
本日2020年7月21日をもって、Яoom ИumbeR_55は活動10周年を迎えることとなりました。
ここまで続けられたのも、読者の皆様の応援と、協力していただけるイラストレーターさんのお力があってこそです。
本当にありがとうございました。
長いようで、本当にあっという間の10年間でした。ブログを作って初めて小説を公開した時のこと、同人誌の作り方がわからず色々と調べたこと、今でも大好きなイラストレーターさんであるsisyamo2%さんに、嫌われるのを覚悟で「すみませんが、僕のキャラクターが腹パンチされている絵を描いていただけませんか……?」とメールを送り、快諾していただいた時のこと、初めて同人イベントに参加した時のことなどが、昨日のことのように思い出されます。


↑当時sisyamo2%さんに描いていただいたラフ
始めは綾ちゃん一人だけだったキャラクターも、話が進むにつれ徐々に増え、今ではそこそこの所帯となりました。特にシオンさんの登場は読者の方にもかなり受け入れていただいたようで、ブログのアクセスも一気に増え、自分自身も驚いた記憶があります。
シオンさんは他のキャラクター以上に、「気がついたらそこにいた」というキャラクターでした。今でも覚えていますが、その頃も仕事とプライベートでかなり参っていました。大分県のある山道を車で走っていた時のことです。そこは開けた草原のような風光明媚な場所で、山の間を吊り橋がかかり、民家や商店は無く、空は雲ひとつない青空でした。真夏なのに気温は涼しく、山々の緑がとても綺麗だなと思った瞬間、まるで昔からずっとそこにいたかのように完璧な姿で頭の中にいました。まるでとこかの世界から気まぐれに自分の頭の中に遊びに来てくれたみたいに、姿形はもちろん、話し方や好み、性格から生い立ちまで完璧に完成されていました。
当時の自分は「ここまで完成されているのなら、この人の話を書かなければ死ねないな」と思いました。

さて、「ここまで続くとは思わなかった」とはこういう場面でよく使われる月並みなフレーズですが、自分の場合は本当に、長くて1年、早くて数ヶ月くらいで活動を終えるものだと思っておりました。
何回か書いたり話したりしたことがあるので、既にご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、自分が活動を始めたきっかけはまさに「酔った勢い」です。このあたりの話は、現在DL販売しているリョナ作家インタビュー本[UIGEADAIL]のあとがきに書いておりますので、引用させていただきます。
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自分には「男性から女性への腹パンチに興奮する」という変な性癖があります。
いつ頃からこのような変な性癖に目覚めたのかは覚えていませんが、物心ついた頃、幼稚園に通う前にはすでにこの性癖は自分の中に確かに存在していました。その頃は腹パンチはもちろんのこと、戦隊モノやアニメでキャラクターが痛めつけられるのを見て、変な気持ちになっていたのを覚えています。腕が飛んだり、吐血したりという血が出るシーンは苦手でしたが、戦隊ヒーローが敵に攻撃されて火花が散ったり、アニメで女性キャラクターが捕まって苦しめられたりというシーンは大好きでした。6歳くらいの頃から、対象が女性で、攻撃方法が腹パンチに集約されていったと思います。その頃は自分の性癖が「特殊である」といことが具体的には理解できなかったとはいえ「自分はなにかが人と違っている」ということはおぼろげには理解していました。
また、一般的な性についてもマイナスな出来事がありました。小学校の頃の保健体育の授業での出来事です。当時の担任(問題のある女性教師で、最後には解雇になりました)がとても嫌そうに、男女の身体の違いや、子供ができる仕組みを説明している中、自分はどうやって男性の作った精子が女性の身体の中に入るのか理解ができませんでした。授業はかなり端折られており、肝心なとことは「大人になればわかる」の一点張りでしたので全くわかりません。興味がある男子ならある程度は自分で調べて理解していたとは思いますが、わからなかった自分は手をあげて「男の作った精子をどうやって女の身体の中に入れるのか?」と質問をしたところ、その担任はひどく怒り「ふざけているのか? はしゃぎたいのなら出て行け」と言われ、教室を追い出されてしまいました。その時から自分にとって性は「よくわからないが、不気味で後ろ暗くて恐ろしいもので、決して人に話してはいけないタブー」というイメージがつきました。
