレのドアが閉まるのを確認すると、友人が大切にしている「まどか☆マギカ ブルーレイディスクボックス」を開けてディスクをシャッフルした。
 いつの間にか出発の時間になった。僕は、「あれ? ミネラルウォーターが無いぞ?」という友人の声を無視してマンションを出る。
 浅草橋。
 初めて訪れる場所である。
 駅の階段を上がって地上に出ると、警察が厳戒態勢を敷いていた。真っ黒い格好に大荷物を抱えたまま目を白黒させている僕に、三名ほどの警官の視線が刺さる。その中の一人がゆっくりと近づいてきた。
 やられた。
 どうやら主催に二重スパイをかけられたらしい。
 国家権力の目をかいくぐってイベントを主催したと見せかけて、実はそれ自体がリョナラーを一網打尽にする罠だったとは!
「向こう側へ行きたんですか?」
「え? は、はぁ……まぁ……」
 目的地を聞いてくる。どうやら尋問が始まったらしい。仲間(ほかのサークル)を売る事だけは避けなければ。
「あー、今日はですね。東京マラソンをやってまして、地上からだとずっと向こうの歩道橋からしか渡れないんですよ。すぐ行きたいなら一度戻って地下道を……」
 警察は普通に道案内をしてくれた。どうやら情報は流れていても、まだ面は割れていないらしい。僕は礼を言うと、足早に来た道を戻って地下に潜った。
 それにしても、危ない所であった。鞄の中にはキャラクターのアレなシーンをプリントした紙が沢山入っている。ボストンマラソンの爆発事件からもうすぐ一年。東京マラソン当日にあまりに場違いな大きなバッグを抱えて歩いていたら、中身を確認されてもおかしくはない。中身を見られたら、良くて任意同行だろう。
 受付を済ませ、主催や以前イベントでご一緒させていただいたTOMさんに挨拶を済ませる。TOMさんは相変わらずイケメンで、今日はスタッフらしい。心強い。
 自分のスペースに移動。先に来られていたお隣の黒羽ユウさんに挨拶をする。大きな身体にサングラス。強そうだ。おそらく腹パンされたら背骨が砕けるだろう。失礼が無いようにしなくては……と緊張したが、気さくな方であった。
 テーブルの下には印刷所から届いた段ボールがあった。緊張しながら本が詰まった段ボールを開ける。「おお」と声が出た。エンボスマット加工を指定した表紙に、インパクトを付けるために一頁目からぶち込んだカラーイラスト。素晴らしい。グレースケールにした他のイラストや文章も問題が無い。そして本の厚みがこれまでの三年間を思い出させる。
 準備を進めていると、何やら外が騒がしくなってきた。どうやら列が長くなってしまったため、開始より少し前であるが参加者を中に入れるらしい。
「フライング販売厳禁でーす」
 と、黄色いサングラスを掛けた主催が叫ぶ。
 なんとなくテーブルの上を見る。開いていたカタログの一頁目に書いてある「りょなけっとの掟その壱……スタッフの指示に従わない者は、殺す」の文字がいやに濃く見えた。
 ありがたいことに、ブースの前に列が出来る。ここまで色々なサークルが参加している中で、真っ先に自分のブースに来てくれるなんて本当にありがたい。他のブースを見ると、どのサークルにも列が出来ていた。ここは世界で最もリョナラー密度が高い場所なのだと思うと不思議な気分になる。
 開始から一時間。人口密度がかなり低くなってきた。この手のイベントは開始から一時間が過ぎると急に暇になる。今のうちに挨拶をしておこうと思いブースを離れた。
 一番遠いスペース。僕のスペースから対角線上には冬コミの打ち上げで一緒だったHAAさん、キュリーさん。イベント開始前にわざわざ挨拶に来て下さった原崎さんやスガレオンさん。昨日前夜祭に参加したたいじさん、AwAさんがいるはずだ。
 総集編を小脇に抱え、心躍らせながら足早にスペースに向かう。しかし、うっかりしていた。自分は生まれついてのコミュ障。相手の前に立つと、何を喋ったらいいのかわからなくなってしまうのだ。
「あ……あの……あの……」
 とりあえず吃りながら総集編を差し出す。お前は何をやっている。何故自己紹介をする前にいきなり本を渡しているんだ。これじゃあ「俺の本やるから新刊寄越せ」と言っているみたいじゃないか。
