Яoom ИumbeR_55

Яoom ИumbeR_55は「男性→女性への腹パンチ」を主に扱う小説同人サークルです。

2011年11月

シャーさんのキャラクター、望月星華さんに来ていただきました。

勢いで一気に書き上げたので、乱文や粗等は目を瞑って下さい。
シャーさんの最初に書かれた同人誌「a drastic violence」の後日談的な設定で書きましたので、そちらを最初に読んでいただくとすんなり入れるかと思います。

では、よろしくお願いします。




「望月星華の”連”獄」




 差出人や消印の無い茶封筒の中身を取り出した瞬間、望月星華はまるで手の平の上に毒々しい色をした芋虫を乗せられた様に、反射的にそれを床に叩き付けた。ポップな内装やぬいぐるみに囲まれたガーリッシュな部屋に、不釣り合いな破裂音が響く。
 フローリングの床に叩き付けられた黒い樹脂製のケースにはヒビが入り、中から虹色に光るDVDのディスクが転がり出て、カラカラと嘲笑うかの様な音を立てて、壁に当たって倒れた。ディスクには殴り書きした血文字の様な文体で「a drastic violence」と書かれている。
「何……これ……? 何なのよこれ!?」
 星華はDVDに向かって叫んだが、当然DVDからは何の返答も無い。
 ふらふらと大きなヒビが入ったケースに近づき、それを取り上げる。パッケージに写っているのは、紛れも無い自分自身。それも、満身創痍で目の焦点が合っておらず、意識があるかどうかも分からないほどぼろぼろに打ちのめされている。
 あの日だ。と、星華は思った。
 あの数ヶ月前の、忌々し出来事……。
 忘れたくても忘れられない悪夢の様な現実……。
 裏側を見ると「無慈悲なロボットによる執拗な責め苦!」「女子校生人気格闘家、満身創痍!」「リアルを超えた演出!」などのうたい文句を挟む様に、ロボットに執拗に腹部を攻撃され、苦悶の表情を浮かべる自分自身の写真が数枚掲載されている。その下には数万円という高額な値段と、聞き覚えの無い製作メーカーの名前。
 星華は血がにじむほど唇を噛んだ。
 ロボットが相手とは聞いていなかったが、高額なファイトマネーと勝利した時の莫大な報酬に釣られ、あのファイトを了承したのは自分自身だ。それに、負けたのは自分自身が未熟で弱かったからだと納得はしていた。自分が強ければあのロボットを完膚なきまでに破壊し、報酬を得ていたはずだ。
 だが、こんな話は聞いていない。
 自分がロボットに蹂躙される姿が映像化され、売買されるなんてことは聞いていない。警察に駆け込むことも一瞬頭をよぎったが、情けないと思いすぐに掻き消えた。思えば「勝っても負けても百万円」という金額は口止め料込みの値段だったのかもしれない。
 パソコンを起動し、検索サイトを開く。やるせなさと怒りで震える指を押さえながらDVDのタイトルを入力する。

「もう何回抜いたかわかんねぇーww」
「マジ星華ちゃん可愛いよな……宝物だわ」
「オクで三十万で買っちまったけど、後悔してないぜ! 嫁には言えないけど」
「それ格安じゃね? おれは五十で買ったわ。てかリア充自重」
「公式サイト復活希望!」
「これ本物じゃね? リアルを超えた演出って書いてあるけど、どう見ても本当に殴られてるよな?」
「さて、明日も早いけどもう一回星華ちゃんにお世話になるか」