それからすぐに一般的な性の知識も得たのですが、それは自分の性嗜好が、人と違う特殊なものも同時に持ち合わせているという烙印も同時にもたらしました。一般的な性嗜好も持ち合わせてはいましたが、もうひとつの腹パンチという興味の対象が、少なからず人に危害を加える可能性があることも、自分を酷く苦悩させました。よくある特殊性癖(コスプレや汚物など)ならよかったのですが……。
自分は人と違って頭がおかしいのだ。
自分はなにか取り返しのつかないような病気なのだ。
自分はいつか傷害事件を起こして逮捕されるのだ。
自分は生きているだけで人に迷惑をかけている。
小中学校の頃から毎日毎日そんなことを考え、こんな自分が表向きは普通の人間を装って生きていて大丈夫なのだろうか、いつかバレるのではないかと思い続けているうちに、自分の自己肯定感はとても低いものになってしまいました。今でも人と話すときは、いつも心のどこかで「こんな頭がおかしい奴の話を聞いて、この人は不愉快に感じていないのだろうか?」と不安に感じています。
自分の中で転機が訪れたのは、小説……と呼んでいいのかわかりませんが、とにかく文章を書き始めてインターネットで公開した時でした。忘れもしない2010年7月のある夜、当時自分は仕事の関係であちこちを転々としており、縁もゆかりも無い遠い土地に独りで住んでいました。仕事はあまり上手くいっておらず、プライベートでも落ち込むことが重なり、部屋で独りで頭を抱えながらウイスキーを飲んでいました(たしかストラスアイラの12年だったと思います)。
日付はとっくに変わっていました。
仕事は、報酬は悪くはなかったのですが、多忙なうえ精神的に辛く、慣れない土地で友人もおらず、相変わらず性癖の悩みも抱え続けており、いっそのこと今から全てを投げ出してどこか知らない土地へでも行って、野垂れ死んでもいいのではないかと思っていたときです。なんの前触れも無く、なぜか突然「そうだ、小説を書こう」と思いました。
いったい何の脈絡があって「そうだ」と思ったのか意味がわかりませんし、そもそもそれまで小説を書こうなんて思ったことも、ただの一度もありませんでした。文章といえば学校の宿題で出された読書感想文を嫌々書いたことくらいしかなかったのですが、その思いつきは自分の中では不思議と納得ができるものでした。また、その思いつきと同時に「神崎綾」というキャラクターや、敵を含めたその他のキャラクターも、まるで空から降りてきたかの様に頭の中にふわりと出てきて、勝手に動き出しました。数秒前に小説を書く決心を固めた自分は、とつぜん頭の中で勝手に紡がれ始めたストーリーを此(こ)れ幸いと、慌ててウイスキーのグラスをテーブルの隅に退けてキーボードを取り出して、箱庭の中の人形劇を観ているような感覚で必死にメモソフトに書き写し始めました。自分が名刺などで作家ではなくタイピスト(入力者)を名乗っているのは、このような製作過程があったからです。
ともかくこうして、自分の最初の小説(らしきもの)は完成しました。
小説を書こうと思った割には、やったことといえば頭の中で勝手に動くキャラクターを書き起こしただけなのですが、とにかく一定量の文章はできました。さて、書いたはいいものの、これをどうしようかと僕は思いました。出来上がった文章は、今読むと恥ずかしくなるほどメチャクチャなのですが、なぜか不思議な勢いがあるものでした。しかも女の子が腹パンチされるシーンが多く入った、過去の自分が読んだら大喜びするであろう内容です。そこで、さすがにこのまま削除するのはもったいないし、とりあえずブログを作って公開してみようと思いました。当時、自分はファッションと音楽のブログを運営していたので、ブログという媒体に馴染みはありました。しかし、それ以外のインターネットの知識はほとんど無く、「腹パンチ」と検索すると「国のすごい技術で犯罪者予備軍リストに載ってしまうかもしれない」と思い遠ざけ、匿名掲示板はアクセスするだけで個人情報が抜かれると思っていたほど、ネットに疎い生活をしていました。
