AwA様主催の腹責め合同誌「ぽんぽんいたいの」に参加させていただきました。

コミックマーケット83冬 3日目(12月31日)
東3ホール エー07b

にて配布予定ですので、よろしくお願いします。

124ページ、総勢23名によって繰り広げられる腹責めの狂宴……
皆様、除夜の鐘で煩悩を打ち消す前に、是非ゲットして下さい!


自分はせっかくのコミケと言うことで、今回は東方の二次創作を書かせていただきました。
風見幽香メインの小説で8ページ、豪華作家陣に紛れてこっそりと参加していますので、よろしくお願いします。


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昔話をしようか〜DAHLIA〜  ※サンプルのため責めシーン無し



 二十三時を過ぎると、秋特有の涼しい夜風が、昼間の残暑を押し流す様に幻想郷を駆け抜けた。
 風になびく薄(すすき)を遠くに眺め、風見幽香は自分の庭にこしらえたガーデンチェアに座り、テーブルの上に置かれた薄造りのワイングラスに白ワインを注意深く注いだ。
 こんな日は、いつも胸が締め付けられる。
 秋風が身体を駆け抜けると同時に、無数の刃で心臓を少しずつ削り取られている様だ。
 おそらく今、自分は酷い顔をしているのだろう。
 幽香はワインを一息にあおると、長い溜息を吐いた。秋なんて早く過ぎ去って仕舞えばいい。
 先ほどから周囲の虫達がざわめいている。リグルがこちらへ向かっているのだろう。よくもまぁ自分なんかの所に好き好んで通うものだと思い、自虐的に苦笑する。
 馬鹿な氷の妖精も、ボーイッシュな蛍も、鳥頭の鰻屋も、しっかり者の大きな妖精も、みんな自分に正直だ。無理に背伸びをすること無く、自分のことをきちんと理解し、精一杯生きている。
 背伸びをすると、少しの間だけ景色が変わる。だけど、背伸びをし続けると、爪先が痛くなってくる。そのことは、充分すぎるほど理解しているはずなのに……。

 僅かに鈴蘭の香りを感じ、リグル・ナイトバグは溜息をついた。やれやれ、この高度でも香るのか。今日はいつにも増して高度を取ったつもりだったが、無駄だった様だ。
 背後を振り向くと、虫達の羽音が戦闘機の轟音の様にリグルの鼓膜を揺さぶる。既に数百匹近くが鈴蘭の芳香に誘われて地面へと吸い込まれて行ったが、まだ十分な数は残っていた。
 一週間前までは僅かに居た蝉はとうとう一匹もいなくなり、代わりに鈴虫や松虫などの秋の虫が増えている。夏はきっぱりと幻想郷に別れを告げて、どこか遠い場所で深い眠りについたのだろう。
 無名の丘を過ぎると、リグルは頭から生えた二本の触覚を小刻みに動かしながら、ゆっくりと高度を下げていった。その先の小さな渓谷を過ぎると、周囲の景色から浮き立つ様に色づいた盆地が見えてきた。夏の間は向日葵の黄色で埋め尽くされていたこの太陽の畑も、今では薄や桔梗、萩の花で落ち着いた色合いになっている。
 太陽の畑の入り口で虫達を放つと、夜露を求めて一斉に四散する。最後の一匹を見送った後、リグルは太陽の畑の更に奥を目指す。いつもの場所に、この畑の主が居るはずだ。

