Яoom ИumbeR_55

Яoom ИumbeR_55は「男性→女性への腹パンチ」を主に扱う小説同人サークルです。

2013年09月

 久留美が「この学院に蓮斗という生徒はいますか!?」と生徒会長室に怒鳴り込んで来たのは一時間ほど前の事だ。かなり取り乱しており話の内容は終止脈絡を得ず、しきりに「蓮斗という生徒はいるか」と繰り返した。シオンがなだめ、何とか落ち着いて話を聞くと、昨日S棟のプールで鷹宮美樹に暴行を行った犯人の名前だと言う。シオンと鑑も暴行事件を調査している中、第一発見者の久留美にはいずれ話を聞くつもりだったので、いいタイミングと言えばそうだった。
 趣味のいいウェッジウッドのカップから柔らかい湯気とともに、香しい紅茶の香りが立ち上る。三人はほぼ同時にカップに口をつけ、ほぅと息を吐いた。久留美はカップを丁寧にソーサーの上に戻すと、ぺこりと頭を下げた。
「すみません……取り乱してしまって……。ここに来た時も大騒ぎしてしまいましたし……」
「いえいえ、謝る事なんて全然無いですよ。親しい人があんな目に合ったんですもの、平常心を保っている方が難しいですよ」
 シオンが左手を振ってなだめる。鑑も無言で頷きながらカップを置く。
「さっき紅茶を買いにいくついでに学生課に寄って生徒名簿を閲覧しましたが、『蓮斗』なる人物はウチにはいないようです。もっとも、名前からしてほぼ間違いなく偽名だと思いますが」
 久留美が少しだけ肩を落とし、カチューシャに付いていつ小さな白いリボンを何ともなしにいじる。
 何も出来ない自分に歯がゆさを感じ、悔しがっているのだろう。しきりに下唇を噛んでいる。シオンがゆっくりとした動作でポットから久留美、鑑のカップに紅茶を注ぎ足し、最後に自分のカップにも注いだ。鑑はシオンに軽く頭を下げると久留美に対して口を開いた。
「申し訳ありませんが、話の続きをうかがってよろしいですか? その蓮斗なる人物の名前は鷹宮さんから直接聞いたのですか?」
「ええ……直接といいますか……うわ言なんです。昨日は先輩を乗せた救急車に同乗した後、ずっと病室に付き添っていました。病室で先輩が目を覚まさない間、何回かその名前を口にしていて……。ただ、夜中に先輩が目を覚ました時にその人が犯人なのか聞いても、その名前は忘れろとしか言われなくて……」
「たぶん美樹さんは久留美ちゃんを巻き込みたくなかったのだと思います。久留美ちゃん、今回の件はおそらくただの変質者の犯行ではなく、久留美ちゃんが思っている以上に大事(おおごと)です。美樹さんのことは私達もよく知っているし、簡単にあんな目に遭うような人ではありません。どうか久留美ちゃんは今回の件には深追いせず、私たちに一任してくれませんか?」
「でも私、絶対に犯人を見つけたいんです! お願いです! 出来る事は何でもしますから、何か手伝わせて下さい!」
「久留美ちゃん、これは本当に危険なの。おそらく、ただの暴行事件では終わらない。久留美ちゃんの気持ちは痛いほど分かるけど、美樹さんもこれは危険な事だと十分承知しているから、久留美ちゃんに話をしなかった。美樹さんの思いを汲んではくれないかしら」
 訴えかけるシオンに対し久留美が目に涙を溜めて何かを言おうとするが、「美樹の思いを汲んでほしい」と言われると二の句が継げなかった。
 久留美は根が真面目で真っ直ぐな分、意志も固い。
 美樹を思う気持ちが痛いほど分かる分、シオンや鑑にとっても久留美に「関わるな」と告げる事は辛かった。
 シオンと鑑は、美樹の実力は以前から知っている。アンチレジストの戦闘員の中でも、数名しかいない上級戦闘員だ。打撃攻撃の戦闘能力はそれ専門のシオンや綾と比べるとやや劣るだろうが、美樹は銃器以外の殆どの武器や武具を使いこなせる。武器使用可能であれば戦闘能力はシオンや綾に匹敵、場合によってはそれ以上になるだろう。
「……わかりました。先輩の件、どうかお願いします」
 久留美が肩を落として生徒会長室を出て行く。その姿はあまりに悲痛でシオンや鑑も胸が締め付けられる様な思いだった。
 重い雰囲気を破る様に鑑が口を開く。
「仕方ありませんよ。この件は人妖が絡んでいる可能性が極めて高い。となれば我々アンチレジストで処理すべき問題です。一般人の水橋さんを巻き込む訳には……」
「……そうですよね。今日はこの後美樹さんをお見舞いに行きましょう。当日の状況を詳しく聞きたいですし。あと、昨日警備室の方に頼んで、当日の夜のS棟周辺の防犯カメラの映像を全て借りてきました。今朝に全部の映像をチェックし終わって、犯人らしき人物を捉えた映像が数秒ありましたので、プリントアウトしますね」
 シオンがソファから立ち上がると、デスクの上のマッキントッシュを操作し、数枚の写真がワイヤレスで繋がったプリンタから吐き出された。
「全部チェックって……昨日は普通に授業に出てたじゃないですか……。いつ寝たんですか?」
