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 シオンはメールが無事に送信されたことを確認すると、深いため息を吐きながら力尽きたように執務机に突っ伏した。
 いや、実際に力尽きたのだ。今回翻訳を担当した論文は専門用語が特に多く、しかも英語からドイツ語、フランス語、日本語へと三ヶ国語分を依頼されていた。いつも通り主だった作業は外注したのだが、原文自体が難解なためシオン自身によるチェックや修正に予想以上の時間と手間がかかってしまった。余裕を持って組んでいたスケジュールも人妖の出現多発で想定よりも遅れ、気がつけば納期当日。結果的に間に合ったとはいえ、ここ数日は深夜まで作業を進めていたので疲労はピークに達していた。
「今から帰っても寝るだけか……」
 執務机に頬をつけたまま時計を見ると、日付が変わるか変わらないかという時間だった。同時にくーっとお腹が鳴る。そういえば夕食も済ませていなかった。せっかく早起きしてパスタソースを作ってきたのに冷蔵庫に入れっぱなしになっている。
 うう……と呻きながらシオンは椅子から立ち上がり、伸びをしたまま片手で口を隠して欠伸をした。眠そうな顔をしたまま小鍋でたっぷりの湯を沸かし、グラグラと煮立ったところで火を止めてディンブラの茶葉を多めに入れ、軽くかき混ぜて蓋をする。アイスティーは都度作るよりも鍋で大量に作るべきだとシオンは考えている。同じ茶葉を使ってもアイスはホットに比べ絶対的に香りで負けるため、割り切って味の安定を目指した方が紅茶としては良い。保存も効くため急な来客にも対応できる。
 茶葉を煮出しながら、今日はこのまま泊まってしまおうとシオンは思った。
 替えの下着やシャツは常備してあるし、アナスタシア聖書学院には運動部向けの広いシャワールームもある。学院を私物化しているみたいで気が引けるが、移動時間を考えると泊まった方が明日のコンディションが良いはずだ。
 グラスにたっぷりの氷を入れて抽出の終わった紅茶を注ぎ、多めにミントを入れてバースプーンで潰した。清涼感と爽やかな渋みが疲れを溶かしてゆく。夕食は迷ったが、体型維持のために食べないことにした。紅茶の残りをガラスサーバーに取って冷蔵庫に入れ、熱めのシャワーを浴びて生徒会長室に戻ると強烈な眠気が襲ってきた。シオンは下着の上にパジャマがわりにシャツを羽織り、ソファに横になって毛布をかぶると数分で眠りに落ちていった。

 シオンは微かに寝息を立てながら安らかな顔で眠っている。
 金色の長いまつ毛がようやく顔を出した朝日を浴びて砂金のようにきらめいていた。背中に敷かないように胸の上でまとめられている長い金髪が、風もないのにかき分けられる。肩までかけていた毛布もゆっくりとめくられて床に落ちた。
 下着とシャツしか身につけていないシオンの肢体があらわになると、何もない空間からごくりと唾を飲む音が湧き上がった。
 胸の大きさのためにシャツのボタンが悲鳴をあげている。合わせ目の隙間から、細かい刺繍の入った高価そうなブラジャーが覗いていた。サイズからしておそらく特注品であることは間違いない。獣のような息遣いが強くなり、シオンの胸が太で指に鷲掴みにされたように凹んだ。

 叫び声が自分のものだと認識するまで少し時間がかかった。
「……夢?」と、ソファから跳ね起きたシオンが周囲を見回しながら言った。いつもの生徒会長室だ。壁の時計は五時十五分を指している。
 嫌な夢だった。
 夢の中でシオンは石板のような物の上に寝ていて、金縛りにあったように身体の自由が利かなかった。建物の中なのか、それとも森の中なのかすらわからない。状況に困惑していると、やがて石板と地面の隙間から太い蛇が十匹ほど這い出てきて、一斉にシオンを睨んだ。声を上げたくても、声帯が石のように固まっていた。蛇は赤い舌をちらつかせながら、脇や肩からシオンの体をゆっくりと這い上がり、胸や首に絡みついてきた。鱗のザラザラとした感触がシオンの肌をなぞり、ついに嫌悪感が臨海に達したところで目を覚ました。
 無意識に動いたのだろう。シャツは第三ボタンまでがはだけていて、毛布は完全に床に落ちていた。
 シオンはため息をつきながら頭を振り、額に貼り付いた前髪を指で払うと落ちた毛布を丁寧に畳んだ。無意識に蛇を探してしまうが、もちろん一匹もいない。首元や胸には玉の汗が浮かんでいて、シャツも寝汗を吸って重くなっている。この時間ならシャワー室には誰もいないだろう。シオンは歯を磨いて昨夜作ったアイスティーで喉を潤すと、着替えとタオルを持って生徒会長室を出た。
 シャワールームは案の定、誰もいなかった。
 脱衣所でブレザーとスカートをハンガーにかけ、ソックスを脱いでランドリーポーチに入れる。髪ゴムを口に咥え、シャツのボタンを全て外したところで、脱衣所からシャワールームへ続く自動ドアがひとりでに開いた。反射的にシオンがそちらに顔を向け、そのまま石像のように数秒固まった。動くものは何も見えない。しばらくすると自動ドアは何事もなかったかのようにゆっくりと閉まった。
「……え? なに……?」
 シオンは髪ゴムを置き、警戒しながら自動ドアに近づいた。身につけているものは下着と前のボタンが全て開いたシャツのみという無防備な格好だ。巨乳のためシャツが大きく開き、引き締まった腹部からショーツまでが晒されている。
「誰かいるんですか……?」
 開いたドアから恐る恐る声をかけるが返事はない。警戒しながら中に入るが、人の気配もなかった。左右に七つずつ仕切られたシャワーも全て扉が開いている。
