Яoom ИumbeR_55

Яoom ИumbeR_55は「男性→女性への腹パンチ」を主に扱う小説サークルです。未成年の方、現実とフィクションの区別のつかない方は閲覧しないでください。

2021年05月

unui x RNR


この作品はウニコーンさんに有償依頼をいただき、二次創作として製作したものです。
ウニコーンさんのオリジナルキャラの瀬奈さんを主人公に、世界観や設定、ストーリーの大部分をお任せいただきました。
今後作品としてウニコーンさんが挿絵を付けて完全版として発売する予定ですが、今回私が書いた文章と制作中のイラストの掲載許可をいただきましたので、サンプルとしてお楽しみください。

第1話

第2話

第3話

第4話

第5話



今回珍しく本番シーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
また、挿絵を追加した完全版は後ほどウニコーンさんがDL販売される予定となります。


 グールーは瀬奈の回復を待つと、瀬奈をベッドに座らせて自分も背後に座った。瀬奈は身体に力が入らず、背後のグールーにしなだれかかるような姿勢になった。瀬奈の甘い汗の匂いがグールーの鼻腔をくすぐり、再び股間に血液が集まってくる。グールーは瀬奈の大きな胸を背後から揉みしだき始めた。
「さっきは酷いことをしてすまなかったね。今まで実に多くの者に拒まれてきたせいか、最近は拒まれたり逆らわれたりすると、つい昔を思い出して頭に血が上ってしまうんだ。悪い癖だとは思うのだが……」
 グールーが瀬奈の耳を舐め、ジュルジュルとわざとらしく音を立てて首筋を舐め回す。瀬奈は目を瞑って下唇を噛んだ。グールーの技術は大見得を切った通りかなり熟達しており、瀬奈の胸の敏感な場所を、まるで水源を探っている熟練した井戸掘り人の様に的確に探り当てて執拗に責めてくる。瀬奈は歯を食いしばって呼吸が荒くなるのを耐え、下腹部がじんわりと温かくなってくるのを小刻みに身体を震えさせながら堪えた。
「こっちを向け」と、グールーが瀬奈の耳元で囁くように低い声で言った。瀬奈が睨みつけようと顔を上げたところを、強引に唇を奪う。口内を弄られながら、瀬奈の腰に焼けた鉄パイプの様なグールーの分身が押し付けられる。グールーは舌を絡めたまま、ジリジリとじれったく瀬奈の黒いビキニをたくし上げ、ぷるんと大きくも形の良い乳房を露出させる。二つの突起をねちっこくしごきながら、必死に快楽に耐える瀬奈の表情を楽しんだ。
「さてと、私のも気持ちよくしてもらおうか? このスケベな乳でな」
 グールーは瀬奈を仰向けに押し倒すと、馬乗りになって胸の間に男根を挟み込んだ。瀬奈の胸を押し潰すように中央に寄せ、乳圧を楽しみながら乳首をしごき続ける。
「おふっ! おおぉ……なんて凶悪な乳だ。精子を搾り取ろうとチンポに吸い付いてくるわ……。この淫乱め、そんなに私の精液が欲しいのか?」
 うわごとのように呟いながら、グールーは一心不乱に腰を振り始めた。瀬奈の滑らかな肌は滑らかにグールーの男根を包み込み、ローションなど無くともグールーに極めて的確な摩擦を与えている。
「い……いやっ! いやぁッ!」
 シャンデリアの明かりを背負ってシルエットになっているグールーは、まるで盛りのついた豚の化物のように見えた。瀬奈は与えられる快感とおぞましさのカオスに必死に首を振った。パイズリという行為は知識としてはあり、いつか自分に恋人ができたら、相手にしてあげることもあるのだろうかと想像したこともあった。しかし、こんな風に自由を奪われた状態で、好きでもない男に馬乗りになられ、一方的に胸を犯されることになるなんて想像すらしていなかった。恐る恐る目を開けると、胸の間をゴリゴリとした剛直が上下し、谷間から赤黒い亀頭が自分の顎を貫こうとするかのごとく出し入れされている。あまりの現実に瀬奈の目からは自然と涙が溢れた。
 グールーは不意に馬乗りを止め、瀬奈に覆いかぶさるようにして左の乳首に吸い付いた。「ぢゅるっ、ぢゅるるっ」と、わざとらしく音を立てて吸い付きながら、右手で瀬奈の左胸を転がすように揉む。
「ひッ!? ひぃぃッ! ひぃぃぃぃぃッ!」
「んむふぅ……ぢゅるるるッ! ぢゅるッ! んー、美味い乳だな。私のためにここまで育ったことを褒めてやろう」
 別の生き物のようなグールーの舌に容赦無く弱点を責め立てられ、瀬奈は背中を仰け反らせたまま腹の下からゾクゾクと痺れるような感覚が湧き上がるのを感じた。その感覚は自分の子宮のあたりに集まり、太ももの付け根や胸のあたりにも発生し、やがて脳にまで達した。
「あっ……がッ……な……なに……? あぁッ!」
「んん? なんだ、もうイクのか? 随分と感度が良いな。まだチンポも突っ込まれていない状態で、これくらいでイッていたらこの先耐えられんぞ? まぁ仕方ない、軽くイッておけ」
 グールーは乳を責めながら、右手を素早く瀬奈の下半身を覆っているビキニの中に差し込んだ。慣れた手つきで割れ目の中にある硬い突起を摘み、電気刺激のような小刻みな刺激を与える。「ひあッ?!」と瀬奈は自分でも聞いたことがないような声を出し、身体を弓なりに反らして絶叫した。
「がッ?! あがッ?! あがあぁぁぁ!!」
 ガクガクと瀬奈の腰が痙攣し、ぷしゅっと股間から潮を噴いてグールーの右手を濡らした。白目を剥いたまま舌を出して絶叫する瀬奈をグールーは満足げに見下ろし、再び馬乗りになって瀬奈の胸に男根を挟む。
「ふははは! 下品なイキ顔晒しおって、君の親が見たら失神するぞ」
「はへっ……あふ……あへぁ……」
「おまけに潮まで吹いて派手にイキ狂いおって……。処女の分際でそんなに気持ちよかったかね? さて、次は私の番だ」
 汗ばんだ瀬奈の胸の間を、ぐちゅぐちゅと男根が上下する。グールーは自分の快楽を優先し、瀬奈を見下ろしながら夢中で腰を振った。徐々に呼吸に獣の匂いが混じりはじめ、射精が近いことを瀬奈も悟る。
「あ……やだ……やだぁ……」
「おおおおおっ……チンポが擦れて……出る……出るぞ……こっちを見ながら舌を出せ……」
「やっ……いやぁッ! 顔はいやぁッ!」
「ほほ……嫌がる顔もそそるな……! 嫌がってもこのまま顔に出すぞ……ぐっ……出るッ!!」
「あっ……んぶッ?! ぷぁッ?! いやあぁぁぁ!」
 グールーの男根が脈打ち、大量の粘液が放出される。射精は二回目とは思えないほど大量なもので、どくどくとポンプを押し出すような勢いで濃度も臭いも強烈さを保ったままの精液が瀬奈の顔に降り注いだ。瀬奈は必死に顔を逸らせようとするが、身体の重心をグールーの重い体重で押さえ込まれているため逃げることができず、熱い白濁した粘液を顔で受け止めることしかできなかった。
「何を惚けておる? ほれ、しゃぶって綺麗にしろ。中に残っている精子も全部吸い出すんだぞ」
 グールーは精液がまとわりついた亀頭を、瀬奈の顔の前にぐいと突き出した。瀬奈は当然拒否を訴えるが、グールーが強引に頭を掴んで無知やり男根を口に含ませる。
「むぐッ!? んぐぅッ!?」
「おおぉ……いいぞ。舌が当たって……そのまま吸い出せ……」
 瀬奈は意を決して、ストローを吸う感覚でグールーの男根を吸った。濃厚な精液が尿道から口内に溢れ、猛烈な吐き気が込み上げる。瀬奈は目に涙を浮かべて堪えたままグールーの鈴口を舌で擦り上げると、グールーの身体が電気ショックを受けたように跳ねた。
「ぐッ?! おおおッ!? やるではないか……ようやく乗り気になったかね?」
 グールーが泣き笑いのような表情で瀬奈を見下ろす。その隙を瀬奈は見逃さなかった。瀬奈が渾身の力でブリッジをする。グールーが体勢を崩すと同時に、瀬奈はグールーの身体から脱した。すぐさま立ち上がってシーツの上に口内のものを吐き出す。グールーが振り返ると同時に、その横っ面を強烈な回し蹴りで薙いだ。「ぐげあ!」と、グールーが悲鳴を上げてベッドに倒れる。ベッドは柔らかくて足が取られたが、瀬奈は注意深く跳躍し、倒れたグールーの顔面に膝を落とした。
 汚い悲鳴を上げながらグールーが動かなくなったことを確認すると、瀬奈は出入り口のドアに向かって走った。まだ手錠が嵌ったままで、ショーツしか身につけておらず、全身痣と体液にまみれた状態だが、構ってはいられない。グールーが気を失っているうちにここから抜け出して、少なくとも施設のどこかに隠れなければ。アスカは無事に外に出られたのだろうか? 仮に捕まっていたとしても、いずれ自分たちの帰還が遅いことを理由に組織が動いてくれるはずだ。それまで身を隠して応援を待つしかない。
 ひゅん……を風邪を切る音が聞こえた。
 透明な巨大な壁が目の前にあるかのように、瀬奈の身体が急停止する。まるで巨大な突っかい棒が腹に刺さったような感覚があった。
 苦痛はまだ無い。今のうちは……。
「……え?」
 瀬奈が恐る恐る自分の腹部を見る。太い血管が浮いた丸太のような腕が腹にめり込み、肉を巻き込んで陥没していた。
「あ……え……? う、ゔぐぇッ?!」
 時間差で腹部を襲った恐ろしい衝撃に、瀬奈は膝から一気に崩れ落ちた。両手が後ろに回っているため顎をしたたかに床に打ち、溢れる唾液を飲み込むこともできずに悶絶する。
「がッ?! ぐあぁッ!? おえぇぇッ!?」
 瀬奈は限界まで舌を伸ばしてもがき苦しんだ。すぐさま髪の毛を掴まれて強引に身体を起こされると、にやけ顔のサジと目が合った。
「見せつけやがって……随分楽しんでたみてぇじゃねぇか? え? こら?」
 ぼぢゅん! という音が部屋に響き、弛緩しきった瀬奈の土手っ腹にサジの拳がえぐりこむ。「ゔぼぉッ!?」と、瀬奈が汚い悲鳴を発し、再び床に崩れ落ちた。
「おら、寝てんじゃねぇぞ」
 サジは強引に瀬奈を起こし、鳩尾に拳をめり込ませる。瀬奈が身体を折って苦痛に喘いでいる最中、休む暇も無く二撃、三撃が下腹部とヘソのあたりに打ち込まれる。サジの太い腕に腹を撃ち抜かれ、瀬奈は後方に吹っ飛んで背中から落下すると、ダンゴムシの様に身体を曲げて苦痛にのたうった。
「がっ……げぁっ……ぐあぁッ……!」
「いい格好だなぁ、瀬奈ちゃんよ? スケべな身体しやがって……もう少しでマス掻いちまうところだったぞ?」
「ゔぶッ……な……なんで……あんたが……?」
「サエグサさんに隠れて見張っとけって言われたんだよ。万が一お前が変な気起こして逃げちまわないようにな……もちろんグールーには内緒でだが」と、言いながらサジは横目でベッドの上を見た。天蓋の下で、グールーはまだ大の字で伸びている。しばらく目を覚ましそうもないことを確認すると、瀬奈に視線を戻した。「おい、俺のもしゃぶれや。お前とグールーのやつ見てたから、ずっと勃ちっぱなしなんだ。歯立てたらぶっ殺すからな」
 サジはビキニパンツを脱いで男性気を露出させた。瀬奈の目の前で反り返ったサジの男性器は長さは一般的だが、異様に太い。よく見ると、幹には人工的な丸い突起が等間隔にいくつも並んでおり、まるでイボの付いた芋虫の様な醜悪な見た目をしていた。あまりの禍々しさに瀬奈の顔が真っ青になり、無意識に歯の間から「ひぃぃ」という声が漏れる。
「な……なに……? なんなの、これ……?」
「あぁ、コレか? シリコンボールっつってな、手術でチンポに玉埋め込んでんだ。このイボイボが女のイイトコにゴリゴリ当たって、ションベン漏らすくらいイキ狂わせちまうんだよ。試してみるか? 二度と普通のチンポじゃイケなくなっちまうぜ?」
 瀬奈が震えながら首を振る。サジはサディスティックな笑みを浮かべながら瀬奈を見下ろすと、両手で瀬奈の髪の毛を後ろにまとめ、頭をがっしりと固定した。
「へへへ……グールーがこのまま起きなかったら、俺が先にブチ込んでやるよ。早く口開けろ。それともいきなりマンコがいいのか? 俺はどっちでも構わないんだぜ?」
 瀬奈は怯えた顔でサジを見上げ、震えながら小さく口を開けた。サジはその隙間に強引に腰を突き出して男根をねじ込み、一気に喉奥まで突き込んだ。瀬奈が「おごッ?!」と悲鳴を上げる。今まで味わったことのない、異形な突起が口内を擦り上げる不気味な感触に、瀬奈の全身が粟立った。
「おぉ……いいじゃねえか。グールーが起きる前に手早く済ますぜ」
 サジはオナホールの様に瀬奈の頭を前後に揺すり、自分の男根を擦り上げた。ぐっぽぐっぽと口をモノの様に扱われ、瀬奈は涙を浮かべながらサジを見上げる。
「ぐぷッ! ぐぷッ! ぐぷッ! ぐぷッ! ごぇッ! ぐぶぇぇッ!」
「おおおッ! いい顔するじゃねぇか? お前みてぇな生意気な女を征服するのはたまんねぇな……。おぉ……出る……出るぞ。このまま口の中に出してやるよ。グールーのとどっちが美味いか試してみろや」
「んぐっ! ぐぷッ! んぶぅッ! ぐむぅっ! ん……ぶぐぅッ?! んぶぅぅぅぅッ?!」
 サジは瀬奈の喉奥を犯していた男根を口元まで引き抜くと、精液を舌の上に流し込むように放出した。瀬奈の頬は一瞬で風船のように膨らみ、口内がサジの精液で一杯になる。
「あぁ、いくいくいく……お……おおっ! まだ出る……。全部飲めよ……?」
「んぶっ……ん……ごきゅ……ごきゅ………ぐむっ……ぷはッ! はぁ……はぁ……」
 瀬奈はなんとかサジの精液を全て嚥下し、口の周りを白濁液の残滓で汚しながら、放心した状態でサジを見上げた。許しを請うような視線に、サジの背中を征服感と嗜虐心がゾクゾクと駆け上がる。
 サジは屈んで瀬奈の口を強引に吸った。瀬奈は数秒間なにが起こったのかわからなかったが、自分の舌を吸われる感覚に気がつき慌ててサジから離れようとする。サジは瀬奈の頭を両手で押さえ込み、口内のさらに奥に舌をねじ込んだ。乱暴で獣のようなキスに、瀬奈の目に涙が浮かぶ。舌が抜かれるかと思うほど強引に吸われ、口内のあらゆる場所を蹂躙されてから、ようやく瀬奈の唇は解放された。
「……ったく、エロい顔しやがって。もう我慢ならねぇ……ブチ込んでやるから股開けや」
 サジが瀬奈の脚の間に腰を落とし、割って入るように脚を開かせた。瀬奈の顔から血の気が一気に引く。
「ひッ?! やっ! やだぁッ!」
「大人しくしろ! 安心しろ……さっき言った通り俺のブツはめちゃくちゃ気持ちいいぞ? 女なんて何人もレイプしてきたし、処女も何人も食ってきた。お前もそいつらみたいに、最後には泣きながら抱いてくれって言うようになるぜ?」
 サジは瀬奈のビキニ越しに男性器を押し付け、のしかかるように上半身を密着させた。サジの厚い胸板に瀬奈の胸が潰され、そのまま瀬奈の唇を吸い、首筋に舌を這わせる。瀬奈は必死に抵抗したが、サジは慣れた手つきで瀬奈のビキニをずらすと、男性器を瀬奈の入り口に当てがった。瀬奈の顔から血の気が引く。サジは瀬奈の肩を下から抱えるようにして、瀬奈の身体を引き付けるようにしてジリジリと挿入を始めた。
「やだッ! やだぁッ! やめてぇぇぇ!!」
 サジが徐々に自分の中に入ってくる感触に、瀬奈は必死に首を振る。しかし、泣き叫ぶ瀬奈の声はさらにサジを昂ぶらせる効果があった。
「へへへ……処女は毎回泣き叫ぶから面白くてたまらねぇな……。おら! 一気にいくぜ!」
 サジが力任せに腰を打ち付ける。瀬奈の身体はわずかな抵抗を見せるも、圧倒的なサジの暴力には歯が立つはずもなく、男根を最深部まで受け入れるしかなかった。
「おぅッ?! お……おぐッ……?! あ……あああああァァッ?!」
「へへへ……流石にキツイな……こりゃ犯し甲斐があるぜ……」
 サジがゆっくりと腰を引き、複数の人工的な突起と大きく張ったカリで瀬奈の中身を擦り上げながら入り口付近まで後退し、次の瞬間一気に奥まで突き込む。ゴリゴリとした極太に強烈に突き上げられ、瀬奈の口から「ごひゅッ!?」と強制的に空気が吐き出された。サジの腰と瀬奈の尻が何回もぶつかり、乾いた音が広い室内に響く。瀬奈は不思議と痛みはあまり感じず、それ以上に全身を駆け巡る快感に耐える方が必死だった。子宮を豪柱で突き上げられ、敏感な内部を的確に配置された突起で擦られ、庇(ひさし)のようにエラの張ったカリ首で掻き分けられる快感が洪水のように瀬奈の頭に流れ込んでくる。
「あっ! いッ!? ああぁッ! や、やだッ! ああああああッ!」
 瀬奈は限界まで仰け反って矯正を上げた。サジは腰を打ち付けるスピードを速め、パンパンと乾いた音を立てながら瀬奈の中を擦り上げる。
「おらッ! おらッ! チンポ気持ちいいか? え? 俺のチンポが気持ちいいんだろ? おら! どうなんだ!?」
 瀬奈は必死に首を振って快楽の洪水に耐えるが、当然耐えられるはずもなく、嬌声は自分の意思に反して勝手に漏れ、尻のあたりから電気ショックのような強い快感が絶え間なく背骨を通って脳髄に駆け上がる。サジが泣き叫んでいる瀬奈の唇を乱暴に吸うと、瀬奈は本能的にサジの男根を締め付けた。
「おおぉ……締まる……! よし、おらトドメだ! いっちまえ!」と、サジは言いながら覆いかぶさっていた上体を起こすと、瀬奈の太ももを抱え上げ、今まで以上のスピードで機械のように高速で腰を打ち付けた。
「いぎッ……あ……う……ゔあぁッ!? や、やああぁぁぁッ!? む、無理ぃッ! い……いくッ……! こ、ごんなの無理ぃぃッ!!」
「おらおらおらッ! 死ね! イキ死ね!」
「い……いぐぅッ! い、いぎいイィィィィィ!!」
 瀬奈は絶叫し、全身に電気ショックを浴びたように痙攣しながら絶頂した。顔は涙と鼻水と涎まみれになり、白目を剥いて舌を出したまま意識が半分飛んでいる。
「あ……あひぇ……あひゅぁ……」
「へへへ……汚ねぇ声で派手にいきやがって……。ま、アスカちゃんよりは締まりが良かったぞ」と、言いながらサジは再び瀬奈に覆いかぶさった。「俺はまだイッてねぇからな。この後は泣き叫ぼうが失神しようが好きなように楽しませてもらうぜ」
 瀬奈が余韻に浸る間もなく、密着した状態で高速ピストンが再開される。瀬奈は朦朧とした意識の中でさらに強い快楽が流し込まれ、自分の魂が抜け出すような感覚を覚えた。自分の身体で別の誰かが必死に矯正を上げている。すぐさま瀬奈が二回目の絶頂に達してもサジは腰を振るのを止めず、瀬奈が失神する寸前にようやく瀬奈の顔に大量に射精した。しかし、全く萎えない男根はすぐさま瀬奈の中に突き戻され、その後は対面座位や後背位をはじめ様々な体位で犯され、瀬奈は何十回も強制的に絶頂し、その途中で何回も失神し、いつしか現実か夢かわからなくなった。どこか遠くでドアが破られるような音を聞いた気がしたが、それすらも現実かどうかはわからなくなっていた。