 太陽の畑の中心部近く、少し小高くなった丘の上に、こぢんまりとしたログハウスがあった。幻想郷に限らず、力ある者はその力に比例して大きな住居に住むことが多いが、このログハウスは主の実力からすると途方も無く小さかった。
 ログハウスの庭先のガーデンチェアで、風見幽香が小さめに切ったチーズをつまみながらワイングラスを傾けていた。テーブルの上のガラスで出来た水鉢にはカモミールの花が浮いている。
 リグルはその静かな時間を壊さない様に、そして足下の秋桜を踏まない様に、幽香の後方の少し離れた場所に注意深く着地する。いきなり正面に着地するのはスマートではない。
「ごきげんよう幽香さん。良い夜ですね」 
「本当ね。今日は満月だけど、とても静かだわ」
 幽香は背後を振り返らずに答えると、少しだけワインを口に含んだ。許可を得てからテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰を下ろしても、幽香の視線は地平線の先まで続く桔梗の絨毯を向いたまま動かない。透き通る様な幽香の肌は、月光を浴びて白磁の様に見えた。
「ここはいつの季節も花で溢れていますね。夏の向日葵も凄かったけど、秋でもこんなにたくさんの花が咲くなんて」
「花の咲かない季節は無いのよ。注意深く見れば、たとえ冬でも咲いている花はあるの。人も動物も、越冬に必死で視界に入ってこないだけ……貴女もいかが?」
 ワインのせいか、幽香はいつもより少しだけ饒舌だった。
 リグルが頷くと、新しいグラスに淡い黄金色のワインが注がれる。白い花を思わせる芳香が、グラスに鼻を近付けなくても漂ってきた。葡萄の品種はおそらくリースリングだろう。
 リグルが軽く口に含むと、上品な酸味の中に蜂蜜に似た甘さが微かに広がり、自然に溜息が漏れる。
「美味しい……」
「そうでしょう? 今年の紅魔館のワインは本当に出来が良いわ。紅魔館をあげて作っているフルボディも良いけれど、門番が趣味で少しだけ作っているその白も、かなりの出来映えよ」
 リグルは幽香の赤い瞳に吸い込まれるような錯覚を憶える。満足そうに目を細める幽香を見て、リグルがぽつりと呟いた。
「……幽香さんはすごいですよね。余裕があるというか。八雲紫さんや西行寺幽々子さんみたいな世界を変えるほどの力がある妖怪にも全く媚びること無く接しているし、ボクみたいな妖精にも対等に口をきいてくれるし……本当に憧れますよ」
「……そんな大したものじゃないわ。別にいつも余裕綽々としている訳じゃないし。今日は良いお酒が手に入ったから、誰かに自慢したかっただけよ」
 リグルは少し驚いた表情の幽香をワインを透かして見た。薄い黄金色のスライドを通して見ても、吸い込まれそうな赤い瞳の魅力は少しも変わらなかった。
 二人はしばらく他愛も無い会話をしながらグラスを傾け、ボトルが空になる頃にリグルがお礼を言って帰って行った。幽香がグラスと空になったワインボトルを持って家に入ろうとすると、屋根の上で青白い布がはためいているのが見えた。首を傾げがら屋根に登ると、チルノが大の字で気持ち良さそうに寝ていた。青いワンピースの数カ所に小さな焦げ跡がある。幻想郷では珍しいことではない。おそらく弾幕勝負に負けてここまで吹き飛ばされてきたのだろう。
「こら、人の家の屋根で勝手に寝ないで頂戴」
「んあー……何だ幽香か……」
「人のことを何だとは失礼ね。貴女が寝ぼけて屋根の上で馬鹿でかい氷柱でも出されたら困るのよ。自分の家に帰るか、せめて私の家の中に入りなさい」
 チルノは上体を起こすと、眠そうに目を擦りながら幽香のスカートの裾を掴む。家に入れてくれということらしい。幽香は腰に手を当てて軽く溜息をついた後、チルノを小脇に抱える様にして屋根から降りて、ログハウスのドアを開けた。
 家の中は少し寒いが、まだ暖炉に火を入れるほどでもない。それに入れたら入れたで、この小さな氷の妖精が暑いと騒ぐだろう。
 寝ぼけ顔のチルノをソファに座らせた後、丁寧にカモミールをメインにブレンドしたハーブティーを淹れる。微かにリンゴの様な香りがポットから漂う。
 カップをチルノに渡すと、小さな手で大事そうに口に運んだ。
「……まずい」
「薬だと思えばいいのよ。満月の日に飲むと昂った気持ちがいくらかマシになるの。で、誰に負けたの?」
 幽香がテーブルを挟んだ向かいのソファにもたれる様に座りながら聞くと、チルノは唇を尖らせて不満そうに口を開いた。
「……また魔理沙に負けたんだよ。あいつパワーだけはあるし、すばしっこいからあたいの攻撃全然当たらないんだ」
「まぁ、天狗には遠く及ばないとはいえ、確かにあのスピードは厄介ではあるわね」
「幽香には全然厄介じゃないだろ。そんなに強いんだし。いくら魔理沙が逃げたって大砲一発じゃないか」
 幽香のティーカップが、薄桃色の唇の直前で止まる。
「……さぁ、どうかしらね」
「幽香はすごいよな。強いスペルカードいっぱい持ってるし。あたいなんて今日のために新しいスペルカード作ってきたのに全然効かなかったよ。でも、次は負けないんだ!」
「……また勝負するの? 次も負けるかもしれないのよ?」
「なら次の次で勝てばいいんだよ! あたいが勝つまでやるんだ! まだスペルカードのアイデアはたくさんあるからね!」
 チルノはカップの中身を一息にあおると、氷の妖精の名前に相応しくない太陽の様な笑顔を幽香に向けた。時折この子の無邪気さが本当に眩しく見える。
「……強いのね、貴女は」
「当たり前だよ! なんたって、あたいは最強だからな!」