 気のせいか、とシオンは思った。
 こんな早朝に学院内に人がいるわけがない。自動ドアもおそらく誤作動か何かだろう。しかし、踵を返して足速に脱衣所に戻ろうとしたシオンの腹部に強い衝撃が走り、身体が硬直した。
「……ぐぷッ?!」
 強制的に肺の空気が押し出され、胃のあたりから猛烈な不快感と苦痛が広がる。
 ゆっくりと視線を自分の腹部に落とすと、開いたシャツの間の生腹が握り拳のような形に陥没していた。それを理解した瞬間、電撃のような苦痛がシオンに襲いかかった。
「な……に……? んぶぅッ?!」
 ダメージは深刻だった。不意打ちなどという生やさしいものではない。完全に油断しきった状況で、なおかつ足速に歩いていた勢いもあり、透明な拳はシオンの腹に予想以上に深くめり込んでいた。膝から崩れ落ちそうになると、透明な何かはシオンのブラジャーを掴んで引き起こし、再びヘソの辺りを突き上げた。
「おごぉッ?!」
 シオンの両足が浮くと同時に、更なる追撃が襲った。人間の力ではない。掴まれていたブラジャーが引きちられ、トラックに撥ねられたような威力で背中から壁に叩きつけられた。目の前に星が飛び、一瞬視界が真っ暗になる。
「げほっ……げほっ……ゔッ?! うぶッ! おぐッ! ぶぐッ! ゔぶッ!」
 透明な何かはシオンを壁に磔にするように、執拗にシオンの腹部を連続で殴った。相手が全く見えないため防御も対処もできず、シオンはされるがままに相手の攻撃を受け入れる。側から見れば、シオンが一人で奇妙なダンスをしているように見えるだろう。だが、相手は確実にいる。おそらく人妖……いや、賎妖(せんよう)と言われる怪物だろうとシオンは思った。賎妖は人妖ほど優れた身体能力や頭脳、容姿を持たない代わりに、それぞれが弱点を補うような特殊能力を持っている。透明になれるという能力は聞いたことはないが、それ以外に説明がつかない。
 シオンは床付近にある清掃用の蛇口を蹴った。激しく水が流れ出すが、その隙に鳩尾を鋭く突かれる。
「ゔあッ?!」
 急所を突かれ、上体がぐらりと傾いたところで胃の辺りに掌底を打ち込まれた。
「おごッ!? ゔ……うぷっ……!」
 直接内臓を握り潰されたようなダメージがあり、胃が痙攣を起こして激しく収縮した。起きがけに飲んだ紅茶まじりの胃液が食道を迫り上がる。息をつかせる暇もなく、ゴツい拳が再びシオンの鳩尾に埋まった。シオンは電撃に打たれたように身体を跳ねさせると、たまらず窄めた口から茶色がかった透明な液体を吐き出した。液体が空中に肥満男性の胸と腹のシルエットを描いて床に落ちる。やはり賎妖か、とシオンは途切れかけた意識の中で思った。

 男は自分に向かって倒れかかったシオンを抱きとめた。首筋や髪の毛から今まで嗅いだことのないような甘い香りが漂い、くらくらとした目眩を覚える。
 男はシオンの読み通り賎妖と呼ばれる存在だった。人妖と同様に異性の人間との粘膜接触で養分を得るのだが、人妖のように異性を魅了するような優れた容姿や、チャームと呼ばれる魅了効果のある体液を分泌することができない。この男の場合も例に漏れず、異性の調達は透明化の能力を用いて施設に忍び込んで強姦するか、弱みを握ってアジトへ連れ去るといった卑劣行為に及ぶことで糊口をしのいでいた。人妖のように多くの女をはべらせて、先を争うように奉仕させるような状況など夢のまた夢だ。奉仕どころか、女の目に男の姿が映ることすらないのだから。男の相手をさせられる女はいつも泣き叫び、親の仇を見るような目で睨むか、地獄の鬼を見るような目で怯えた。だから男も選り好みなどせず、養分補給を優先してとにかく隙のある女をもっぱらのターゲットにしていた。
 だが、今日は違った。
 今朝方、腹を空かせた男は名門校のアナスタシア聖書学院に忍び込み、目ぼしい女を餌食にしようと探っていたところでシオンを目撃したのだ。
 雷に打たれたような──という表現があるが、まさにこの事かと男は思った。
 白に近い金髪に緑眼の白人女性。周囲の生徒と同じ制服を着ているが、シオンは虹色のオーラを纏っているかのように明らかに周囲から浮き上がって見えた。モデルのような引き締まった体型に、男の視線を釘付けにするような胸と太もも。ニコニコと周囲の女子生徒と話している様子を男は唾液が垂れていることにも気が付かずに凝視した。名門校なだけあって周囲の女子生徒も垢抜けた雰囲気だったが、シオンのそれはまさに外来種と言っていいほど周囲の生態系を破壊していた。
 犯すならこの女しかない、と男は思った。
 普段の男であれば周囲の女子生徒でも十分すぎる獲物であったが、魅入られてしまった男はシオンをストーキングすることにした。
 どうやらシオンはこの名門校で生徒会長をしているらしく、学業の合間を縫って頻繁に教師や生徒と打ち合わせをしていた。多忙な様子だったが、打ち合わせをした相手の誰しもがシオンに対して憧れや好意を抱いていることがわかった。完全に外国人の見た目に反して日本語の発音は男とたむろしている賎妖仲間よりも綺麗であり、語彙力も高いように思えた。
 そのような状態で昼間は一人になることがなく、放課後になって生徒会長室に入っても絶えず来客があった。このまま来客の誰かと帰宅されたら襲えなくなると落胆したが、運は男を見放さなかった。シオンは何かの作業に没頭してるらしく、深夜に入浴道具を持って、疲れた様子で部屋を出ていくまで生徒会長室に篭りきりだった。ドアの施錠はされていなかった。男はようやくチャンスが来たと思いこっそりと中に侵入したが、一日中気を張っていたためかシオンを待つ間に部屋の隅で眠りこけてしまった。目を覚ますと明け方になっていて、目の前のソファでシオンが静かな寝息を立てていた。