 鑑が半ば呆然としながら聞くが、シオンは笑顔になって「シャワーは浴びましたよ」と答えた。数枚の写真を手に取り、シオンがソファに座り直す。写真には金髪の男性が写っていた。背後から裏門の警備員を殴る場面と、S棟に入っていく場面だった。


 学院都市の外れにあるアナスタシア総合病院は、アナスタシア聖書学院に次いで都市で生活する人々の誇りであり、心の支えでもあった。
 外見は学院と同じく赤味の強い煉瓦を多用したレトロ調の建築で、清潔な施設に最新鋭の設備、膨大なベッド数を有する。一般病棟には他の都市からも多数の入院患者を受け入れていた。また、最上階は一般病棟とは区別され全て個室のみで構築されており、各界の要人や政治家など、いわゆるVIPも「体調不良」の時にこぞって愛用していた。
「ありがとうございましたー。カードでよろしいですか?」
「あ、ああ、はい。じゃあサインを……」
 冬の日差しは弱々しいが、どこまでも柔らかくて穏やかだった。
 シオンはタクシーから降りると、軽くブレザーの襟を直し、髪を手櫛で梳いた。シオンは戦闘時には長い髪が邪魔にならない様にツインテールに纏めているが、普段は櫛で梳いただけのナチュラルストレートにしていた。プラチナブロンドの髪が日差しに反射し、柔らかく光る。
 シオンは振り返って運転手に軽く手を振り、病院の入り口に向かって歩きだした。
 運転手は後部座席のドアを閉めるのも忘れ、微かに口を開けたままシオンの後ろ姿を見送り、現実感の無い人だなと溜息混じりに呟いた。
 病院の外壁と同じ、ダークレッドのブレザー。
 一目でアナスタシア聖書学院の生徒だと分かる。
 アナスタシア聖書学院は生徒との信頼関係が出来ているため、校則は日本の一般的なそれと比べてかなり緩い。それは制服においても同じである。
 アナスタシア聖書学院の制服は学院のカラーであるダークレッドを基調としたブレザーとチャコールのスラックス、もしくはスカートを「基本の制服」として定めている。この「基本の制服」は各種式典での着用を義務づけられるが、普段の学院生活では「基本」から大きく逸脱しない限りはある程度生徒が自由にコーディネート出来る上、「周囲を不快にしなければ」自由に改造、デザインが施せる。
 ほとんどの生徒が数パターンのコーディネートを持っていることが普通だし、中にはブレザーに多数の安全ピンを留め、様々な布を縫い付けてパンク風にしたり、スラックスの膝から下をブリーチしてグラデーションにしたりしている生徒もいた。
 シオンも上着こそベーシックなブレザーを着ているが、スカートはロキャロンのブラックスチュアートの生地を自ら墨で後染めし、自作したプリーツスカートを身につけていた。
 広大なロビーを横切って総合受付に向かう。
 派手な容姿のシオンはただでさえ目立つ。そのため、隠れる様にシオンの後を追ってロビーに入った久留美の姿は誰の目にも留らなかった。

「すみません。鷹宮美樹さんのお見舞いに来たのですが」
「鷹宮様のお見舞いですね。かしこまりました。では、こちらにサインと身分証を」
 シオンが身分証を手渡し、流れる様な筆記体でサインを終える。
 受付の女性がそれらを見ながら端末で照合を始めた。数秒経った後、顔を上げてシオンを見る。訓練された、全く隙の無い笑顔だ。まるで顔全体が漂白された様だ。もしかしたら寝る時もこの笑顔をしているのではないだろうかと、シオンは心の片隅で思った。
「如月シオン様。ただいま鷹宮様から入室許可を頂きました。以前如月様も神崎様、鑑様と3名で入院されておりましたね。では、鷹宮様のお部屋までご案内致しますので……」
「あっ、おかまいなく。大体の場所は分かりますので、部屋番号だけ教えて頂けますか?」
 最上階までエレベーターで登り、シオンが目当ての部屋をノックすると、中からよく通る声で「どうぞ」と返事が返って来た。
 扉を開けると一瞬ホテルの一室に来た様な感覚を覚える。応接セットの奥に備え付けられた病院専門のベッドだけがここが病室である事を主張していた。
「大丈夫ですか美樹さん。すみません、来るのが遅くなってしまって。今回は大変でしたね……」
「シオンか……。悪かったな、迷惑をかけた……くっ……」
 ライトブルーのパジャマを着た美樹は読んでいた本をサイドテーブルに置きながら起き上がろうとしたが、腹部を押さえて小さなうめき声を上げた。シオンが慌てて駆け寄る。
「あっ……ちゃんと寝ていないとダメですよ」
「大丈夫だ……医者によると内臓へのダメージはほとんど残っていないらしい。筋肉痛みたいなものだ……。それより、今回の件について話がしたい。お前の事だから、もう犯人の写真くらいは手に入れてるんだろう?」
「ええ……おそらくこの人ではないかと……。先走って申し訳ありませんが、鑑君にはアンチレジストの本部で人物の特定をお願いしています」
 シオンがプリントアウトした数枚の写真を美樹に手渡すと、それを見た美樹の顔がわずかに強張った。
