「な…何をしたの…何なのこの甘い匂いは…?」
「綾ちゃん気をつけて…絶対に何かある!」
2人は咄嗟に涼に対して身構える。涼はゆっくりと立ち上がると、一歩ずつ2人に向かって歩き出した。
「…俺にここまでの屈辱を与えたことを後悔させてやるぞ…死ぬまで嬲り尽くしてやる…!」
涼は2人に対して突進を開始する。標的は…シオンだった。
「おおおっ!!」
「またそれですか?………!?なっ…!?くぅっ…!」
先ほどと同様の大振りな右ストレート。シオンは警戒しながらもチャンスと思い、再び涼の死角へ潜り込もうとステップと取るが、突如脚がゼリーに覆われた様な重苦しさに襲われる。
脚が一瞬もつれたと思った頃には、既に拳はシオンの鼻先に迫っていた。一瞬の判断でかがみ込んで何とかそれを避ける。拳が自分の頭上をかすめたかと思うと、数本の金髪がはらはらと目の前に落ちてきた。あれをそのまま食らっていたら…。
「シ、シオンさん!?」
「くっ…やあっ!」
しゃがんだ体勢で、涼に脚払いを書ける。当たり所がよく、転びはしなかったものの衝撃は先ほど涼が負傷した肋骨に響いたようだ。呻きながらよろめいた所を、綾がさらに追い討ちをかける。
グギィッ!
「があっ!?ぐぅぅっ…」
よろめく勢いを利用したレバーブローがしたたかにヒットし、涼の口からくぐもった声が漏れる。その声が途切れないうちに、シオンの滑らかな脚線が鞭のようにしなりながら綾の頭上を高速で通り過ぎ、涼の顔のほぼ正面に見事な回し蹴りを叩き付けていた。
バギィッ!!
「がぶっ!?ぶぐぅっ!!」
レバーブローを撃たれ、憎々しげに綾をにらんでいた涼の顔は、一瞬でシオンのエナメルで出来たハイヒールの裏側に隠れてしまった。
「おおぉ…やるぅシオンさん!私達結構良いコンビかもね!」
「ふふ…光栄ですね…」
「ぐがぁぁぁあああ!!」
涼は声にならない咆哮を上げ、2人から離れる。鼻からは血が滴り、上唇も一部裂けているものの、思ったほどダメージは無いらしい。
「くぅぅ…まだこれほど動けるとはな…だが、もう少しだ…」
「もう少し…?どういうことよ?」
綾が拳を握りしめながら、ゆっくりと涼に近づく。
「ハッタリ言うのもいいけど、こっちはあまり殴りたくないってさっき言ったでしょう?そろそろ終わりにしてあげるわ!」
綾がダッシュし、涼の顔面へ拳を放つ。しかし次の瞬間、綾は腕全体に強烈な怠さを感じた。先ほどレバーブローを放ったときにもわずかに感じた感覚だったが、今回は腕全体にまるで無数の穴が空いて、そこから水がこぼれるように力が流れ出した様な、強烈な脱力感だった。
それはとてもパンチとは言えない勢いで、ただ惰性で腕が涼に向かって伸ばされただけだった。一瞬の軽いめまいから気付いたときには、自分の右手はがっしりと涼に掴まれていた。そして…
グジュリィッ!!
「あ…綾…ちゃん…?」
「え…?」
綾が自分の腹部を見下ろすと、涼の拳が手首まで隠れるほど深く、自分の華奢な腹部に突き刺さっていた。
「あ……う……ぐぶっ!?うぶあぁぁぁぁ!!」
「う…嘘…綾ちゃん!?」
あまりの衝撃の強さからか、綾が状況を把握してから苦痛を感じるまで数秒のタイムラグがあったが、その後に襲ってきた苦痛は想像を絶するものだった。涼が拳を抜き取った後も、綾の腹部には拳の後がくっきりと残っていた。
「あぶっ…!げぼぉっ!?な…なに……今の……?」
綾は口の端から唾液を垂らしながら、かすむ目で涼の表情を見る。涼はこれ以上無いほど嬉しそうな顔をして、再び拳を握りしめていた。
「くくく…やっと効いたか…。もう一発くれてやるから、自分で確かめたらどうだ?」
ふたたび拳が唸りを上げて綾の腹部を襲う。一瞬腹筋に力を入れるが、今度は腕ではなく腹筋から力が抜け落ち、完全に弛緩したへそ周辺に拳が吸い込まれて行った。
ズブゥゥッ!!
「げぶぅぅぅっ!!?うぐっ……ごぼぁああああ!!」
涼の拳は何の抵抗も無く綾のくびれた腹に吸い込まれ、内蔵をかき回した。両足が地面から離れるほどの衝撃に、綾の瞳孔が一気に収縮し、黒目の半分がまぶたの裏に隠れる。
「ははははっ!いい顔だな!それに、相変わらず良い声で鳴くじゃないか?さっきまでの勢いはどうした?」
涼は失神寸前の綾の顔を覗き込みながら、冷酷な笑みを浮かべる。そして口の端から垂れている透き通った唾液を舌で掬い取ると、強引に綾の口の中へ舌をねじ込ませた。
「うぶうっ…!?んむっ……んんぅ!?」
綾は半ば混濁した意識の中で、口の中を這い回る粘液にまみれた軟体動物の感触に身の毛がよだった。焦点の定まらない目で涼を見下ろすが、全身の力が抜け抵抗が全く出来ない。
「んんむ…ちゅばぁっ…。くく…美味しい唾液だ…。お前とは2回目だな。さぁ、もっと出してもらおう…」
グリィィッ…!!
「あ”あ”あ”あ”あ”っ…!?かはっ……!う……うぶっ……」
痛々しいほどに綾の腹に深く突き刺さった拳を、さらに奥へねじ込む。綾はもはや溢れる唾液を飲み込むことも出来ずに、ただ白目を剥きながらだらしなく舌を垂らして喘ぐしか無かった。