 男は自分にしなだれ掛かるように倒れたシオンの顔を覗き込んだ。
 近くで見ても恐ろしいほど整った容姿だ。
 力なく瞑った瞳に半開きの口元。雪のような白い頬に金糸のような髪が貼り付いて艶かしい色気を加えている。シャツ越に柔らかく大きな双丘が男の裸の胸でつぶれ、たちまち股間に血液が集まってきた。
 男は荒い息遣いで慎重にシオンを床に寝かせ、馬乗りになってシャツの上から両胸を鷲掴みにした。手に余るほどの巨乳に指が埋まり、シャツ越しの素肌はとろけるような柔らかさと張りが絶妙なバランスで混在している。普段の生活では会話すらできないほどの女の胸を揉みしだいているという現実に、頭の芯が焼き切れそうになる。
「んっ……う……」とシオンも微かに反応を示す。男はシオンのシャツを強引に開いた。ボタンが千切れ、ぶるんと音がしそうな勢いで汗に濡れた胸が全て露わになる。男は無我夢中でシオンの胸を捏ね回し、片方の乳首に吸い付くとジュルジュルとわざとらしく音を立てた。
「はぁぁ……たまんねぇよ……」
 男は唾液を飲み込むのも忘れ、舌先で乳首を転がしながら空いた手をシオンの股間に伸ばした。
 だが同時に、シオンはうっすらと目を開けた。
 しばらく不思議そうな顔でグニグニと音が聞こえてきそうなほどいやらしい形に変形している自分の胸を見る。
 男は咄嗟にシオンから離れようとしたが、その直前にシオンの表情が切羽詰まったものに変わり、仰向けのまま膝を蹴り上げた。
 膝が男の股間にクリーンヒットし、地獄のような悲鳴が響く。その隙にシオンはシャワー室のひとつに身を隠した。息を殺して待ち、気配を頼りに男が近づいてきたタイミングで全開にしたシャワーを浴びせた。
「ぶあっ?! やべぇっ……」
 水が男の身体を伝って流れ、シルエットを完全に浮かび上がらせた。シオンは男に足払いをかけて転倒させると脇腹を蹴り上げる。男は四つん這いのまま個室に逃げ込むが、清掃用の蛇口から流れ続けた水が大きな水溜まりになり男の足跡が丸見えだ。シオンは跳躍し、男の背中に膝を落とした。
「がああああッ?!」
 シオンの思わぬ反撃に男は混乱したまま悲鳴を上げる。出鱈目に暴れて抵抗するが、シオンは冷静にレインシャワーのコックを捻って男の全身を浮かび上がらせた。その後は一方的だった。男の筋力は通常の人間よりはあるが、その攻撃は単調で姿さえ見えればシオンにとって難なく躱せるものだった。自ら逃げ込んだシャワー室で男は完全に袋小路に陥り、シオンは何発も男の腹に膝を埋めた。そしてたまらずシオンを突き飛ばして浴場に出たところで、派手な音を立てて滑って転んだ。
 水溜りがくっきりと、うつ伏せに倒れた男の形に凹んでいる。
 シオンは男を仰向けにすると、胸に馬乗りになるような姿勢で両膝で男の頸動脈を絞めた。男の顔色は見えないが、これで傷付ける事なく失神させられる。その後はアンチレジストに回収を頼めばいい。
 だが、男は最後の力を振り絞ってシオン目掛けて霧状に水を吐いた。
 倒れている時に水を口に含んでいたのだろう。シオンは一瞬怯んだが、その直後に目に激痛が走った。男はシャワー室で攻撃を受けている最中に石鹸の欠片を口に含み、水と一緒に咀嚼して吐き出したのだ。激痛でシオンが男を解放した隙に、男は立ち上がる勢いを利用して渾身の力でシオンの腹を突き上げた。
「ゔっぶぇッ?!」
 シオンの両足が浮き、だらしなく舌が飛び出した。完全に弛緩した生腹に背骨が触れそうな勢いで拳が埋まり、視界が一気に狭まる。
「よくも好き勝手やってくれたなぁ……。犯されるだけで済むと思うなよ?」
 男は腹を抱えて前屈みになっているシオンのシャツを背中から掴み、逃げられないように固定した。
 どぶん! という凄まじく重い音が室内に反響した。
「ゔあぁぁぁぁッ?!」
 丸太のような膝が深々と腹にめり込み、シオンは体内の空気を全て吐き出す勢いで悲鳴を上げた。
「おら! おら! おら! おら! おら! おら! どうだ! 何発も腹に膝蹴りくれやがって。同じ目に遭わせてやるよ」
「うぶッ?! おっぐぇッ?! ぐぶッ!! ぐあッ!? あぐッ!?」
 シャツを掴まれたことでシオンは後ろ手に縛られた状態と同じになり、男の猛攻を防御もできずただ受け止めるしかなかった。賎妖とはいえ力は常人よりも強い。一撃だけでも失神するほどの威力の膝蹴りを執拗に何発も何発も息つく間も無く打ち込まれ、収縮した瞳が瞼の裏に隠れ始めた。
「う……うぁ……あ……」
 ようやく地獄のような膝蹴りの連打が終わると、男は意識が朦朧としたシオンの背中を壁に押し付けた。シャツの前立ては完全に開いており、胸の谷間から鳩尾を通って引き締まった腹部までが露わになる。男は薄布一枚すら守るものが無い状態の鳩尾に、撞木のような拳を突き刺した。
「ひゅぶッ?!」
 急所を突かれ、シオンの意識は一瞬で覚醒し、次の瞬間には混沌に叩き落とされた。
「おら、ここ弱いだろ? 男でも鳩尾突かれたら悶絶するからな」
「ゔッ……がッ?! ああああッ!」