「こいつで間違いない……鑑にはそのまま調査を続けてもらってくれ。情けない話だが、隙をつかれてこのザマだ。なによりこいつは……」
「人間……」
 美樹の深く黒い瞳がシオンの緑色の瞳を見上げる。一瞬の静寂が二人を包み、冷たい風が窓を打つ音だけが部屋に響いた。
 シオンは胸の下で自分の身体を抱く様に腕を組むと、視線を足下に落とした。
「流石だな。どうしてわかった?」
「美樹さんがここまで追いつめられた事を知って、私も最初は半年前に戦った使役系の人妖、涼と同じクラスの人妖が現れたのかと思いました。しかし、男性タイプの人妖であれば、その行動目的は人間の女性を自らの栄養供給源として『継続的に』自分に魅入らせる事にあります。誠心学園やアナスタシア聖書学院で起きた連続生徒失踪事件の様に。しかし今回の蓮斗なる人物の行動には継続性が見られない。暴行そのものが目的の様に思います」
「お前の言う通り、確かにこいつは自分を人間だと名乗った。しかし、人妖と接触がある事は間違いない。何故こいつが人妖に取り入っているのか、何故人妖はこいつと接触を持っているかは分からないが、間違いなく言えるのはこいつはとんでもないサディストだ。私を縛り上げ、ナックルを嵌めた拳で腹を滅茶苦茶にやられた……そしてかなり興奮していた……。ところで、久留美は大丈夫だったか? ショックを受けていないといいんだが……」
 シオンが大丈夫だと頷くと、美樹はようやくほっとした様にため息をついた。

「ジンヨウ? アンチレジスト? 先輩達は何を話しているの……?」
 個室のドアに耳を付けて中の話をうかがっていた久留美は目を丸くした。美樹やシオンの口から発せられた聞き慣れない単語は所々意味が分からなかったが、何か大きなモノに美樹やシオンが対峙している事は理解出来た。
「えと……美樹先輩やシオン会長がアンチレジストって言う組織に所属して……その……ジンヨウっていうものと戦うために? 一体どういう……」
「何してるんだい? そんな所で」
「ひゃ! ひゃいっ!? す、すみません! わわわ私、先輩のお見舞いに……」
 急に背後から声をかけられ、久留美が床から三十センチほど飛び上がった。油が切れた蝶番の様に、ギギギという擬音が聞こえそうなほどぎこちなく後ろを振り返ると、そこには長身で細身の医師が立っていた。
 白衣にマスクをしており表情は分からないが、髪の毛が全て金色に染められていたのが若干異様に見えた。
「お見舞い? 怪しいなぁ……知り合いだったら盗み聞きなんてしないんじゃないのか?」 
 医師が壁に片手をつき、久留美に覆い被さる様に質問する。
 有無を言わさぬ雰囲気に久留美が気圧されそうになるが、小さな身体が震えそうになるのを必死に堪える。
「あ、あの、違うんです。今先輩達が大事な話をしてるから、少し外で待ってて……」
「ふーん。大事な話ねぇ? もしかして、美樹ちゃんの容態のことかな。結構ヤバい状態なんだけど、本人から聞いた?」
「えっ……?」
「知らないのか? まぁ美樹ちゃんは人に心配をかけたがらないからなぁ。あんな事になるなんて可哀想に……」
「な、何があったんですか!? 先輩は大丈夫なんですか!? お願いします。先輩を助けて下さい!」
 久留美が必死な形相で医師の白衣を掴む。医師はマスクの下で口元に満面の笑みを浮かべていたが、久留美は全く気付かなかった。
「まぁ立ち話も何だから、向こうで話そうか? 結構重い話だから、覚悟しておいた方がいいよ」
 ただならぬ雰囲気を感じ、久留美が無言で頷く。
 美樹の病室に背を向け、強張った顔で医師の後に付いて歩く。途中、自分と同い年くらいのセーラー服を来た少女が向こう側から早足で歩いて来た。違う学校の制服だが、美樹の病室に向かっているようだ。
 その少女はすれ違う際に自分と医師に対し軽く頭を下げた。久留美は反射的に頭を下げたが、医師は気に留めた様子も無く正面を見つめて歩き続けた。
「ごめんなさい遅れちゃって! 美樹さん、大丈夫ですか?」
「ああ、綾か。遠くからすまないな。私はこの通り元気だ」
「綾ちゃん久しぶりー。元気だった?」
「あ、シオンさんもいる。今日は鑑さんは一緒じゃないんです?」
 綾が悪戯っぽくシオンをからかう。軽い雑談の後、美樹が綾に対して今回の経緯の説明を始めた。

「あの、先輩は大丈夫なんですか?」
 久留美が連れて来られたのは、予備のベッドやシーツが置かれているリネン室だった。ベッド数の多い総合病院らしく、リネン室はかなりの広さだ。 業者に受け渡す前の使用済みのシーツがうずたかく積み上げられ、その横には糊の利いた届いたばかりの真っ白なシーツが寸分の狂いも無くぴたりと折り畳まれた状態で置かれている。
「まるで壁みたいだな。折り目のズレが全く無い。神経質過ぎて俺の好みじゃないな……」
 金髪の医師がシーツを触りながら感想を漏らす。美樹の様子が気になる久留美は思わず声を荒げた。
「先生! 先輩は大丈夫なんですか!? 先輩の容態が悪いのなら、早く良くなる方法を教えて下さい」
