Яoom ИumbeR_55

Яoom ИumbeR_55は「男性→女性への腹パンチ」を主に扱う小説同人サークルです。

2010年09月

燻製ねこ様率いる大樹のほとり様と相互リンクをしていただきました。

ジャンルはやや違いますが、文章力の高さは本当に感心します。

勢いで書き始まった私としては、色々な作家さんを見させてもらって勉強して行くしか無いですね。 

徐々に様々な方と交流していけたら嬉しいと思います。

「う…うぐっ…はぅぅ…はっ…あぁ…」

 

シオンは肩で息をしながら腹部を押さえ、片膝を付く。そのミニスカートから覗いた白い下着を部屋にいる男全員が凝視していた。口元からは一筋の唾液がすらりとした顎に向かって流れ、表情にえも言われぬ色香を漂わせていた。

 

「くくく…これは失礼しました。あまりにも責め甲斐のある身体だったものでつい力が入ってしまいまして。しかし…これからが楽しみですよ」

 

鑑は口元に手を当て、含み笑いをしながらシオンに呟く。他の男達からは息をのむ音が聞こえるようで、今この場から鑑がいなくなればすぐにでもシオンに襲いかかることは想像に難くない。犯し尽くす?精液まみれ?いくらこのようなことに疎いシオンとはいえ、言葉の意味することはさすがに理解できる。

鑑の姿を借りた涼を見上げながら、シオンは考えを巡らせる。涼も「身体を借りている」というくらいだから、おそらく本調子ではないだろうし、鑑の身体は人妖のそれとはちが人間である。他の運動部員達も数は多いがシオンの敵では無いだろう。

 

 

「不意打ちは食らいましたが、次はこうはいきません。絶対に倒します!」

 

「くくく…お手柔らかに…」

 

「はああああっ!!」

 

シオンの動きに合わせ、金髪のツインテールが流星のように美しくなびく。鑑は最初こそ余裕を持ってシオンの攻撃をガードしていたが、それでも慣れない身体のせいか徐々に苦しそうな表情になってくる。

 

「くっ…これだから人間の身体というのは…おごっ!!?」

 

シオンの放った膝蹴りが鑑の鳩尾にヒットし、下がった顎を掌底で跳ね上げ追撃する。もんどりうって鑑は倒れ、すぐに起き上がるが既に目の前にはシオンが仁王立ちで立ちふさがっていた。

 

「くぅぅ…い…いいんですか?こんなことをして…」

 

「私だってこんなことしたくありません。ですが、降伏しないのでしたら、さらに攻撃します!」

 

毅然とした態度を保ち、シオンには珍しく大きな声で鑑に言い放つ。しかし、鑑は不敵に笑いながら上目遣いでシオンを見つめた。

 

「おやおや…こわいですね。このまま痛めつけられれば鑑君が目覚めた時にどれだけ後遺症が残っているか。私は自分の身体が完全に回復すれば元に戻るだけですが、鑑君はそうはいかないでしょうねぇ?」

 

「なっ!?そ…そんなこと…」

 

「いいのですよ…好きなだけ痛めつけてくれれば…。鑑君の身体をね」

 

「ひ、卑怯者!それじゃ…攻撃できないじゃないですか…」

 

鑑はゆらりと立ち上がりながらシオンに一歩ずつ近づく。シオンは何もできずに後ずさるが、すぐに壁際まで追いつめられ、鑑との距離はもはやお互いの打撃が届く距離まで近づいていた。

 

「ほら、どうしたんですか?早く攻撃して下さい」

 

「あぅ…うぅ…くぅぅ…」

 

大げさに両手を広げてシオンに身体を開くが、シオンは全く動けずにいた。冷子の取り巻きの野球部員のように格闘に対して素人であれば、それなりの手加減をして行動不能にすることも出来たが、涼に乗っ取られた鑑に対してそれは通用しない。シオンも全力で攻撃しなければ歯が立たないが、果たしてそれに鑑の身体が耐えられるかと思うと疑問が残る。もしものことがあってはならない。

 

「くくくく…ではこちらから行きましょうか?あぁ…ついでに攻撃をガードしたら後ろで待機している男子生徒にも危害が及ぶかもしれませんので、お気をつけて」

 

鑑はサディスティックな笑みを浮かべると、ゆっくりしたモーションで拳を引き絞り、シオンのくびれた腹に狙いを定めた。

 

「ほら…行きますよ!!」

 

ドグッ!

 

「ぐっ…!ぐぅぅ…」

 

「ほう…これはこれは…」

 

ガードすることを禁じられたシオンは咄嗟に腹筋を固めて鑑の拳を受け止める。一見華奢そうに見えるが引き締まった体にはそれなりの筋肉が付いており、ダメージはあるものの致命的な衝撃からは守られていた。

 

ガッ!ガスッ!ドッ!

 

「ぐっ!うぅっ!くっ!……はぁ…はぁ…」

 

「ほとんど効いていないようですね。さすがはアンチレジストの上級戦闘員だ……そこのあなた」

 

鑑がテニス部部長の茶髪を呼び出した。呼ばれた茶髪は無表情で2人の所に近づく。

 

「ふふふ…相変わらずギンギンになってますね…もう我慢できないんじゃないですか?」

 

「あ、ああ…こんな格好してる会長見てたら、我慢なんて出来ねぇよ。ちょっと…トイレで一発ヌイて来てもいいか?」

 

「せっかちですねぇ…もうすぐ思う存分ぶっかけられるというのに…。シオンさんが少し強情なので、後ろからこの大きな胸を揉んであげて、緊張をほぐしてあげて下さい」

 

「マ…マジかよ!?いいのか!?」

 

後ろにいた男達もざわめき始める。茶髪は興奮して息を荒げながら鑑とシオンを交互に見ていた。

 

「もちろんですよ。あなたがこの中では一番慣れてそうですからね。全身の力が抜ける位丁寧にほぐしてあげて下さい」

 

「はぁ…はぁ…も、もちろんだ」

 

茶髪はいそいそとシオンの背後に回ると、その首筋に舌を這わせゆっくりと腹部の辺りをなてまわし始めた。

 

「あ…あふっ…!?や…やめ…なっ……く、首は……」

 

「あぁ…あぁ…すげぇいいにおいだ…」

 

腹部をなでさすっていた手が徐々に上へと上って行き、ある一瞬から一気に胸をも揉みしだき始めた。もにゅもにゅという擬音が聞こえそうなほどシオンの豊満な胸は茶髪の手によっていやらしく形を変えて行った。

 

「あ…あうっ!?や…やらっ…やらあぁっ…!お…おっぱい……いや……いやぁ……あふぅぅ……!」

 

ほとんど初めて感じる刺激と、茶髪の巧みな技巧でシオンはすぐに全身の力が抜けて行った。頬は赤らみ、目はとろんと蕩け、歯を食いしばって快感に耐える姿は誰もが劣情を抱き得ないほど卑猥なものだった。

 

「くくく…これは予想以上の反応ですね。私も興奮してきましたよ…。さぁ、皆さんもこのエッチなシオンさんを見てあげなさい」

 

待ってましたとばかりに5~6人の男がシオンのそばに殺到する。既に目は血走り、それぞれの男性器は限界寸前まで昂っていた。おのおのが生唾を飲みながらシオンの痴態を凝視する。

 

「うわぁ…会長めっちゃ敏感じゃん」

 

「エ……エロいな……」

 

「やべぇ…ちくしょう!俺も触りてえ…」

 

シオンは快感に耐えるのに必死で、鑑が攻撃しようとしていることなど既に頭の中から消え失せていた。その上自分のこんな姿を見知った男子生徒達に見つめられていると思うと、身体の奥の方が徐々に熱くなって来た。右腕はわずかに抵抗するためか、首筋に吸い付いている茶髪の頭を抱くように回され、左手の白いロング手袋を噛んで快感に耐える姿は男達の興奮を煽るだけであった。

 

「だいぶ効いてきたみたいですね…では…そろそろ…」

 

既に心ここにあらずのシオンは鑑に対し無防備に身体を開いていた。鑑はゆっくりと狙いを定め、ちょうどヘソの中心を目掛け突き刺した。快感により弛緩しきった腹筋に鑑の拳を受け止めることは当然出来ず、ズブリをいう音とともに拳が手首まで埋まると、先ほどとは比にならない衝撃がシオンの身体を駆け巡った。

 

「あ…やっ…見ないで……はぁん……ごぶうぅぅっ!!?」

 

性的な刺激で大量に分泌された粘度の高い唾液が、糸を引いて口から飛び出た舌を伝い、地面に落ちた。一瞬で快感という天国から苦痛という地獄にたたき落とされ、シオンの頭は半ばパニックに陥った。

 

「くくく…そう…その表情ですよ…!」

 

ズギュウッ!!ドブッ!!ズブウッ!!