(私は最強だから!)

「……ッ!」
 幽香が額を押さえて微かに呻くと、チルノが心配そうに覗き込んだ。
「ど、どうした幽香? 頭痛いのか?」
 幽香は顔を上げずに首を振る。五秒ほど頭を抑えた姿勢のまま静止した後、ゆっくりと顔を上げて、天井を見ながら溜まった息を吐き出した。
「大丈夫……少し目眩がしだけよ……。この時期になると昔のことを思い出して、つい……ね」
 声に出してから、はっとして口元を押さえる。チルノを見ると、心配そうな顔をして首を傾げていた。
 結局その日、チルノは幽香の家に泊まることになった。
 熱い、溶ける、面倒くさいと嫌がるチルノを引きずって一緒に風呂へ入り、チルノのためにソファに毛布を掛けていると不満そうな顔をしたので、一緒のベッドで寝ることにした。
 ベッドに入ってからも、チルノは時々ごそごそと動いてなかなか寝付かなかった。
「眠くないの?」
「うん! 幽香の家に泊まれてワクワクしてるんだ。朝まで起きててもへーきだよ!」
 幽香が「それは勘弁ね」と言うと、チルノが頬を膨らませながら、幽香の胸に腕を回す様に抱き着いてくる。
 柔らかい髪の毛が脇の下に当たって少しくすぐったい。
「じゃあ眠くなる様にお話。お話して。コメディでもホラーでも何でもいいよ」
「あのねぇ……これでも私、危険度極高の友好度最悪で通ってるんだけど……」
 幽香がこめかみを抑えながら、空いている左手で無意識にチルノの髪を撫でると、チルノは猫の様に身を捩らせた。
「まともに声をかけてくるのなんて紫と幽々子と鬼の連中くらいだし、ましてや家まで遊びに来るのなんて貴女とリグルくらいよ。ねぇ、今更だけど……貴女私と会ってて楽しいの?」
「んー……もちろん楽しいけど、なんか近くにいると安心するんだ。懐かし感じがするってリグルも言ってたし」
「……懐かしい?」
「うん。懐かしくて、少しだけ悲しいからまた会いたくなるって……。ねぇ幽香、お話は?」
「ん……じゃあ、少しだけお話してあげる。その代わり、お話を聞いたらちゃんと寝ること。睡眠が不足すると健康に悪いわよ」
「うん、約束する!」
 幽香は覚悟する様に深く息を吸い込むと、チルノから視線を外して天井を向き、ゆっくりと口を開いた。いつもより饒舌になっているのは、ワインと満月のせい。そして、毎年自分をたまらない気持ちにさせるこの季節のせいだ。たぶん、きっと。
「そうね…………昔話をしようかしら」



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