「そうだなぁ、君のその白いニーソックスは俺の好みだよ。君の小さな身体によく似合ってる。この神経質なシーツとは大違いだよ」
 ゆっくりと医師が振り返ると、久留美の身体を爪先から舐め回す様に見つめた。
 黒いローファーから健康的な脚が白いニーソックスに包まれて伸び、僅かな素肌が覗いた後に黒と緑を基調としたブラックウォッチのプリーツスカートに隠れた。
 医師のその視線に久留美は背中に薄ら寒い物を感じ、思わず後ずさる。
「な、何を訳の分からない事を……? 先輩が大変だって言うから付いて来たのに、変な事をするつもりなら人を呼びます!」
「あーわかったわかった。今教えるから。まず美樹ちゃんがあんな風になった原因はさ……」
 ずぐん……と重い振動が久留美の体内に響いた。
「えぅ…………?」
 医師が久留美に近づくと同時に、右の拳を久留美の腹部に埋めた。ブレザーの金ボタンがメキリと音を立ててひしゃげ、久留美の華奢な腹部にめり込んでいた。
「俺がこうやって美樹ちゃんをイジメちゃったからなんだよね」
「あ……ぐぷっ!? うあぁぁぁぁぁ!!」
 同年代より一回り小さな久留美の身体は、拳を支点に軽々と持ち上げられ、両足が完全に地面から離れた。人に腹を殴られるという初めての経験に、久留美の脳は一瞬でパニックに陥った。
「あ……ああああっ! げぽっ……。う……うあぁ……」
「へぇ、凄くいい顔するね? 気が変わったよ。久留美ちゃんとはゆっくり楽しみたいな。美樹ちゃんともまた会いたいし、悪いけど、一緒に来てもらうよ」
「な……何で……私の名前……? ま、まさか……先生が……先輩を……」
 久留美が全て言い終わる前に、一瞬だけ引き抜かれた拳が再び久留美の体内にめり込んだ。重い音を立てて骨張った拳が鳩尾に突き刺さる。あまりの衝撃に久留美は限界まで舌を伸ばして喘ぎ、舌先から唾液が糸を引いて地面に落ちた。
「やべぇ……予想以上だな……。あと、俺は先生じゃなくて蓮斗って言う名前だ。じゃ、寝ろよ?」
「あ…………うそ……いや……」
 蓮斗は久留美の身体を、重量挙げをする様にうつ伏せの姿勢のまま頭の上に抱え上げた。手を離す。重力に従い、久留美の身体がうつ伏せの姿勢のまま落下する。そのスピードを利用し、久留美の柔らかい腹を膝で突き上げた。
 落下スピード。自分の体重。蓮斗の膝を突き上げる力が全て久留美の腹部に集約し、とてつもない衝撃が久留美の全身に広がった。ぐじっ……という嫌な音が狭い室内に響く。内臓がひしゃげ、様々な危険信号が久留美の脳内を駆け巡る。
「えごぉぉっ!?」
 普段の久留美からは想像がつかない様な濁った悲鳴が響いた。限界まで見開いた目は黒目が半分隠れ、口からは大量の唾液が強制的に吐き出された。溺れる人間が空気を求める様に何度か口を開閉した後、電池が切れた様に体全体が弛緩した。
「ヤバいな……予想以上だ。後でたっぷり……」
 蓮斗は興奮した息を整えながら新品のシーツを広げると、気絶している小柄な久留美の身体を包みはじめた。

「ファウスト?」
 柔らかい女性の声が部屋に響くと、暖炉の中で燃えている白樺の薪がパチリと音を立てて弾けた。
 部屋の壁は清潔感のある漆喰が丁寧に塗られていた。ダークブラウンのフローリング。磨き抜かれた紫檀の無垢材で出来たリビングテーブル。それを挟む様にスリーシーターのソファが向かい合わせて二脚置かれている。ソファに張られた柔らかい印象のモスグリーンのモケットファブリックが、暗色の床の色と調和して、暖かみのある雰囲気を醸し出している。部屋の奥に設置されたリブングテーブルと同じ紫檀の無垢材で出来た大きめな執務机と、その上に置かれた二十七インチのマッキントッシュが無ければ、小さな趣味の良い喫茶店の様だ。
 入り口側のソファには女性が一人、奥のソファには男性と女性が真ん中を一人分空けて座っている。入り口から一番奥の上座に座っている、腰まである長い金髪の女性が、緑色の瞳を輝かせながら 手のひらを胸の前でぱんと合わせた。
「ファウストってあれですよねー。ゲーテの書いた戯曲のファウスト。家に原本がありましたので、子供の頃から何回も読んでますよ。『Verweile doch.Du bist so schon』ああ、なんて美しい言葉……」
 間延びした若干幼さの残る声だった。うっとりとストーリーを思い出す様に、大きめのアーモンド型の目が細くなる。女性はファウストの中の一文を口に出したが、ドイツ語の原文のため、入り口側のソファに座っている女性の頭には「?」マークが浮かんでいた。
「あの……もしかして如月会長ってファウストを原文で読んでいるんですか?」
 水橋久留美が右手を上げながらおずおずと声をかける。のんびりとした幼い印象の顔立ちで、身体も同年代のそれよりは一回りほど小さい。ショートカットに切り揃えた髪に、白いリボンをカチューシャの様に留めている。