 

「ぐぼあぁっ!?あぐうぅ!!うぐあぁぁ!!」

 

シオンの目が大きく見開かれ、瞳孔が収縮し四白眼の様になる。周囲の男達も突然の事態に目を丸くするが、シオンの苦しむ顔を見ると別の表情が浮かんできた。

 

「なぁ…会長の腹殴られてるときの顔…なんかエロくないか?」

 

「ああ…イッた時に女が見せる表情っつーのかな?あれに似てね?」

 

「え…えぇっ!?シ…シオンさんイクとあんな顔するんだ…す、すごい!」

 

「な、なんか…俺も殴りたくなってきたな…」

 

「やべぇ……こんなエロイ表情見せられたら俺もう……出そうだ……」

 

口々にそう呟きながら、シオンの腹と表情を交互に見つめる。それを横目に鑑が満足そうにうなずいた。

 

「皆さんもう限界そうですね。私ももう我慢できそうもありませんよ…。そろそろ…フィニッシュしましょうか?タイミングを合わせますよ」

 

待ってましたとばかりに男達は一斉に男根をしごき始める。シオンの胸をこね回していた茶髪も既に男達の側に回って、今まで味わっていた感触を思い出しながらものすごい勢いで男根をしごいていた。

 

「これで…最後ですよ!!」

 

鑑はシオンの肩を掴むと身体を下に向けさせ、巨乳の中心にある鳩尾を容赦なく突き上げた。肺の中の空気がすべて出され、胸骨がめきりと嫌な音を立てる。

 

「はぁ…はぁ……ぐぼあぁぁぁぁ!!!……あぅぅ……」

 

何度目かの攻撃を受け、シオンは舌先から唾液を滴らせながらがくりとうなだれた。膝立ちになりながら肩で息をし、喘ぎながらうなだれる姿はとても卑猥で、鑑が無理矢理顔を起こしていつの間に取り出したのか男根をシオンに突きつけた。

 

「うぐっ…!……はぁ…はぁ……え?……な……なんですか?」

 

シオンは状況が掴みきれず、目の前に突き出された数時間前に初めて見たばかりの男根をしげしげと見つめてしまった。鑑はシオンの頭を両手で固定すると、その半開きになっているシオンの口に勃起しきった男根をねじ込んで上下に頭を振り立てた。

 

「え…?か…鑑君…?むぐぅ!!?んむっ…!?んっ…んぐぅぅぅ!!」

 

「お…おおおっ!!キツい唇だ…しかし、ねっとり蕩けて……チャームは出ませんが、鑑君の精液を味わわせてあげますよ!」

 

「む…むぐっ……んっ…んっ…んっ…んむぅ………むぐぅっ!?ぐ…ぐむぅぅぅぅぅ!!?」


「おおおおっ…!!ま…まだ出るぞっ…!」

シオンの口内をかき回していた鑑の男根がビクリと跳ねたかと思うと、その直後に今まで味わったことの無い味の熱い粘液が口中に広がった。男根は定期的にドクドクと脈打ち、シオンの口内に大量の白濁をぶちまけ、嚥下しきれない分は唾液と混ざり合ってボタボタとシオンの巨乳に落ちた。

 

「むぐっ…う……むぅぅ……ぷはっ!!はぁ…はぁ…はぅぅ………な、何ですかこれ?ま、まずい…」

 

長い射精が終わり、ようやく鑑の男根が口から抜かれたかと思うと、すぐに数本の別の男根がシオンを取り囲みんだ。今までの人生で想像すらできなかった口内射精のショックから立ち直れず、胸や手のひらに落ちた精液を呆然と見つめているシオンに向け一斉発射を開始する。


「ああ…あああ…あ、あのシオンさんのフェラチオが見れるなんて…」

 

「ぐぉぉぉぉ…!会長エロ過ぎだぜ!もっとドロドロにしてやるよ!」

 

「口の周り真っ白だぜ、それに胸も…ああっ!……イク!!」

 

ほとんど同時に、男子学生達が一斉に精を放った。興奮の度合いが高すぎたせいか、おのおの数回分に相当する大量の白濁をシオン一人に浴びせ、シオンの体中はたちまち真っ白染め上げられて行った。

 

「え…?あっ…み、皆さん…何を…?…あ…きゃあっ!?なっ…?いやぁぁ……!うぶっ…口に入っ……あ…えうっ……いやぁぁ…!!」

 

黒を基調としたメイド服に白い精液がコントラストとなり、大量の白濁を強調していた。周囲にはむっとする精臭が漂い、その中心でシオンが呆然と佇んでいたが、それを取り囲む男達の男根は寸分も萎えていなかった。

「何…ここ…?」

 

 

エレベーターを出ると、空調が効いているのか、ひやりとした空気がシオンを包み、火照った体が一気に冷めるのを感じた。がらんとした空間は所々防犯用の薄暗い蛍光灯に照らされ決して明るくはなかったが、それでも部屋全体を把握するのには困らなかった。

部屋には床も壁もコンクリート打ちっぱなしの殺風景な部屋には、様々な大きさのケージや檻があり、それぞれ何らかの動物が入れられていた。犬や猫のほか、猿やゴリラのような大型の霊長類までいる。ある一角には小さめのケージが天井近くまで積まれ、そのひとつひとつにネズミのような生き物が入れられていた。つい最近まで多くの動物達がいたのか、コンクリートの床はうっすらと汚れており、所々に引きずったような傷がついていた。

異様だったのは、様々な動物達がいるはずなのに物音が一切しなかった。眠っているのかと思いシオンが一番近くにあった4つほど積み重なった猿の檻に近づくと、 檻の中の猿は濁った目を開けたままシオンを見つめ返した。事態が飲み込めずにしばらくその場を動かずに檻の中を凝視すると、猿は両腕と足の一部を欠損していた。シオンの背中に冷たいものが流れた。よろよろと隣にあったゴリラや犬、ネズミのケージを覗くも、既に事切れている動物ばかりだった。しかもその殆どが身体の一部を欠損し、生前に想像するに耐えない行為を受けたことが伺えた。

 

「ううっ…」

 

シオンは思わず口を抑える。多くの死に囲まれた言いようの無い気味の悪さと、何も出来ない自分への無念さ。

 

「な…なんですかこれは…なんて酷い…。どうして…」

 

シオンはコンクリートの床に、文字通り両手で頭を抱えて膝をついた。長い金髪がはらはらと肩から流れて床に垂れる。このような場所が自分の学校にあったという受け入れがたい事実。シオンは頭を抱えていた手を自分の顎の下で組み直し、静かに動物達の冥福を祈った。

5分ほどそうしていただろうかシオンが隣の部屋から聞こえてくるかすかな物音に気付いた。

 

「足音…?それも複数いる…。関係者でしょうか…?」

 

ネズミの檻の壁をすり抜け、コンクリートの壁と同色に塗られたドアをそっと音を立てずにわずかに開け、その隙間に鏡を差し込んで中を見る。その光景を見た瞬間にシオンは息を飲んだ。

 

「!!?な、何ですかこれは!?」

 

部屋全体の作りはあちら方が広いが、壁際には複数のコンピューターやワークステーション、もう一方の壁には中は暗くて見えないが、試験管を逆さまにしたような形の、人間が1人くらい軽く入れるようなガラス製かアクリル製の大型の入れ物が4つ設置され、コンピューターと大小様々なケーブルで繋がっていた。その横には同じような大きさの檻が2つ置かれ、今は空になっていた。様々な機材のため、実際に歩けそうなスペースはそんなに広くはないだろう。

しかし何よりも異常だったことは、部屋の中には、全裸の男性が5~6人がうつろな表情でうろうろと歩き回っていた。中には知っている顔もあり、おそらく全員がアナスタシアの生徒であろう。一番シオンの近くにいるのは長髪を茶髪に染めた男子テニス部の部長だ。3月に行われた生徒会部費予算会議に彼が出席していたことを覚えている。その当時、はつらつとインターハイ出場の夢を語っていた彼だが、今ではそのぼさぼさの髪と落ちくぼんだ目からまるで麻薬のジャンキーのような風貌になっている。少し奥には相撲部の部長もいた。

 

「な…え…?これは…?なぜ彼らがここに?この部屋は一体…?」

 

「おやおや…やっとメインゲストのお出ましですか。さぁ、こちらですよ」

 

「え…?きゃああ!」

 

事態が飲み込めず、震える手で鏡を使い部屋の様子を観察していたシオンの手を、突然何者かが掴んで強引に部屋に引きずり込んだ。鏡が派手な音を立てて割れ、シオンも強引に引っ張られた反動でコンクリートの床に前屈みに倒れる。シオンがゆっくり振り向くと、部屋中の男達が血走った目でシオンを凝視していた。

 

「はぁ…はぁ…マジで会長じゃん…」

 

「本物!?本物の如月さん!?本当に本物!?」

 

「すっげぇ、マジで可愛いな…」

 

「ふひひひひ…綺麗な髪だなぁ…これが夢にまで見た…」

 

「シオンちゃん、すごい格好してるな…何のコスプレだよこれ…?誘ってんのか…?」

 

