「ぐっ…ぐむっ……んむぅ………ガリッ!」

 

「!!?ぐっ…!?ぐぉぉ!?」

 

突如自分の急所を襲った苦痛に涼がくぐもった声を上げ、シオンの口から男根を引き抜く。涼の男根にはうっすらとシオンの並びのいい歯形が残っていた。

 

「はぁっ…はぁっ…うぐっ…」

 

シオンは弱々しく座り込みながらも、輝きを失っていない目で涼を睨みつけていた。痛みと剣幕に思わず後ずさりすると、ゆっくりとシオンが立ち上がる。

 

「……もうこれ以上、あなたの好きにはさせません!」

 

「馬鹿な…あれだけのチャームを飲まされておいて…多少吐き出したくらいでは効果が薄れることは無いはずだ…!?犯されたくてたまらないはずだぞ!?何が起きた!?」

 

シオンは確かに、先ほど綾と共に涼に奉仕している最中は身体の火照りを押さえられなかったし、綾に対してもある種同性愛的な感情すら抱いていた。しかし、今は徐々に霧が晴れるように身体の火照りやぼうっとした思考が薄れ、正常に戻って行くのを感じていた。体中を取り巻く倦怠感は相変わらずだったが、思考さえ戻れば何とかなるかもしれない。

 

「………どちらにしろ、お前らはもう終わりなんだよ!」

 

涼がシオンに突進しながら拳を振るうが、シオンは転がるようにしてそれを避ける。攻撃は出来ないものの、もともと大振りの涼の攻撃は掴まれでもしない限り避けることなら何とか可能だった。

 

「ちょこまかと…」

 

しかし、時間が経つにつれ徐々にシオンの動きも鈍くなってくる。シオンがバックステップを踏んだ際、背中がパソコンを置いているデスクに当たり、一瞬動きが止まった。その隙をつかれ、胸の辺りの布を掴まれると一気に引っ張られ、同時に拳が鳩尾に埋まった。

 

ズギュゥッ!!

 

「うぐあっ!?あ……あ………」

 

「ははははっ!やっと捕まえたぞ!!さぁ、お楽しみだ!」

 

ボグッ!!ズムッ!!ゴギュッ!!ズブゥッ!!!

 

「あぐっ!?うぐぅっ!!ぶふっ!!ぐふぅぅっ!!」

 

嵐の様な拳が、シオンの下腹部、臍、鳩尾とランダムに責め立てるが、そのいずれもピンポイントで急所を突いていた。拳が埋まるたびにシオンの巨乳が大きく揺れ、口から溢れた唾液がぽたぽたとその上に落ちた。徐々にシオンの意識が遠のいて行く。

「ほらほらどうした!!このまま死ぬか!?内蔵をぐちゃぐちゃにして………ぐっ!?なっ!?」

 

突然、涼の首に誰かの腕が巻き付き、ギリギリと締め上げている。 不意をつかれ涼の顔が一瞬でこわばり、攻撃が止まる。シオンは何が起きたか分からなかったが、考えるよりも先に身体が動いた。普段の半分ほどの力だったが、今出せる力のすべてを使い、渾身の回し蹴りを放つ。爪先が涼の顎先にヒットする会心の当たりだった。少ない威力でも、てこの原理で涼の顔が勢いよくぐりんと90度傾き、頭蓋の中で脳が揺さぶられる。さらに前屈みに倒れかかった涼の顎を膝で蹴り上げた。

シオンにしてはえげつない攻撃だったが、この間彼女はほとんど無意識で呼吸すらしていなかった。涼の首は自分の体重に逆らって顎を跳ね上げられ、一瞬後頭部と背中が付くのではないかというほど反り返った後、ガクリと顔面から地面に着地した。シオンは今の蹴りで体力のほとんどを使い果たし、ガクリと膝をつく。

 

「ぷはっ……はぁ…はぁ…な…何…?何が起きたの…?」

 

倒れた涼の背後に立っていたシルエットが徐々に鮮明になる。見ると、先ほどまで涼に身体を乗っ取られていた鑑が立っており、呆然と涼を見下ろしている。

 

「うぐっ……けほっ…か…鑑君!?だ…大丈夫なの?」

 

「やっと…自由に身体が動かせるようになりました…。 こいつに乗っ取られている間も、僕の意識はずっと覚醒していました…。すみません、会長に酷いことを…」

 

「鑑君……」

 

シオンは白い手袋をはめた両手を口元に当て、瞳からは涙がこぼれている。驚愕と、安堵が入り交じった表情だ。

 

「感傷に浸るのは後です、今はこいつを倒さなければ…。生憎、武器と呼べそうなものはこれくらいしか無いですが」

 

鑑は後ろのポケットから先ほど涼が叩き割った瓶の口の部分を取り出した。破片はナイフの様に鋭く尖がり、先端には4cm四方の小さな布が刺さっていた。鑑もかなり体力を消耗しているようだったが、気合いとともに飛び上がると、迷うこと無く涼の背中、過去に友香が刺した場所と同じ箇所に破片を突き刺した。ビクリと涼の身体が跳ね、鑑を跳ね飛ばす様な勢いで立ち上がる。