 ヒット数こそ少ないものの、ごく一部の場所ではかなり話題に上がっているようだ。書いてあることはよく分からなかったが、自分の敗北した映像が不特定多数の人間に観られ、慰み物にされていることだけは何となく理解出来、背筋に冷たいものが流れた。
「な……何で私のあんな姿で……べ、別に、変なことしてるわけじゃないのに……」
 星華は思わず口元を手で覆った。理解出来なかった。男性との行為やそれを連想するシーンがあるわけではない。だが、顔の見えない画面の向こうの相手達は間違いなく性的に興奮していた。星華を薄ら寒く感じさせたのはその理解出来ない思考回路だけでなく、普通ならトップに来るはずのDVDメーカーのサイトは既に閉鎖し、情報は匿名掲示板やオークションサイトでしか得ることが出来なかったことだ。
 そしてそれ以上に、たびたび話題に上がっている「オーナーズパーティー抽選券」という不可解な記述だった。
 オークションでは抽選券の有無でDVDの値段の桁が一つ変わっていたし、匿名掲示板でもその内容について様々な憶測が語り合われていた。中には抽選券目当てでDVDを数枚購入した物もいるらしい。当選したという者もいたが、法外な参加費を請求されているらしく、詐欺ではないかとの憶測も飛び交っている。
 星華はパソコンを閉じると、あらためてパッケージの裏面を見た。「purgatory」というメーカー名しか記載が無く、住所はおろか電話番号の記載も無い。何か手がかりは無いかとケースからジャケットを取り出そうとすると、間に挟まっていた紙切れが床に落ちた。
「オーナーズパーティー及び前夜祭招待券」と描かれた紙には、簡潔に日時と場所が指定されていた。一週間後の、二十二時。
「そう……そういうこと……また私に用があるって訳ね……こっちにも聞きたいことは山ほどあるから、たっぷりと身体に聞かせてもらおうじゃない!」

 夜でも明るい雑居ビルの立ち並ぶ街中を抜け、人ごみを綺麗な空気を求める様にかき分けて進むと、目当ての地下へと降りる階段が目に入った。湿った空気を吸いながら一段々々段階を降りると、重々しい鉄製の扉と、蛇苺の様な毒々しい赤色をしたネオン管が星華の目に飛び込んできた。

LIVE HOUSE PERSONAL REAL
-members only-

「なにこれ? 格好付けちゃって、くっだらない。ちょっと! 用があるんだけど! 誰かいるんでしょー!」
 ライオンの顔を模したドアノッカーを無視し、まるで親の仇を殴る様に扉を拳でどんどんと叩いていると、軋んだ音を立てて扉が開き、中から一人の黒服が出てきた。
「こんなの貰ったんだけど、一体どういう……ってあれ?」
 星華が例の招待券をヒラヒラさせながら詰め寄る。男の顔には見覚えがあった。あの時、自分をファイトに誘ったあの男。星華は考える前に男の締めていたネクタイを掴み上げていた。
「ちょっと、あんた! どういうつもりよ!? ファイトに負けたのはいいとして、DVDが出回るなんて聞いてないわよ! あんたの顔の形が変わる前に、納得のいく説明をした方が身のためだけど!?」
 星華が拳を握りしめながら凄むが、黒服は表情一つ変えずそのままネクタイを掴んでいる星華の手首を掴むと、軽く外側に向けて捻った。星華の膝ががくんと落ちる。
「あっ……なっ!? なに!? 痛いっ!! ちょ……痛いって!」
 ほんの少しだけ手首を逆に捻られているだけなのだが、星華は片膝を着いたまま、立ち上がれない程の激痛に襲われている。両肩にはまるで巨大な岩が乗っている様な錯覚に陥り、まともに姿勢を保つことも出来ない。
 合気道? いや、柔術? 独学とはいえ、ある程度広く格闘技の知識はある。どのような流派かは特定出来ないが、この黒服、相当「出来る」ことは間違いない。
「ようこそお越し下さいました星華様。これよりあなた様を『 a drastic violence オーナーズパーティー』のメインゲストとしてお招き致します。皆様お待ちかねですので、今宵は存分にお楽しみ下さい」
「お楽しみ下さいって、この状況でどう楽しめっていうのよ!? あまり調子に乗ってるとぶっ飛ばすわよ!」
「それはここではなく、ステージの上でお願いしますよ。ささ、まずは控え室へ……」
 男は星華の手首を掴んだまま、背筋を伸ばして歩き出す。歩いている間も手首を極められているため、星華は操られる様に男の後に従うしかない。
「少しくらい説明したらどうなの!? 勝手に人の映像を販売して、肖像権って知らないの!?」
「『私が負ける訳無い』と言いながら契約書を全く読まずにサインをしたのは星華様ですよ? こちらはしっかりと契約項目に『当試合の全ての音声、画像、映像の使用方法は全て主催者に一任する』という項目を記載しましたし、それに貴女はサインをした。法律上何も問題はありません」
「だからって……あんな……」
「世の中にはどのような物でさえ、たとえ犬の死骸や河原の流木でさえ需要があり、そしてそれを供給する者で成り立っているのです。星華様とあの映像には少なからず需要があり、それを供給する我々も、かなり稼がせていただきました。今日は貴女へのお礼もかねているのです。出来ることならやりたいでしょう? あのロボットとのリベンジマッチを……」
 男は星華に向けて、まるで挑発するような意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「まぁ、またあの様な胃液をぶちまけながらのたうち回るなんて無様な醜態を晒したくないのであれば、無理にとは言いません。準備もしてなかったでしょうしね。このままお引き取りいただいても……」
「ロボットの修理費の用意はできてるんでしょうね……? それと、今回の報酬は?」
 男が星華の手首を離すと、上着の内ポケットから封筒とペンを取り出して星華に手渡す。
「では、契約成立ということで…………」