ぎらついた目でシオンとその身体を舐めるように見つめる男達。先ほど冷子と一緒にいた野球部員とは様子が違うが、全員普通の状態ではないことは確かだった。全員が全裸で、男性器を隆々と勃起させている。

 

「あ…あぁ…。 み…皆さん…な…何してるんですか…?」

 

突然複数の全裸の男性に取り囲まれるという異常事態に、震える声で男子生徒達に声をかけるが、当然返答はなかった。

 

「私が変わりに話しましょうか?」

 

ドアのそばから先ほどシオンを引っ張った男がこちらへ歩いてくる。ドアの影の暗がりから蛍光灯の下へ出るとシルエットだった男の像が鮮明に浮かび上がる。先ほど引っ張られたときの声にも聞き覚えがあったが、その姿を見て確信した。

 

「あ…あなた…副生徒会長の鑑君!?な…なぜこんな所に…?」

 

全く事態が飲み込めず、困惑した声を向ける。シオンを引っ張った男は、3人いるアナスタシアの副生徒会長のうちの1人だった。眼鏡をかけた知的な生徒だったが、今ではどこか野性的な、というよりも別人のような雰囲気を全身から漂わせている。

 

「ふふふ…まぁまぁ慌てずに…」

 

鑑が大げさな身振りで両手を広げる。

 

「まず、彼らを責めないで下さい。私の同僚が作った薬で少しばかり欲望に忠実になっているだけです。以前の薬はやや知能が低下してしまいますが、今回のはその改良型ですから意思の疎通は出来るはずです」

 

鑑が今にも飛びかからん勢いの男子生徒を手で制すと、生徒は一瞬不服そうな顔をした後、素直に従った。他の男達も同様に男の一歩後ろに下がるが、荒い息を吐きながら粘つくような視線をシオンに向けている。

 

「同僚…?まさか、篠崎先生のこと…?か…鑑君が…どういうこと…?」

 

「ふふふふ…驚かれているようですね。まぁ無理もありませんか。今はこの身体を借りているだけですからね…。私の名は桂木涼。以前あなた方の組織の神崎綾さんに大変お世話になりましてね。お陰様で今は本来の身体が思うように使えないので修復中なんですよ。変わりにこの学園の副生徒会長の鑑君の身体が、私の元の身体に近いことが分かりましてね、拝借しているわけです」

 

シオンはあまりの事態に次に出てくるべき言葉がいくつも頭の中に渦巻いて、何も喋ることが出来なくなっていた。目の前にいる副生徒会長の鑑は、自分よりひとつ年下の男子学生だ。普段はもの静かだが、冷静沈着で何が起きても常に物事に対し最善の判断を下すことのできる数少ない人物で、シオンもかなりの信頼を置いていた。それに加え家系の伝統らしく幼少の頃から様々な武道を学んでおり、華奢そうに見えるが身体はかなり鍛え上げられ体力測定でも常に好成績をキープしていた。

その鑑を、以前綾と対峙した人妖が乗っ取ったと言うのだ。身体を借りる?そんなことが現在の医学で可能なのか?そもそも綾が涼と対決したのは1ヶ月ほど前ではなかったか。ではその頃から既に涼は鑑と入れ替わっていたのか?

 

「それにしても…ここにいる男達が夢中になるのもうなずけますね…」

 

不意に涼に乗っ取られた鑑が声をかけて来た。鑑はシオンの身体を先ほどの男子生徒同様つま先から頭まで舐めるように見回している。視線は足首からむちむちの太ももを伝い、挑発的な黒いミニスカートとそれに合わせたエプロンドレスの巻かれた腰を舐め回した後、キュウッとくびれた素肌の露出している腹部を凝視し、そのくびれた腹部に不釣り合いなほど豊満な胸と、それ引き立てる黒地に白いフリルの付いたブラジャータイプのトップスを視姦した。

 

「なっ……ど…どういう意味ですか…?」

 

「くくくく…どうやら噂通りの天然娘のようですね。なら教えて差し上げましょうか?」

 

油断したとシオンは瞬間的に思った。無理も無い。つい最近まで一緒に生徒会の仕事をしていた姿が、自分の身体をいやらしい目つきで見回しているのだ。その混乱に乗じて鑑は素早くシオンの目の前に移動し、耳元で囁いた。

 

「私を含め全員、可愛くてエッチな身体をしたあなたを、滅茶苦茶に虐め犯し尽くして、精液まみれにしてやりたいと思っているんですよ…」

 

「なっ…そ…そんな…うぐぅっ!!」

 

耳元で囁かれた悪魔のような言葉に困惑した瞬間、シオンのくびれた腹部には鑑の小さめの拳が手首にまでめり込んでいた。

 

「ほぅ…綾より華奢なお腹ですね。これは虐め甲斐がありそうだ…」

 

鑑はシオンの腹部に埋まったままの拳を強引に開きながら、さらに奥へ腕を沈めた。内蔵がかき分けられ、身体の内側から来るダメージがシオンを襲い、後方へ弾かれるように吹っ飛ぶ。

 

「がっ…あぁぁ……ぐぶうっ!?ごぶあぁぁ!!」

 

飲み込みきれない唾液が強引に吐き出され、鑑の腕に飛沫が飛ぶ。鑑はハンカチを取り出してそれを拭き取ると、赤く光る縦長の瞳孔でシオンを見つめた。

暗闇の中のコンクリート打ちっぱなしの壁は、外の蒸し暑さを忘れ、すべての熱と音を吸収するように冷たく静まり返っていた。ポツポツと付いた頼りないオレンジ色の非常灯と、緑色の非常口を表すライトに赤い非常ベル。昼間の生徒達で活気あふれる空間とは対照的に静寂の空間が広がっていた。

シオンは入り口から最初の角を曲がった所で尻餅をついたまま壁にもたれかかり、呼吸と体調が回復するのを待った。幸い、冷子が入ってくる気配はない。

 

「はぁ…はぁ…。なんで追ってこないんですか?それにしても強い…。私で勝てるの…?はぁ…はぁ…」

 

汗で額に貼り付いた金髪をかき上げながらシオンが呟く。シミュレーション訓練では最高難易度も軽くクリアするシオンだが、冷子との戦闘では野球部員が3人いたとはいえ、ほぼ一方的な展開であった。未だに攻撃された腹部から鈍い痛みが響いてくるが、いつまでもこうして休んでいるわけにはいかない。冷子を倒す方法を見つけるか、アンチレジストのオペレーターに連絡を取って応援を要請するか…。

 

「そもそも…何で研究棟が施錠されてないんですか。おかしいです。こんなことがバレたらアナスタシアの信用はガタ落ちのはず…誰かが故意に開けた?でもなぜ…?」

 

シオンが考えを巡らせていると、不意に甲高い、ポーンと間の抜けたような電子音が響いた。シオンが咄嗟に身構えるが、何も無い。辺りを見回すと、廊下の遥か奥の方に、先ほどまで無かった非常灯とは違う蛍光灯の明かりが漏れている部屋があることに気付いた。

シオンが近づくと、それはエレベーターだった。さっきの電子音はエレベーターの扉が開く音だったのだ。エレベーターの上にある停止階のランプを見ると、2階から5階まではすべて「・」で表されてあり、その上には赤地に白抜きで「生徒使用厳禁」と書かれたプレートが貼付けられていた。

 

「民間企業用のエレベーターがひとりでに…?そんなわけない…誰かが操作しているはず…」

 

シオンは考えを巡らす。どう考えても罠に違いない。そもそもこの時間に研究棟に自分が入れたこと自体がおかしいのだ。その上このエレベーター。明らかに敵の手中に追い込まれて行ってることは明白である。しかし、シオンは一度深呼吸すると、ためらい無くエレベーターに乗り込んで行った。

 

「日本のことわざに、虎穴に入らんずばってのがあります。このまま逃げていても、皆を…アナスタシアを救うことは出来ません。私の好きな場所は、私が取り戻します!」

 

 

 

 

モニターの中では、シオンがエレベーターに乗り込む姿を廊下から映した映像と、エレベーターにシオンが入ってくる姿をエレベーター内部から写した映像が別角度で映っていた。人影がボタンを操作すると、エレベーターの扉が閉まり、指定した階に向かって上昇を始める。

 

「入っちゃったね」

 

「罠と知りながら乗ってくるとは…」

 

「さすがは責任感が強いな。学校と生徒を守るためには自分の身も犠牲にするか。この娘が生徒会長になってから問題が激減したのもうなずける」

 

「それ以上にファンがすごく多いんでしょ?ここまで顔もスタイルも良い上に性格も良い人なんて最近いないよ。告白も何十回されたか分からないらしいよ。まぁ本人にその気は全く無いというか、天然入ってるから告白しても気付かないんだって」

 

「会長に迷惑はかけられない…って感じで学校がまとまってるのかな?」

 

「それにしても良い人材を見つけてくるものだな、アンチレジストは。その人間の持つ人徳が高ければ高いほど、我々が得るエネルギーも大きい」

 

「そのためにはたっぷりと苦痛と屈辱を与えないとね」

 