「ええ、ファウストは全て韻文なので、原文で読んだ方が本来の言葉の響きや意味を理解しやすいんですよ。あ、それと久留美ちゃん、私の事は改まらずに下の名前で読んで下さっていいですよ?」
「はぁ……。いえ、当然の様に仰ってますけど、ただでさえ難解なファウストを原文ですらすら読める方が……。ちなみに、きさ……シオン会長って何カ国語喋れるんですか……?」
「ええと……母国語はロシア語ですけど、母が日本人なので、物心ついた頃から日本語は話していましたね。あとは子供の頃に習った英語、ドイツ語、フランス語と中国語は特に不自由していないですね。イタリア語は勉強を始めたばかりですので、まだ日常会話と新聞が読める程度ですけど」
 シオンは人差し指を口に当てて思い出す様に呟く。久留美はしばらくぽかんと口を開けていたが、はっと我に帰りテーブルに身を乗り出しながら早口でまくしたてた。
「十分というか凄過ぎますよ! 確かにアナスタシアでは入学条件に『母国語の高いレベルでの習熟と、その他に一つ以上の言語を習得していること』とありますけど、殆ど皆、日本語と英語だけで精一杯で……七カ国語もマスターしてる人なんて会長だけですよ!」
「そ、そうですか? 習っていたのが子供の頃だったので、勉強するというよりは自然と身に付いてしまって……」
 久留美が感心を通り越して呆れた様にため息をつくと、違う方向からも大きく溜息をつく音が聞こえた。シオンの横に座っている副生徒会長、鑑が眼鏡を直しながら呆れた様に言う。
「確かに母国語を完全に認識する前の幼少期には、あらゆる言語を抵抗無く素直に受け入れられるという研究結果もありますが、それでも二、三カ国語が限界だそうです。それに、習得したとしても日常会話レベルがほとんどで、会長みたいに専門用語に溢れた論文翻訳のアルバイトが出来る様にはとてもなりません」
「え……シオン会長ってそんなこまでしているんですか?」
 久留美が呆れた様な声を出す。
「会長のケースはおそらく、元々会長自身の能力が高い上に、意図的な英才教育を受けたのでしょう。というか、いつ突っ込もうかと思いましたが、鷹宮さんを襲った容疑者の名前はファウストではなく蓮斗ですよ。会長も呑気に雑談している場合ではなく、水橋さんに鷹宮さんを発見したときの状況を聞いて、容疑者を見つけなければ次の事件が起こるとも限りませんよ」
「あ、ああ……そうだったわね。久留美ちゃんも今回は大変だったけれど、もう大丈夫かしら? 大好きな先輩があんな事になって、とてもショックだったと思うけれど……?」
「あ……ええ。なんかシオン会長を見てたら、なんだか元気が出てきちゃって……」
 そういうと久留美は右手でポリポリと頭を掻いて、「あの噂って本当だったんですね」と小声で呟いた。
 シオンの顔がふと真剣になる。
「よかったです……。では、申し訳ないですが、そろそろ本題に移ってもよろしいですか?」
 シオンの顔がさっきまでののんびりした顔から、凛としたものに変わる。一瞬でこの部屋の空気が、真冬の禅寺の様に張りつめた。久留美はその雰囲気に押され、無意識に浮かせていた腰をぽすんと音を立ててソファに降ろした。
 アナスタシアの生徒にとっては、いつものシオンのイメージだった。腰まである金髪を颯爽となびかせて廊下を歩き、生徒総会や大きな行事の際には良く通る声で壇上から堂々と演説する。決して冷たい雰囲気は無いが、あまりに完璧な仕事ぶりと人間離れしたその美貌は時に現実感を失わせ、生徒達は少なからず近寄りがたい印象を抱いている。一部生徒の中には「如月会長は実際に話すと、呆れるほどのんびりしている」と噂する者もいるが、殆ど都市伝説の様に扱われていた。
「久留美ちゃん、貴女が美樹さんをとても慕っているのは知っています。ショックな場面をもう一度思い出す事はとても辛いかもしれないけど、美樹さんのことを話してもらえないかしら? こんな事をお願いするのは申し訳ないけれど、学院の安全のために協力して欲しいんです」
 シオンが久留美に訴えかける。その真摯な目線に久留美はこくりと頷くと、テーブルの下でぎゅっと組んだ自分の小さな手を見ながら話し始めた。
「えと……うまく言えないかもしれないですけど……昨日は早朝練習をしようと朝の七時頃にプールのあるS棟に入りました。更衣室で水着に着替えて、準備体操をしようとプールサイドに向かった時、梯子に縛られている美樹先輩を見つけて……美樹先輩の身体には……あの……」
 久留美が言い澱みながら鑑をちらりと見る。鑑は真剣にメモを取っていたためその視線には気付かなかったが、シオンがすぐに財布からカードを取り出して鑑に渡した。
「鑑君。悪いけど紅茶が切れているの。買ってきてくれる?」
「え? 今ですか? 話を聞き終わってからでも……まぁ、購買部までひとっ走り行けばそんなに時間は……。ダージリンでいいですか?」
 鑑が書きかけのメモをシオンに渡しながら生徒会長室から出て行く。久留美はいささかほっとした様で話し始めた。