 望月星華様と書かれた控え室に入ると、 星華はまず部屋中をくまなくチェックした。マジックミラーや盗撮用のカメラが無いことを確認すると、バッグに詰めて持ってきた戦闘用のコスチュームに着替えた。白いノースリーブのトップスに、化繊で出来たロングのスパッツ。軽量化や体温調節を重視して、無駄な装飾や、腹部や袖の布は省いている。
(では、二十三時丁度に控え室を出て右に行った先のステージへお上がり下さい。皆様お待ちかねですので、鮮やかな勝利を期待していますよ)
 本来試合前には一時間くらいかけて入念にストレッチして身体をほぐすのだが、二十三時まではあと三十分も無い。他の所は簡略化しても、格闘において要となる首、腰、手首、膝、足首だけは入念にほぐす。ウォーミングアップといえども本格的に行えばすぐに全身が汗ばんでくる。こうでなければ意味が無いのだ。身体を動かし、汗ばんでくるほど、身体と精神が昂揚し、自分の中で戦闘本能がじわじわと胎動を始めるのを感じる。
 日常から異常へ。
 平穏から轟音へ。
 そして戦争へ。
 大丈夫、いつも通りだ。
 時計をみると、僅かに二十三時を過ぎていた。少し慌てて扉を開け、所々にヒビの入ったコンクリート造りの湿った廊下を抜け、分厚いステージ袖の暗幕を潜ると、強烈なスポットライトの光と割れんばかりの歓声と拍手が星華の眼と耳を刺した。
「皆様、大変長らくお待たせ致しました! 本日のメインゲスト、ストリートファイターの望月星華さんです!」
 先ほどの男がマイクで叫ぶと、歓声と拍手が更に大きくなり、まるで津波の様にステージに押し寄せる。
 星華はしばらく呆気にとられていたが、徐々に周囲の状況が把握出来てきた。
 数十人で満員になりそうな狭い客席には椅子が用意され、ほとんど空席がないほど人で埋め尽くされていた。奇妙なことに、ほとんどの観客はサングラスやマスクで顔を隠している。そして自分とは反対方向のステージの袖には、あの時のロボット……。
「本日はオーナーズパーティー及び前夜祭にお集まりいただき、ありがとうございます。皆様、是非ともこの瞬間の非日常をお楽しみ下さい。それではこれより前夜祭、望月星華リベンジマッチを始めさせていただきます!」
 男の声に反応する様に、ステージ袖からゆっくりとロボットが向かって来る。
「はっ! 悪いけど前みたいにはいかないわよ。アンタは所詮ただの機械なんだから!」
 遠くの方でゴングが聞こえた。
 星華はロボットの顔面を目掛けて拳を放つが、軽く受け流される。続いて左膝をボディーへ。ロボットは掌でガードする。ロボットの放った左のボディーブローを回転しながらかわし、その勢いを殺さずに星華は左手でバックナックルを放つ。ロボットは星華の左手を掴んで引き寄せると、脇腹に膝を撃ち込んだ。
 鋼鉄の膝が、星華の肝臓をひしゃげさせるほどの勢いで埋まる。
「んぶっ!? げうっ!!」
 一瞬呼吸が止まり、鈍い痛みが足下から脳天へ駆け上がる。ここまでは予想通りだ。
「じ……実力で勝てない場合は……作戦よ!」
 星華は自分の手袋を外すと、ロボットの眼の位置にあるレンズに叩き付けた。
 ズルリとそれが落ちると、透明なロボットのレンズは真っ赤に染まっていた。
「眼が一つしかなくて残念だったわね。あらかじめ手を傷つけてグローブに私の血を染み込ませといたのよ! 流石のアンタも眼が見えなかったらガード出来ないでしょ!!」