「そうだな…あいつらの様子は?」

 

「もう大変。冷子の作った薬のおかげで暴走寸前だよ。拘束して抑えてるけど、この娘…シオンだっけ?見たらどうなるか分からないよ?」

 

「そうか…楽しみだな…」

 

楽しみだと言った1人が席を外し、部屋から出て行った。部屋の中の1人が別のボタンを操作すると、モニターには病院の大部屋のような部屋に5~6人の男性がベッドに寝かされている映像が映った。全員運動部の学生か、鍛え上げられた体をしていたが、その全員がベッドに両手両足を拘束され、衣服も毛布類も身につけていなかった。それだけでも異様な光景だが、全員酷くうつろな表情をしている反面、股間が大きく隆起していることとがその異様さに拍車をかけていた。

 

 

 

シオンがエレベーターに入ると、自動的に扉が閉まり、軽い衝撃とともに速いスピードで上昇を始めた。エレベーター内部の停止階ランプはどこも点灯していない。とうに生徒の使用する特別教室の階層は過ぎ、民間企業用の研究施設の階層に入ったが、まだ上昇は止まらなかった。かなり上の階に行くようである。

ポーンと再び間抜けな電子音が聞こえ、エレベーターは停止した。扉が開くと、薄暗い蛍光灯に照らされた広い空間に出る。シオンは意を決してエレベーターから一歩進み出た。

コメントで小説の書き方に付いて質問をいただきましたので、紹介します。


僕の場合はかなりギャンブルなやり方で、書くというよりはスケッチに近いです。順番で言うと

 

・ある程度詳しくストーリーを決める

・登場させるキャラを強く思い浮かべる

・キャラを登場させたい場面(ステージ)を強く思い浮かべる

・その場面にキャラクターを登場させる

・当初決めたストーリーに沿って演技してもらう(自分で動かすのではなく)

・そのうち自然に動き出しすので、ひたすらスケッチ

 

 

うーむ、我ながらかなり特殊なやり方ですね。

ちなみにキャラクターや場面は殆どアニメ調で出てきます。勝手に動き出してからはこちらはスケッチするだけなので、当初思い描いていたストーリーにならなかったり、予定外のキャラが乱入して来たりすることもしばしばです。

そういえば北野武氏も映画を撮る際は台本を殆ど見ず、その場で浮かんだことを役者に口頭で伝え演技させるらしいです。セリフを覚えても殆ど意味がないとか。

逆に他の方がどう書いているのか気になります。



追伸
case:ZIONの研究棟編は明日UP予定です

「ほらほらぁ…いくわよぉ…スゴいのがいくわよぉ…」

 

冷子はギリギリと拳を引き絞り、シオンの引き締まった腹部に狙いを定める。冷子のサディスティックな満面の笑みとは正反対に、シオンの顔は青ざめ、あきらめの色がにじむ。

 

「あ…ああ……や……やめ………」

 

 

胃を握りつぶされ、鳩尾を膝で突き上げられ、散々虐められて未だに痙攣の収まらない腹部に更なる打撃を加えられれば一体自分はどうなってしまうのか。不妊、内臓破裂、最悪…死亡。まだまだ若いシオンにとっては残酷すぎる現実が、目の前の冷子の拳から自分の身体に突き入れられると思うと、恐怖と絶望でいっぱいになった。

 

「ほらぁ…どこを狙ってほしいの?鳩尾?お臍?それとも子宮のあたりかしら?あはぁ…どこを攻撃しても、もしかしたらイっちゃうかもぉ…」

 

「わ………私は………」

 

「んふぅ~?なぁにぃ?」

 

度重なる衝撃によって、口内には唾液が通常よりも多くあふれるが、シオンはそれを飲み込むことが出来ず、唇の端を伝って地面や豊満な胸に落ちる。ただ喋るだけでも内蔵が悲鳴を上げるが、シオンは力を振り絞って冷子に語った。

 

「私は…げふっ……こ…この学校が好き……学校の…皆も……先生も………も……けほっ……もちろん……篠崎先生だって……」

 

「ふぅん……それで?」

 

「せ……先生と…この人たちを……す…救えなかったことが…心残りです…。絶対に……綾ちゃんや……他のみんなが……来てくれるはずですから……げほっ……先生も…酷いことはやめて……改心して下さい……」

 

「ふふ……ふふふ……あははははは!それがあなたの最期の言葉!?私を救いたいって?人妖の私を!?どこまでお人好しなのかしらぁ!?」

 

「お…お人好しでもいい……それでも…私は……皆に…幸せになってほしい……」

 

絞り出すようなシオンの言葉。もはや声は途切れ途切れの弱々しいものになっていたが、その目には意思の光が宿っていた。

 

「ふぅん…。おめでたい人ね。そんな考えではこの先利用されるだけよ?まぁ、ここで死んじゃえば関係ないけどねぇ…。それじゃあ…さようなら」

 

唸りを上げて冷子の拳がシオンの下腹に向けて放たれる。シオンは無表情で自分の腹部に吸い込まれて行く拳を見つめた。 骨同士がぶつかり、軋む音が石畳の上に響く。

 

メギィィィィ!!

 

「が……が……」

 

「!!?お…お前!?」

 

シオンの太ももに頬擦りしていた眼鏡が瞬間的に頭を持ち上げ、冷子の拳をその頭で受け止めていた。ミシミシという音が眼鏡の頭からシオンの耳に届く。

 

「くっ…はぁっ!!」

 

「あぐっ!?」

 

脳が考えるよりも先に、瞬間的にシオンの体が反応した。自由になった右足で冷子の顎を蹴り上げ、振り上げた足が戻るのを利用し、背後から羽交い締めにしている帽子の金的を蹴り上げた。自由になった手で手刀を作り、未だに左足に頬擦りをしているひげ面の首に振り下ろし、悶絶している帽子の鳩尾を突き上げた。

わずか数秒。体に染み付いた全く無駄のない動きで、一瞬のうちに冷子は蹴り飛ばされ、帽子とひげ面は失神して地面に伸びていた。シオンはあわてて冷子の全力の一撃を受け、石畳の上でビクビクと痙攣している眼鏡に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫ですか!?な…なぜこんなことを…!?」

 

「あ…ああ……会長のお腹…スベスベだったなぁ……」

 

拳が離れた瞬間から、眼鏡の鼻や耳から大量の血が吹き出していた。シオンは無理に抱き起こさずに、小刻みに痙攣している眼鏡のズボンのベルトを緩め、横向きに寝かせてやる。

 

「そんな…大変…すぐ病院へ…」

 

「し…幸せだぁ…会長に…触れられて………会長も……幸せに……なってく…れ……」

 

眼鏡は糸の切れた人形のように全身の力が抜け、ぴくりとも動かなくなる。シオンは目に涙を浮かべ、何度も首を横に振る。

 

「あ……ああ……嘘……嘘ですよね…?」

 

「失神しているだけよ」

 

背後から冷子の声が聞こえ、シオンは素早く振り向く。冷子はまるで汚いものに触れたかのようにハンカチで拳を拭いながら近づいてくる。

 

「まったく、最後の最後まで使えないゴミ虫共だわ。利用価値のない奴らは全員死ねばいいのに…残念ながら頭蓋骨も折れてないし、あなたの取った行動は応急処置としては完璧ね。その姿勢なら血や吐瀉物が喉に詰まることも無い。医者の私が言うから間違いないわ」

 

「先生…!!」

 

今まで抱いたことの無いほどの黒い感情が、シオンの中を駆け巡る。全身の細胞がこいつは敵だと伝えてくる。絶対に倒さなければならない。気付いた時にはシオンは冷子に向かって突進していた。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「あらあら…らしくないわね…」

 

ゴギュッ!!

 

「うぶぅっ!!?……し…しまっ…」

 

冷子の「伸びる腕」が、我を忘れ突進していたシオンの腹に突き刺さる。一瞬で勢いを止められ体がぐらついた所を、冷子がじりじりと距離をつめながら攻撃する。

 

ヒュヒュン!!…ドギュッ!ズムッ!グジュッ!!

 

「あ…がぶっ!うぐうっ!ごぶっ!!……あ…ああ……」

 

「うふふふ……つかまえたぁ」

 

気がつくと、冷子はシオンの目の前まで迫り、がっしりと髪を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。

 

「あうっ…!痛…」

 

「んふふ…さっきのお返しよ…」

 

伸びる腕の何倍もの破壊力のある直接の攻撃。小振りだが石のように固い拳がシオンの滑らかな腹部に吸い込まれた。布地の一切無いむき出しの生腹に手首まで拳が埋まり、背骨がメキリと音を立てる。

 

ズギュウウッ!!