「す、すみません。男の人の前だと、少し話し難くて……」
「大丈夫ですよ。話せる所までで大丈夫ですから」
「はい……美樹先輩の顔や身体には……その……男の人の……体液だと思うんですけど……その……たくさん付いていました……。私も実際に見た事は無いんですけど、たぶん、前に友達とふざけて見たエッチなビデオと同じ感じだったので、間違いないと思います」
「体液? 久留美ちゃん、変な質問だけど、その時ドキドキしたり、頭がぼうっとしたりしなかった? うまく言えないけど、体液じゃない可能性もあるの」
 シオンはメモに「チャーム?」と素早く書いたが、久留美が首を振るとすぐ横に「可能性低」と書いた。
 久留美のぽつりぽつりと話す声に、シオンは真剣に耳を傾けた。
 変わり果てた美樹の姿を見つけた久留美はあまりの事態に悲鳴を上げたものの、すぐに我に帰り美樹の元に駆け寄った。美樹は梯子に両手足を縛り付けられたまま失神していたが、呼吸や脈拍は問題なかった。震える手で両手足のロープを解き、自分が持ってきたタオルを敷いてプールサイドに寝かせる。濡れた美しい黒髪が艶々と光りながら顔に貼り付いていた。唇は紫色に変色し、普段から色白の肌は透き通る様な青白さになっていた。
 まるで美しい死体の様だった。
 幽玄、と言うのであろうか。この世の物とは思えない美しさを目の前にして、久留美はしばし時間を忘れて見とれていた。
「その後は、夢中で警備員室まで走りました。救急車が来て……先輩が運ばれて……。運ばれる時に先輩目を開けたんです! そして、小さな声で『私は大丈夫だから、お前は心配するな』って笑ってくれて……。何で先輩があんな酷い目に合わなければならないんですか!? 先輩が何をしたんですか!? こんな……酷い……うっ……うぅ……」
 久留美の力一杯握りしめられた小さな手に涙がぽたぽたと落ちた。美樹には水泳部に入部した時から色々と面倒を見てくれた。美樹を知る人間は、美樹の言動はぶっきらぼうで表情は厳しいが、その奥には他人への優しさと気遣いで溢れている事を知っていた。何故美樹の様な素晴らしい人があの様な惨い目に遭わなければならないのかと思うと、久留美の瞳にはやるせなさと悔しさで自然と涙があふれた。
 シオンが静かにソファから立ち上がると久留美の横に座り、久留美の頭を自分の胸に抱え込む様に抱きしめた。ほんのりと甘く優しい香りがする。久留美はシオンに美樹と同じ優しさを感じ取り、いつの間にかシオンに抱きついて大声で泣いていた。シオンは細く長い指でそっと久留美の髪を撫で続けた。
 扉をノックし、鑑が紅茶葉の入った缶を持って会長室に入る。二人の様子に驚いた顔をしたが、シオンが無言で人差し指を立てて唇に当てると状況を把握し、足音を立てない様に奥の給湯室に入ると、ポットと三つのカップを用意して薬缶を火にかけた。

 力無く弛緩した美樹をプールサイドへ上がる為のステップに座らせると、美樹の上半身は据え付けられたステンレス製の手摺の間にすっぽりと収まった。
 蓮斗は慣れた手つきで美樹の両手首を手摺に縛り付ける。手首が終わると、水の中に潜って両足首も同じ様に手摺に固定した。
 作業が終わると、蓮斗は美樹の身体から数メートル下がって、美樹の全身を見回した。
「へぇ……スポーツやってるだけあって、流石にスタイルが良いな」
 引き締まった身体に、適度な大きさの胸が半分水面から顔を出している。梯子に固定された手足は無防備に開いたまま、肘、膝がL字に曲がり、遠目から見ればスポーツジムの大胸筋を鍛える器具に座っている様な格好に見えた。長い睫毛や髪の毛からは時折水滴が音も無く水面に落ちている。
「そそるな……」
 蓮斗は思わず生唾を飲み込む。
 美樹ほどの美貌とスタイル持ち主が、目の前で全身を濡らしたまま無防備に身体を開いている。水を吸ったネイビーの競泳用水着はまるで絹糸の様な光沢があり、美樹の身体のラインを魅力的に浮かび上がらせていた。
「これはヤバいな……一発抜いとくか……」
 蓮斗は自らステップに上がると、カーゴパンツのチャックをおろして性器を取り出し、美樹の顔の目の前でしごき立てた。時折水着越しに美樹の胸に擦り付け、化学繊維特有のザラザラした感触と、その奥にあるマシュマロの様な柔肉の感触を楽しみ、蓮斗は思わず呻き声を上げる。
「おぉ……たまんねぇ……」
「んっ……うぅ……」
 時折胸を硬いものが這い回る感触と、顔の前で何かが蠢く感覚に美樹はうっすらと目を開けた。
「ううっ……なっ!? あうっ!」
 美樹は目覚めるとすぐさま蓮斗から離れようとするが、ナイロン製のロープが手首に食い込み小さな悲鳴を上げた。自らの状況を把握すると、鋭い視線で蓮斗を睨みつける。
「貴様……どこまで下衆なんだ! 女一人動けなくして、どうするつもりだ!?」
「どうするって、俺は美樹ちゃんがあまりにもエッチだから自分で楽しんでただけだよ? ほら、こんな風に……」