ブログで小説を公開してすると、ありがたいことに反応があり、また、自分と同じ性癖を持つ人からコメントや感想をいただくことができました。自分以外に同じ性癖を持つ人がいたのかととても驚き、そのあたりからインターネットも積極的に使うようになり、調べていくにつれ、自分が独りで悩んでいた頃から腹パンチをはじめとした特殊性癖は既に一定のコミュニティを形成していたこと、匿名という環境下も相まってかなりオープンな発言が多く、なかには自分でも驚くような特殊な性癖も存在することもわかりました。また、各種イベントに参加することで面と向かって特殊性癖の人達と話をする機会もあり、自分自身が感じていた疎外感も「生きづらいことは生きづらいが、世界に1人だけしか存在しないという特殊なものでない」という風に割り切れるようになりました。
今回の「リョナ作家インタビュー本」は数年間ずっと自分の中で温めていた企画です。
先に書いた通り、自分の性癖を恨んだことは数知れず、「どうしてこんな性癖になってしまったのか」「なにかきっかけがあるのではないか」と自分自身ずっと考え続けていた中、「そうだ、直接聞けばいいではないか」と思ったことがきっかけです。また、自分はたまたま小説を書いたことで、自分と同じような性癖を持つ人と会うことができ、少しだけ救われた感覚がありました。おそらく自分のように孤独感に苛まれながら、独りで悩んでいる人も他にもいると思います。そういう方々の孤独感を少しでも減らしてあげられることができればと思ったことが、企画を考えた理由のひとつです。また、偶然にも自分は創作者側の端くれとして存在しているので、純粋に他の創作者の方々が活動を始めたきっかけや、リョナを題材にした理由、産まれてからどのような時間を過ごして現在に至るのかとても興味がありました。
また、先日LGBTの方に話を聞く機会がありました。その方はレズビアンなのですが、LGBTの方の多くが自己肯定感が低く、アウティング(自らの意思で行うカミングアウトではなく、他者から望まない暴露をされること)の被害を受け、性癖をファッションだと揶揄された経験があるとのことでした。自己肯定感の低さも、アウティングも、性癖をファッションだと揶揄されたことも、全て自分にも経験があり、酷く傷ついたことを覚えています。また、その方は次のようなことを話してくれました。
「産まれた時から私の性認識は女性であり、性の対象も女性だった。私はしばしば『なぜ女性なのに女性が好きなのか』と聞かれることがある。私にとっては産まれた時からこれが当たり前だったから『なぜ』と聞かれてもわからない。逆に、『なぜあなたは異性が好きなのか』と聞かれて、明確な理由を答えられる人がいるのだろうか」
自分はその話を聞いてハッとしました。
自分はLGBTではないが、特殊性癖としてはカテゴリとしては同じなのかもしれないと。
もしかしたら、「どうしてこんな性癖になってしまったのか」「なにかきっかけがあるのではないか」という疑問は考えるだけ無駄で、答えなんて無いのではないか。
帰宅してからすぐに、「リョナ作家インタビュー本」の募集要項を考え始めました。
ありがたいことに今回20名を超える方に応募いただき、なるべくジャンルが分散されるように考えながらインタビューをさせていただきました。インタビューも書き起こしも、小説以外の本作りも初めてであり、至らぬ点も多く、結果として11名の作家様しかお話を聞くことができませんでしたが、皆様とても真剣に話をしていただき、ありがたいことに多くの方から「話ができてよかった」「楽しかった」「ここまで真剣に自分の悩みについて考えたことがなかった」と言っていただけました。インタビューに答えていただいた作家様、本当にありがとうございました。インタビュー本については、ぜひ第2弾を企画させていただきたいと思います。
最後になりますが、この本を手に取っていただきありがとうございました。読んでいただいた方の琴線に少しでも触れることができていれば幸いです。
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きっかけはともかく、小説を書いて創作活動を始めたことで、このようにある程度前向きな考えになったことは、自分の人生において本当にプラスになりました。また、活動を通じて多くの読者の方や作家さんと交流する機会に恵まれたことも、創作活動をしていて本当によかったと思えることです。
本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします。