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 翌日の放課後、「葵、帰るよー」という声と共に教室のドアが勢いよく開いたので、窓際の席に座っていた葵はスマートフォンを落としそうになった。
「いい加減慣れなって」と、瑠奈が笑いながら教室に入ってきて、葵の前の席に座った。瑠奈は毎日のように葵を迎えにくるので、葵のクラスでも瑠奈はクラスメイトのように受け入れられている。残っていた生徒がすぐに瑠奈(と葵)の周りに集まってきた。
「瑠奈ち見たよー。またスナップされたでしょ?」と言いながら、一人の女子生徒がファッション雑誌を開いた。街頭で撮影した一般人を紹介するコーナーで、ストリート系のファッションに身を包み、ガードレールに座っている瑠奈の写真が一ページ丸々使って掲載されている。
「あれ? こんなに大きく載ったんだ。声かけられた時は載るかわからないって言われたんだけど」
「瑠奈ちが撮られたら載るに決まってるじゃん。載ってる他の子と比べてもさ……なんていうか、違うよね」
「ねぇ、本当に本格的に読モ(読者モデル)やる気ないの? 瑠奈なら絶対プロのモデルになれるって」
「ないない! モデルなんて興味ないもん」
と言って、瑠奈が笑いながら顔の前で手を振った。
 葵はそっと雑誌を覗きこんだ。
 確か二ヶ月ほど前に瑠奈と原宿を歩いていた時に撮られた写真だ。カメラマンは瑠奈と顔見知りらしく、探していたとまで言われていた。瑠奈を撮影した流れで葵も無理やり撮られてしまったが、気が動転しすぎてどのように撮影されたのか覚えていない。
 写真で見ると、瑠奈はポーズも表情も様になっていて本物のモデルのように見えた。まるでどこか遠くのキラキラとした違う世界の住人のように見える。
「あれ? これ一ノ瀬さんじゃない?」と、女子生徒が言った。
「え? マジ?」と言って、瑠奈も雑誌を覗き込んだ。「マジじゃん! 葵ほら!」
 瑠奈が指差した先には、直立不動の姿勢で道の真ん中に立つ葵の写真があった。
 ページの隅の小さいスペースだったが、それは間違いなく葵だった。
「一ノ瀬さんも素材良いもんね」という女子生徒の声が遠くに聞こえた。

 学校を出ると、二人は瑠奈の提案で新宿の繁華街に向かった。
 凛の言っていた家出した未成年がたむろしているホテル周辺の路地。そこで瑠奈の友人の沙織(さおり)が中心となって放課後と休日に保護ボランティアを運営している。家出した未成年と距離が近い沙織なら、凍矢の情報をなにか知っているかもしれない。
 葵は瑠奈が沙織のボランティアを時々手伝っていることは知っていたが、実際に沙織と会うのは初めてだった。
「なんだっけ、牛は牛連れ馬は馬連れだっけ? 同類の方が話が合うっていう意味のことわざ」
 肩がぶつかるほどの人混みを手を繋いで歩きながら、瑠奈は葵に言った。
「う、うん。あってる」
「沙織のボランティアも正にそれが狙いでさ。あそこに集まっている子は見た目は派手だけど、内面はすごく敏感で警戒心の強い子が多いんだよね。だから大人の男の人とか警察官とかが取り囲んで家に帰りなさいって声かけても、かえって逆効果になる時も多いんだ。だけど私たちみたいな同年代が『ちょっと話しない?』って声かけると、意外と向こうも本音で話してくれたりするんだよね」
「そ、そうなんだ……。話すだけでも、す、救われる時もあるよね……」
「いや、それだけじゃダメなんだ」と、瑠奈はまっすぐ前を見て言った。「いくらウンウンて話聞いても問題は無くならないじゃん? 沙織はその辺もちゃんと考えてるから、クラウドファンディングで資金を集めてシェルターを運営したり、企業に協力してもらって救援物資の配布をしたりしてる。結局、行動しないと意味がないから」
「……あ」 
 自分の少し前を歩く瑠奈の背中を、葵は直視することができなかった。
 ファッション誌に載った瑠奈の姿を見た時も感じたが、時々ふと瑠奈がとても遠い存在に感じることがある。事実、瑠奈は自分には持っていない多くのものを持っていると葵は感じていた。そして瑠奈の友人達も、自分とは違って周囲を巻き込みながら先へ先へと進んでいる気がする。
 瑠奈とは幼馴染であり、お互いが最初にできた友人同士だったことは間違いない。
 だが、今となってはそれに何の優位性があるのだろう。
 瑠奈は常に先へ先へと進んでいる。
 瑠奈自身に影響力があるので、周囲にも自然と影響力のある人間が集まってくる。
 それに引き換え、自分がしている活動といえばブイチューバーとして素顔を隠し、カウンセラーの真似事をしているだけだ。それは瑠奈が言う通り、確かに問題を無くしていることにはならないのかもしれない。
 瑠奈はなぜ今だに自分なんかに良くしてくれるのだろうか。
 あるとき瑠奈から急に「もういらない」と捨てられるのではないか。
 葵はそれがとても怖かった。

 その路地は昼間でもホテルの陰になって薄暗かった。
 本来は車道のはずだが、入り口には区のマークが描かれた緑色のバリケードが設けられ、歩行者天国の状態になっている。バリケードの脇を抜けて路地に入ると、明らかに十代と思しき若者があちこちに車座になって談笑していた。酩酊した様子で寝転んでいる若者も何人もいる。確かにこの状態で車を入れるわけにはいかない。
 その異様な雰囲気に飲まれてしまった葵の手を引いて、瑠奈は路地の中央に設置されたテントに入った。
 テントの中は広く、人で溢れていた。
 量販店で売っている白い丸テーブルとパステルカラーの椅子が何組も置かれ、それぞれのテーブルにはピンク色の腕章を付けたスタッフと、路地の住人らしい若者が話をしていた。スタッフも一緒に手を叩いて談笑しているテーブルもあれば、泣いている女の子をスタッフも涙を浮かべながら慰めているテーブルもあった。
 スタッフは全員、いわゆるギャルと呼ばれる女の子だった。
「おーす瑠奈ちー。おつかれー」
 入口近くの「受付」と書かれた長テーブルでパソコンを操作していた一際派手なギャルが立ち上がり、瑠奈と葵に笑顔を向けた。サロンで焼いた肌に一際派手なメイクを施し、きつめに巻いた銀髪の毛先のみを水色に染めている。よく見ると気崩してはいるものの自分たちと同じ制服を着ていた。
「今日どしたの? 可愛い彼女連れちゃってさ」
 そのギャルに視線を向けられた葵は、まるで空腹の肉食獣に睨まれたリスのようにビクッと身体を強張らせた。
「沙織また髪色変えた?! めっちゃかわいい!」と言いながら、瑠奈は笑顔で沙織と指を絡めた。
「へへー、ありがと。青は落ちやすいから、その前に見せられてよかった。でも髪めっちゃ痛んだよー。瑠奈ちみたいに天然の金髪ならブリーチも一回で済むのにね」
「私は逆に黒髪に憧れるけどね。クールでカッコいいじゃん。あ、そうだ沙織、紹介するわ。この子が葵。私の女なんだから手ぇ出さないでよ?」
「おー、あおぴ! やっと会えた!」と言いながら沙織は大きな目をさらに大きく開いて、葵のと目線を合わせるように屈んだ。「はじめまして。瑠奈ちからいつも話聞いてるよ」
「葵、この子がさっき話した沙織。ここのボランティアチームのリーダーで、こんな見た目だけどすごくしっかり者だから」
「しっかり者の沙織でーす」と言いながら、沙織は葵に向かって踊るように両手を振った。葵はただ怯えていた。
「お? あおぴ顔色悪いけど大丈夫? ちょっと座る? テーブルは満席だけど受付の中だったらまだ椅子あるから」
 沙織は怯える葵の手を引いて強引に受付の中に引き入れた。瑠奈はその様子を見てクスクス笑いながら二人の後に続き、葵を中心にして並んで座った。
 テーブルクロスで目隠しをした長机の下にはたくさんの箱が置かれていた。食料や飲み物、携帯電話の充電ケーブル、生理用品や常備薬などが見えた。企業からの援助で、困っている子に無料で配るのだと沙織は説明した。先ほどまで沙織が操作していたパソコンには、支援者に提出するものらしい細かい収支報告書が作りかけのまま表示されていた。

