短いですが、久しぶりの腹責めパートです。清書(製本)時にはもっと腹責めシーンのボリュームを増やしたいですね。




 地下室の空気は淀んでいた。
 窓は無く、微かに汗や体液の臭いが混じった湿気が汚れた床すれすれの高度に滞留している。天井には大型の換気扇が埋め込まれていたが、今は稼働していないらしい。
「ん……ぅ……」
 話し声が聞こえて、美樹は目を覚ました。身体が動かないのは、おそらく拘束されているからだろう。漆喰を目の前に押し付けられた様な曖昧なグレーの視界の隅に、久留美の薄桃色の髪の色が浮かんだ。
「ゔぁッ……あ……はずと……さん……ッ……」久留美の声が聞こえ、美樹は顔を上げた。次第に明瞭になってきた視界の隅で、久留美は釣り針にかかった魚の様に顎を上げ、天井を見ながら呻いた。「も……無理……でず……ッ」
 ひび割れた白いタイルと薄汚れたコンクリートで造られた地下室には、久留美と蓮斗、そして美樹がいた。地下室はそれなりの広さがあったが、所狭しと拷問器具が置かれている。久留美は拘束は自ら壁に背中を付けて立ち、自分からシャツを捲り上げて、白魚の様に滑らかな身体のラインを晒している。そしてその久留美の華奢な腹部を、蓮斗は握った拳で嬲る様にグズグズとこね回していた。
 久留美の苦しそうな息遣いには少なからず女としての悦びの色が混じっていた。
 美樹は先刻、蓮斗に浴びせられた人工チャームにより苦痛が快楽に変わる感覚を味わった。不意のことで一時はその感覚に流されそうになったが、時間の経過とともに効果が薄れていることと、普段からの精神鍛錬の賜物で今では何とか正気を保っていられている。だが、久留美は自分とは違いごく一般的な年端もゆかない少女だ。数日間の監禁による恐怖は耐え難いものだっただろう。監禁や誘拐などの被害者は、閉鎖空間で長時間に渡り緊張状態や恐怖を味わうと、しばしば加害者に対して好意を抱いたり、加害者に気に入られたりするような行動をとることがある。少しでも犯人に気に入られて自分に危害を加えられる可能性を少なくするための生存本能に基づいた合理的行動だ。その心理に加え、薬物に似たチャームの効果で久留美が正気を失ってしまうのも無理はない。蓮斗のサディスティックな欲望を満足させるためのマゾヒストとして……。
 いつ終わるとも知れない恐怖と苦痛に耐え続けるよりは、偽りでも……たとえ正気を失ってでも快楽に押し流されてしまった方が良い。人間とはそういうものだと美樹は思った。そしてその行動は悪ではない。
 美樹は顔を上げる。
 蓮斗も久留美も、まだ美樹が目覚めたことに気がついていない。
「久留美ちゃん……まだ頑張れる?」
 気怠るそうな声で蓮斗が久留美の耳元で囁いた。久留美は立っているのもやっとな様子で膝をガクガクと震わせながら頷く。まるで二回戦目の性交に挑む恋人同士の様だ。
 蓮斗は久留美の肩を抱いて拷問器具が置かれている部屋の隅に連れて行くと、久留美の肩を押して座るように促した。久留美は不安そうな表情を浮かべたまま素直に従う。蓮斗は久留美を背後から抱きしめる様な格好で自分も床に腰を下ろすと、近くにあった器具を手にとって久留美に見せた。
「ひ、ひぃッ?!」
 その禍々しい器具を見た瞬間、久留美は思わず喉の奥で悲鳴を上げた。
 それは羽の様な取っ手の付いた、黒いエナメルを巻きつけた馬の男根にような形をしていた。
 怒り狂った様な亀頭は子供の頭ほどもあり、久留美を睨みつける様に反り返っている。
「は……蓮斗さん……ま、まさか……」恐怖のあまり久留美の歯がガチガチと鳴る。久留美は性行為の経験は無いが、一般的な男性器の大きさは把握しているつもりだった。だが、蓮斗の持つ凶暴すぎる器具は明らかに規格を超えていた。こんなもので貫かれたら命に関わるのではないか。
「大丈だよ。アソコには入れないから」蓮斗が久留美の耳を舐める様にして囁く。「でも、こっちには挿れちゃうけどね」
 蓮斗が久留美のヘソにディルドの亀頭をあてがう。久留美の肩が恐怖からびくりと跳ねた。蓮斗は取っ手を両手で握ると、力を込めて自分の身体に向けて引き付ける。ぐぽりと音がして、蓮斗の身体とディルドに挟まれた久留美の腹部に凶悪な鬼頭が埋まった。
「ぐぷッ?! がッ?! あああッ!」
 蓮斗がディルドを引く力を強めると、華奢な久留美の腹部に黒光りしている暴力が更にめり込む。胃を潰され、久留美の喉の奥から濁った悲鳴が漏れた。
「げぅッ?! げあぁッ! ばずど……ざんっ……おなが……ぐる……じ……」
「いいよ……もっと気持ちよくなって……」
 久留美が限界だと訴える様に必死に首を振るが、蓮斗は興奮をますます昂らせている様だ。蓮斗は押し込んでいたディルドを一瞬引き抜くと、リズミカルに久留美の腹部にディルドを押し込み始めた。まるで性交の時のピストン運動の様に、久留美の腹部にぐぽぐぽと黒い先端が埋まる。M字型に足を開いてめくり上がったスカートから覗く久留美のショーツが、分泌液で徐々に透けていく。
「ゔあッ!? ごッ! がぁッ! やらッ! はずどさん……はすと……さんッ!」
 久留美の久留美が背後を振り返り、蓮斗に向かって舌を突き出した。蓮斗はその唇を吸う。久留美も蓮斗もお互い目を閉じて、貪る様に舌を絡ませている。
 その隙を、美樹は見逃さなかった。
 美樹は頭を素早く横に振る。後ろで一つに縛った黒髪が揺れ、さらりと顔にかかる。その中の一本を美樹は素早く咥えた。ぐいと引っ張る。再びさらさらと髪の毛が元に戻った時、美樹は一本の細長い黒い針金を咥えていた。全身に隠した武器のうちのひとつで、緋色のリボンで留めて髪の毛の中に隠していたものだ。美樹はそれを器用に咥え直すと、手首を拘束している腕輪に付いた南京錠の鍵穴に差し込んだ。無骨な鍵ほど仕組みは単純だ──人間と同じ様に。
 美樹はものの数秒で片手を自由にすると、一分かからずに全身の拘束を解いた。
 二人はまだ唇を吸いあっている。
 美樹は素早く飛び出し、蓮斗に向かって突進して行った。