 男はシオンの鳩尾に深く拳を突き刺したまま、抜かずに反応を楽しんだ。拳をグリグリとねじ込み、心臓の鼓動と呼吸が阻害される。苦痛でシオンは空気を求めて口をパクパクと動かした。男は責め苦を続けながら、あらためてシオンの身体を舐め回すように凝視した。汗やシャワーの水でシャツがぴったりと貼り付き、シオンの胸や乳首の形を浮かび上がらせている。男は空いた手でシオンの胸を乱暴に揉み始めた。
「ぐっ……うぅ……」と、シオンは歯を食いしばったまま呻いた。鳩尾を貫かれたまま見知らぬ男に好き放題に胸を揉まれているという苦痛と恥辱に耐えながら、気丈にも男を睨みつける。視界はまだ戻っておらず、男は透明化を解除していないため、もちろんシオンから男の姿は認識できない。
「……なんだその目は? まだ自分の立場がわかってねぇみたいだな」
 男はシオンの鳩尾から拳を抜くと、激しく咳き込むシオンの呼吸にタイミングを合わせて子宮のあたりに拳を打ち込んだ。
「ゔあッ?!」
「女の急所はここだろ? ガキ産めねぇ身体にしてやってもいいんだぜ?」
 ボグッ! ボグッ! ボグッ! ボグッ! と、男はサンドバッグを殴るようにシオンの子宮に連続して拳を埋めた。シオンも必死に防御しようとするが、相手の姿が見えないためほとんど意味をなさない。
 男の攻撃は執拗だった。子宮のある下腹部を守ろうとすると鳩尾を突かれ、シオンが前屈みになった瞬間に腹を膝で蹴り上げられ、上体が起きると同時に再び子宮を潰した。反撃を試みる暇もなく、シオンは襲いくる激痛に大粒の涙を流しながら床に崩れ落ちた。
 男は自らの股間にシャワーを浴びせると、腹を抱えて割座の姿勢でうずくまっているシオンの髪の毛を掴んだ。顔を上げさせられたシオンの口から「ひっ」と小さい悲鳴が漏れた。完全に勃起した男性器のシルエットが力を誇示するように浮かんでいる。
「へへ、太いだろ? アジトに連れ込んでから実際に見せてやるよ」と言いながら、男はシオンの頭を両手で掴んだ。男根の放つ熱気がシオンの鼻先に伝わってきて、先端が半開きになっている口元を狙っている。
 不意に自動ドアが開いた。
 シオンと男は咄嗟に音の方向に視線と向ける。アナスタシア聖書学院の制服を着た背の低い女子生徒が、不安そうな表情で脱衣所からこちらを覗き込んでいる。早朝学習か自主トレ後に朝シャワーを楽しもうとした生徒が騒がしさに気がついたのだろう。
 男の行動は早かった。
 女子生徒を認識した瞬間にシオンを突き飛ばし、自動ドアに向かって走った。
 床に溜まった水がバシャバシャと音を立てながら男の足形を作る。
「だめ! 逃げて!」
 まだ視界が回復していないシオンが咄嗟に叫んだが、女子生徒は事態が飲み込めず固まったままだ。
「えっ? な、なに…………ゔぼぇッ?!」
 女子生徒の身体が、腰から吊り上げられたような姿勢で宙に浮く。
 男が何の容赦も無く、ただ様子を見に来ただけの女子生徒の腹を身体が浮くほどの勢いで突き上げたのだ。シオンと違って鍛えられていない女子生徒は訳もわからない状況で不意打ちを喰らわされ、考える間もなく失神させられた。シオンからは女子生徒が宙に浮いたまま、力なく全身を弛緩させている様子がぼやけて見える。
 シオンが力を振り救助に向かおうとするが、立ち上がる前に女子生徒の身体が投げ捨てられたように床に落ちた。こちらに近づく足音が聞こえ、男のつま先がシオンの腹に突き刺さる。
「ゔぐッ?!」
「ったく、とんだ邪魔が入りやがった。せっかくアジトに連れ込んでからブチ込んでやろうと思ったのによ」
 男は両手で腹を押さえながら嘔吐いているシオンの顔を強引に上げ、貪るように唇を吸った。
「んんっ?! んんんんんんッ!」
 突然の行為にシオンは目を見開き、大粒の涙が流れる。男はシオンの口内を蛇のような舌で蹂躙し尽くすと、唾液と一緒にシオンの喉に錠剤のような固形物を押し込んだ。シオンはそれに気がついておらず、必死に男から逃れようとしている。男はシオンの唇をようやく解放すると、耳元で囁いた。
「後で連絡する。あの女を助けたかったら俺から接触するまで普段通りに過ごせ。いいか、警察に連絡したら殺す。警察以外の外部へ連絡しても同じだ。ま、警察が出てきたところで俺が捕まるはずないけどな」
 言い終わると、男は力任せにシオンを蹴り飛ばした。シオンが失神する直前、女子生徒の身体が宙に浮くように連れ去られていく様子が見えた。

 熱心に物理を教える教師の声をシオンは上の空で聞いていた。
 はたして女子生徒は無事なのだろうか。
 あの賎妖はまだ学院内にいるはずだが、昼前になっても接触はない。新たな被害者を物色してるのかもしれない。
 悩んだ末、シオンはアンチレジストに連絡することにした。机の中でスマートフォンを操作し、アンチレジスト専用のアプリを起動しようとしたところで、腹部に圧迫感を感じた。不思議に思ったのも束の間、背中に手のひらが添えられる感触があると同時に、シオンの腹部がシャツを巻き込んでベコリと凹んだ。
「んぶぅッ?!」
 慌てて両手で口を塞ぐが、教室中の視線が奇声を上げたシオンに集中する。シオンは青ざめた顔をしたまま、ゆっくりと口を押さえている手を離した。
「す……すみません。なんでもありま……んゔッ?!」
 ぐぼっ、という音と共にシオンの腹部が再び陥没する。シオンは目を見開いたまま再び両手で口を塞いだ。あの賎妖の仕業だ……とシオンは確信した。いくら最後列の席とはいえ、まさか授業中に接触してくるとは思わなかった。胸から下が机で隠れているため周囲からは見えないが、シオンからは拳の形に陥没している自分の腹部がはっきりと見える。拳は腹にめり込んだまま抜かれず、ジワジワと胃液が逆流して額に脂汗が額に滲んできた。