 後日、警察組織のトップの会見を、瀬奈は病院のベッドの上で聞いていた。「かつてないほど恐ろしい効果を持つ新型麻薬、WISHの製造元への突入は、半年以上前から準備をしておりました」と、還暦前後の痩せ型の男が多数のマイクに向かって喋っている。瀬奈の組織の名前が発せられることはないだろう。手柄が大々的に発表されない代わりに、矛先が向かないようにするための配慮だ。「当該組織はMOTPと名乗り、WISHを開発したグールーと呼ばれるリーダーを中心に、宗教団体的な要素を持ちながら、一部の狂信的な組員が中心的となって活動を広めておりました。また、組織には多数の行方不明になっている児童も軟禁されており、全員無事に保護されました。この度、任務遂行において命を落とされた我々の同僚、関係者の方々には、深くお悔やみ申し上げます」
 長官が頭を下げ、多数のフラッシュが焚かれる。
 それにしても、よく助かったものだと瀬奈は思った。あの日のことはよく覚えておらず、気がついたら病院に搬送される救急車の中だった。サジに犯され、失神と覚醒を繰り返したことは覚えているが、どのように自分が助かったのか覚えていない。その後、救急車の中で麻酔をかけられ、丸二日間眠った。重度の打撲だが、内臓や脳に異常は無く、あとは回復を待つばかりだと医者は言った。念のための避妊処置なども、眠っている間に済ませたらしい。同じ病院に入院していたアスカも一命を取り留め、先に退院して行った。
「なお、当麻薬組織のリーダーであり、通称グールーと呼ばれていた『佐治 誠一郎(さじ せいいちろう)』に関しましては、突入時に激しく抵抗し、突入部隊に対して数発発砲したため、止むを得ずその場で射殺いたしました。本来であれば無事に確保し、動機やWISH開発の経緯を捜査するところではありますが、隊員の生命の安全を第一優先とし、やむを得ない場合は私の責任で発砲の許可を事前に出しており──」
「え……?」と言ったまま、瀬奈は言葉を失った。サジ……? 佐治誠一郎とは、あの元ボクサーのサジのことだろうか。サジはグールーではない。本物のグールーはあの時ベッドで失神していたはずだ。それ以降の姿は見ていない。そもそも正規警察は愚かではないから、サジがグールーではないことくらいすぐにわかるはずだ。なぜ事実を発表しない。本物のグールーは確保されたのか? サエグサはどうなった? サジに一人で部屋の警備を命じた後、サエグサはどこに行ったのだ? 
「教えてあげようか……?」と、頭の後ろで声が聞こえた。振り向いても誰もいない。佳奈の声に似ている気がして、瀬奈はため息をついて頭を抱えた。ふと、もし今ここにWISHがあったら、使わずにいられるのだろうかと考えた。WISHの中の佳奈は、きっと変わらずに優しく微笑んでくれるのだろう。それが瀬奈の望みなのだから。

この作品はウニコーンさんに有償依頼をいただき、二次創作として製作したものです。
ウニコーンさんのオリジナルキャラの瀬奈さんを主人公に、世界観や設定、ストーリーの大部分をお任せいただきました。
今後作品としてウニコーンさんが挿絵を付けて完全版として発売する予定ですが、今回私が書いた文章と制作中のイラストの掲載許可をいただきましたので、サンプルとしてお楽しみください。

第1話

第2話

第3話

第4話


「ああ、申し遅れてすまないね。君のいう通り、ここではグールーと呼ばれている。サンスクリット語で導師という意味だ。本名はあまり良い思い出が無いので、名乗るのは控えさせてもらうよ。あなたは瀬奈さんだったね。サエグサから優秀な人だと聞いている。このクズと違ってな」と言いながら、グールーはサジの背中に唾を吐いた。「こいつは腕力しか取り柄がない分際で、君に負けたらしいじゃないか。まったく、とんだ買いかぶりだったとはな……私は存在価値の無い人間が一番嫌いなんだ。こいつから腕力を取ったら、残るのはバカな頭と猿みたいな性欲だけだ。このゴミめ……生きていて恥ずかしくないのか?」
 瀬奈の視線の隅で、サエグサが目を伏せる。サジは震えているように見えたが、それが怒りなのか悔しさなのかはわからなかった。
 グールーが瀬奈を見て言った。「ところで使い古された表現だが、君は覚めない夢は現実と区別がつくと思うかね? 例えば植物状態の人間が延々と夢を見ているとしたら、その人間は自分が植物状態だと認識するだろうか? そして仮に君がその立場になったとしたら、夢と現実どちらの世界に幸福を感じると思うかね?」 
「夢の世界……」と、瀬奈は静かに言った。
「そうだろう。言うまでもないことだ。だがこれは健常者にも言える。下世話な話で申し訳ないが、憧れの相手との淫夢が中途半端に目覚めてしまった時の悔しさは、誰でも経験しているはずだ。君にもあるだろう?」
「なにが言いたいの……? こんな立派な施設作って、小さい子供達まで働かせて、やっていることはみんなでジャンキーになって変な夢見ましょうって言うの? 情けなくて涙が出そうね」
 瀬奈の言葉に、グールーは目を伏せて笑った。そしてリードを乱暴に引きながらサジに向かって顎をしゃくり「おい、やれ」と短く言った。サジが弾かれたように立ち上がり、瀬奈の正面に仁王立ちになった。瀬奈の顔に緊張が走る。サジは自分の今の扱いを逆恨みしているのか、憤怒の表情を浮かべて瀬奈を睨みつけている。サジはそのまま、瀬奈の腹部に鈍器のような拳を埋めた。素肌を打つ「ぼぢゅん」という水っぽい音が広い室内に響き渡る。
「げぶぅッ?!」
 瀬奈は電気ショックを受けたように身体を跳ねさせた。強引に直立させられた状態のため腹筋が伸びきり、サジの拳の威力がそのまま瀬奈の内臓を襲う。
「テメェのせいでな……!」と、サジは小声で言いながら連続して瀬奈の腹部を打った。拘束されて防御ができない状態に、元プロボクサーのパンチは背骨に届きそうなほどの威力で瀬奈の生腹をえぐり、成人男性でも一発で失神しそうなショックを瀬奈に与え続けた。
WISH_pic_08