 

「ぐぼああぁぁぁ!!!」

 

2つに纏められた長い金髪をなびかせながら、シオンは数メートル後ろへ跳ね飛ばされ研究棟の外壁へ背中を痛打し、腹を両手でかばうようにしながら地面に両膝をつく。

 

「ああぐっ…げぶっ!?……うぁぁ……」

 

腹部と背中への衝撃から、たまらずこみ上げたものを地面へ吐き出す。その間もまるで苦しむシオンを楽しげに観察するように、ゆっくりと冷子が近づく。

 

「ま…まずい……、離れないと……」

 

力の差は歴然であった。このままでは劣勢になる一方と悟ったシオンは一度体勢を立て直すために、何とかこの場を離れようと、よろよろと立ち上がる。冷子の近づく速度は変わらない。壁に手をつきながら建物に沿って移動すると、鉄製の、装飾の施された研究棟の入り口があった。下層階は生徒達の特別教室になっているが、当然今は施錠されているはずである。

 

「あははは!如月さん、今度は鬼ごっこかしら?そんなに遅いんじゃすぐ捕まえちゃうわよ?」

 

まるで傷ついた獲物をじわじわと追いつめる残酷なハンターのように、背後から冷子の声が近づく。追いつかれるのもこのままでは時間の問題である。シオンは祈るような気持ちで研究棟の扉に手をかけると、意外なことに軽く扉が開いた。

 

「えっ!?な…なんで?開いてるわけが……?で、でも…チャンス…なの?」

 

この研究棟は下層階はともかく、上層階には民間企業や外部研究所のトップシークレットの研究が数多く行われている。仮に夜中に不心得者が侵入しデータなどを奪われでもしたら、アナスタシアの信用はガタ落ちになるため、この研究所のセキュリティは特に厳重との話だった。鍵を閉め忘れるなんてことはあり得ない。

シオンの頭に様々な考えが浮かんだが、このまま闇雲に逃げ回っているよりはいくらかは事態が好転するはずである。シオンは意を決して研究棟の中に入った。

 

「あらあら…やっぱり入ったわね。うふふふ…如月さん、罠というのはね、奥に行けば行くほど脱出が難しくなるのよ?」

 

冷子は満足げにシオンを見送ると、携帯電話でどこかに電話をし始めた。

「げふっ……あ…ああ……」

 

腹部に定期的に波打つ鈍痛。身体の奥からこみ上げてくる不快感。シオンは腹を両手でかばうように押さえながら人妖、冷子を見つめた。月の光を後方から浴びて青白いシルエットの中に、赤く光る目だけが異様な存在感を放っていた。

 

(何なのあれ?私、何で攻撃されたの?)

 

「あらあら、まあまあ…口から涎垂らしちゃって、すごくエッチな顔になってるわよ?そんなに痛かったかしら?これでも加減したつもりだったんだけれど…。まぁいいわ。少し眠って頂戴」

 

再び空気を切り裂く音が聞こえてくる。シオンは咄嗟に右方向へ転がるように離脱する。

 

「あははは!ほらほら、逃げてるだけじゃどうにもならないわよ?」

 

冷子の攻撃方法が分からない以上、不用意に近づくのは危険だ。連続して襲い来る攻撃を右へ左へと何とかかわすが、このままでは無駄に体力を奪われるだけである。シオンが噴水を背にした所を攻撃され、必死によけると噴水の水が勢いよくはじけた。

 

「あら、惜しかったわねぇ。もう一回あなたが嘔吐く所が見たかったのに…」

 

「くっ…まずい…このままじゃいずれ当てられる…。ん…あ、あれは…?」

 

シオンは意を決し、空気を切り裂く何かをサイドステップで紙一重でかわすと、重りの付いた鞭のような物体が一瞬目の前で静止した。シオンは機敏な動きでそれを掴む。

 

「えっ…う…な…何これ!?」

 

「あら…凄い反射神経ねぇ…」

 

それは、腕だった。形状こそ腕だったが、それはまるで軟体動物のような気味の悪い固さになり2mほど伸びており、先端にはしっかりと拳が握られていた。反射的にシオンが手を離すと、冷子の「腕」はまるで伸びたゴムが縮むように一瞬で元の形状に戻った。

 

「もうバレちゃったわね。さすがは上級戦闘員ってとこかしら?戦力が未知数の相手に不用意に近づかずに攻撃できるように、ちょっと骨やら筋肉やらを弄ってみたんだけど、攻撃力がガタ落ちなのよね。やっぱり直接攻撃するに限るわ」

 

どこをどう弄ればこういう風になるのかわからないが、人妖の強靭な身体と冷子の医師としての才能がこのような腕を作ったのか。

 

「攻撃で噴水の水がはじけた後、篠崎先生の腕が濡れていたのでまさかと思いましたが…こんなことって…」

 

シオンは改めて目の前に存在するものが化物であることを認識する。今まで幾分なりとも世話になった先生が人妖であることを心のどこかで否定していたが、その人外そのものの腕を見た瞬間に心は決まっていた。

 

「篠崎先生…いえ、篠崎冷子!対人妖組織アンチレジストの戦闘員として、あなたを退治します!」

 

「うふふふ…勇ましいわねぇ…。美しい…とても気高くて美しいわぁ…。でもね如月さん。こちらとしても簡単に退治されるわけにはいかないのよ………あなた達!いつまで寝ているの!?」

 

その声にびくりと反応し、先ほど倒したはずの野球部員達がヨロヨロと起きだした。帽子にいたってはまだ気を失っていたが、ゾンビのようにフラフラとシオンに近づいてくる。

 

「なっ?こ…これは一体…?」

 

「凄いでしょう?意思の力は時々肉体を凌駕するのよ。この子達に施したチャームの力は絶対。何があっても私の命令通りに動くわぁ」

 

「チ、チャーム?チャームって、男性型の人妖の…た、体液のことじゃ…?」

 

うっすら赤くなりながらシオンは冷子に言う。男性型人妖の唾液や精液には人を魅了する力があるというが…。

 

「あらあら、如月さんはそんな挑発的な身体しておきながら結構ウブなのねぇ…。女性型でもチャームは使えるのよ。それも男性型より強力な…ね。粘膜を触れ合わせて相手に直接送り込むからかしら?まぁ、この子達みたいに童貞君の相手は結構疲れるけど」

 

「なっ…そ、そんなことを……」

 

シオンは耳まで赤くなりながら冷子の話を聞く。綾の話ではチャームはせいぜい「相手を魅了する」程度のものだ。安定的にエネルギーを補給するためだろう。しかし、冷子の行っているそれは洗脳や傀儡に近い。

シオンと冷子が会話している間に、野球部員達はのろのろとした動きで冷子の後ろに跪く。冷子は満足げに3人を見下ろすと、3人にそれぞれディープキスをしたり、手で股間をまさぐったりした。

 

「うふふふ。素直でいい子よ…。あらあら…こんなにしちゃって。まぁ目の前に憧れの如月さんがあんな格好でいるのだから無理も無いわねぇ。さぁみんな…お注射の時間よ」

 

冷子は足で部員達の勃起した股間を小突きながら、胸ポケットから白いケースを取り出し、中の注射器を3人の部員達の首筋に突き刺した。

 

「な、何してるんですか!?もうこれ以上その人たちに危害は…」

 

「うふふ…大丈夫よ。もう終わったわ。さぁ、如月さんを取り押さえなさい。手は出しちゃダメよ」

 

目の前の痴態に思わず固まってしまったシオンだったが、はっと我に帰り冷子に向かって叫ぶ。注射を打たれた3人は再びシオンに向かって歩き出していた。

 

「なっ…こ、来ないで!来ないで下さい!」

 

「だめよぉ…この子達はあなたを捕まえるまでは止まらないわ。どうしても止めたかったら殺すか、さっきみたいに気絶させるしかないわよ?」

 

冷子は喜劇舞台でも見ているような様子で首を傾げ胸の下で腕を組みながら呟く。その間にもシオンと3人の距離は徐々に詰まっていく。

 

「くっ……し、仕方がありません…。なるべく傷つけずに…」

 

眼鏡が抱きつくようにシオンに両手を広げて迫る。相変わらず隙だらけだ。シオンは相手が迫る勢いを利用し、右手を眼鏡の腹部に突き出す。

 

ドギュウッ!