「だ、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですから、保健室で休んだ方が……」
 教師の言葉に、シオンは口を塞いだままコクコクと頷いた。立ち上がっても男はまだ拳を抜かない。
 前席の女子生徒が付き添いを申し出たがシオンは口元を押さえたまま首を振って断り、前屈みになったまま教室を出た。ドアを閉めた途端に強引に手を引かれ、女子トイレに連れ込まれると洗面台の対面の壁に背中から叩きつけられた。
「おいおい警告しただろ。警察に連絡するつもりだったのか?」と、男は咳き込むシオンに言った。壁に背を付けたシオンからは洗面台の鏡越しに自分の姿が見えるが、実際はその間に男が立ち塞がっているはずだ。
「……どこにも連絡なんかしていません。電話する素振りでもありましたか? あんなことをして、かえって怪しまれたらどうするんです?」
 シオンは何も無い空間を睨みながら言った。男はしばらく黙った後、「まぁいい」と言いながらブレザー越しにシオンの胸を鷲掴みにした。シオンの胸が太い指の形にグニッと凹む。シオンは「くっ」と声を出した後、歯を食いしばって悔しそうな表情を浮かべた。下手に抵抗して女子生徒に危害が及ぶことは避けたい。
 男はしばらく胸のボリュームと柔らかさを堪能した後、おもむろにシオンの手を掴んで自分の男根を握らせた。その太さと熱さに、思わず息を呑む音がシオンから漏れる。男はシオンの手を乱暴に握ったまま上下にしごきはじめた。男根はボリュームを増し、熱がシオンの手に伝わってくる。
「おら、なにボーッとしてんだよ? 自分で動かせ。手コキだよ手コキ。どうせ何回もやってんだろうが」
「て……てこ……?」
「あ? 焦らしてんのか? こうやってチンポ握ったまま上下に動かすんだよ」
 男は再びシオンの手を握り込んで上下にしごいた。手を離された後、シオンは恐る恐るといった様子で男の行為を真似る。この場で勝負を仕掛けてもいいのだが、気持ちがどこかでブレーキをかけているようだ。それに連れ去られた女子生徒の居場所もわからないため、今はこの男を倒すよりも従う方が得策だ。
「おい真面目にやれや。もっと強く握ったまま速く動かせ。ぎこちない演技なんかしやがって。遊んでるからこんなエロ乳になったんだろ?」と言いながら、男は無遠慮にシオンの両胸を捏ね回し始めた。
 シオンは悔しそうな表情を浮かべながら、言われた通りに手の動きを早めた。男はようやく満足した刺激が得られはじめたのか、汚い溜息を吐きながらシオンの両胸を揉み続ける。
「おおぉ……いいぞ。へへ……他の生徒が真面目に授業受けてるのに、お前は胸揉まれながら男のチンポしごいてるなんてな。今ほかの生徒が入ってきたら透明化を解除してやるよ。お前が授業中にスケベなことしてる変態ガイジンだってことを教えてやらなきゃな」
 顔が見えれば、おそらく男はとんでもなく下衆でおぞましい表情を浮かべているのだろう。シオンは黙って下唇を噛みながら黙々と手を動かし続けた。こんなことのなにがいいのかわからないが、男が性的に興奮していることは伝わってくる。
 男の呼吸が徐々に荒くなり、胸を揉む手つきも乱暴になってきた。その呼吸に呼応するように自然とシオンの呼吸も激しくなり、手の動きも速くなってくる。
「ぐっ……スケベ女め……おぉ……ああああいくいくいくいく!」
 男根がどくんと脈打つと、虚空から白濁した液体が放出されてシオンの太ももとスカートをべっとりと汚した。放出はすぐには止まらず、壊れたポンプのように大量の粘液をシオンに吐き続けた。
「えっ? い、いやあッ!」
「離すんじゃねぇよ!」
 射精を見ることすら初めてのシオンは驚いて手を離しかけるが、男はその手を強引に掴んで亀頭を握り込ませた。放出は壊れたポンプのように続き、シオンの手全体が生暖かい白濁液でドロドロになる。
 あまりの出来事に、ようやく放出が終わるとシオンは呆然と粘液に汚れた自分の手を見つめた。
 男は放心状態のシオンの鳩尾に一撃を喰らわせると、うずくまるシオンの頭上から声をかけた。
「今夜十時だ。あの女を助けたかったら夜十時に五階の奥の空き教室に一人で来い。場所はわかるだろ。一秒でも遅れたらあの女を連れて俺はトンズラする。お前が大人しく俺の女になるんだったら解放してやるよ。アジトに行く前に、教室で制服着たままパイズリくらいは頼むぜ。お前みたいなガイジンが日本の制服を着ているのは結構そそるからな」
 男はそれだけ言うと気配を消した。見えないだけなのか、本当に去っていったのかはわからなかった。

 生徒会長室でシオンは粘液で汚れた手と太ももを入念に洗い、除菌シートで何回も拭いた。スカートと靴下はビニール袋に入れて捨てた。
 入室前に侵入の形跡がないことは確認したが、それでもあの男がいないとは限らない。常に見られているかもしれないという緊張感で脈が早まる。
 もはやあの男を倒すしかない、とシオンは思った。
 そのためには完璧に位置を把握する必要がある。サーモゴーグルでもあればいいのだが、もちろんそんなものを用意している時間もないし、用意している様子を知られたら女子生徒に危害が及ぶ。男のターゲットが自分であるうちに対処しないと被害の拡大は免れない。
 シオンは夜まで生徒会長室で過ごし、机を整理するフリをしながら万年筆のインクを化粧品用の小さなジャーに移し替えた。あたかも出先での補充用に小分けにしたように見せかけて、数個をポケットに忍ばせる。タイミングを待ってペイントボール代わりに男にぶつければ位置が把握でき、戦闘はかなり有利になるはずだ。
 男に告げられた時間が迫り、シオンは覚悟を決めてメイド服を模したバトルスーツに着替えた。ガーターベルトの付いた白いタイツに同素材の長手袋をはめ、フリルのついたミニスカートとトップスを身に着ける。小さなエプロンを腰に巻き、髪をツインテールに結んでヘッドドレスを飾った。普段のシオンを知る者が見たら目を疑うような露出度の高い服装だった。だがシオンは至って真面目だ。タイツや手袋にはシオンの腱や関節に合わせてテーピングと同じ効果がある素材が編み込まれているし、トップスはシオンの大きな胸が戦闘で動かないように固定する役割を持っている。もちろんデザインもメイド好きなシオンのモチベーションを上げる大切な要素でもある。
 非常灯のみが点灯している廊下を進み、男の指定した空き教室を目指した。ドアの隙間からは明かりが漏れ出ている。緊張のせいか体温が上がり、心臓がこめかみに移動したように高鳴りを感じる。緊張をほぐすようにスカートに忍ばせたインク入りのジャーを指で撫でた。

 時間通りに教室の扉を開けた。
 窓にはカーテンが引かれ、灯りが外に漏れないように対策されている。
 教室の奥で、シャワー室で連れ去られた女子生徒が目を閉じたまま壁にもたれかかっていた。いや、壁からわずかに背中が離れている。よく見ると女子生徒の胸が男の手の形に凹んでいた。女子生徒は透明な男の身体にもたれかかり、背後から胸を揉まれているのだ。
「へへ……約束通り来たか……っておい!」
 女子生徒の背後から男の声がした。男が立ち上がったのか、支えを失った女子生徒の身体が床に倒れる。
「なんだよその痴女みてぇな格好は……。いや待て、聞いたことがあるぞ……アンチレジストの戦闘員でヤバいくらい強い奴がいるってな。そいつは冗談みたいなエロいメイド服着て、長い金髪をツインテールに結んだガイジンだって……まさかお前がそうなのか?」
「……強いかどうかはわかりませんが、アンチレジストでこのバトルスーツを着ているのは私だけです」
 男はしばらく呆然とした後、乾いた声で笑った。目の前にいる冗談のような格好をしたシオンこそが、今まで多くの人妖や賎妖を倒してきた宿敵であると確信したからだ。人妖ですら手こずる相手に、それより能力の劣る自分が正面から闘って勝てるわけがない。だが逆にシオンを倒すことさえできれば、自分は周囲から一目どころか別格の扱いを受けるはずだ。しかも今回は絶好の機会なのだ。
「まぁいい。とりあえず部屋の真ん中まで来い」
 男の気配が消えた。シオンは言われた通りに部屋の中央で棒立ちになる。女子生徒は薬で眠らされているらしく、微かな寝息を立てたまま動かない。シオンが全身を緊張させていると、剥き出しの腹部を男が撫ではじめた。いやらしい手つきに嫌悪感を覚えるが、インクを浴びせられる機会は一度きりだ。もっと確実なチャンスを待って行動するために、シオンは抵抗することなく男の行動に身を任せた。男の手はシオンの腹を円を描くようにさすっていく。
「……んっ……んふっ……」
 自分の意に反して吐息が漏れ、シオンは慌てて口を塞いだ。不意に撫でられている腹部からゾクゾクとした快感が駆け上がってきたのだ。反射的に男がいるであろう位置に攻撃を繰り出すが、思うように力が入らない。まるで重油の中で泳いでいるようなもどかしさを感じる。不意に背後からスカートの中に手を入れられ、尻を撫でられた。咄嗟に背後に蹴りを放つが、いつもの十分の一の力も出ない。
 シオンの緩慢な攻撃を男はことごとく躱し、小刻みに距離を取りながらシオンを翻弄した。男は満足に動けないシオンを嘲笑うかのように太ももや腹を撫で、背中をなぞったと思えば背後から胸を鷲掴みした。「あんッ!」とシオンの口から嬌声が漏れた。その声にシオン自身も驚く。男はシオンの胸を円を描くようにこね回し、固くなり始めた乳首を服の上から摘む。
「あっ……! やだっ……んうっ……」
 身体の反応が異常に敏感になっていることに驚きながら、シオンはインク入りのジャーを握った。だが絶好の機会にも関わらず、シオンの意に反してジャーを握った手がそのまま動かなくなった。男は慣れた手つきでシオンの胸を揉みしだき、固くなって生地を押し上げている乳首を弾いた。シオンは身体の底から溢れてくる快感に混乱しながら嬌声が漏れるのを堪えるために小指を噛んだ。
「良い声で鳴くじゃねぇか。もう完全に薬が回ってるみたいだな」と、男が胸を揉みながら言った。
「く……薬……? んむっ?!」
 男はシオンの顎を掴んで顔を向けさせると、強引にシオンの口に舌をねじ込んだ。すぐにでも顔を離したいのに、シオンは目を閉じて遠慮がちに男の舌に自分の舌を絡めてしまう。
「シャワー室でキスした時に飲ませたんだよ。特殊な媚薬みたいなもんだ。快感や苦痛を増幅させる効果と、俺の唾液と混ぜて飲ませることで無意識に俺へ服従させる効果もある。俺にまともに攻撃ができないのも、俺という主人への服従効果のためだ。メイドのお前にはピッタリな効果だろ? おら、やましいもん持ってんだろ。ご主人様にとっとと差し出せ」
 シオンの意に反して手が勝手に動き、インクの入ったジャー容器を男の前に差し出した。男の透明な手がそれを掴み、ゴミのように教室の隅に投げる。容器が割れる音と同時にシオンの腹に男の膝が深く埋まった。
「ゔぶッ?!」
「こすい手を企んでんじゃねぇぞ! ご主人様に逆らいやがって……使えねぇメイドにはお仕置が必要だよなぁ」