「ごぇッ!? がッ!! ぐぼッ?! ゔっぶ!! ぶぇッ?! げぉッ!!」
 地獄のような責め苦を受ける瀬奈を、グールーは笑みを浮かべながら、サエグサは直立したまま無表情で見ている。途中、サジの黒いビキニパンツが山のように盛り上がりっているのをグールーが見て、「猿め」と吐き捨てた。瀬奈はあまりの威力にすぐさま意識が飛び始め、思考が鈍って視界も狭まりはじめた。腹責めはものの数十秒だったが、瀬奈には永遠のように感じられ、失神寸前でようやくグールーが「やめろ」と言った。
「ぶげぇッ! ごぶッ……おぐ……うぇ……」
 拷問が終わった後も、瀬奈はしばらく身体をよじってもがき苦しんだ。サジが二人の後方に下がり、再び四つん這いになる。
「少しは口を慎んだ方がいい……。グールーの崇高な使命を愚弄することは許されん」と、サエグサが言った。
「まぁいい。新しいものは、誰でも最初は受け入れられぬものだ。それがどんなに素晴らしいものであってもな。瀬奈さん、君も私の考えを理解すれば、きっと協力したくなるはずだ。いや、ぜひ協力してほしい。これから私の使命を君に話そう」
 グールーがサエグサに目配せをすると、サエグサはサジを連れて部屋から出て行った。広い部屋にはグールーと瀬奈だけが残され、わずかな沈黙が流れた。見えないように部屋の中に設置された空調が稼働し、瀬奈への拷問によって生じた湿度が徐々に下がっていく。グールーは一旦瀬奈から離れると、壁に設置されたバーカウンターの棚から高級そうなブランデーを取り出し、大きめなグラスに注いて演技っぽく飲んだ。瀬奈は一連の動作を見守っている。グールーは何かの儀式のようにブランデーを半分ほど飲むと、さて、と言いながら瀬奈に近づいた。
「あまり言いたくはないのだがね、少し私の話をしよう。私は生まれてから最近まで、ずっと不当な扱いを受けていた。グールーになったのもここ五年ほど前からで、それまではただの会社員だった。会社員と言っても大したものではなく、地方のキノコ製造会社の契約社員だ。毎日毎日汚い作業着を着て、カビ臭くて蒸し暑い栽培場を歩き回り、生育状況を記録したり、腐ったキノコを取り除いたり、温度や湿度の管理したりしていた。少し覚えれば誰にでも出来る仕事だ。待遇も悪く、同僚にもろくな奴はおらず、毎日辛い思いをしながら、狭く汚い家とカビ臭い職場を往復していた。いつ死のうかと、いつも考えていたよ」
 そこまで言うと、グールーは残ったブランデーを一息に空け、新しくグラスに注いだ。
「……子供の頃から、私はいつか大きいことを成し遂げる人間だと信じていた。この酷い状況は何かの途中で、いつか事態が好転して周囲がうらやむ状況になるのだと……。しかし四十歳を過ぎる頃になってようやく、どうやら私は大した人間ではないのかもしれないと薄々思うようになってきた。一般家庭の生まれで、昔から勉強は出来たが気が弱かった。世の中で気が弱いということは致命的だ。頭の中に知識はあっても、それを発信する勇気がないのだからな。誰も助けてはくれない。子供の頃からずっといじめられ、社会に出ても爪弾きにされた。ダラダラと月日が流れた。そして五十歳の誕生日の前日に、私はいよいよ自殺しようと決心した。何者にもなれないまま、四十代を終えたくはなかったんだ。そして、どうせ死ぬのなら会社も道連れにしようと思い、栽培場の地下に潜ってガソリンを撒いて火をつけようと考えた。建物の基礎が燃えれば、うまくいけば社屋は倒壊するだろうし、倒壊しないにしても心臓部である栽培場に壊滅的な被害は与えられるはずだと考えた。深夜に私はガソリンの入ったポリタンクを抱えて地下に潜ったのだが、そこで予想外のものを見つけた……」
「……オリジン」と、瀬奈が言った。
「そうだ……。栽培場の地下には、薄く発光する緑色の不気味なキノコが足の踏み場もないほど群生していた。とても気持ち悪かったよ。まるで蛆虫の化け物のように見えた。おそらく直上の栽培場から降ってきた様々なキノコの菌糸や胞子が混ざり合って、突然変異したんだろう。ヤコウタケの一種かと思ったが、そのキノコは幹が太くて、傘の形が明らかに違っていた。そして、自暴自棄になっていた私は、無性にそれを食べてみたくなった。どうせあと一時間と経たぬうちに自分は死ぬのだし、誰にも知られず、誰にも見られない場所で光っている名前も付いていないキノコに親近感を覚えたのかもしれん。キノコはカビと泥の混ざったような酷い味がした。そして猛烈な吐き気に襲われた。私はたまらずポリタンクを放り投げて嘔吐したよ。緑色に光るゲロが出た。それが可笑しくてね、笑いながら吐き続けたよ。情けないやら訳がわからないやら……自分に似合いの最期だと思ったらとても可笑しくてね。そして、世界が一変した。自分の笑い声が何重にもなったエコーの様に頭の中で鳴り響き続け、視界がぐにゃりと歪んだかと思ったら、私は上等なスーツを着て会社の社長室の椅子に座っていた。私がなにが起こったのかわからず戸惑っていると、足元で何かがもぞもぞと動いている。机の下を見ると、職場で一番の美人が私のモノにしゃぶりついていた。訳がわからなかったが、それはとてもリアルな感触と快感だった。しかも気がつくと、周りには子供の頃から今まで生きてきた中で気に入っていた女達が私を取り囲んで、奪い合う様に私にキスをしたり、抱きついたりしてきた。彼女達の舌の感触はおろか、一人ひとり違う肌の匂いまではっきりと感じることができたよ。私は射精し続け、いつの間にか失神した。何時間か経った後、気がついたら最初にいた地下で、不気味に光るキノコに囲まれながら自分の出した精液の中に浸かっていた」
 グールーが三杯目のブランデーを飲み始めた。酒に強いのか、顔色には全く変化がない。瀬奈は黙って話の続きを待った。
「私はそのキノコを持ち帰り、家でも食べてみた。大体似たような効果が出て、数時間後にゲロと精液に塗れた状態で目が覚めた。そして私は自分を実験台にして、そのキノコの最も効果的な摂取方法を見つけ出した。乾燥させて粉末にした状態で鼻粘膜から吸収すると、激しい吐き気が起こらずに効果が出ることがわかった。そして摂取前に念じることで、まるでこれから遊ぶゲームを選ぶかのように、ある程度夢の内容を内容を具体的に決めることができることもわかった。願いを具現化する奇跡の物質……私はWISHと名付けた。くだらない宗教や薬物で得られる”ちゃち”な幸福感を超える、まさに新たな神の誕生だ」
「ずいぶん大袈裟な話になったわね……。そんな幻覚剤で何が解決するっていうの?」
「解決するさ。私はダークウェブを使って、狭い部屋で作ったWISHを少しずつ売り始めた。WISHはたちまち評判になり、転売が相次いで末端価格はとんでもない額になった。私の作ったもので私以外の人間が儲けることは我慢ができんので、私はすぐに購入者の会員制度と売人の公認制度を作り、強固な偽造防止技術を使って直販システムを作り上げた。会社員での経験が役に立ったよ。そのうち水道の蛇口をひねるように金が流れ込んでくるようになって、程なくして私はこの施設を作り上げて、今に至るわけだ。一番WISHを使っている人間は誰だと思うかね? 金のある政治家や財界人でも、ましてやゴロツキ共でもないぞ。むしろその逆で、気が弱くて日の目を見ない人間達の間で評判になった。彼らが少ない給料を切り詰めて、高価なWISHを買ってくれているのだ。しかもWISHによって願いが叶ったことで、現実世界でも前向きになり、またWISHを買うために頑張る気持ちになることができたという感謝の言葉も何件も届いている。私はハッとしたよ。私もそうだったと。そして、これこそが私の使命だと気がついた。私は間違っていたんだ。私は『大きいことを成し遂げる人間』などという小さな存在ではない。私こそがキリストのように不当な受難を乗り越え、WISHという奇跡をこの世界にもたらすために地上に降り立った、救われない者達を救う神だったのだと……気がついたのだ」
 グールーは大仰に手を広げ、天井を見上げた。自分の言葉に酔っているのか、瞳を閉じて、口元には笑みが浮かんでいる。
「さて……」と、グールーが言った。「ここからが本題だ。君に協力してほしいと言ったね? なに、簡単なことだ。サエグサのように前線に立つ危険な仕事をさせるつもりはない。君にしかできないことをしてほしい。具体的に言うと、私の子供を産んでもらいたい」
「なっ……!?」
「WISHを創ってから女に困ったことはない。いや、抱いてほしいと群がる女達を選別するのには少し困っているがな……。毎日違う女を抱いたが、私の子供を産むに相応しい女性は一人もいなかった。当然だ、神の子供を産むわけだから、並大抵の女では務まる訳が無い。だが、君にはどうやらその資格がありそうだ……あの筋肉猿を倒す強さ、その容姿の美しさ、そしてなによりWISHで淫欲な効果を出さない清楚さ。君こそ、私の子を産む資格がある女性だ」
「ふざけないで! 誰があなたの子供なんか!」と言いながら瀬奈が身をよじった。鎖が擦れる硬い音が部屋に響く。
「なにを言う? これ以上無い名誉だぞ。君のことは無理やり犯すこともできるが、子供に影響が出たら台無しだ。君は私を愛し、私の子供を産めることを涙を流して喜ばねばならん。その魅力的な身体で私に奉仕して、私に快感を与え、私が褒美として与える精液を喜んで受け入れるのだ。まぁ、最初は反抗的でも面白いかも知れんな。どうせ肌を重ねるうちに私の虜になるのだから……」
 ゴリッ……という感触が、瀬奈の体内に広がった。グールーの拳が、正確に瀬奈の鳩尾に食い込んだのだ。
「ゔッぶ?!」と、瀬奈の口から聞いたことがないような悲鳴が漏れた。
 グールーのパンチは威力こそ強くはないものの、肥満体の身体を生かした体重を乗せた一撃は重いものだった。グールーは無防備に身体を開いた状態の瀬奈の鳩尾を正確に何発もえぐり込み、瀬奈の意識を途切れさせる寸前まで痛ぶる。息をつかせないようなタイミングで嬲り、効率的に瀬奈の意識を体外に弾き飛ばしていく。瀬奈がグロッキーになると、グールーは瀬奈の手足の拘束を解いた。崩れ落ちる瀬奈の身体を抱きかかえ、慣れた手つきで後ろ手に手錠を嵌めると、そのまま瀬奈の身体を肩に担ぎ上げてベッドの中央に放り投げる。滑らかな黒いシルクのシーツはまるで粘液に濡れているようにシャンデリアの淡い光を反射していて、瀬奈の身体をほとんど摩擦なくふわりと受け止めた。瀬奈は呻きながら、ぐらつく視界の隅でグールーが近づいて来るのをなす術なく見るしかなかった。
「さて……たっぷり可愛がってやろう」と言いながらグールーが瀬奈の近くに屈み込み、顔を覗き込んだ。「期待していいぞ。毎日違う女を抱いているうちに性技とスタミナが付いてきてな、今では一晩で最低六回は出来るようになったわ。ま、私が六回射精する間に女は何十回とイカされることになるから、最後の方になると全員泣き叫んで失神してしまう。人形を抱いているみたいでつまらんもんだ。それに私は一度抱いた女をもう一度抱くことはほとんど無い。可哀相に、私に抱かれた女はもう他の男では満足できなくなるから、いつもWISHで慰めることになる。君は幸せだぞ? 孕むまで何回でも私に抱いてもらえるんだからな」
「……一回だって、絶対に嫌」と、瀬奈は歯を食いしばってグールーを睨みつけた。