「あ、ああ、どうぞ……」
 ほら見ろ。本を渡された。早く何か喋れ。
「あの……あの……イラスト好きです……。あの……ツイッターに上げてたやつ……」
「え? どのイラストのことですか?」
 馬鹿野郎! 主語を言わずに会話が成立するものか!
「あのほら……あの、あれです! あの……頑張って下さい……」
「はぁ……ありがとうございます……」
 挨拶するつもりが、ふしぎなおどりで相手のMPを下げてしまった。イベントはまだ三時間も残っているのに、はた迷惑な野郎である。順調に参加者のMPを下げながらスペース巡りをしていると、なぜかAwAさんのスペースに誰もいない。AwAさんも挨拶周りかなと思っていると、隣のたいじさんが
「あのババァ寝坊しやがった!」
 と悪態をつきながら本を捌いている。合体サークルが合体していないとは何とも面妖である。そういえば昨日たいじさんはどうやって帰ったのだろう。記憶の片隅に「今日AwAんちに泊めろ!」と言っていた様な気がするが……。
「あーなんか電車乗りたくなかったから、新宿で適当に知り合った外国人とおっちゃんに一人でも泊まれるホテル教えてもらった」
 なんと豪快な方であろうか。おそらく生物としての強さが自分とは根本的に違うのだろう。AwAさんもあと数分で到着するとのことで、とりあえず自分のブースに戻ることにした。
 ご近所のあおさん、mosさん、高菜さん、シャーさんOGWさんに挨拶(ふしぎなおどり)を済ませた。全員気さくな方で、そして個性的である。一目でその人の作ったものとわかる作品を作れる事は素晴らしいと思う。イベント中、ツイッターでお世話になっている黒buchiさんにもお会い出来た。
 さて、隣は自分と同じ文章サークルの宮内ミヤビさんである。宮内さんは惜しげもなく、自分が実戦されているトレーニング法や作り方等を伝授してくれた。
「この特定の単語が書いてあるカードをシャッフルしてから五枚取り出して並べるんです。左から過去、現在、未来、味方、敵対……。それぞれ対応した単語を元にストーリーを組み立てるんです……」
 普段考えなしに書いている自分とは大違いの、正統派の方法に感心するばかりである。やはり継続と積み重ねが一番大事なのだなと実感した。
 しかし途中、問題が起きた。話が盛り上がり過ぎてしまい、僕が今書いている今後の展開をネタバレしてしまったのだ。許可を取る前にネタバレするとは阿呆の極みである。言った瞬間しまったと思ったが、時既に遅し。宮内さんも「はぁ?!」と驚いている。
 まぁ言ってしまったものは仕方が無い。展開に悩んでいた事もあり、そのまま相談に乗っていただいた。
 あっという間に時間が過ぎ、アフターイベントに突入。
 主催の思惑通り、気合いの入った色紙や切絵などのガチな物の他、「よく分からないもの」が次々に出品される。リョナとは関係無い「けいおん」の時計。プレステ用の空手ゲーム。ハイエースのモデルカー。ロンドン土産のボールペン。結構本格的な拘束具セット。「主催を腹パン出来る権利」などなど……。
 熾烈な拳の戦い(じゃんけん)が終わり、一段落したあたりで主催がマイクを取った。
「えー、第一回りょなけっとお疲れさまでした。今回は予想以上の盛況で、三十サークルの定員をオーバーしてしまい、参加出来なかったサークルさんもいました」
 おお、と会場内からどよめきが起きる。
「で、ですね。九月二十八日の第二回はここのスペースに加えて、隣のスペースも押さえてあります。全部で百サークルは入るかなー?」
 ん? と会場が静まり返る。主催を囲んでいたスタッフさんもマイクを持ったまま固まっていた。主催はテーブルに置かれていたMacBookを操作し始める。
「は……? 何言ってんだお前?」
「はい、今サイトを更新しました。第二回りょなけっと、開催決定です!」
 スタッフさんの一人の声を遮り、主催が叫ぶ。なんというサプライズ、なんという演出、なんという出来る男であろうか。アフターイベントは主催の予想外の朗報により興奮が最高潮に達したところで閉幕となり、会場が拍手に包まれた。
 第一回りょなけっと、無事終了。
 本当に楽しい、楽しい一日でした。