 蓮斗はガチガチになった性器を美樹に見せつける様に目の前でしごき上げた。美樹に見られていると思うと蓮斗の興奮度は増々高まり、自然と手の動きが速くなる。
「あっ……な、何をしているんだお前は……?」
「あれ? 男のオナニー見るのは初めて? まぁ、その性格じゃあんまり興味も無いのかな? じゃあ見ててよ……たっぷり、あげるから……」
「やっ……は、早く仕舞えそんなもの! そんな汚いものを見せるな!」
 美樹は大きくかぶりを振って拒絶の意を示すが、顔は真っ赤にしたまま目が泳ぎ、明らかに気が動転している。蓮斗はその様をニヤ付きながら眺めていた。
「こんなになったものを今更仕舞える訳無いだろ。じゃあ早く治まる様に美樹ちゃんも協力してくれよ」
 そう言うと蓮斗は美樹の乳首の周辺を、あえて乳首を触らずに円を描く様になぞり始めた。水着の上から乳輪のふちをなぞる様に刺激され、美樹は思わず口から声が漏れそうになる。乳首はそのじれったい刺激で硬くなり、今では水着越しでもその位置がはっきり分かるくらいの硬度になっていた。
「あっ……くっ……や……やめろ……こんな……んぁっ!?」
「やめろって言う割には気持ち良さそうじゃん? ほら?」
 蓮斗は円を描く様になぞっていた亀頭の動きをやめ、まるで乳首に性器を挿入する様に突き入れた。むっちりとした柔肉が亀頭をすっぽりと包み、硬くなった乳首が尿道を刺激する。美樹も待ちかねた刺激に思わず身体が跳ね、大きな声を上げた。
「んあッ! くっ……ぅ……」
「うっ……気持ち良い……。そろそろ出させてもらうよ」
「あっ……あぁ……こんな男に……や、やめろ……」
 戸惑う美樹を見下しながら蓮斗は美樹の頭を掴んで固定すると、美樹の顔を目掛け勢い良くしごき上げた。
「あっ……あぁ……出る……出るよ……」
「あっ……な、何をする気だ……? や、やめ……」
 不穏な空気を察し発せられた美樹の抵抗の声も空しく、蓮斗の性器からは勢い良く粘液が飛び出し、美樹の顔や髪の毛を汚していった。まじまじと蓮斗の行為を凝視していた美樹は、放出する瞬間に驚いて腰を浮かせる。
「あっ?! きゃあぁっ! うぶっ……。うあぁぁぁ……」
「おっ……おおぉ……すごい……出る……」
 粘液は美樹の顔や髪の毛を白く汚し、すらりと尖った顎を伝って水面から出ている水着の胸元へ染み込んで行った。
「う……うえぇっ……何だこれは……? 酷い匂いだ……ドロドロして……あうぅ……」
 美樹は気持ち悪さにたまらず顔をしかめる。顔中を精液まみれにされ、ショックで表情は今までの強気なものとは代わり、弱々しく呆然としている。その姿に蓮斗の性器は放出したばかりだというのに早くも硬度を取り戻しつつあった。 蓮斗は白濁の残滓を美樹の頬に塗り付けながら、からかう様に美樹に聞いた。
「オナニー見たのが初めてなら、当然射精を見るもの初めてだよね。保健体育で習ったでしょ? 俺が顔中にぶちまけてやった精液が美樹ちゃんの中に入ると、俺と美樹ちゃんの子供が出来るんだよ」
「く……うぁ……」
「まぁ、俺は人間だから、あいつらみたいに人を魅了させる力なんて無いけどね」
「あい……つら? 人妖のチャームを知ってるのか……」
「まぁその話はまた今度ね。ところで美樹ちゃん、これなーんだ?」
 蓮斗は再び水中に入ると、カーゴパンツの尻のポケットから金色に光る繋がった指輪の様なものを取り出し、美樹の前にぶら下げた。かなり使い込まれているようで、形が微かにひしゃげ、塗装は所々剥げている。
「……ナ……ナックル……」
「正解。メリケンサックとも言うよね。美樹ちゃんに言われた通り俺弱いからさ。美樹ちゃんを動けなくしてからこんなものでも使わないと、まともにダメージ与えられないんだよね」
 そう言うと、蓮斗は美樹に見せつける様に右の拳にメリケンサックをはめ込んだ。何度か握るたびに、蓮斗の拳はぎちぎちと革が軋む様な音を立てる。ゆっくりと美樹に近づき、開かれた身体の中心線を値踏みする様に眺める。
「ん~、見れば見るほどエロいね。顔中精液まみれの女の子がプールの梯子に縛り付けられてるなんてシチュエーション、一生かけても見られるか分からないよ」
「こ、今度は何をする気だ……? ま……まさか、また……」
「ははは、真っ赤になっちゃって、かなりウブなんだね。大丈夫、最後は期待通りちゃんとぶっかけてあげるけど、その前に変態は変態らしく楽しませてもらうから」
 そう言うと蓮斗は美樹に近づき、メリケンサックを嵌めていない左手で美樹の口を塞ぐと、先ほどとは重さと硬さが桁違いに上がった右手の拳で美樹の臍の辺りをえぐった。
 ゴギッ……という固い音が周囲に響く。
 美樹は自分の身体に入り込む金属の感触と、身体の中を反響する嫌な音を聞いた。同時に今まで味わった事の無い苦痛が全身に広がる。内蔵全てを吐き出したいほどの衝動に駆られ、一瞬で瞳孔が点の様に収縮する。
「ぶぐぅっ?! ぐ……うぶぅぅぅぅぅ!!」
 口を塞がれているため、まともに悲鳴を上げることすら出来ない。