「ほっほ……まぁそう言うな。君が白眼を剥いてヨガリ狂うのが楽しみだよ」
「絶対にそんなこと……んむぅッ?!」
 グールーが獲物を襲う蛇のような素早さで瀬奈の唇を奪った。驚いている暇もなく、瀬奈の口内にグールーの粘ついた舌が侵入し、瀬奈の舌や口内を捕食する別の生き物のように蹂躙し始める。ブランデーの香りと生臭い唾液の味が頭蓋骨の中に充満し、頭がおかしくなりそうだった。
「んぶぅッ……! んむっ……んんんんん!!」
 瀬奈は必死に目を見開いて首を振って抵抗したが、グールーにがっしりと頭を押さえられて動けず、吸われるままに舌を吸われ、唇や唾液を味わわれた。
「んんむ……んふふふふ……ほれ……飲ませてやろう」
 グールーは口内で瀬奈と自分の唾液を混ぜ合わせると、舌で一気に瀬奈の口内に押し込んだ。ごぷッ……と瀬奈の口の端から唾液が溢れる。さらに唾液を押し込まれ、無理やりそれを嚥下するしかなかった。グールーは瀬奈の喉が鳴るのを満足げに聞くと、糸を引きながらようやく瀬奈の唇を解放した。
「んぶはぁぁぁ……ふぅ……なかなか美味かったぞ。どうだ? 愛し合う恋人同士のキスは? 他の男よりも濃厚だったろう?」
「あ……ぁ……私……こんな……」
「んん? なんだ、まさか初めてだったのか? そうかそうか! 私で女になれるとは、それは良かったな! はははは! 初物とは、ますます気に入ったぞ」
 グールーが放心して震えている瀬奈の唇を再び奪い、そのままベッドに押し倒した。瀬奈を押しつぶすようにのしかかり、必死に逃げる瀬奈の顔を両手で挟むように固定しながら、一回目よりも念入りに瀬奈の口を愛撫する。瀬奈はたまらずに涙を流しながら必死に口を閉じようとするが、グールーの太いナマコのようなおぞましい舌は、白魚の様な瀬奈の舌を逃さずに絡みついて締め上げた。瀬奈の舌は喉から抜かれるのではと思うほど強く吸引され、再び大量の唾液を流し込まれる。瀬奈はおぞましさに背中を泡立たせながら耐え、グールーが口を離すと同時にシーツの上に唾液を吐き出した。
「なんだその態度は……? まだ私を受け入れんと言うのか!?」
 さっきまでの余裕のあるグールーの顔つきが一気に険しくなり、仰向けになっている瀬奈の土手っ腹に力任せに拳を突き込んだ。
「ゔッぶぇぇ!? ごぶッ! ごぇッ! ゔッ?! ゔぇッ!!」
「誰に! 抱いて! もらえると! 思っとるんだ! えぇ?! クソが! クソアマが! 調子に! 乗るな! 私を! 拒否! するな!」
「がぶッ!? ぐぇッ! ゔぐッ! ごぇッ!」
 大きなベッドがギシギシと音を立てて軋み、ヒステリックに叫ぶグールーの声と瀬奈の悲鳴を後押しした。グールーは散々殴り終えると、肩で息をしながら瀬奈の上半身を起こしてベッドの上に座らせる。瀬奈は後ろ手に手錠を嵌められ、ダメージで膝が笑って立ち上がることができず、涙と唾液で濡れた顔で憎々しげにグールーを睨みつけことしかできない。
「ほぉ……まだそんな顔ができるのか。コイツを見ても同じ態度でいられるか見ものだな……」
 グールーがゆっくりと白いローブを脱ぐと、女性向けの黒いレースの下着が瀬奈の目の前に現れた。腹の肉が乗った小さい面積の下着は生地が破れそうなほど持ち上がり、かろうじて亀頭を隠しているだけで男性器の大部分が露出している。あまりのおぞましさに瀬奈の身体が強張った。グールーはもったいぶるように腰紐に手をかけると、ジリジリと瀬奈の顔の前で下着を下ろした。ある瞬間、ぶるんと弾かれるように勃起しきった男根が跳ね上がり、グールーの突き出た腹にバチンと音を立てて当たった。
「ひ、ひぃッ?!」と、瀬奈が悲鳴をあげた。傘がせり出した赤黒い男根はまるで凶悪な毒キノコのように見えた。瀬奈の想像よりも何割も増して太く長いそれは、強さを誇るように天井を向いて瀬奈を見下ろしている。
「ふふふふ……気に入ったかね?」と言いながら、グールーは自分の男根を瀬奈に見せつけるようにしごきあげた。男根はますますボリュームを増し、発する熱が瀬奈の顔にも届いている。「さて、この極太で君のをほじくりまくって、子宮の中まで精液漬けにしてやろう。まずは挨拶がわりにコイツをしゃぶってもらおう。フェラチオくらい知っているだろう? これから自分を失神するまで気持ちよくしてくれる魔羅だ。愛情を持って奉仕するんだぞ」
「で……できるわけないでしょ……こ、こんなの、無理……」と、瀬奈はカチカチと歯を鳴らしながら震える声で答えた。
「何が無理だ。最初は私が手伝ってやろう」
 グールーは瀬奈の頭を掴むと、強引に亀頭を瀬奈の唇に押し当てた。「いやぁッ!」と言いながら瀬奈が必死に顔を逸らす。
「大人しくせんか!」
「いやッ! やだぁッ!」
 グールーが右手を振り上げ、瀬奈の頬を張る。パァンと言う破裂音が響き、瀬奈は顔を横に向けたまま、虚を突かれたように動きが止まった。その隙にグールーは、半開きになった瀬奈の口に、強引に極限まで勃起した男根を突っ込んだ。
「ぶぐッ?! んむぅッ!? んぐうぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「歯を立てるな! また殴られたいのか?!」
 まるで肉の巻かれた熱した鉄棒を口の中にねじ込まれた感覚だった。瀬奈は今まで味わったことのない強烈な嫌悪感に全身に鳥肌が立ち、限界まで目を見開きながら首を振る。その度に瀬奈の歯が男根を擦り、グールーの眉が吊り上がった。
「んぶぅぅぅッ?! んぶッ! おぐぇぇッ!」
「えぇぃ、歯を立てるなと言っているだろうが!」
 グールーは瀬奈の口から男根を引き抜くと、激しくむせる瀬奈の髪を掴んで力任せに横顔を張った。両手を後ろ手に拘束されている瀬奈は当然ガードすることは出来ず、頬を貼られた衝撃で頭からベッドに倒れこんだ。グールーはすぐさま瀬奈の髪の毛を掴み、口に無理やり男根をねじ込むと、瀬奈の喉を突き破らん勢いで腰を打ち付けた。瀬奈が呼吸困難で白目を剥き始めると、一方的に男根を引き抜き、力任せに数発頬を張る。そしてまだ男根をねじ込む。何回も。何回も。
「むぐぅッ!? ごっ……ゔぐッ……ごえぇぇぇッ! ぷはぁッ! あ……ぎゃんッ! 痛ッ! やぶッ! やだッ! あ……んぐぅッ!?」
「誰に逆らっとるんだ?! ガキを孕むだけの穴袋の分際でフェラチオもまともに出来んとは、今ここで歯を全部ブチ抜いてやってもいいんだぞ!?」
「おえぇぇッ!? ぎゃあッ! あがッ!?」
 首がもげる程の勢いで何発も頬を張られ、瀬奈が勢いよくベッドに倒れた。グールーも肩で息をしながら、瀬奈の髪を掴んで引き起こした。瀬奈は涙と汗で顔をグシャグシャにしながらも、気丈な顔でグールーを睨む。
「まだ自分の立場がわからんのか? 私は拒まれるのが一番嫌いなんだ。おとなしく私を愛したほうが身のためだぞ?」
 瀬奈はグールーの男根に唾を吐いた。
 グールーの顔色が一気に変わり、張り手のように瀬奈の顔を正面から平手で打った。瀬奈はそのまま仰向けに倒れこむ。グールーは自ら腕立て伏せの体勢になると、脳震盪を起こしている瀬奈の口に杭を打ち込むように男根を突き入れた。何をされるか察した瀬奈は瞬時に顔色が真っ青になる。
「まったく、素直になっておればいいものを……。自分がただのチンポを擦るだけの穴だということ教えやろう」
 グールーが体重をかけて腰を瀬奈の顔に打ち付けると、ゴリュッ……という音とともに男根が喉奥まで一気に突き込まれた。「ゔぶぇッ!?」と、瀬奈の喉から蛙が潰れたような汚い音が漏れる。そのままズルズルと男根が引き抜かれると、再び杭を打ち込まれるように喉が犯された。男根の根元と隠毛が瀬奈の鼻に触れるたび、瀬奈の喉がボコボコと膨らむ。グールーは何の躊躇いもなく、通常の性交を行うように瀬奈の口にピストンを繰り返した。
「ぎゅぶぇッ!? えごろおぉぉぉぉぉっ?! ぼぎゅぇッ! ごげぶッ!!」
「吐くなよぉ……そのまま喉を締めてチンポを擦りあげろ」と、言いながらグールーが腰の動きを早めた。轢かれた猫のような悲鳴を上げる瀬奈のことなど何もかまわず、瀬奈の口と喉をモノのように扱って快楽を貪る。
「ぶぇぼごぇええ?! うぐげぁぁ!! ごろぇげぉおぐぇ!! ぎょぐゔぇぇぇえぇ?!!」
「おっほ! 痙攣してるのか? 良い締め付け具合だな……その調子だぞ」
 グールーは瀬奈の味わっている地獄のような苦痛など全く意に介さず、自らの快感だけを優先して瀬奈の喉壁を擦り上げていく。瀬奈は猛烈な吐き気と呼吸困難を同時に味わい、普段の彼女を知っている人間でも瀬奈だと判別がつかないほどの汚い声を漏らしながら、白目を剥いて全身を痙攣させた。そして、皮肉にもその痙攣は絶妙な快感をグールーに与えることになった。グールーの足がピンと伸びたまま浮き、全体重が瀬奈の顔にかかる。
「お……おぉ……いいぞ……おほッ! 出すぞ……精子出すぞ……一滴残らずありがたく飲むんだ……おほぉッ……おぉッ!」
「ごぶげっ……! ぐむぐぶぇッ……! ごッ……ぎょぼッ!? ごぶえぇぇぇぇ!!」
「おぉ……出る出る……止まらん……まだ出る……」
 グールーは瀬奈の喉の一番奥まで男根を突き込むと、まるで蛇口を捻ったかのように精液を一気に放出した。
 失神寸前だった瀬奈は喉奥という危険領域で大量の粘液をぶちまけられ、不幸にも瀬奈の脳は死ぬまいと身体中に覚醒を命じた。意識は一気に現実に引き戻され、瀬奈はクリアな状態で自分の喉奥で男根が脈打ちながら大量の生臭い粘液を放出している感覚を味わった。凄まじい嫌悪感に、瀬奈は今まで感じたことのない猛烈な嘔吐感に支配される。
「う……ゔぶ……ぶぎゅッ!? ぶべぇろろろろろろろろ……! おうげぇ……! げぼッ……!」
 グールーの男根が逆流してきた精液に押し返され、瀬奈の口から抜ける。瀬奈は痙攣して身悶えながら、白目を剥いて大量の精液を黒いシーツの上に吐き出した。グールーは嘔吐している瀬奈を蹴り飛ばし、瀬奈は悲鳴をあげながらベッドの上を転がった。
 瀬奈は仰向けに身体を開いた状態でひゅうひゅうと喉を鳴らして喘いでいる。視線は定まらず、身体は弛緩しきって小刻みに震えていた。グールーは瀬奈の緩みきった腹部を、体重をかけた足全体で容赦無く踏みつける。
「ぶッぎゅえッ!? うぶぇろろろろろ……」
「一滴残らず飲めと言っただろうが! 私の高貴な精液を汚い胃液まみれで吐き出しおって! そんなに吐きたいのなら好きなだけ吐かせてやる!」
 ごぢゅ、ごぢゅ、ごぢゅ……とグールーは気が触れたように瀬奈の腹を踏みつけた。その度に瀬奈の腹は痛々しく潰れ、ベットに沈没する様に身体がくの字に折れ曲がる。
「ぼぎょッ?! ごぶぇッ! べぐぉッ!」
 踏まれるたびに瀬奈の口から精液が噴水の様に吹き上がり、黒いシーツにシミを作った。
 部屋の温度と湿度が上がったため、自動調整された空調はフル稼働している。グールーは肩で息をしながらベッドから降り、バーカウンターから瓶に入った水を持って再びベッドに上がった。仁王立ちであおるように自分が水を飲み、そのまま口に含んだ水を瀬奈の口に押し込む。敵に口移しで水を飲まされるという屈辱は本来の瀬奈なら意地でも回避するはずだが、朦朧とする意識の中で噎(む)せながらも押し込まれた水をなんとか飲み込んだ。グールーはゴミの様に瓶をベッドの外に放った。