「──あのさ、ちょっと変なこと聞いていい?」
 しばらく雑談した後に、瑠奈が小声で切り出した。
「ん? なに? あ、ちょっと待って! スポンサー企業から電話入っちゃった!」と言って、沙織がスマートフォンを耳に当てた。「はい、牧村でございます。あ、いつも大変お世話になっております。はい……あ、はい、活動報告書は予定通り明日にはお出しできるかと思います。いえいえ、とんでもございません」
 沙織のあまりの豹変ぶりに、葵は思わず口を開けた。
「ええ……御社のホームページにですか? ありがとうございます。ぜひお願いいたします。ええ、とんでもございません。私共の活動が広く認知されればこちらとしても大変助かりますので、ぜひ御社のPRとしてお使いいただければ……ええ……今夜までにですか? はい、かしこまりました。では今夜までに仕上げてメールにてお送りいたしますので、明日の朝にはご確認いただけるかと思います。ええ……とんでもございません。こちらこそありがとうございます。はい、失礼致します──」
 沙織は何度もお辞儀をしながら通話を切ると、「ごめーん! なんの話だっけ?」と元の様子で言った。
「びっくりした? 沙織、この見た目で秘書検定準一級持ってんの」と、瑠奈が葵に言った。
「このボランティア始めようと思った時に取ったんだよねー」と言って、沙織が葵に向けてピースサインを作った。「スポンサーのおかげで私達は活動できてるわけだしさ、礼儀はちゃんとするのが最低限の誠意じゃん? てか瑠奈ち、なんの話だっけ?」
「ああ、えーとね……その、マジで変なことなんだけど、家出してきた子の中にはさ……身体売ってる子もいるの?」
「んー、まぁそりゃね……」と言いながら、沙織はほんの少し顔を曇らせて背もたれに身体を預けた。「いないわけ、ないよね。でも理由はそれぞれでさ、お金に困ってる子もいるし、人の温もりや、単純に気持ち良さを求めてる子もいる。中にはまるで自分自身を罰しているかように、徹底的に自分の好みじゃない人を選んでる子もいる。アタシらも止めはするんだけど、あくまでも個人のことだからね……。どうしてもって場合はコレ渡してるんだ」
 沙織はカウンターの奥に隠すように置かれているダンボールを指差した。隙間からコンドームの箱が見えた。
「で、なんで急にそんなこと?」と沙織が言った。