 メリケンサックを嵌めた攻撃は先ほどのものとは比べ物にならず、たったの一撃で目からは大粒の涙があふれ、意識が暗転した。しかし、意識が途切れる一瞬前に再び強烈な衝撃が鳩尾を襲った。
「ぐぶぅぅぅぅっ! ごっ……ごぶぅっ……」
「おおぅ……予想通り良い反応じゃん? どう、少しはダメージを感じてくれてる?」
 蓮斗は何てこともなしに聞いて来るが、美樹は蓮斗の問いかけが頭の中で意味をなさないほどの苦痛と戦っていた。たった二発の攻撃だが、身体を開かれた上に背中をコンクリート製のプールの壁に付けらた逃げ場の無い中、メリケンサックをはめた攻撃の威力全てを美樹の華奢な身体が受け止めていた。既に意識は飛びかけ、視野が普段の三分の一ほどに狭くなっていた。
「あれ? 白目向いちゃって、まさかもう限界?」
 美樹は既に小刻みに震えており、美樹の口を押さえている蓮斗の左手には、ガクガクと顎が震えている感覚が伝わる。
「もう少し頑張ってよ。俺ももうすぐ……」
 ゴリッ、ゴリッという嫌な音が、何回も何回も水の中で反響する。音が響く度に美樹の身体は大きく跳ね上がった。
「むぐぅぅぅぅぅ! ぐ……ぐぶっ……?!」 
 冷たい金属に守られた拳が水中にある美樹の下腹部にめり込み、美樹の子宮や胃は身体の中で痛々しくひしゃげている。攻撃の数は少ないものの、その重すぎる一撃の威力に慈悲は全く感じられず、既に美樹の内蔵はショックで痙攣を起こしていた。
 蓮斗は鳩尾の少し下へ狙いを定める。ぐじゅっ、という水っぽい衝撃が蓮斗の拳に伝わる。胃を潰された衝撃で美樹の喉が大きく蠢き、内容物が何度も食道を通って逆流するが、口を押さえる蓮斗の左手が容赦の無い堤防となって押しとどめた。
 美樹の苦しむ様子に蓮斗も限界まで昂り、最後に弓を引き絞る様に限界まで右手を引き絞ると、下腹部から力任せに美樹を突き上げた。
「ぐうっ?! ごぷっ?! う……うげえぇぁぁぁぁ!」 
「あああっ……いいぞ。俺も……」
 美樹の胃はメリケンサックとプールの壁に挟まれ、まるで石臼でゆっくりとすり潰される様にひしゃげた。内容物が強制的に喉を駆け上がり、蓮斗が美樹の口を解放すると同時に勢いよく胃液が美樹の口から飛び出した。
「げぶぅっ! お、おごぉぉぉぉぉ!」
 美樹は白目を剥きながら、勢い良く水面に黄色がかった胃液を吐き出した。ガクガクと痙攣する美樹を見て、蓮斗も勢いよくプールのステップに上がり、嘔吐を続けている美樹の髪を掴んで上を向かせると、胃液が逆流し続けている口に無理矢理性器を押し込んだ。
「むぐぅぅぅぅっ?! ぐっ……ぐえっ……」
「おおおおっ!? 胃液が潤滑油代わりになって……喉がすげぇ滑る……出る……出るよ……」
 蓮斗は嘔吐を続ける美樹のことなど気にもかけず、自らの快楽に任せて腰を振った。嘔吐を塞き止められたこととイラマチオによる二重の苦痛で美樹の喉は大きく痙攣し、それが結果的に蓮斗の男根を締め付けた。
「おぉぉぉっ! すげぇ……ほら……死んじゃえよ……」 
 蓮斗は背中を大きく仰け反らせて射精した。呼吸も出来ないほどの苦痛を受けながら喉の奥で熱い粘液を吐き出され、美樹の黒目がぐりんと裏返る。
「ぐ……ぐむぅぅぅっ?! ごぼっ!!? ごぶぅっ!!」
 蓮斗は逆流して来る胃液を押し返す様に精液を美樹の喉に流し込んだ。食道内で精液と胃液がぶつかり合い、逃げ場を無くした液体は気管に逃げ込み、気道反射で押し返された液体は再び食道でぶつかった。
「うぶぅっ! ごぼぉぉぉっ! う……うげぇぇぇぇっ……うぐっ……うあぁぁ……」
 蓮斗がようやく放出を終えて美樹の口から性器を抜くと、美樹の頭が糸が切れた様にがくりと落ちる。同時に、精液と胃液が混ざった濁った液体が美樹の口から滝の様に水面に落ちた。逆流が終わると、美樹の身体は完全に力が抜ける。皮肉にも蓮斗が手足を縛ったロープが支えとなり、美樹が水中に落下するのを防いでいた。
「くあぁ……少しやり過ぎたか……。っと、もしかして本当に死んじゃったかな?」
 蓮斗は肩を大きく上下させて息をしながら、美樹の首元に手を当てる。若干弱くなっているが、美樹の心臓が脈打つ感触が伝わって来た。明日の朝程度までであれば放置しても大丈夫だと判断し、プールサイドに上がる。
「あーあ、お気に入りのライダースが水浸しじゃねーか。早く帰ってオイル塗らないと、縮んで着られなくなるな。まぁ、その分楽しめたからいいか。じゃあな美樹ちゃん。近いうちにね……」
 蓮斗はひらひらと手を振ってプールから出て行く。当然その声は美樹に届かず、美樹の髪の毛から水面に向かって滴り落ちる小さな水音だけが広い空間に反響していた。
 翌日の早朝。朝練習に来た美樹の後輩、水橋久留美(みずはし くるみ)が変わり果てた美樹の姿を発見し、悲鳴がプールの壁を反響した。

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