この作品はウニコーンさんに有償依頼をいただき、二次創作として製作したものです。
ウニコーンさんのオリジナルキャラの瀬奈さんを主人公に、世界観や設定、ストーリーの大部分をお任せいただきました。
今後作品としてウニコーンさんが挿絵を付けて完全版として発売する予定ですが、今回私が書いた文章と制作中のイラストの掲載許可をいただきましたので、サンプルとしてお楽しみください。

第1話

第2話

第3話



 瀬奈がドアを潜ると、雰囲気が一変した。
 高価な伽羅香が焚かれているらしく、空気の重量が増したように感じた。天井の中心部分からは大型のシャンデリアが吊り下げられ、その周囲に埋め込まれたダウンライトが光の筋を床に落としている。壁には草食動物の頭骨が等間隔に飾られ、その下に埋め込まれた燭台がそれらを不気味に照らしていた。正面には簡素な祭壇のようなものが設えてあり、そこから出入り口に向かって木製の長机が伸びている。その長机の左右には向き合うように椅子が並んでいて、まるで広い会議室のようなレイアウトになっていた。
 雰囲気はアスカが言った通り教会のようだが、おそらく幹部達がグールーを交えて打ち合わせをする場所なのだろう。西洋式で調度品は高価なものを使っているようだが、ちぐはぐな印象が拭えず、雰囲気づくり以上の意味を汲み取れなかった。そもそも西洋系の教会が主に使う香は伽羅ではなく乳香である。
 瀬奈は祭壇に近づいてみた。
 杢の出たマホガニーの一枚板の小さなテーブル。その上には十字架も仏像も無く、二本の燭台の間に、キログラム原器のようなドーム型のガラス容器が置かれているだけだ。中には一握りの土と、干からびたエノキタケのようなものが入っていた。
「それには触れないほうがいい」と、瀬奈の背後で低い声がした。
 瀬奈が驚いて振り返ると、黒いローブを着た男が立っていた。元ボクサーの男と一緒にいた警備隊の男だ。入り口にはずっと注意を払っていたのに、どこから入ってきたのだろう。
「瀬奈さん……だったかな。私はサエグサという者だ。ここの警備隊長をしている。君が先ほど倒した男の上司みたいなものだ」と、男は落ち着いたよく通る声で言った。「それと、祭壇の上のそれはとても神聖なものでね。グールー以外、触れることを許されていないんだ」
「……これは何? それにグールーって……」と、瀬奈が言った。
「グールーは我々の指導者であり、この地上にWISHをもたらされた聖人だ。今でもその祭壇の奥の部屋で休まれている。ここはグールーのお言葉を聞き、その聖櫃の中に入っている『オリジン』を崇めるための聖域だ。オリジンは偉大なるグールーが発見されたWISHの原種でね、我々人類を未来永劫の救済に導く、奇跡の証なのだ」
「笑わせないで……この干からびた小さなキノコが救済だって言うの?」
「そうだ。WISHはその名の通り、人々の願いを具現化する効果があることは知っているだろう? 君が先ほど戦った元ボクサーの男……サジも、WISHに出会うまでは、それはそれは酷い状態だった。彼は確かに粗野な男だが、ボクシングにかける情熱に嘘は無かった。それまでは好きなように暴れて、人からは感謝されることよりも恨まれることの方が圧倒的に多かった人生が、ボクシングと出会ったことで目標が見つかったのだから。しかし、大切な試合前の厳しく辛い減量をこなす最中、彼に恨みを持っている人間にハメられた。試合前というタイミングを狙い、金で雇われた人間に理不尽な喧嘩を吹っ掛けられたんだ。まぁ、彼のそれまでの行いを鑑みれば、自業自得と言えなくもないが……。最初も彼は我慢していたようだが、もともと沸点が低い性格に減量中の鬱憤が重なり、絡んできた人間を返り討ちにしてしまった。もちろん試合は白紙になり、挙句プロ資格も剥奪され、彼は元の荒れた生活へと戻っていった。あちこちのヤクザや犯罪組織の用心棒をしながら、自らも犯罪まがいの行為を繰り返すようになってしまった。我々の組織に入るまではな」
「今と大して変わらないじゃない」と、瀬奈は身構えながら言った。
「断じて違う。我々『March Of The Pigs』は反社会的勢力ではなく、人々の救済を目的としている。サジも間接的とはいえ、MOTPを守ることで人類の救済の手助けをしているのだ。私も偉大なるグールーと出会い、このMOTPに入るまでは、彼と似たような生活をしていたから、よくわかる。もともと私は正規警察の機動隊だったが、その時の警察内部は腐敗しきっていた。今も大して変わらないだろうがな。当時から我々の部隊は、犯罪組織から金や女をあてがわれ、捜査の情報を外部に流す者が多かった……。そして、朱に染まれば赤くなると言う通り、私も似たようなことをして稼ぐようになった。世の中のためにと警察官になったはずなのに、常に心には矛盾を抱えていたよ。そのような中、MOTPに情報を横流しした際に、少しだけWISHを使わせてもらったんだ。WISHの奇跡は、それはそれは素晴らしい経験だったよ。そして、偉大なるグールーに謁見させていただき、人類救済というその崇高なお考えを知り、私はMOTPに協力するために、すぐに警察の職を辞した。私は警備隊を統べる幹部として迎えられ、そのすぐ後にサジが入ってきた。彼もWISHで、世界チャンピオンになる瞬間を何回でも味わっている。彼もまた、WISHに出会って救われたのだ。もちろん君の仲間のヤタベという男も、君が指切りをした工員の少年もな……」
「ふざけないで! 妄想の世界に逃げ込んで、なにが救いなのよ! 目が覚めたら虚しさしか残らない行為が救いだなんて間違ってる……。WISHのせいで幻覚と現実の区別がつかなくなって、錯乱して現実でも犯罪を犯してしまう人が後を絶たないのを知っているでしょう?! あんな小さな子供まで使って……あなた達は救済どころか、不幸な人を増やしているだけじゃない!」
「WISHの救済を受けていない者は、最初は皆そう言うのだ。怪しい薬物だ、所詮は麻薬だ、とね。少しは考えてもみたまえ……全ての人間に効く薬は存在しないし、ごく一部の副作用のせいで多大な効能を手放すのは愚かなことだ。そして、ここで働く子供達は全員虐待やいじめを経験し、居場所の無かった子供達だ。不登校や引きこもり、自殺未遂をした子だってたくさんいる。むしろ我々は彼らに場所と存在価値を提供しているのだ。君もWISHを使えばわかるはずだ」
 サエグサはローブのポケットから、透明なビニール袋に入った緑色の粉──WISHを取り出した。「特別に君にあげよう。一度WISHの救済を受けてみるといい。そして、我々に協力してほしい。君の戦闘力と耐久力は見せてもらった。まだ荒削りだが伸び代がある。警備隊の一員として、私の下で働く気はないかね?」
「全く無いわ」と、瀬奈はきっぱりと言った。
「……残念だな」とサエグサがゆっくりと身構えながら言った。
 室内の空気が更にずっしりと重くなるのを瀬奈は感じた。背中の皮膚ににピリピリとした感覚が駆け上がり、緊張を沈めるために瀬奈は大きく息を吐いた。サエグサはゆったりとしたローブを羽織っているが、それでも肩や腕が大きく発達していることがわかる。ナイフのような視線は、確かに危険な任務にあたる軍人や機動隊のそれだった。
 サエグサは長机の端を掴むと、まるで手についた汚れを振り払うように横に凪いだ。何十キロあるのかわからない長机はいとも簡単に横倒しになり、壁際まで滑っていく。瀬奈とサエグサの間にぽっかりと空間が広がった。瀬奈は素早く室内を見回す。机に巻き込まれなかった椅子が四脚。まだ障害物は多い。サエグサに力では敵うとは思わないし、正規警察が来るまでの時間稼ぎとして戦闘を長引かせることも必要になるから、遮蔽物が多いこの状況は瀬奈にとって有利だ。瀬奈は手近な椅子をサエグサに投げつけた。同時にポケットから取り出した試験管からアドレナリンを増やすガスを吸う。サエグサが椅子をガードすると同時に、瀬奈は側面に回り込んで脇腹を蹴った。ヒットアンドアウェイの戦法ですぐさま距離を取る。サエグサとの距離が……離れない。え? なんで、と瀬奈が思った瞬間。目の前が暗転した。柔らかい布の感触。サエグサの脱いだローブが、瀬奈の頭から被せられていた。
「動きは悪くないが、やはりまだまだ荒削りだ」
 ぐずん……という衝撃と圧迫感が、瀬奈の腹部から全身に広がった。
「ぐっぷ?!」と、瀬奈の口から濁った音が漏れる。ローブがはらりと瀬奈の頭から落ちると、瞳の焦点が定まらず、ブロワを止められた水槽の中にいる金魚のように口を開けている瀬奈の顔が現れた。
「え……げぼっ……」
「ほう、耐衝撃繊維か。しかもかなり質が良いな。圧迫以外の感覚があまり無いだろう」
 サエグサは瀬奈の背中に手を回すと、力任せに拳を瀬奈の腹に押し込んだ。ものすごい力で瀬奈の柔らかい腹部を掻き分け、拳の先が背骨に触れる。
「ぎゅぶぇッ?!」と、瀬奈が身体を跳ねさせた瞬間、サエグサは拳を上に捻じ上げた。鳩尾を内部から押しつぶさえれ、喉の奥に石を詰め込まれた様な感覚に陥る。「えぶッ?! ぐ……ごぇあぁぁぁぁ!」
 べしゃりと瀬奈の身体が床に崩れる。汚い音を立てながら嘔吐き、身体が震えてコントロール不能に陥った。
「ふむ、ここまで力を入れてもこの程度しか押し込めないとは。本当に良いスーツだ」と、サエグサは無様な声を上げて苦しむ瀬奈を見下しながら、顎に手を当てて努めて冷静に分析している。「どうだろう、気は変わったかね? 不必要な暴力を振るうのは趣味ではないんだ。できれば降参してもらえれば、私としてもありがたいのだが」
 うずくまりながら、レベルが違い過ぎると瀬奈は思った。今まで何回も突入任務をこなし、それなりの敵とも対峙してきた。危ない目には何回も遭ったが、厳しい鍛錬の成果や仲間のサポートでいずれもくぐり抜けてきたのに……。だが、今回は逃げるわけにはいかなかった。アスカが身を呈して自分を守ってくれた。今度は自分がアスカを守る番だ。
 瀬奈は笑っている膝を抑えながら、よろよろと立ち上がった。肩で息をしながら、格闘の構えをとる。時間だけでも稼がなけ──。
 どぶり……という衝撃が瀬奈の鳩尾に響いた。
 瀬奈が思考している最中、サエグサが瞬間移動のように瀬奈の正面に移動し、瀬奈の鳩尾を奥深くまで正確に貫いたのだ。
「ひゅごッ?!」
 突然襲って来た衝撃に、瀬奈の身体が糸が切れた人形のように崩れ落ちる。サエグサは土下座をしているような格好の瀬奈の奥襟を掴み、そのまま軽々と瀬奈の身体を持ち上げた。瀬奈の足が地面から浮く。
「うっ……ぐ……ああぁッ!」
「グールーに会わせよう。その前に、粗相をしないように教育をしなければいかんな……」
 サエグサは瀬奈の首元のジッパーを掴むと、一気に下半身まで引き下ろした。スーツの前部分がはだけ、弾けるように瀬奈の大きな胸と、適度に筋肉がついた腹部が露わになる。サエグサは瀬奈のスーツを大きく広げ、上半身を自分に向かって無防備に開かせた。瀬奈の汗ばんだ滑らかな肌が現れ、サエグサは目を細める。
「う……嘘でしょ……?」
 瀬奈は歯をカチカチと鳴らしながら、力無く首を振った。これから自分が何をされるのか想像し、顔から血の気が引く。身体はまだまともに動かない。
 次の瞬間、ぐずり……という音とともに瀬奈の土手っ腹は潰された。耐衝撃性スーツに守られていない滑らかな肌を巻き込んで、サエグサの鈍器の様な拳は瀬奈のはらわたを掻き分け、奥深くまでめり込んだ。
「ごびゅぅッ?! ぐぷッ……ぐ……ぐぶえぇぇえぁぁ!!」
 まるで大型トラックがぶつかった様な衝撃だった。今まで格闘訓練で腹を殴られたことは何回もあったが、ここまでの衝撃は受けたことがない。たった一撃で瀬奈の胃は無残に潰れ、意識は脳外にはじき出された。
「げぉッ?! げッ……ぐげぁっ……」と、瀬奈は限界まで舌を出し、白目を剥いたまま唾液を撒き散らかして喘いだ。普段の明るく綺麗な顔は無残に崩れ、瀬奈と親しい者が見たら失神しそうなほどの醜態をサエグサに晒している。
「おっと……少し強かったか?」と、サエグサは何ともなしに瀬奈に聞いたが、それに答える余裕はもちろん瀬奈には無い。「これくらいなら耐えられるか?」
 ぱん、ぱん、ぱん、ぱん……と、乾いた音が室内に響く。瀬奈の何にも守られていない下腹部、胃、みぞおちに、まるで一定のリズムを刻むように連続で拳が突き込まれ、その場所が深く痛々しく陥没した。
「ゔッ?! ゔぶッ! げゔッ! ごッ!? ぶふッ! がッ?! ごぶッ?! ぐッ! あぐッ! あッ! あぁッ! ゔああぁぁぁぁぁッ!」
WISH_pic_07