「いや、ちょっと嫌な噂聞いてさ」

「……嫌な噂?」

 沙織が真剣な表情になった。
「うん。この辺の女の子を使って、無許可の風俗店を経営してる人がいるみたいなんだよね。ちょっと私たちのバイト先にも関わる話でさ、もし何か知ってたら教えてもらおうかなと思って」
 沙織は顎に手を当てて、しばらく目を閉じて考えると「もしかして、トーヤさんかな?」と小さい声で言った。 
 葵と瑠奈が身を乗り出した。
「今、凍矢って言った?」と、瑠奈が聞いた。「ビンゴなんだけど……」
「え? マジで? いや、アタシも確信があるわけじゃないし、正直信じたくないんだけどさ……」沙織が声をひそめた。「ここにいる子達って一見仲良さそうに見えるけど、お互い本名すら知らないような関係だからさ、ちょっと揉めるとすぐに大ごとになるんだよね。喧嘩なんて日常茶飯事だし、救急車もしょっちゅう来るし、最初はこんな風にボランティアなんかとても出来ないくらい混沌としててさ。ただ、半年くらい前にトーヤって名乗る男の人が仕切り始めてから、少しずつ安定しだしたんだ。三十代前半くらいで、爽やかイケメンって感じなのに筋肉すごくてさ。他の人と同じように素性がわからない人なんだけど、男女問わず『兄貴』や『お兄ちゃん』なんて慕われてね。いわゆる『買い』の人も追っ払ってくれたし、アタシのボランティアもちゃんと受け入れるようにみんなと話つけてくれたんだ。でも数ヶ月前、十人以上の女の子と一緒に行方不明になっちゃったんだよね」
 沙織はそこまで話すと、一息つくように紙パックに入ったリンゴジュースを飲んだ。葵と瑠奈は無言で話の続きをまった。
「ここでは昨日まで普通に話してた子が翌日いなくなることなんて珍しくないし、深追いしないことが暗黙の了解って感じだから、詳しいことはわからないんだ。ただ、溶け込むのが異様に早かったことと、複数の女の子が同じタイミングでいなくなったことを考えると、トーヤさんは家出少女を闇風俗に落とす専門のスカウトマンだったんじゃないかって言ってる人もいる。家出した未成年が集まる場所はここ以外にもたくさんあるしね。それ以外に気になることもあるし……」

「気になること?」と、瑠奈が聞いた。
「防犯カメラがね、トーヤさんがいなくなる直前から今まで何回も壊されてるの。区が設置してるやつだから、そう簡単に壊せるはずはないんだけど。だからトーヤさんの失踪直前の様子とか目撃情報とか、肝心の映像が無いんだよね」
「こ……こ……こわ……こ……ひ……」
 葵が必死に喋ろうとするが、緊張しすぎて言葉が出てこないようだ。
「ん? あおぴ声めっちゃ可愛くね? てかどっかで聞いたことのある声な気がする……」と沙織が言った。
 瑠奈が慌てて割って入った。
「防犯カメラを壊した犯人は映ってるんじゃないのか、って言いたいんでしょ?」

 葵は必死に頷いた。
「いや、それが映ってないんだよね」と言いながら、沙織は肩をすくめた。「どんなトリックか知らないけどさ、いきなりガシャーンよ。他のカメラには音にびっくりして飛び上がる子が何人も映ってるんだけど、犯人らしき人はどこにも」
 その時、葵と瑠奈のスマートフォンに凛から「急で申し訳ないが、今から会えないか」と通知が届いた。
 緊急の呼び出しのようで、二人は沙織に断ってから待ち合わせ場所を指定してほしいと返事をした。
 沙織と一緒にテントを出ると、沙織が道路の一角を指差して「あおぴ、あれ見える?」と小声で言った。オーバーサイズの服を着た未成年の女の子二人に、濃い色のスーツを着た男が話しかけている。
「あれ『買い』の人。トーヤさんがいなくなってからめっちゃ増えてさ……。ちょっと対処してくるから、あおぴもまた遊びに来てね」
 そう言うと沙織は「すみませーん、企業ボランティアの方ですかー?」と周囲に聞こえるように言いながら男に近づいていった。男は明らかに狼狽えていた。葵は沙織の後ろ姿を憧れの眼差しで見つめた。

 凛に指定された場所は渋谷駅から徒歩数分の場所にオープンした小さいカフェで、葵と瑠奈の学校からも歩いて行ける距離だった。車がすれ違えないほどの細い坂の途中にそのカフェはあった。夜七時でも十人ほどの若者が列を作っていて、少し離れた場所に黒いワンピースを着た凛が立っていた。凛は葵と瑠奈に気がつくと小さい身体をぴょんぴょんと跳ねさせながら「こっちこっち」と言った。
 凛がスタッフに声をかけると、三人はすぐに店内に案内された。
 内装は業者に頼まず、スタッフが自分たちで仕上げたようだ。
 天井の配管は剥き出しで床も化粧板が敷かれておらず、壁はコンクリートに白いペンキを垂れるほど分厚く塗っただけだ。テーブルや椅子は端材を組み合わせたような粗末なもので、どこか海外の学校で長く使われていたような雰囲気があった。床面積の三分の一ほどを巨大な焙煎機が占めていた。
 三人はカウンターでそれぞれ豆を選び、クロワッサンも一緒に注文した。代金は全て凛が出してくれた。瑠奈はスタッフにコーヒー豆の特徴や焙煎方法などを聞き、葵は抽出する様子を食い入るように見ながら瑠奈と店員の会話に聞き耳を立てた。質問もしたかったが、声をかけられなかった。
 コーヒーとクロワッサンを受け取ると、三人は予約席と書かれたプレートの置かれているテーブルに着いた。
「急に呼び出してごめんね」と、凛が言った。

 葵は首を振った。
「だ、大丈夫。ここ……すごく来たかったから……。予約も、で、できなくて……」
「……そうじゃん! 何かおかしいなと思ってたけどここ予約できない店だよね?」と、瑠奈が思い出したように言った。「並んでる人からすごく視線感じるなと思ったけど、そういえば葵と来ようとした時にホームページに予約できませんって書いてあったよ」
「あおっぴがコーヒー好きだから、ねじ込んだ。方法は聞かないで」
 凛は無表情のまま両腕を曲げて力こぶを作るポーズをした。葵と瑠奈は思わず吹き出した。
「で、本題なんだけど」と、凛は声を潜めて言った。「昨日、瑠奈ちが倒してくれた人妖の件なんだけど……」
「ああ、あいつ凍矢のこと何か喋ったの? 半分くらいは口から出まかせかなと思ってたけど」
「いや……あの人妖、今朝死んでたんだよね……」
 コーヒーカップを口元まで運んだ瑠奈の手が止まった。

「……え?」
「収容所に運び入れた時点でもまだ失神してたから、今朝から取り調べる予定だったんだ。でも、今朝ドアを開けたら床に倒れてたみたい」
「……私、そんなに強くやっちゃったっけ?」
 瑠奈の顔が青くなった。凛はすぐに首を振る。
「瑠奈ちの攻撃が原因じゃない。首にシーツが巻かれてた。検死も終わって、死因も縊死で特定されたから」
「じゃあ……自殺ってこと?」と瑠奈が言った。

 凛はまた首を振った。
「いや、そもそも収容所は自殺ができないようになってる。壁も床も分厚いウレタン製で、窓も外からしか開かない。もちろんロープをかけられる突起や窓枠も無いし、内側にはドアノブも無い。まぁ世の中に絶対は無いから、思いつかないような方法でシーツをどこかに引っ掛けた可能性も無くはないけど、私は他殺だと思ってる」
「じ、じ、自分で、く、首を絞めたってことは?」と、葵が恐る恐る聞いた。
「それも無理。自分で自分の首を絞めても、死ぬ前に失神して力が緩むから最後まで締めきれない。監視カメラの映像も解析中だれど、さすがに個室の中まではね……」
 葵と瑠奈は顔を見合わせた後、沙織から聞いた情報を凛に話した。
 凛は一通り話を聞くと、テーブルの上で手を組み、そこに額を乗せてしばらく目を瞑って考え込んだ。
「色々と調べてくれてありがとう」と凛は顔を上げて言った。「今回はちょっと気味が悪いね……。昨日言った通り、凍矢が見つかったら瑠奈ちにお願いすると思うから、今夜中にヘッドパーツのメンテナンスはしておくね。持ってるなら今見せてくれる?」
 瑠奈は鞄からヘッドパーツを取り出して凛に渡した。凛は小型のパソコンを取り出してヘッドパーツとケーブルで繋ぎ、簡単な検査を始めた。
「うん、このままでも使えなくはないけど、衝撃で少しダメージ受けてる箇所がある。一度分解して掃除してから──ん?」
 パソコンの画面に現れたポップアップを見ると、凛は顔を顰めながら「あのバカ……」と小声て呟いて乱暴にパソコンを閉じた。
「ごめん、あおっぴ、悪いけど今から出動できない?」と凛が言った。「任務中の一般戦闘員が劣勢になってて、最悪なことに担当オペレーターが逃げ出したみたい」


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