遅れましたが、りょなけっと、無事に終了致しました!
そしてスペースに来ていただいた方、本当にありがとうございます。
参加者全ての皆様、お疲れさまでした。

総集編も、当初の予想を遥かに上回る方々の手にとっていただけました。
毎回高額ですみませんが、本当にありがとうござます。


下記に前日までのイベントレポを書きましたので、お時間のある時にどうぞ。
気が向けば当日編も書いてみます。






 マンションに着いたのは日付が変わる頃だった。ここ数日で爆発的に増えた業務に疲れきり、僕は親の仇の様にスーツをソファに投げつけた。仕方が無い。金を稼がなければ本が作れないのだ。カーテン替わりに下がっている茶色のブラインド。その上の壁には善意で描いていただいた自分のキャラクターの絵がフレームに入れて飾られている。
 命が吹き込まれた様なその絵に向けて親指を立てるのは僕の日課だ。明日も頑張ろう、そんな気分にさせてくれる。
 簡単にシャワーを浴び、パソコンのスイッチを入れるのと同時にビールをグラスに注ぐ。飲みながら明後日のイベントの参加要綱を見て、僕は、溜息を吐いた。
「(アフターイベント用の)景品として何かあればぜひお持ち下さい。(中略)リョナ関係の景品、リョナ関係ない景品。その他よくわからないものなどお待ちしております」
 見え見えのフリだ。
 今回の首謀者。
 ヤンデレない。
 あの男が考えそうなことだ。
 おそらく参加者を試すつもりなのだろう。
 製作に必死な奴らは全力で作品を作れ。そして時間的経済的に余裕がある奴はアフターイベント用の景品を持ってこい。ところで、貴様はイベントに参加する以上エンターテイナーの端くれなのだろうな? たった一人でも、自分以外の人間を楽しませることが出来るのだろうな? もう一度言おう……よくわからないものを持って来い……。
 僕は畜生と毒づきながら机を叩いた。壁に飾ってある絵がずれて、慌てて直した。
 九州を駆け回り「よくわからないもの」を探したはいいものの、僕には何も見つけることが出来なかった。候補に挙げていた「灰汁巻き(餅米を竹の皮で包んで不穏な黒い汁に付けたお菓子。お菓子と名乗りながらも味は無い)」や「鯖寿司」が賞味期限の関係でボツになり、必死に駆け回ったにもかかわらず結局何も見つけることが出来なかった。
 まぁいい。諦めよう。
 二本目の缶ビールを開けた所で、僕はイベントで使うポップや値札を作っていないことに気がついた。ブログで告知したとはいえ、新規の方も来る。僕は半泣きになりながら画像編集ソフトを起動した。
 時刻はすでに深夜一時を過ぎている。
 もう値段だけわかればいいや……と、投げやりな気持ちでチラシとポップを作る。酔いの為か途中操作を誤り、シオンさんの顔がえらいことになってしまった。極めて温厚な彼女も、おそらく日頃腹を殴られて続け、彼女なりにかなり不満が溜まっていたのだろう。結構本気で怖かったので慌てて消した。