 

「が…が………」

 

「ごめんなさい…どうか眠って…」

 

「が……が……へへ………へへへへへ………」

 

「!?な、なに?」

 

「会長ぉ……会長がこんな近くにぃ……」

 

シオンの攻撃は確かにクリーンヒットした。しかし、相手は怯むどころかまるで攻撃など無かったかのように抱きつこうとするのをやめない。残りの2人もシオンのすぐそばまで迫っていた。

 

「な…なんですかこれは!?どうして…?」

 

「ちょうどあなたの裏に建っている研究棟。そこには最新鋭の設備があることはあなたも知っているでしょう?私はそこで様々な薬を開発したの。チャームの効果を爆発的に上昇させたり、ここにいる子達みたいに大脳新皮質の働きを弱めたり。痛覚神経と脳を遮断したり…ね。身体能力も少しだけ強化してあるわ」

 

「そ…そんな…そんなこと…。あっ、や…やめ…。くっ……」

 

冷子が会話している間にも、3人の野球部員はシオンを押さえ込もうと体にまとわりついてくる。シオンも必死に抵抗するが、顎を跳ね上げようが脇腹に膝を入れようが相手は全く怯まず、ついには両足をひげ面と眼鏡に、両腕を後ろから帽子に羽交い締めにされ、全く身動きが取れない状態になる。

3人はそれぞれ荒い息を吐きながら、眼鏡とひげ面は抱きすくめたシオンの太ももに頬擦りしたり、帽子はシオンのうなじを舐めたりと思い思いの行動をとる。

 

「やめ…んあぁっ!や…やめて下さい!あうっ…!う…動けな…い」

 

「あらあら、愛されているわねぇ…顔が真っ赤よ。うふふふ…そういう顔はとても好き…。でもね、私は美しい女性が苦しんでる顔の方が、もっと好きなの…」

 

気がつくと、冷子はシオンの目の前まで来ていた。男子部員は冷子の命令通り手は出してこないが、がっしりと体を押さえ込まれ振りほどくことができない。

 

「うふふふ…今度は直接だからもっと苦しいわよ?頑張って耐えてねぇ…?」

 

「な…何をする気で……ぐぼあぁぁっ!!」

 

シオンの腹部には、手首まで冷子の拳が埋まっていた。先ほどの腕を鞭のようにした攻撃でも十分な威力であったが、今回のは桁が違いすぎる。シオンのなめらかな腹部は無惨につぶれ、内蔵が悲鳴を上げていた。

 

「げぶっ…!?あ…あぁ……うぐっ……」

 

「あらあら…こんなに目を見開いちゃって…あはぁ…とっても素敵。美しい顔が苦痛に歪むのはね…。でも、まだ一撃目よ?」

 

ズギュウッ!!ドギュッ!!

 

「ごぶっ!?ぐふあぁぁ!!……あ……す……すごい…力……」

 

「うふふ……私も身体強化の薬を使っているの。なかなかの威力でしょう?…それにしても如月さん、綺麗な足してるわねぇ…汚い虫が2匹付いてるのが気になるけど…私の足も見てくれる?」

 

グギィィィッ!!

 

「うぐうっ!!?…は…はうぅ……」

 

冷子の膝が、シオンの華奢な鳩尾へ吸い込まれるように突き刺さった。肺の中の空気が強制的に排出され、一瞬窒息状態に陥る。

 

「が…かはっ…!あ……はぁっ……!!」

 

「どうかしら?私のもなかなかでしょう?ほらぁ……もっとよく見て…」

 

グギュッ!グギュウッ!!ドギュウッ!!

 

「ごふうっ!?あぐうっ!!うぶあぁぁっ!!……え……えぐ……」

 

「うふふ…いい…いいわぁ…凄く感じちゃう……」

 

冷子はうっとりとした表情でシオンを責め立てる。シオンは何とか反撃の隙を探るものの、度重なる重い攻撃に一瞬で意識が飛ばれされ失神と覚醒を繰り返すが、朦朧とした中でも何とか意識を保とうとする。

 

「あらあら、顔色が悪いわよ?悪いものが溜まっているときは、一度全部出すとスッキリするわよ」

 

スブウッ!!

 

「ごぶうっ!!ああぁ……そ……そこはぁ……」

 

「あらぁ…如月さん、ずいぶん胃が小さいのねぇ…?それじゃあ………治療してあげるわぁ!」

 

グギュウゥッ!!

 

「うぶぅっ!?…う…うう……うぐぇぇぇぇぇぁぁ!!!」

 

冷子が力任せにシオンの胃を握りつぶすと、シオンの口から強制的に逆流させられた胃液が勢いよく飛び出し、地面にびしゃりと落ちた。あまりのサディスティックな猛攻にシオンはビクビクと痙攣し、慎ましげな口からは舌が垂れ下がり、瞳は半分が上まぶたに隠れ白目を向いている。

 

「あははははは!最高よぉ、あなた!!凄くいい顔してるわぁ!!私ももう感じすぎてて…。死なないように頑張るのよ!!」

 

冷子が、もう何度目分からないが拳を脇に引き絞り、シオンの華奢な腹部に狙いを定める

。シオンは薄れ行く意識の中で、諦めに近い感情を抱いていた。

「くっ……!」

 

このままではまずい。シオンはようやく痛みと残像の収まった目で辺りを見回し、鈍痛が残る腹を押さえながらひとまず駐車場を離れようとする。足下がアスファルトから石畳へ変わり、研究棟の方向へ移動する。幸い野球部員3人はターゲットをシオンに定めたらしく、冷子を襲うことは無く無表情でシオンを追いかけていた。

 

「よかった、3人とも私を追って来てる。このままこっちへ来て」

 

鍛えられた野球部員3人は俊足を生かし、シオンとの差をぐんぐん縮める。研究棟前の広場の前には中央広場に比べると小振りではあるが同じようなデザインの噴水があり、シオンは噴水を背にして3人と対峙する。

 

「はは…日本のことわざで言えば背水の陣ってやつですかね。でも、先ほどは不意をつかれましたけど、今度は本当におとなしくしてもらいます!」

 

シオンの声は相変わらず3人には届いていないようだった。しきりにぶつぶつとうわ言を呟きながら、シオンに攻撃をしようとじりじりと近づいてくる。

 

「この3人、明らかに様子がおかしいですね…。人妖だったら何らかのコンタクトをとってくるはずですが、私の声も聞こえてないみたいですし…。もしかして、誰かに操られてる?」

 

シオンが考えを巡らせていると、3人はそれぞれ雄叫びをあげながらシオンに襲いかかってきた。しかし、3人同時の攻撃とはいえ、単調でストレートな攻撃はシオンに軽々と捌かれてしまう。

 

「さっきのようには…いきません!」

 

「ぐがぁぁぁぁ!」

 

シオンのすらりと伸びた足から放たれた回し蹴りはそのまま眼鏡の脇腹にヒットし、よろめいた所へ膝蹴りを追撃する。眼鏡はうめき声を上げて倒れ、同時に後ろから羽交い締めにしようと近づいたひげ面の腹へ後ろ蹴りを放った。

 

「ぐぼぉおおおっ!!」

 

シオンの履いている靴のヒールが根元までひげ面の鳩尾に吸い込まれ、前方に倒れ込む勢いを殺さずに空気投げを放つ。ひげ面はゆっくりしたモーションで前方に一回転し、背中から石畳へ落下した。

 

「はぁ…はぁ…残るは、あなただけですよ。無駄な抵抗はせずに、おとなしくしていただければ、危害は加えません」

 

さすがのシオンも全力疾走後の3人同時の相手に幾分息が上がっているが、それでも残りの1人を倒すことくらいは雑作も無いことだった。極力生徒に危害を加えたくないシオンは説得を試みるものの、やはりその声は届くことは無かった。

 

「ああああぁ…会長ぉ……俺……こんなに……会長が好きなのに……なんで分かってくれないんだぁ………俺のものにしてぇ……してぇよぉ……」

 

「くっ……だ、ダメですか……仕方ないけどここは…」

 

シオンが意を決して構えるが、同時にシオンの真後ろ、噴水の影から柔らかい声が響いた。

 

「あらあら…まったく…情けないったらないわねぇ……」

 

そこにいたのは、シオンが先ほど車に隠れるように頼んだ篠崎冷子だった。ゆっくりとした動作で噴水を半周周り、シオンに数メートルの距離まで近づく。

 

「え…?し、篠崎先生!?」

 

「まったく…鍛えてるからあなた1人くらいどうにでもなると思ったんだけど、てんで使えないのね。それともあなたが強すぎるのかしら?」

 

「うそ…本当に篠崎先生?え…なんで?この人たちに何をしたんですか…?」

 

「簡単よ。脳の大脳新皮質の働きを鈍くする薬を作って注射しただけ。この子達があまりにもあなたのことが好きみたいだったから、邪魔な理性を無くして素直にしてあげただけよ。うふふ…」

 

目の前に居る冷子の信じられない言葉に、シオンは酷く混乱した。薬?注射?理性を無くす?何を言ってるのか分からない。なぜ篠崎先生がこんな真似を?中央広場で言われた「悪ふざけ」にしては度が過ぎている。

 

「あまりにも使えないからこんな玩具まで使って手助けしてあげたのに、結局逃げられるしね」

 

冷子はそういうとポケットからレーザーポインターを取り出し、噴水の中へ投げ入れた。プレゼンテーションの時に指し棒の変わりに使うものだが、その光線は強力で人体の網膜に多大な影響を及ぼし、最悪失明に至るほどの威力があり一時期社会問題になったほどだ。先ほど急にシオンの目を襲った激痛は、おそらく車の中から冷子がこれを使ったためだろう。

 

「……篠崎先生…あなた…本当に篠崎先生ですか…?」

 

信じたくないという気持ちがシオンの唇を震わせる。しかし、冷子の口から出た言葉はシオンに残酷な現実を突きつけつものだった。

 

「嫌だわ、名前を忘れちゃったの?篠崎冷子よ。冷たい子供で冷子。人妖は冷たさを感じる名前を付けることが決まりなの」

 