 嵐の様な連撃がロボットを襲う。星華は確実にロボットの首や肘などの関節部分、おそらく急所と思われる箇所を狙い、全ての攻撃をロボットにヒットさせた。
「おりゃあああああー!!」
 渾身の右ハイキックがロボットの首に決まり、人間であれば頸椎骨折しているであろう角度でロボットの首が曲がる。ロボットはよろよろと後退すると、どすんと尻餅をついて、そのまま動かなくなった。
 星華は誇らし気に右手を高々と掲げるが、その耳に届いたのは祝福する歓声ではなく、大きなブーイングだった。
「は……? か、勝ったのはアタシでしょ? 何でブーイングなんか起こるのよ!?」
「困るんですよ、貴女に勝たれるとこの後のプランが全て崩れますので」
 星華は声の聞こえた方向を見る。鉄くずの様に座り込んでいるロボットから声が聞こえて来るが、声は明らかにあの入り口にいた黒服のものだった。
「ちょ……どういうことよ!?」
「貴女には負けてもらわなければ困るんです。この後のメインイベントも控えていることですし、手っ取り早く終わらせますよ。これからは私が直接操作しますから、たとえレンズを破壊しても無駄です」
 ブーイングにかき消されて、黒服と星華の会話は開場の誰一人聞こえている者はいないだろう。ロボットは小さい起動音とともに立ち上がると、開場はブーイングから歓声へと包まれた。星華の耳に届くのは、星華の負けを望んだり、ロボットを応援する声だけだ。
 星華の頭に徐々に血が登って来始めた時に、ステージ裏のスクリーンに例のDVDの映像が映し出された。ほぼ意識をなくしかけた自分が執拗にいたぶられ、蹂躙される様子が大画面に映る。開場の声から一際大きな歓声が上がった。
 星華は自分の頭の中で、何かの糸が切れるのを感じた。
「この……人のことをおちょくるのもいい加減にしなさいよ!! この変態共ー!!」
 星華は真っ直ぐにロボットに突進するが、ロボットは最小の動きでかわすと星華に脚払いを掛ける。天を仰いでバランスを崩した所に、強烈な肘が星華の鳩尾をピンポイントで貫いた。
「ごぶっ!? がっ………うげっ……」
 過呼吸になり嘔吐いている星華の背中を蹴り上げ、無理矢理直立させると、人間の数倍も固い拳が星華の胃を潰した。 ぐじゅりという湿った音が、自分の身体の中から鼓膜に届いた。甘酸っぱい胃液が潰れた胃から強制的に食道を逆流し、星華の口内にあふれる。
「おごおおおおっ!! ごぽっ……げぇああああ!!」
「こんな安い挑発に乗って、すぐに頭に血が登るのも貴女が未熟な証拠です。メインイベントまで時間もないので、すぐに終わらせますよ」
 ロボットは更なる追撃を星華の腹に加えた。鳩尾、下腹部、臍と正中線を精確に貫き、時折左右の脇腹を抉る。何度も何度も拳をめり込むたびに星華の腹部は醜く潰れ、星華の内蔵をしたたかにシェイクした。
「ごぼぉっ!? ゔぁっ! おごっ! がぶうっ……も、もう……あぐああっ!! や……やめ……うぐうっ!! あ……あぁ……」
 観客の歓声が徐々に遠くなり、聞こえなくなった。地面の感覚が無くなり、もう自分が立っているのか寝ているのか、または宙に浮いているのかも分からない。意識が完全に暗転する前、もの凄いスピードで自分の腹に飛び込んで来るロボットの拳が見えた気がした。




 自分の身体は全て水で出来ていて、プールの底に沈んでいる。その自分の身体が徐々に浮き上がり、水面から上がって空気に触れる。少しずつ身体を満たしていた水が抜けて行き、元の自分自身の身体に戻る。
 気絶から目覚める時の感覚はいつもこんな感じだ。
 望月星華はまるで磨りガラスで覆われた様な意識をはっきりさせようと、頭を軽く振った。
「うぷっ……うぇぇ……」
 途端に強い吐き気を覚え、少しだけ足下に吐き出す。
 頭がハンマーで殴られた様に痛いが、徐々に意識は明確になってきた。
 自分はまだステージの上にいる。さっきまで戦っていたロボットはいない。変わったことと言えば、ステージの上にXの形をした器具が置かれ、それに自分の手足が拘束されていることだ。
「は……? ちょ……なにこれ? 何なのよこれ!?」
 大の字に身体を開いたまま星華が叫ぶと、再び観客席から拍手が沸き起こった。
「皆様、先ほどの前夜祭はお楽しみいただけたでしょうか? さて、ではこれよりメインイベント『望月星華の”連”獄』を始めさせていただきます。では、簡単にルールを説明させていただきます。ご覧の通り、この街屈指の強さと美しさを誇るストリートファイター、星華様は現在拘束され、全く動くことが出来ません。強く、丈夫で、美しい……。皆様の内に秘められた欲望を解放するのに、これほど適した逸材が他にあるでしょうか?  プレイ時間はお一人様十分間。プレイされる人数の制限はありませんが、星華様の身の危険を我々が察知したと同時に当イベントは閉会とさせていただきます。また、プレイへの参加費はオークション形式とさせていただきますが、上記の理由から、プレイをご希望の方は是非お早めのご参加を……」
 会場からどよめきと興奮の声が上がる。まるで猛獣の檻に閉じ込められた様な感覚に襲われ、星華は口の中がカラカラに乾いていくのを感じた。
「ちょ……欲望って……まさか……こんなの犯罪じゃない!? あんた達、ただじゃ済まないわよ!!」
 男は星華に目配せをすると、説明を続けた。最後まで聞けということらしい。
「では、続いて注意事項をお伝えします。まず、プレイ時間は厳守願います。また一部急所への攻撃も禁止です。眼、鼻を含めた顔面全体及び喉、首への攻撃。腰から下、特に性器や膝への攻撃は厳禁です。また、プレイヤー側は猥褻(わいせつ)に当たる行為は禁止です。具体的に言いますと打撃以外で星華様の身体に触れる行為、男性器の露出等です。プレイヤーも作者も辛いでしょうが、ご理解のほど、よろしくお願いいたします。では、まずは一人目の挑戦者の方を募集致します。開始価格は五万円からです。ご希望の方はお手元の札とともに金額をお伝え下さい」
 客席からはすぐに怒号が飛び交い、値段は一分もしないうちに百万を超えた。星華はひとまず想像していた最悪の事態は免れそうで胸を撫で下ろしたが、どちらにせよ無事では済まないことには変わりはない。
 ものの数分で一人目が決まり、サングラスにマスクで厳重に顔を隠した肥満型の男性がステージに上がってきた。
「うわ、だらしない身体……欲に負け続けるからそうなるのよ……」
 精一杯強がってみせるが、自然に眼が泳いでしまう。会場中の視線が自分と男に注がれているのがひしひしと伝わった。
「こ……声が震えてるぜ星華ちゃん。今日のために貯金を使い果たしたんだ……楽しませてもらうよ」