 呼吸をする暇もないほどの連打に、瀬奈は身体を反らせて悶えた。サエグサは的確に殴る場所を変え、最もダメージがあるように瀬奈の腹を嬲る。瀬奈は胃液と涎と涙を撒き散らしながら、吊るされたサンドバッグのように力なく揺れた。
 死ぬ。
 殺される。
 明確な死の恐怖が瀬奈の脳内を駆け巡る。
 どぶぅッ! という音と共に、瀬奈の身体が海老の様にくの字に折れた。
 サエグサのは瀬奈の奥襟を放して、正確に瀬奈のヘソのあたりを貫いた。意識が朦朧としていた瀬奈は腹筋を固めることも出来ず、その衝撃の全てを受け入れるしかなかった。瀬奈の身体は後方にロケットの様に吹っ飛び、背中を壁に激突させて、派手な音を立てて床に倒れた。壁にかかっている頭骨が衝撃で瀬奈の近くに砕け落ち、瀬奈の身体に降り注ぐ。
「がッ……?! おッ……?! がぶッ……!」
 瀬奈は両手で潰れた腹を押さえて、白目を剥きながら芋虫の様に身体を捩った。意識はすでに途切れかけていて、暗幕が降りる様に視界が狭くなる。音が遠くなり、失神する瞬間、微かにキノコの様な匂いを感じた。

「ちょっとお姉ちゃん! いつまで寝てるの?!」
 突然身体の上に重石を乗せられたような感覚があり、瀬奈は「ぐぇっ」と呻きがなら目を覚ました。羽布団をはねのけて体を起こすと、漬物石がゴトンと床に落ちる。どうやら本当に重石を身体の上に乗せられたらしい。寝ぼけた目で正面を見ると、黒髪をセミロングに伸ばした女の子が腰に手を当てて瀬奈を睨んでいる。
「佳奈?!」と、瀬奈が驚いて声をかけた。
「なに言ってんの? お姉ちゃんまだ寝ぼけてるでしょ? もう、片付かないから早く顔洗って朝ごはん食べちゃってよ」
 それだけ言うと、佳奈はパタパタとスリッパの音を立ててダイニングに引っ込んでいった。太陽はすっかり登っていて、ベッドサイドの時計は九時三十分を指している。少し開いた窓からは爽やかな風が部屋の中に流れ込み、瀬奈の頬を優しく撫でていた。
 瀬奈は洗面所に移動して、うがいと洗顔を済ませてから鏡で自分の顔を見た。血色もよく、肌も荒れていない。なぜ佳奈がここにいるのだろう。佳奈は瀬奈のたった一人の妹で、二年ほど前に行方不明になってから、手がかりが全く無かったはずだ。ここは自分が一人暮らしをしているマンションだが、なぜ行方不明になった佳奈がエプロンを着けて自分を起こしに来たのだろう。確かMOTPのアジトに潜入して、サエグサと交戦して……どうなったんだっけ……? 
 瀬奈がダイニングに入ると、佳奈がペーパードリップでコーヒーを淹れながら、背中越しに「なんで私がここにいるのか……って思ってるんでしょ?」と言った。瀬奈はそれには答えず、ダイニングの椅子に腰を下ろした。佳奈はテーブルに自分と瀬奈の分のコーヒーカップを置くと、瀬奈の前にだけトーストとサラダ、焼いたベーコンとオムレツが乗った皿を置いた。よく磨かれたナイフとフォークも用意されている。理想的な朝食だ。瀬奈の胃が、早くよこせと脳に指令を出している。
 佳奈は瀬奈の正面に座ると、コーヒーを飲みながら瀬奈の胸元を指差した。瀬奈の着ているライトブルーのパジャマが、首から胸にかけて水に濡れて色が変わっている。
「お姉ちゃん、相変わらず顔洗うの下手だよね。子供の頃から全然変わってない」と、佳奈が言った。
「あの……」
「早く食べちゃって」
「……はい」
 完全に主導権を握られている、と瀬奈はサラダを口に入れながら思った。佳奈は申し訳なさそうに食べている瀬奈をジト目で見ながら、椅子に横向きに座り、足を組んでコーヒーを飲んでいる。
「さっきの話だけど」と、佳奈が言った。「お姉ちゃん、なにも気にしなくていいからね。ちょっと混乱してるだけで、もう全部解決してるから」
「……解決?」と、瀬奈がトーストを齧る手を止めて言った。
「そう。一時的なショック状態なんだって。この前の任務が結構大変だったみたいで、ちょっとだけ記憶が混乱しているみたいなの。なんで私がここにいるのかってもう十回くらい聞かれてるから。たぶん今日も聞く気でしょ?」
 瀬奈は黙って頷いた。記憶が混乱?
「今は無理に思い出さないほうがいいよ……」と佳奈が言った。
「でも私は任務で、ある組織に潜入していて……。佳奈だって、ずっと行方不明だったはず……」
「だーかーら、それもお姉ちゃんの記憶がごちゃまぜになってるだけなの。私は見ての通り無事で、この通り元気だから」
「そう……なんだ。でも、任務はどうなったの?」
「それも全部終わったの。お姉ちゃんが気にすることなんてなにも無いんだから。全部元どおりで、誰も不幸になんてなっていないの。ねぇ、そんなことよりも、朝ごはんを食べ終わったら散歩にでも行かない?」
「……うん。行く」と言いながら、瀬奈はベーコンを口に運んだ。良い感じの生焼け具合だ。
「じゃあ決まりね」と言いながら、佳奈は瀬奈の背後に回って両肩に手を置いた。ふわりと柔らかく、懐かしい香りがした。「ねぇ、ゆっくりでいいからね。お姉ちゃんは昔から頑張りすぎちゃうから、たまには息抜きしたって誰もなにも言わないから……。これからは自由に生きていいんだよ? 今までよく頑張ったよね。お姉ちゃん本当はすごく優しいのに、無理して頑張って、危険な任務をしてさ……。私がいなくて寂しい思いもさせちゃったし、本当にごめんね。今はゆっくり休んで、一緒に楽しいことをいっぱいしよ?」
 じわりと、瀬奈の目に涙がせり上がってきた。胸が締め付けられ、喉の奥が締まり、瀬奈は無言で椅子から立ち上がって佳奈をきつく抱きしめた。
 ずっと、瀬奈が望んでいたこと。
 佳奈……と瀬奈が言うと、佳奈は瀬奈の背中に手を回した。
「お姉ちゃん……この流れも五回目くらいだからね」と、笑う佳奈の目にも涙が浮かんでいる。
「ごめんね……佳奈……ごめん……」と言いながら、瀬奈がきつく目を瞑る。閉じた瞼の間から涙が頬を伝った。
「いいんだよ……これからはずっと一緒にいようね。お姉ちゃ……」
 瀬奈がハッと気がつくと、赤黒い絨毯が目に入った。戸惑いながら周囲を見回すと、そこは高級ホテルのスイートルームのような部屋だった。漆喰で塗り固められた高い天井からはバカラのシャンデリアが下がり、壁は上質なマホガニーが贅沢に使われている。部屋には礼拝堂と同じく伽羅が焚かれ、中央には四人が寝てもまだ余るような大きさの豪奢なベッドが置かれていた。枕やシーツは全て光沢のある黒いシーツで、シワひとつ無く完璧にベッドメイクされている。当然だが自分のマンションでもなく、佳奈の姿も無い。
「えっ……え……?」と、瀬奈が周囲を見回しながら戸惑う。身体に違和感があり、ほとんど自由に動かない。見ると、瀬奈は壁にはめ殺しになったX型の拘束具に両手両足を固定されていた。ボディスーツは脱がされ、下着のみを身につけた状態で磔になっていた。
「なに……これ……?」
「お試し期間は終了だ」
 サエグサが瀬名の近くに置かれたソファに座ったまま、無機質な声で言った。サエグサは瀬奈を見ず、膝の上で組んだ自分の手を珍しい部品を点検するように角度を変えて見ている。
 サエグサは言った。「どうかな? 君のWISH(願い)は叶ったかな? 叶ったのだろう? 何を見て、何を体験したのかは私にはわからない。だが、おそらく君が望み、真実であってほしいと常日頃願っているものが具現化したはずだ。そうだろう?」
「……佳奈? 佳奈は……どこ?」と、瀬奈は首を振りながら、呆けたようにサエグサに言った。手にはまだ佳奈の髪の感触が残っている。
「佳奈? ああ、失踪している君の妹の名前だったな。残念ながら、我々はなにも知らん。WISHが君の願いを叶えただけだ」
「なに……それ……? 幻だったの……?」
「幻ではない。現実だ。君にとってのな……。使ったWISHの量は通常の三分の一程度。正規の量を使えば、最後まで幸せな『現実』に浸ることが出来るぞ」
 部屋の奥から低い笑い声が聞こえた。瀬奈が視線を向ける。部屋の奥に蝋燭の灯がともり、玉座の様な椅子に座った男の姿が浮かび上がった。サエグサが訓練された軍人のようにソファから立ち上がり、定規で測ったように玉座に向かって頭を下げる。玉座の男はでっぷりとした肥満体で背が低く、髪を剃り上げていて顔色も悪い。年齢は五十歳を過ぎているだろうか。男の着ている光沢のある白いローブが、血色の悪い顔と突き出た腹を悪い意味で目立たせていた。玉座は床から一段高い位置にあり、足元には踏み台の代わりに、がっしりとした男が四つん這いになっていた。屈辱的な姿の男はビキニのような黒い下着を履き、首輪から伸びるリードの先を玉座の男が握っている。瀬奈がよく見ると、その四つん這いの男はサジだった。玉座の男が難儀そうに立ち上がって、サジの背中を踏みつけて床に降りる。踏まれた時、サジは「ぐっ」と苦しげな声を漏らした。
 瀬奈は理解が追いつかず、黙って首を横に振った。男が床に降りて瀬奈に近づくと、リードを引かれたサジが悪さをした犬の様に四つん這のまま着いてくる。
「説明も無しにすまなかったね。見ての通り、ここは私の寝室だ。自分の部屋だと思ってくつろいでもらって構わないよ。ま、その格好じゃ難しいとは思うがね」
 男は下着姿で拘束されている瀬奈を見ながら低い声で笑った。「初めてのWISHはどうだったかな? WISHの正しい効果を知ってもらうためには体験してもらうことが一番早いと思って、サエグサに命じて使ってもらった。WISHは刺激が強すぎるから、初めて体験した時は、最初はみんな君のように戸惑う。あとは素晴らしい現実として受け入れるか、くだらない幻だと否定するかの二択しかない」
 男は鷹揚に両手を広げて見せた。口元は笑みを浮かべているが、目は全く笑っていなかった。
「あなたが……グールー?」と、瀬奈が言った。目の前の男は、お世辞にも高尚な人物だとは思えなかった。怠惰な生活が体型に出ていて、顔つきにも精悍さが無く、駄々っ子がそのまま大きくなったような、どことなく子供っぽい印象があった。