 

「があぁぁ…!な……きさ……貴様……!?」

 

涼は肩で息をしながら自分の背中を伝う血を指で拭い、信じられないという表情で鑑を見つめる。瓶の口を掴んで抜こうと試みるが、思った以上に深く突き刺さっており抜くことが出来ない。

 

「馬鹿な…俺に乗っ取られたんだぞ…?脳が耐えられず自我が崩壊してもおかしくはないはずだ…そうでなくとも、一生植物状態に…」

 

「おそらく僕が意識を失ったら、もう目を覚ますことは無かったでしょう。まるで暗い部屋に閉じ込められた様になりながら、自分の身体を使った貴方の行為を見ているだけの時間は本当に辛かった。いったい何人、知っている顔が目の前で犯されたか…」

 

「貴様……」

 

「ですが、おかげで色んなことも分かりましたよ。篠崎先生のこととか、チャームのこととかね。おそらく会長への貴方のチャームの効き目が弱かったのも、会長は過去に篠崎先生の作った濃縮合成したチャームを打たれていたからです。人間には『耐性』という能力がありますから、一度強い薬を使うと、それよりも同じ効果のある弱い薬は効き目が出難くなるんです。篠崎先生にチャームの強化版を作らせたのは失敗でしたね。それに、アンチレジストのオペレーターとして、初めて戦闘で役に立てました」

 

そう言うと鑑はあまり見せない笑顔をシオンに向けた。シオンの顔に驚愕の色が浮かぶ。

 

「オペレーター…?ま…まさか鑑君……?」

 

「僕もびっくりですよ。如月なんていう珍しい名前の人が上級戦闘員にいることは知っていましたが、まさか会長だったなんて。普段のおっとりしているイメージからは想像がつきませんからね。まぁ、その服が会長の趣味なのは分かりますが…少々やり過ぎですよ?」

 

「あっ…これはその……支給されて……いや…趣味ではあるんだけど……」

 

2人が会話している最中、涼はじりじりと後ずさりをしながら距離を取る。弱っているとはいえ、アンチレジストが3人もいる現状に加え自らも深手を負ってしまった。綾と一緒に来たオペレーターもいつ応援を呼んで来るか分からない。ここは一旦退いた方が得策だ。

 

「くくく…とことん運のいい奴らだ…。だが、お前らももうまともに動ける体力は残っていないだろう?ここは一旦退いてやるが、いずれ……むっ!?」

 

足下を見ると、綾の手が涼の足首を掴んでいた。後ずさりしながら、綾の倒れている近くまで来てしまったらしい。

 

「久しぶりね……。生憎まだ腕を伸ばすくらいの力は残ってるのよ…。あと…さっきアンタに言った言葉は取り消し。アンタなんかに初めてはあげられないわ!」

 

「なっ…貴さ……うぉあ!?」

 

綾は掴んだ足首を強引に捻った。涼がバランスを崩してたたらを踏んだ所に、床一面に広がった自ら放出したのチャームの水たまりがあった。粘度の強い液体に足を滑らせ、背中から倒れ込む。背中に突き刺さったままの瓶の破片が自らの体重と床の固さに挟まれ、いとも簡単に涼の体内に飲み込まれて行った。

 

「ぐぶっ…!?が…がぁ……」

 

一度強くビクリと身体を跳ねさせると、しばらく細かい痙攣が続く。その後、ごぼっという音と共に口からは血の泡が吹き上がった。内蔵のどこかにダメージを負った証拠だ。

 

「シオンさん!」

 

「会長!」

 

綾と鑑が同時に叫ぶ。シオンは力強く頷くと、何とか手近なパソコンの置かれたテーブルの上によじ上ると、涼に向けて膝から落下した。

 

「もう…攻撃をする力は無いですが、あなたに『落ちて行く』ことくらいは出来ます!これで終わりです!」

 

ずぶりとシオンの膝が、涼の鳩尾に落下する。シオンは膝の先に何か硬い感触を感じた。先ほどの瓶の破片が皮一枚隔ててシオンの膝に触れる。破片が完全に涼の心臓を貫通した証拠だった。涼の身体が大きく跳ねる。

 

「がああああっ!?ごぶっ……お……お前ら……これで……終わりだと…思うなよ…。まだ……計画は……始まった……ばか………り…………」

 

そこまで言うと、涼の口の中にごぼりと大量の血液が溢れ、自ら後に溺れるようにごぼごぼと咽せた。目を覆いたくなる様な光景だったが、シオンは呆然と一部始終を見届けた。涼は目を見開き、ばたばたと痙攣しながら自分の爪で喉をかきむしっていたが、突然ぱたりと全ての動きが止まった。目はシオンを凝視していたが、もはやその画像が涼の脳に映像として届けられることは無かった。