 男の脂肪で膨らんだ拳が、唸りを上げて星華のむき出しの腹を目掛けて突き進んだ。
 男の拳が自分の腹にヒットする直前、星華の顔から血の気が引いた。正直、ナメていた。素人のパンチごとき、ストリートファイトで鍛えた自分には大して効かないだろうと思っていたのだが、自分を拘束している器具は絶妙に後ろに反っており、拘束された人間が思う様に腹筋を固められない細工がされていた。
 ぐちゅりという音が臍の辺りから聞こえた。内蔵が一斉に痙攣し、脳がパニックになりデタラメな信号を送る。
「げぶっ! ごぶあぁぁぁ!!」
 予想外の威力に一瞬で黒目が上まぶたに隠れ、舌が口から飛び出る。
 会場からは割れんばかりの拍手が起こった。
 二発、三発、四発……。男は夢中で星華の腹に拳を埋め続けた。器具に背中を付けているため、ダメージの逃げ場も無い。拳が腹や鳩尾に埋まる度に星華は喘ぎ、嘔吐いた。
 あっという間に一人目が終わり二人目がステージに上がる。
 狡猾そうなその男は星華の子宮あたりに拳を叩き込むと、そのまま鳩尾まで突き上げる攻撃を時間いっぱい繰り返した。
「があああああっ!! げえぇぇぇっ!! ゔ……ゔぁ……」
 自分が絞り機にかけられた様な感覚。星華の口から粘度の高まった唾液が噴き出す度、男は興奮した声を上げた。
 三人目は痩せ形の男だったが、攻撃は一撃一撃ピンポイントに内蔵を襲った。胃を潰したと思ったら肝臓を抉り、子宮を襲っては鳩尾を突いて心臓を痙攣させた。
「ふふふふ……今日ほど外科医をやっていてよかったと思ったことは無いよ……」
 何人の男に殴られただろうか。星華は十五人を超えたあたりから数えるのをやめた。既に星華の引き締まった腹部には痛々しい痣が浮かび、内出血も相当量していた。意識は既に途切れ途切れになり、呼吸もかなり乱れている。
「あーあ、これじゃあもう殴ってもあまり反応しねーな!」
 真っ黒い服を着た小柄な男の声が、辛うじて星華の耳に届いた。言葉の内容とは裏腹に、なぜか嬉しそうな響きを持っていた。
「ちょっと趣向を変えて、こういうのはどうかなぁー?」
 びくっと星華の身体が跳ねる。男は中指を立てると、そのまま指を星華の臍に突き込んだ。
「ぎぃっ!? ああああああぁ!!!」
「お、いい反応☆」
 男はそのまま星華の臍を突き破って、内部に侵入させようとする様に指をぐりぐりと押し付けた。今まで味わったことの無い痛みに星華は身をよじらせる。
「ゔ……ゔえっ!? ゔあああああっ!! がああああああっ!!」
「ほーらほら……破れちゃうよー? 中に入っちゃうよー?」
 ごぽっという音が臍の辺りから響くと、星華の口からはドス黒い血が溢れ、白いトップスに赤い染みを作った。今まで味わったことの無い苦痛に顎が痙攣し、歯がカチカチと音を立てる。
 男は突き込んだ指をぐりぐりと動かすと、まるで別の生き物が腹の中を無理矢理這い回っている様な感覚に教われた。恐怖と苦痛で、自然と涙があふれた。
「あははは☆胃をやられちゃったかなー? まだ半分以上時間があるから、ね!」
 男は一旦指を引き抜くと、勢いを付けて中指を星華の臍に突き込んだ。じゅぶっという湿った音とともに、星華の臍から血が滴る。
「あ……あぁ……」
「うわ、あったけー☆」
 男が黒服に取り押さえられると同時に、星華の視界は暗転した。
 星華が再び目を覚まして最初に目に入ったものは、あのロボットに負けた時と同じ病室の白い天井だった。

