「……私も本当にナメられたものですね…私に対して1人で挑むとは…。面倒なので2人同時にお相手していただけませんか?病み上がりの私相手に強気になるのも分かりますが、正直面倒なもので…」

 

「その必要は無いわ…。あと、とりあえず私が勝ったらすぐにでも服を着て欲しいわね…。見たくもないものが目の前にあるのは結構不快なのよ」

 

「見たくもないものですか…くくく…もう少してこれをしゃぶりそうになっていた人のセリフとは思えませんね…」

 

「…少し黙りなさいよ!」

 

綾が涼に対して駆け出す。それを合図に涼も綾に向かって突進し、お互いの射程圏内で拳が機関銃のように飛び交う。

 

「やっ!はぁっ!」

 

「ぐうっ…こ、こいつ…!」

 

お互い多少の攻撃は受けていたが、綾の方が優勢であった。綾は来るべきこの日に備え、なお一層の修練を積んでいた。手堅く涼の攻撃をガードすると確実にカウンターを当て、相手の反撃が来る前に距離を取る。一撃が重い人妖に対しては最も有効な戦法だ。
涼の攻撃は徐々に大振りになり、なおかつほとんどガードをせずに綾の攻撃を食らっていた。

 

メキリッ!

 

「ぐおぉっ!?」

 

綾の右フックが涼の左脇腹に当たり、肋骨から嫌の音が響いた。相手が両手で脇腹を押さえたところで、すかさず左膝でむき出しの金的を蹴り上げた。人間の男性ならその一撃で失神してもおかしくない衝撃、急所の存在しない人妖でもダメージは相当なものであるらしかった。

 

「がっ!?があぁぁぁ!!」

 

涼は脇腹と股間を押さえ、脂汗を流しながら歯を剥き出しにして荒い息を吐いている。普段の人を食った様な表情からは一変して、獣の様な顔になっていた。

 

「間抜けな格好ね。身体能力の高さに思い上がって防御を疎かにするからこんなことになるのよ。もう勝負は見えたんじゃない?」

 

綾はゆっくりと片膝を付いている涼に近づくと、両手の拳を腰に当て、仁王立ちで見下ろす。涼はしばらく肩で息をしていたが、ニヤリと笑うと綾に言った。

 

「はぁ…はぁ…ふふふ…相変わらず着丈の短いセーラー服だ。下乳が見えていますよ?動きやすいのは分かりますが、下着くらいは付けたらいかがですか?」

 

「な…なっ!?」

 

綾の同年代のそれより結構大きい部類に入る胸は、下から覗けるほどショート丈のセーター服を押し上げていた。また、普段は我慢出来ても戦闘時は締め付けられる感覚が嫌で下着を外している。

綾は真っ赤になり、あわててセーラー服の裾を両手で下げる。その隙をついて、涼はきびすを返して走り出した。涼の走るその先には、シオンが壁にもたれて休んでいた。

 

「あっ!?ひ…卑怯者!」

 

綾も慌てて走り出すが、既に涼はシオンに対し唸りを上げて拳を放っていた。

 

「油断するからだ!この女を人質に取れば、お前も手は出せまい!」

 

しかし、拳がシオンの顔面に当たる一瞬前、涼の前からシオンの姿が消えた。涼の目が大きく見開かれる。一瞬のうちにシオンは涼の右隣に移動し、涼の右腕を自分の右手で掴んでいた。音も無く、あまりにも鮮やかな移動は端から見たら瞬間移動のように見えた。

 

「…綾ちゃんのおかげでもう十分休めました。それに、私だってアンチレジストの戦闘員なんですよ。鑑君の仇くらい、自分で取れます!」

 

シオンの放った右膝が、涼の腹部に吸い込まれて行った。予想外の展開に涼は腹筋を固めることもままならず、ずぶりという音と共に涼の胃がシオンの膝の形にひしゃげた。

 

「シオンさんナイス!そして、これで終わりよ!!」

 

ごぎりっ!!

 

「がっ!?がごぉぉ!!」

 

シオンの膝の真裏に、綾が渾身の突きを放った。涼の胃は完全に潰れ、弾かれるように2人から離れると、両手で口元を押さえてのたうつ。

 

「ごっ…ごぶぅ…うぶぉぉぉぉ……」

 

シオンと綾はお互い顔を見合わせ、お互いの拳を合わせると再び涼に視線を戻す。綾が涼に近づき、のたうつ様を見下ろしている。今度は胸が見えないように、両方の腕で胸を持ち上げるように隠している。

 

「どう…?もう終わりにしない?これ以上やっても苦痛が増えるだけよ?私達はあなたみたいに相手を痛めつけて喜ぶ趣味は無いから…おとなしく捕まってくれるのならこれ以上攻撃はしないわ」

 

「ぐぅぅぅぅっ…げろぉっ!!」

 

涼は綾をちらりと見上げた後、何かの黒い塊を吐き出した。一瞬血かと思い、綾はうっと顔をしかめ、目を細める。

 

「はっ…!?な、何を持っているんですか!?」

 

しかし次の瞬間、涼の手には小さめの茶色い薬瓶が握られているのにシオンは気付いた。涼は厳重に封をされた薬瓶を握りしめて立ち上がると、力いっぱい地面に叩き付けた。
小さなパァンという音と共に瓶が砕け、不思議な甘い匂いが当たりに漂い始める。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。まさかこれを使うとはな…。俺としたことが、貴様らみたいなゴミ虫相手に何という屈辱だ…。だが、これで俺の勝ちだ…。貴様ら…たっぷりと時間をかけて嬲ってから殺してやる…」

 

涼はもはや普段の話し方ではなくなっており、端正な顔立ちは元の表情が伺えないほど怒りを表す深い皺が刻まれていた。瞳は妖しい紅い光をいっそう強め、唾液を垂れ流しながら歯をむき出しにして、今にも折れそうな力で食いしばっていた。