 男はシオンのトップスを掴むと、シオンの腹に膝を何発も打ち込んだ。拳とは比べ物にならない威力に加え、薬の効果でシオンは防御はおろか腹筋を固めることすらできず、男の膝が背骨に届きそうなほど深く埋まる。
「ぐぶぇッ! ごぼぉッ!? ごぶぇッ!? げゔぅッ!!」
 男の猛烈な膝の連打はシオンの意識が朦朧としても止まらず、シオンが耐えきれなくなって尻餅をついてからも執拗に爪先で腹を蹴ってきた。トップスの背中部分を掴んで無理やり立たせると、力が逃げないように背中に手を当てて拳を腹に埋める。
「うぶぇッ?!」
 胃液が逆流し、ビチャビチャと音を立てて床に広がる。
「汚ねぇんだよ! ご主人様の許可無く吐いてんじゃねぇぞ!」
 男はシオンの背骨を挟み込むようにして何発もシオンの腹を陥没させた。地獄のような苦痛であるにも関わらず、薬の効果で抵抗や防御をすることも出来ない。シオンは白目を剥いたまま止まらない腹責めで胃液を吐き続け、その無様な姿に男は更に興奮の度合いを高めていった。
 男はぐったりとしたシオンを教壇の上に寝かせると、そこに自らも登りシオンのトップスをむしり取るように剥ぎ取った。よほどしっかりと固定されていたのか、ぶるん、という擬音が聞こえてきそうなほどの勢いでシオンの胸が解放され、目が眩むほどの白い肌とうっすらと色づいた乳首が露わになる。男は貪るようにシオンの双丘を鷲掴みにし、片方の乳首に吸い付いた。
「んあッ?!」と声を上げながらシオンの背中が浮く。薬のせいで感度が数倍になった身体は乳首を吸われただけでかなり強い快楽を感じているようだ。覚醒したシオンは自分の胸が露わになり、男によってグニグニといやらしい形に変形させられている様子を黙って見るしかなかった。男は必死の表情でジュルジュルと音を立てながら乳首を吸い続け、空いた手でもう片方の乳首も転がす。傍目にはシオンが一人で教壇の上で悶えているようにしか見えないが、男の姿が見えるのであれば、残飯に群がる餓鬼のごとくおぞましい姿を晒していたことだろう。
「ちくしょう……たまんねぇ……。おら、そのスケベな乳でご主人様のチンポにご奉仕しろ」
 男が腹の上に跨るような気配があり、胸の谷間に肉を巻き付けた鉄棒を挟まれたような感触があった。シオンは困惑した様子で男の顔があるであろう位置を見つめる。
「なにボサっとしてんだ? 早くパイズリ奉仕しろやエロメイド」
 パイズリ奉仕という言葉の意味がわからず困惑するシオンに業を煮やし、男は強引にシオンの手首を掴み、左右から胸で男根を挟ませた。乳圧が加わっただけでシオンの吸い付くような肌が男根を擦り上げ、それだけで暴発してしまいそうなほどの快感が男の脳内で弾けた。
「くおおッ?!」と男は上体を仰け反らせるが、少しでも長くこの極上の快感を堪能しようと耐えながら、ゆっくりと腰を振り始める。
「あっ……やっ……やだ……」
 自分の胸の谷間を好きでもない男の勃起した性器が前後しているというおぞましさにシオンは青ざめるが、同時に薬の効果でもっとこの男に奉仕したいという気持ちも芽生えてくる。男が手を離してもシオンは自分の胸を左右から挟みつづけ、教えられてもいないのにより強く挟めるように、脇を絞めて肘で左右から胸を圧迫した。予想外の行動に男の許容値はたちまち限界まで達する。
「ぐうぅッ!? クソッ……このエロメイドめ……。ご褒美をやるから口を開けて舌を出せ」
 男の言葉にシオンは眉をハの字にしたまま小さく頷き、口を開けた。目をとろんとさせたまま大きく口を開けて舌を出すシオンはまるで「ここに射精してください」と言っているようで、男はすぐさま臨界を迎えた。
 男は腰を振りながら必死の形相で先端をシオンの谷間から出すと、一気に大量の粘液を放出した。コップの水を浴びせられたような量の粘液がシオンの舌や顔に降り注いでいく。
「ん……んぶッ?! ぷはッ!? あぁッ!」
 シオンは放出の勢いに驚いて顔を逸らすが、男の放出は止まらずにシオンの顔を汚し続けた。美女の整った顔を自分の粘液で汚すという背徳感と征服感に、男は射精しながら更に性欲が湧き上がってくる。シオンは顔中を白濁液で汚され、涙を浮かべて放心した様子で肩を上下させている。男の勃起は全くおさまらず、シオンの腿に馬乗りになるとヘソのあたりに拳を打ち込んだ。
「うぐッ?!」
「なに勝手に寝てんだよエロメイドが。あと五回はするぞ」
 男は左右の拳を交互にシオンの腹に打ち下ろし、餅をつくようにシオンの柔らかい腹を殴った。
「うぐッ?! ぐあッ! ぐぶッ! ゔぐッ! ごぼぉッ!?」
「たまらねぇ……もうここでブチ込んでやるよ。おら、ここがいいのか? それともここか?」
 男はシオンのヘソや脇腹、子宮のあたりや下腹部を殴り続けた。感覚の違う苦痛がランダムにシオンに襲いかかり、脳がパニックを起こして出鱈目な信号を送り続ける。男の掌底がシオンの鳩尾に放たれ、大量の空気を一気に飲まされたような衝撃を受けた。まともに呼吸ができずにシオンの顔色が真っ青になっても男の拷問は止まらず、シオンは苦痛に歪む顔を男に晒し続け、男はそれを見て興奮の度合いを更に高めていった。
「ゔあッ!? がッ! あぶッ! ああああああああッ!」
「おらおらおらおら! 大事なところが大変なことになってるぜ?」
 男が連続してシオンの子宮を殴った。潰されるような勢いの攻撃と薬による苦痛の増幅でシオンは白目を剥き、口から唾液を溢れさせながら悶える。とうとう机が壊れ、シオンと男は床に落下した。シオンは白目を剥いたまま痙攣している。男はシオンに覆いかぶさると、中指をヘソに突き立てた。