02


 床に着いた時は三時を大きく過ぎていた。遅刻したらどうしよう……という不安をよそに、七時前にはすっきりと目が覚めた。これが遠足効果なのだろうか。やはり楽しいことに疲労は無縁である。途中職場に寄り、昨日残した仕事を片付けた。サービス残業ならぬサービス出勤である。社畜ここに極まれり。まぁいい。金を稼がなければ本が(略)。
 空港に着くと、早めに手荷物検査を済ませて土産屋へと向かった。景品の「アタリ」である博多通りもんを購入。だめだ。これでは主催者の御眼鏡(黄色いサングラス)に適わない。半ばヤケクソになって「あごだし(飛び魚から取った出汁。意外と高い)」でも買おうかと思った頃、陳列棚の隅で肩身の狭そうに佇んでいるあるものが目に飛び込んで来た。
 「替玉」である。
 替玉……福岡在住の人々にとって、「こんにちは」に並ぶ頻度で発言される言葉である。替玉。袋にでかでかと書かれた力強い筆跡。そして几帳面に揃えて入れられた博多細麺。素晴らしい。これぞまさに「どうしようもないもの」だ。なにせこれは「麺」ではなく「替玉」。おかわり用の麺なのだ。
 おかわり用であれば、当然一杯目に入れることは許されない。しかも博多細麺は醤油ラーメンに致命的に合わないのだ。
 当選者はりょなけっとで手に入れた替玉を握りしめて福岡に行き、店でラーメンを頼んで麺のみを平らげ、店員に東京から持参した「替玉」を差し出しながら、「あの……これ……茹でて下さい」と言わなければならないのだ(そこまで本当にするのかはともかく)。
 これはもはや景品ではなく、地獄への片道切符だ。
 せいぜい当選者はパスポートを持って福岡に向かい、飛び交う銃弾をかいくぐりながら豚小屋の様な匂いをまき散らすラーメン屋に向かうがよい。運が良ければ店主に頭を打ち抜かれずに、帰り道に薩摩芋の如く埋まっている手榴弾に片足を吹っ飛ばされるくらいで済むだろう。
 荷物と「替玉」を抱えながら無事に東京に着いた。
 前夜祭に参加するために主催のヤンデレないさんと量産型ねこさんと合流し、たいじさん行きつけのクジラ料理の店がある新宿に向かう。主催は何やら長い棒を持っていた。すわ仕込み杖かと警戒して距離を取る。主催はポスタースタンドだと誤摩化しているが、どうせ不当な手段で入手した物騒な物だろう。幸い、さすがの主催も山手線の中で抜刀(もしくは爆破)して事を起こす訳にも行かず、至極平和に新宿に着いた。
 参加者全員は前夜祭の店につつがなく合流した。リョナラーは頭の中は地獄絵図だが本人は至って真面目である。席は自分から見て左回りにたいじさん、ミストさん、量産型ねこさん、AwAさん、ヤンデレないさん、藤沢金剛町さん、あおさんであった。
 店は名物のクジラをはじめ、出て来るもの全てが美味であった。酒へのこだわりは強く、有名な酒蔵に料理に合わせたオリジナルの日本酒を依頼する気合いの入れ様である。
 気がついたらその店限定の日本酒の空瓶四本が転がっていた。日本酒を飲んでいたのは四名。一人一本ペースである。
 自称東大生のあおさんに会計を任せ、その日はお開きとなった。出来れば二次会へという気持ちもあったが、本日泊めてもらうブルジョワの友人から「眠いから早く来い」というメッセージがひっきりなしに来ていたため泣く泣く駅に向かった。
 明日はリョナラーが一度に集うりょなけっと本番である。
 果たして無事に帰ることが出来るのだろうか。

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印刷所から「発送完了」連絡をいただきましたので、どうやらりょなけっとにて無事に本が出せそうです。

繰り返しの内容が多いですが、あらためてイベントや配布物について連絡します。


イベント概要

開催日:2014/02/23(日)
日程 :即売会 11:00〜15:00(終了後アフターイベント有り)
会場 :東京卸商センター3F展示場
    ※18歳未満入場禁止です。入場の際に年齢が確認可能な身分証明書を持参下さい。
ЯИR :No.28


Яoom ИumbeRの配布物

・タイトル
 [GHØSTS]

・ページ数
 116ページ(表紙込み)

・内容
 RESISTANCE CASE: AYA
 RESISTANCE CASE: TWINS
 RESISTANCE CASE: ZION -THE FIRST REPORT-
 RESISTANCE CASE: ZION -THE FINAL REPORT-
 ※一部加筆修正(詳しくは先日更新した「AYA1」「AYA2」等のサンプルをご覧下さい)

・文章
 上下二段刷(基本30文字×30行×2段)

・再録イラスト
 モノクロ16枚(CASE: AYA_4枚/CASE: TWINS_4枚/CASE: ZION_8枚)

・新規イラスト
 フルカラー4枚(シオン中心。腹責め×2枚、その他×2枚)

・価格
 2000円

・注意事項
 18歳未満の方は購入出来ません
 ※イベントそのものが18歳未満入場禁止です。入場の際に年齢が確認可能な身分証明書を持参下さい。

では、当日はよろしくお願いします。

りょなけチラシ2

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