シオンの顔が絶望に染まる。疑惑が確信へ。一般市民が人妖の存在を知るわけが無い。冷子が人妖であることはこれで確定した。しかし、オペレーターは確かに男性型の人妖と言っていなかったか?それに中央公園でシオンと冷子が会話しているときも、オペレーターからは何の連絡も無かった。

 

「うふふ…こんなにのんびり会話をしていていいのかしら?そこの男の子があなたに告白したいらしいわよ?」

 

「えっ?なっ!?」

 

シオンが振り向く一瞬前に、帽子はシオンを羽交い締めにしていた。一瞬だけ顔が見えたが、焦点の合っていない目と、はぁはぁと荒い息を吐き続ける口からは絶えず涎が垂れていた。

 

「あああああ…会長ぉぉぉぉぉ……好きだぁぁぁ……」

 

「いやっ…!ちょ……離して下さ……んはぁっ!!」

 

帽子がシオンの豊満な胸をデタラメに揉みし抱く。必死に身体をよじって抵抗するが、不利な体勢で力任せに抱きつかれていることと、基礎的な筋力の差でなかなか振りほどくことができない。

その間も帽子はシオンをがっしりと抱きすくめながらも、乱暴に胸をこね回すのをやめず、さらには髪の毛の香りを嗅いだり首筋を舐め回したりと欲望の限りを尽くした。

 

「やらぁっ…!ほ、ほんとうにやめ…あうぅっ……離して…!!」

 

「あらあら、若いっていいわねぇ…ずいぶん積極的でストレートな愛情表現だこと。でもあなた、全然美しくないわ。愛の表現はもっと美しくしなきゃダメよ」

 

一瞬ナイフのように風を切る音が聞こえ、シオンの右頬を何かがかすめたかと思うと、無我夢中でシオンの首筋を舐め回していた帽子の身体が猛スピードで後方に吹っ飛んでいた。

 

「え…?あっ……何、今の…?」

 

「うふふ、見えなかったかしら?あまりにも見るに耐えないものだから消えてもらったの」

 

シオンが後方を振り返ると、帽子は鼻から血を流しながらビクビクと小刻みに痙攣していた。目にも留まらない何かが冷子から放たれ、一瞬で帽子の顔面にヒットしたのだろう。しかし次の瞬間、再び風を切る音とともにシオンの腹部を中心に激痛が走った。

 

ヒュッ……ズギュウッ!!

 

「あぅっ……ぐっ!?げぶうぅぅぅ!!」

 

「こんな風にね…少し強すぎたかしら?」

 

冷子の両手は腰に当てられたまま微動だにしていない。しかもシオンとの距離は2メートルほどあるので手の届きようが無いのだが、シオンの下腹部のあたりにははっきりと拳の形が残り、その奥にあるシオンの小さい胃は無惨に潰されていた。

 

「ぐむっ!!…ううぅ……」

 

必死に両手で口を押さえ身体の中から逆流してくるものを堪えるが、再び独特の空気音を聞いたときには既に攻撃が終わっていた。

 

ヒュヒュッ……ズギュッ!グチュウッ!!

 

「!!??ぐふっ!?ぐぇあぁぁぁ!!!」

 

鳩尾と臍、人体急所である正中線への同時攻撃。あまりの攻撃にシオンはたまらず堪えていた逆流を吐き出し、透明な胃液が勢い良く飛び出した。

 

「がふっ!?……あ…あうぅ……」

 

「あらあら…あなたみたいな可愛いコでも嘔吐したりするのねぇ…。でも素敵よ。その苦しんでる顔は何物にも代え難く美しいわ…」

 

冷子は両方の手のひらを自分の頬に当て、両腕で腹をかばいながらも倒れずにいるシオンをうっとりした表情で見つめる。表情こそ穏やかなものの、その目は既に瞳孔が縦に裂け、冷酷な赤い光を放つ人妖のものに変わっていた。

早めに帰って続きを更新しようと思ったらまた急な接待が…。また午前様確定です。

トイレからの更新多いな笑

相互リンクしていただいてるKさんも同じ内容を書いていましたが、私の文章は、下世話な話「使えるのか?」ということが最近気になってます。

それぞれのキャラは個人的にはみんな大好きなのですが、他の人から見たらどうなのかと。
また、攻め描写は単調ではないかとか、もっと激しく(たとえばキャラが絶命するほど)攻めた方がいいのかとか、ストーリー部分が長すぎないかとか。


ほとんど初めてで手探りのもの書き作業は考えることが多いです。

まぁそれが楽しいんですけどね

心臓が早鐘のように打ち、 全身の血液がはげしく身体を巡る。もう少しで職員用駐車場が見えるが、冷子の悲鳴は断続的に続いていた。

 

「お願い…間に合って…」

 

シオンが駐車場に到着する。肩で息をしながら辺りを見回すと、奥の方にもつれ合うような人影が数人見えた。駆け寄ると、冷子の赤いアルファ・ロメオの前で、3人の男子生徒に詰め寄られている冷子の姿があった。

 

 

「ちょっと…何なのあなな達は?やめ…やめなさい!」

 

「篠崎先生!大丈夫ですか!?」

 

「き、如月さん!?あなた、なんでここに?」

 

「説明は後です!それより…」

 

3人の男子生徒はアナスタシアの野球部のユニフォームを着ており、2人は坊主頭で1人は帽子をかぶっていた。シオンも名前こそ知らないものの、壮行会や生徒会の視察で何度か見たことのある顔だった。しかし、その顔は酷くうつろな顔をしており、3人ともぶつぶつとうわ言のようなことを呟いていた。

 

「あなた達、何やってるんですか?もうとっくに部活も終わっているでしょう?早く帰宅してください」

 

シオンが静かに男子学生達に呼びかけるものの、その声は全く耳に入っていない様子だった。

 

「あぁ………会長だぁ………」

 

「やべぇ…………マジで………可愛い………」

 

「………すげぇ……なんだ……あの格好………」

 

それぞれひげ面だったり眼鏡をかけていたり帽子をかぶっていたりと特徴はあったが、3人とも同じような表情でじりじりとシオン達に近づいて来た。異様な雰囲気を察し、シオンが冷子に声をかける。

 

「こ、これは一体…男性型の人妖って、まさかこの3人のこと…?篠崎先生はすぐにこの場を離れてください。この場は私がなんとかしますので。あと、このことは内密にしてください」

 

「な、何を言っているの!?如月さんを置いて行くなんて、そんなことできるわけ無いでしょう!私も説得してみる!」

 

2人がやり取りをしている間に、帽子をかぶった生徒がいきなり奇声を上げて2人に突進して来た。シオンが冷子を突き飛ばし、男子学生が振り下ろした右腕の手首を両手で掴んで受け止める。

 

「がぁぁ……がぁぁぁ……」

 

「くっ……凄い力……一体…何があったんですか…?」

 

「き、如月さん!?」

 

思わぬ事態に冷子が声をかけるが、その声に反応し、残りの眼鏡とひげ面が冷子の方向に向きを変えた。元々厳しいトレーニングを積んで鍛えている野球部員相手では、おそらく冷子が逃げたところで追いつかれて襲われてしまうだろう。

 

「先生…早く…車の中に入ってください!私は…大丈夫ですから…」

 

ギリギリとシオンの腕が力で圧されはじめる。白い手袋が悲鳴を上げ、ぎちぎちと嫌な音が鳴り始める。

 

「先生…早く!」

 

その声に冷子は自分の車へ駆け出し、中に入ってドアをロックした。それを見届けるとシオンは腕の力を抜くと同時に足払いをかけて帽子を転倒させた。

 

「がぎゃあぁぁぁ!!」

 

帽子にとっては一瞬の出来事で、急に目の前からシオンの姿が消え、勢い余って前方につんのめった所に足払いをかけられて顔面をしたたかに地面に打ち付けた。その悲鳴を聞いて、残りの2人もシオンに方向に向きを変えた。

 

「よし、このままこっちに来て。可哀想だけど、しばらく眠ってもらいます」

 

シオンが白手袋をはめた拳をパシッと合わせ、身構える。1対3と圧倒的に不利な状況だが、専門的な訓練を受けているシオンと、鍛えてはいるが戦闘には素人の野球部員ではまだ自分に分があると思った。

 

「しぃぃぃぃぃっ!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

眼鏡とひげ面が同時に駆け寄る。シオンに対し突きや蹴りを繰り出してくるが、やはり素人の動き。鮮やかにシオンに捌かれてしまう。

 

「くっ…やあっ!」

 

眼鏡がシオンの顔面に向けて拳を繰り出すが、シオンはそれを左手で受け流すと右手で顎を押しながら、右足で眼鏡の右足を後ろに払う。柔道の大外刈りのような技をかけられ、眼鏡は悲鳴を上げながら後頭部を地面に打ち付けた。

 

「おおおおお!!」

 