「へへへ……一度やってみたかったんだよなぁ。ヘソ姦ってやつをよ……」
 ぶちゅん、と音がして、男の指がヘソを貫いて中に侵入した。
 脳に冷たい雫が垂れるような感覚があり、全身の血圧が下がるような感覚がシオンを襲った。
「う……うぁ……あああああああああああッ!!」
 あまりの事態にシオンが目を見開いて絶叫した。
 芋虫のような男の指が身体の中で這い回っている。
 不思議と痛みは無かったが、内臓を掻き回される不快な感覚だけははっきりと感じた。
「やっ……やだ……やめ……」
 唇が震えてまともに言葉が出てこない。
 やがて両手で肩を掴まれたような感触があり、穴の開いたヘソに男性器が突っ込まれた。
「ひゅぶっ……!」とシオンが窄めた口から息を吐く。
 皮膚を掻き分けて男性器がゆっくりと抽送をはじめた。
「あーやべぇ……。マンコとは違う気持ち良さだわ。内臓がうねってチンポに絡みつくのがわかるぜ」
「うぶッ……えゔっ……! うえぇっ……」
 男性器で直接内臓を掻き回されているという事実に猛烈な吐き気と気持ち悪さが込み上げてきた。シオンは白目を剥き、脱力したまま舌を出したまま喘ぐ。男はシオンの感じている苦痛など意に介さず、恍惚とした表情を浮かべたまま夢中で腰を振り、やがて大量に放出した。血液と粘液が、ヘソから抜かれた男性器のシルエットを浮かび上がらせる。それを呆然と見るシオンをよそに、男はシオンのスカートの中に手を入れてショーツを掴んだ。シオンはビクッと震え、慌てて男の手を掴んだ。
「邪魔すんじゃねぇ! いよいよメインディッシュだろうが!」
「いやあッ!」
 シオンは必死に首を振って抵抗した。本来なら蹴りの一発でも食らわせるところだが、薬の効果でまともな抵抗が封じられている。しかしそれでも最後の一線は譲ることができない。シオンは出来る限りの抵抗として、必死に男の手を掴んでショーツが剥ぎ取られることを拒んだ。
 鍔迫り合いのような状況の中、やがてシオンの視界に白い霞がかかってきた。
 蓄積したダメージで失神するのだろう。だが、失神すれば男の思う壺だ。
 シオンは自分を奮い立たせるために叫んだ。

「やめてぇッ!」
 シオンの絶叫が生徒会長室に響いた。
 目の前に男の姿はなく、場所も空き教室ではない。
 あの地獄のような光景はどこに行ったのか。シオンは執務机の椅子に座ったまま呆然としてきょろきょろと周囲を見回した。ハッとして腹部のあたりをさするが、怪我をしている様子はない。
「……え? うぷッ?!」
 状況が飲み込めない中、不意に顔中にまとわりつく猛烈な臭気と粘ついた不快感を感じた。反射的に左手で頬を擦ると、ドロドロとした気持ち悪い感触があった。すわ賎妖にかけられた粘液かと思ったが、手のひらを見ると明らかに違うものだった。
「……納豆?」
 手に謎のペースト状のものがついている。
 潰れた納豆と味噌に、銀色に光る細かいラメのようなものや、紫色の欠片が渾然一体となった得体の知れないものだった。
 それがまるで泥パックのように顔全体にへばりついている。そして右手にフォークを握っていることに気がついた。フォークの先には乾燥した麺が巻き付いている。
「……えっ? えっ?」
 困惑した様子でフォークと左手のペーストを交互に見る。そして眼下に自分の顔の形に凹んだパスタ皿があることに気がついた。そこには明らかに茹で時間を間違えてブヨブヨになったパスタと、シオンの顔に貼り付いているものと同じ謎のペーストが盛られている。何をどう間違えたのか、自分はこの皿の上に顔から落ちた状態で眠っていた、あるいは失神していたらしい。
 徐々に昨夜の記憶が蘇ってきた。
 翻訳した論文を提出してシャワーを浴びた後、やはり空腹を感じて家から作ってきたパスタソースを温めたのだ。自信作のソースで、好物の納豆と味噌をベースに栄養バランスを考えてイワシとカツオと紫キャベツとチアシードを全てミキサーにかけた栄養満点のソースだ。美味しいもの同士の組み合わせだから相乗効果で更に美味しくなっているはずだ。パスタもパッケージの茹で時間通り三分……いや、三十分だったかもしれない。とにかく完璧に仕上げたパスタだった。一口食べて咀嚼しているうちに、どうやら疲労がピークに達して寝てしまったらしい。
 それにしても……とシオンは思った。
 なぜあんな夢を見てしまったのだろう。人質を取られていたとはいえ、夢の中で自分は言われるがまま手や胸を使って男に奉仕して……。
「ああッ!」とシオンは頭を抱えて立ち上がった。いわゆる淫夢の部類に入る夢を見たことで恥ずかしさと自己嫌悪に押し潰されそうになる。ひとまず火照った身体と汗とパスタソースを流すためにすぐにでもシャワーを浴びたい。時計を見ると、夢に見た時と同じく五時十五分を指していた。
 もし同じ賎妖が現れたら、有無を言わさずシャワー室で倒そう……。
 シオンは顔を真っ赤にしながらタオルと着替えを掴み、小走りで部屋を出ようとしたところで椅子の足につまづいて派手に転んだ。



今回もありがたいことに熱量多めのリクエストをいただきました!
……が、納品後に誤ってskebアカウントを削除してしまったので新規にアカウントを作り直しました。
こちら

現在は審査が通りリクエスト受注が再開されています。
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