HARA☆PA2にてお話しさせていただいたGyutto様にЯoom ИumbeR_55の紹介バナーを作成していただきました。

「同人」カテゴリトップのピックアップバナーの3番目に掲載されてますので、是非ご覧下さい。

しかし、すごいですね……。
「腹パンチ」なんていうマイナージャンルのバナーがダウンロードサイトのトップに堂々と貼られてるんですから。。。
ますますこのジャンルが盛り上がってくれることを願うばかりです。

14

一撃さん


ウチのシオンを


描いて下さいました。






9月からお休みしている一撃さんが、リハビリとして描かれた1枚。
「久しぶりに絵を描きたい気分になりました」との言葉と、
全てを悟った様なシオンの表情にしばしディスプレイの前から動けませんでした。

写真で泣いたことは何回かありますが、絵を見て泣いたことはこれが初めてです。
一撃さん、本当にありがとうございました。




ご連絡

リンクになぞさん率いるなにか描いたら更新するぶろぐさんを追加しました。

リョナ全般をはじめ幅広いジャンルを網羅し、ドット絵など多彩なイラスト付きで毎日更新されているお方。
ここは敬意を込めて「怪物」と形容させて頂きます。
よろしくお願いします。

需要があるか分かりませんが、構想中のSSの冒頭部分だけ載せてみます。

訓練のために今までと違った手法で書いてみようと一人称視点で時代背景有りの短編を書くつもりでしたが、結構長くなりそうです。
そしてなかなか筆が進まず……。

まぁ綾編BAD END、_LGMと平行して進めていますので「こんな話も考えてますよー」ってことで、気長に一つお願いします。







「逢魔時乃宴」








 昭和十一年の六月。五・一五事件、二・二六事件を皮切りに日本が急速に軍国化へと舵を切り、文化や思想が徐々に熱狂しはじめた頃、私はそのような世間の流れとは無縁の東北の寒村に居た。
 いや、正確に言うと呼ばれたのだ。
 その頃私は人間の恐怖心の研究をしており、同時に幽霊やら妖怪やらの「昔からの恐怖の対象」の研究もしていた。戦争には対して何の役にも立たない私の研究は大学でも鼻をつままれ、自宅に資料を持ち込んで世間から身を隠す様にひっそりと研究を続けていた。
 私の自宅を二人の若い男が訪ねてきたのは、もう大学へ顔を出さなくなって三ヶ月近く経った頃、丁度六月も半ば頃のことだ。
「お噂はかねがね承っています。なんでも、妖怪の研究をかなり熱心に行われていらっしゃるとか」
 二人とも、同じ様な格好をしていた。良く言えば質素、悪く言えば小汚い格好だ。一応、綿で出来た背広を着ているが、一目で安物と分かる。その上、所々汚れ、虫に喰われ、中に着ているシャツの襟元は垢で黄ばんでいた。
「いや、私の研究は人間の恐怖心についてであって、妖怪や幽霊の研究はほとんどついでと言ってもいいほどのものです。変なご期待を抱かれているのであれば、おそらく落胆されるかと思いますが」
「でも世間の人よりは一段も二段もお詳しい……そうでしょう?」
「まぁ……一般の方に比べると……多少は……しかし」
「なら当然対処法も知っておられるはずだ。確かな物でなくてもいい。民間の伝承程度でも何でも、人外に対応する術をご存知のはずだ」
 私が言い終わるのを待たずに、テーブルを挟んで右側に座った男はまくしたてた。私は腹の中のわだかまりを少しでも解消するために中指を立てて眼鏡を直すと、数十分前に男達を家に上げた自分自身を恨んだ。こちらは今にも大学を追い出されて職を失う寸前の身だ。これ以上の面倒ごとは御免だった。
「すみませんが、あなた方が何を仰りたいのか検討もつきません。確かに私は妖怪や人外のモノの研究もしていますが、今の日本ではその研究資料で尻でも拭いた方がまだ有意義だと思われているほどどうでもいい題材です。あなた方が私の何を期待されてここまで来られたのか分かりませんが、お引き取りいただけると大変助かるのですが」
 男達はしばらくぽかんと口を開けていると、互いに目配せして私にあらためて向き直った。厭な雰囲気だ。
「吸血鬼を、ご存知ですか?」
「吸血鬼?」
 今まで無言で座っていた左側の男が、唐突に口を開いた。あっけにとられて阿呆の様にオウム返しをしてしまう。
「あのブラム・ストーカーの小説に出て来る怪物のことですか? 人の生き血をすする不死の存在で、銀でしか傷を付けられず、心臓に十字架を突き立てると死ぬ。ヨーロッパではその存在が根強く信じられており、実際に吸血鬼として疑われた人物を殺害したり生き埋めにした事例もあるという」
「いるんですよ、私達の村に……。『そいつ』に攫われたおかげで村の若い娘は激減して、ただでさえ過疎化が進んでいるのに……このままだと数年で村は地図から消えてしまいます。先生には是非、その吸血鬼を退治していただきたい。私達と村を助けて下さい。お願いです」
 男達はまるで合わせ鏡の様にソファから立ち上がると、私の足下で床に頭を擦り付けた。私はしばらく言葉を発することが出来なかった。