ひげ面もシオンの腹をめがけ膝蹴りを繰り出すが、バックステップでそれをかわすと逆にひげ面の腹に膝蹴りを見舞った。

 

「はぁっ!」

 

「ぐぶげぇぇぇぇぇ!!」

 

一撃を見舞うとすぐに離れる。相手が人妖の可能性もあるが、生徒である以上深手は負わせたくない。なんとか昏倒させてアンチレジストに3人を保護してもらうのが一番だろうとシオンは考えた。

 

「あなた達、何があったかは知りませんけど、もうすぐ私の仲間が来てくれるはずですからおとなしくしてください。あなた達を傷つけたくはありません」

 

ひげ面はわずかに苦しそうな表情を浮かべているが倒れることは無く、先に倒した2人もよろよろと立ち上がる。3人はシオンの呼びかけには反応を見せず、再び何事かを呟きながらシオンに近づき始めた。

 

「お願い、あなた達とは戦いたくないの!おとなしく…」


「会長ぉ…やべぇ……こんなに近くで見れるなんて……」


「やっぱ……すげぇ身体してんなぁ………ヤリてぇ……」

 

「あああ……犯してぇ……」

 

見れば、3人の股間部分は既に大きく隆起しており、うつろな視線はシオンの身体を舐めるように見ていた。何があったかは知らないが、獣のように欲望をむき出しにしてシオンに近づく3人に改めて身の危険を感じた。

 

「な…何言ってるんですか…?申し訳ないけど、本気で気絶させて…」

 

3人が同時に駆け寄る。帽子とひげ面が真っ先に襲ってくる。シオンはすぐに身構え、攻撃を受け流そうとするが、2人が攻撃する一瞬早く、シオンの視界が真っ赤に染まった。

 

「!!??…やっ……ああっ!?何…これ!?」

 

一瞬のことで何が起こったか分からずシオンは慌てて両手で目を押さえるが、すぐに激しい痛みがシオンを遅い、目を開けていられなくなった。赤色の残像がまだまぶたの裏で明滅する。獣のような声と衝撃がシオンに届いたのはその直後だった。

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

「おおおおおおお!!」

 

ズギュッ!!

 

ドムゥッ!!!

 

「あ……かはっ……うぅあぁぁぁ!!」

 

両手で目を押さえ、がら空きになっているシオンの腹部に左右から帽子とひげ面の膝がめり込んだ。力任せの蹴りだったが、それは正確にシオンの下腹部と鳩尾を襲い、凄まじい苦痛がシオンを襲った。

 

「あ…ぐううっ…」

 

視界はなんとか見えるようになり始めたが、まだどちらが前後かも分からない。よろけながら向きを変え、この場を離れようとするが、シオンが向きを変えた先は眼鏡の正面だった。

 

「しぃぃぃぃ!!」

 

ズムゥッ!!

 

「ぐふぅぅっ!?あ…あぐ……」

 

眼鏡のボディブローがシオンのむき出しの腹にクリーンヒットし、シオンの美しい金髪が揺れる。一瞬目の前が暗くなるが、直後に背中に蹴りを受け前のめりに地面に倒れる。

 

「あ…きゃあぁぁぁ!」

 

アスファルトの上に倒れ込み、肘まである白手袋の数カ所が破れる。やっと視界が戻り、倒れたままの姿勢で振り返ると3人はすぐ後ろまで近づいて来ていた。

 

「はぁ…はぁ……やべぇ……犯してぇ……」

 

「ああぁ……や……やっちまうかぁ……」

 

「鎮めてくれよぉ……会長ぉ……」

 

シオンの顔に初めて恐怖の色が浮かんだ。

「そこにいるのは誰かしら!?」

 

いきなり背後から声をかけられ、シオンが30?ほど飛び上がる。

 

「は、はひっ!?あ、あの…私は…あ…篠崎先生?」

 

「あら?あなた如月さん?あなたこんな時間に何をしているの?」

 

声をかけて来たのは、アナスタシアの保健室勤務の教師、篠崎冷子だった。端正で知的な顔立ちとスレンダーな身体をフォーマルスーツに包み、コツコツとハイヒールを鳴らして近づいてくる。

保健室と言ってもアナスタシアのそれは小さめの病院と言っても過言ではない設備と広さを持ち、勤務している彼女は医師免許も取得している、その気になれば手術すらもこなせる正真正銘の医師であった。

 

「門限はとっくに過ぎてるわよ。それに…あなた…ハロウィンはまだ先よ…?」

 

冷子はあきれたようにシオンの格好を見る。いくら夏とはいえ、深夜に露出度の高いメイド服に身を包み門限を破って噴水に腰をかけていたシオンの状況は説明のしようがない。

 

「最近女生徒の失踪が続いているのは生徒会長のあなたの耳にも入っているでしょう?私が言うのもはばかられるけど、おそらく性的な暴行目的の犯行だと思うの。そんな格好は襲ってくれと言っているようなものじゃないかしら?」

 

冷子は眼鏡の奥から知的な視線をシオンに向けている。一部も隙のなく背筋をピンと伸ばした姿勢からは自信と気品があふれていた。それに加え、まだ30歳を過ぎたばかりの年齢にも関わらず冷子は大人の魅力にあふれ、男子生徒のファンもかなり多かった。しかし、その生真面目で近寄りがたい雰囲気から直接行動に移す男性は少なかったと聞いている。また、冷子自身はそういう色恋沙汰にはてんで興味が無く、仮に行動に移したとしても適当にはぐらかされてしまい、いつしか冷子に男女関係に関する話題は御法度という噂が出たほどだった。

 

「同じ女性として忠告しておくわ。あなた、自分では知らないかもしれないけど、学校中に凄い数のファンがいるのよ?あなたがそんな格好でうろついていたら理性を保てなくなる男子生徒や教師がいてもおかしくないわ。それとも、見せびらかしたいのかしら?」

 

「い、いえ。そんなつもりは…」

 

なんだろう。今日の篠崎先生はいたくフランクだなとシオンは思った。


「 男子生徒は元より、教師ですらあなたで自分を慰めていることを知っているかしら?私だってそれなりに自分に自信はあるけれど、如月さんの前では情けなくなってくるわね。 如月さんの盗撮写真が結構高値で取引されてるみたいよ。撮影者は色々みたいだけど、この前保健室に来た男子生徒が持っていたあなたのプールの時の写真は、明らかに体育教官室からしか撮れないものだったわ」

 

 

 

 

おかしい、絶対におかしい。こんなことを言う先生ではないのに。まさか…人妖?でも、オペレーターさんは間違いなく今回の人妖は男性だって言ってたし…。

 

「あなたは…」

 

シオン意を決して訪ねる。

 

「あなたは…誰ですか…?」

 

2人の距離はほんの数十センチ。しかし、シオンはいつでも戦闘態勢に入れるように身構えていた。冷子はゆっくりと射るような視線をシオンに向ける。

 

数秒の沈黙の後、ぷっと冷子が吹き出してケラケラと笑い出した。

 

「あははは!ごめんなさい、冗談でも悪趣味が過ぎたわね。如月さんがあんまり可愛い格好しているものだから、少しからかってみただけよ。普段はあまり気が抜けないから、時々こうして生徒をからかってるのよ」

 

一通り笑った後、冷子は呆気にとられているシオンに背を向けて教師の車が停めてある駐車場に向かって歩き出した。

 

「それじゃあ気をつけてね。あなたの趣味に意見するつもりは無いけど、寮長に気付かれる前に帰るのよ」

 

「あ、ちょ、ちょっと待て下さい!この格好は私の趣味と言うか…いえ、趣味でもあるんですが…別に露出が趣味とかそういうわけじゃ…」

 

必死に取り繕うとするシオンにを尻目に、冷子は手をヒラヒラと振って去ってしまった。後には片手で「待って」の体勢のまま固まったシオンが取り残されていた。

 

 

「はぅぅ…な、なんか変な誤解されちゃった…。どうしよう…」

 

『シオンさん!聞こえますか!?』

 

「は、はひっ!?オ、オペレーターさん?」

 

突然シオンのイヤホンにオペレーターから通話が入った。緊急時しか使用しない受信側が許可ボタンを押さない強制通話での通信だった。

 

『今、人妖の反応をキャッチしました!アナスタシアの職員用駐車場の付近です!』

 

「ほ、本当ですか!?今そこには篠崎先生が向かっているんですよ!?」

 

『民間人が付近にいるのですか?危険です!シオンさ……す………現場………急こ………』

 

「オ、オペレーターさん!?よく聞こえないんですが?オペレーターさん!?」

 

『シ………綾さ…の時……………妨が…………気をつ……………』

 

その後シオンの呼びかけにも関わらず、イヤホンからオペレーターの声が聞こえてくることは無かった。シオンは通話している最中から駐車場に向かって歩き出していたが、通信が不可能となるとあきらめてイヤホンを仕舞い走り出していた。駐車場に人妖が?だってそこには今篠崎先生が…。

 

シオンの耳に冷子の悲鳴が届いたのは、駐車場への最後の角を曲がったときだった。


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