 東京から電車を何回か乗り継いで目的地の無人駅を降りる頃には、既に太陽は完全に山の斜面へと落ちていた。周囲が山に囲まれているためだろうか、季節は梅雨から初夏へ移っているのにも関わらず、この周辺の土地は東京よりも数時間日没が早いらしい。頼りない外灯の光の周りには羽虫が数匹群れをなしていた。
 半月ほど前に私の家に来た二人の男が車で迎えてくれた。二人はあらためて佐竹、佐藤と自己紹介をしたので、どちらがどちらなのか自信をなくしていた私は助かった。日に焼けてがっしりとした体格のいい方が佐竹、逆に色白でひ弱そうな男が佐藤だ。

 佐竹達の村は、駅から車で更に二時間ほど走った所にひっそりと存在していた。暗い。異様に暗い。光と言える物は電信柱の灯りと、村の奥に見える大きな屋敷の門のかがり火くらいで、田や畑を挟んでポツポツと建っている質素な作りの民家のほとんどは灯りが点いていない様に見えた。それとなく佐藤に訪ねると、「みんな吸血鬼が怖いので、光が外に漏れない様に灯りに黒い布を巻いて生活しているんです」とのことだった。
 舗装されていない道をゴトゴトと走っていると、前方に周囲の風景とは異彩を放つ大きな左右対称の門が見えて来た。
「あそこが村長で、この辺一帯を取り仕切っている由緒ある旧家、川堀(かわほり)様のお屋敷です。周囲の山を含めて、この村自体が川堀様の持ち物で、私達は川堀様から土地をお借りして生計を立てているんです」
 なるほど、つまりこの村の村人達は全て、川堀家子飼いの百姓達だ。何かあっても、たとえ娘が吸血鬼に攫われようとも、村からは逃げるに逃げられないのだろう。
 門をくぐり、車を降りると二人の女中が出迎えた。
 トランクから降ろした私の荷物を運ぼうとするが、丁重に断って自分で運ぶ。女中は困った様な顔をしていたが、ひとまず囲炉裏のある部屋へと案内してくれた。
 囲炉裏の中で木炭がぱちりと跳ねた音が、高い天井に反響した。佐竹も佐藤も口を開こうとはせず、ただじっと濃い橙色の灯りを見つめている。厭な雰囲気だ。空気が重油の様に重い。私が沈黙に堪え兼ねて口を開こうとすると、上座に当たるふすまが開いて一人の老人がゆっくりと入り、私の正面に座った。佐竹も佐藤も、老人が入ると同時に向きを変え、老人に対して三つ指をついた。私は頭だけを軽く下げた。

皆さんご機嫌いかがでしょうか?

今回は告知のみで申し訳ないですが、腹パンオンリーイベントで発売しました

RESISTANCE
CASE:ZION -The First Report-

の販売審査がDL Site様で通りまして、本日(11月8日)中に発売される予定です。
2時前の時点ではまだ発売開始になっておりませんが、おそらく昼くらいには開始されるのではないかと思います。

リンクは右の「STORE」か下記のバナーにございますので、ご希望の方はよろしくお願いします。


〈追記〉
今確認しましたら、12時ちょうどに発売開始されたみたいです。
よろしくお願いいたします。



↑このページのトップヘ