NOIZ立ち絵反転のコピー

スノウ立ち絵 2

朝比奈のコピー



 スノウが短い悲鳴を上げた。
 ただならぬ気配を感じて、男性戦闘員がお互いの顔を見合わせ、若年の男性戦闘員が気が触れたように叫んだ。縦に裂けた瞳孔の赤い瞳が激しく動揺している。
「落ち着け!」と、年上の方の男性戦闘員が宥めたが、パニックは収まらなかった。頭を掻きむしり、訳のわからないことを言いながら地団駄を踏んでいる。綾が素早くパニックを起こした戦闘員に近づき、「ごめんなさい」と言いながら腹部に強烈な突きを放った。男性戦闘員の体が地面に崩れ落ちる。
「彼ら二人がここに来ると、ノイズ様は事前に私に申されました」と豚が両手を組み、まるで神に祈るような仕草で言った。「この状況で『最も役に立たない人員』だからだそうです。おそらくあなた達はノイズ様がアンチレジストの本部に姿を現し、我々人妖が直接出向いて宣戦布告したので、本部は放棄せざるを得なくなったのでしょう? 新設の本部へ人員やデータの移行も速やかかつ確実に行わなければならない。しかし朝比奈ちゃんは連れ去られた。幸い我々の車に発信機を取り付けることに成功し、居場所は掴んでいる。だが優先度は本部移転の方が高いため、我々の追跡に割ける人員は限られる。ならば一部の精鋭と、失礼ながら戦闘しか出来ることの無い人員を派遣する方法が一番効率が良い……と、ノイズ様はおっしゃられました。ノイズ様がアンチレジストの人員リストを見て、そちらのお二人に白羽の矢を立てたのです。私は事前に部下に命じて、そちらのお二人にウイスキーを一杯ご馳走して差し上げました。喜んで飲まれていましたよ、『蜜』入りのレイズモルトを。これで我々の行いがハッタリではないとご理解いただけたと思います」
「下がっていろ。大丈夫だ」と、美樹が振り返って男性戦闘員に言った。男性戦闘員は頷き、失神している仲間に肩を貸して後ずさる。
「ほら、それですよそれ。あなたがここに来た理由です」と、豚が男性戦闘員を指さした。「その立場で、あなたはなぜ満足しているのです? 十歳以上も歳が離れている娘に命令されて、なぜ何の疑問も抱いていないのです? あなたはノイズ様のお導きによって生まれ変わったのです。人妖の強靭さはよくご存知でしょう。あなたがその気になれば、そちらのセーラー服や巫女装束を着た上級戦闘員の方々を栄養源にすることも可能なのです。栄養源の意味はもちろんお分かりでしょう? いやはや、アンチレジストの上級戦闘員様は美人揃いでうらやましい……。あなた方は仲間です。後ほどこちらから連絡しましょう」
 綾が男性戦闘員の肩にそっと触れながら、「落ち着いて。大丈夫よ」と諭した。男性戦闘員は目を泳がせたまま頷いた。
 美樹が鋭く息を吐き、豚に向かって駆けた。
 駆けながら太腿のバンドに取り付けた樹脂製のトンファーを抜き取り、回転させながら豚のスキンヘッドに向かって打ち落とす。豚はためらうことなく腕でトンファーを受け止めた。人間であれば骨折してもおかしくない衝撃であったが、豚はまだ笑みを浮かべている。豚が美樹を蹴飛ばし、美樹の身体が後方に吹っ飛ぶ。美樹の背後からスノウが飛び上がった。スノウは空中で前転し、豚の頭に踵落としを放つ。豚はスノウの足首を掴むようにして受け止めた。
「なんだスノウちゃんも悪い子だったのかい? 朝比奈ちゃんと同じように教育してあげなきゃいけないねぇ……」
 豚はスノウの身体を引きつけ、腹部に鈍器のような拳をめり込ませた。スノウの身体がくの字に折れる。華奢な腹部は豚の脂肪で膨らんだ拳に全体を潰され、内臓の位置が変わるほどの衝撃がスノウの身体を駆け巡った。
「ゔぶぇぁッ?!」
 おそらく人生で初めて腹を殴られたのだろう。スノウのいつもの自信ありげな表情が崩れ、苦悶に歪む。
「ぐぷッ……!」
 豚の放った拳のダメージは凄まじく、スノウは白目を剥き、唾液が口から弧を描いて吹き出した。スノウは受け身も取れずに地面に落下し、腹を抱くように抑えながら亀のように丸まった。
「わかったかなスノウちゃん。大人に逆らうとどうなるか」
 涙目になり、口から唾液を垂らしながらもスノウは豚を睨んだ。
 綾も豚に向かって駆けた。
「……ババァどもめ」と、豚が誰にも聞こえないような声量でつぶやいた。邪魔をするババア共には興味は無い。腹でも殴って気絶させてから、スノウちゃんだけを連れてアジトに帰ればいい、と考えた。
 突然、豚の視界が激しく揺れた。まるで後頭部を木製バットで思い切り振り抜かれたような衝撃だった。
 視界の隅に、グレーと白の戦闘服が見えた。
「……朝比奈……ちゃん?」
 豚が驚愕の表情を覗かせた。視界の隅で朝比奈と目が合った。朝比奈は豚の後頭部を膝で打ち抜いた姿勢のまま険しい表情で豚を睨んでいる。戦闘服は所々破れ、身体のあちこちに殴られた痕が見えたが、表情には強い意志が見て取れる。はっとして豚が正面を向いた。綾が雄叫びをあげながら、レザーグローブに包まれている拳を繰り出した瞬間だった。
 首が折れるほどの衝撃が豚を襲った。
 スローモーションで見たら豚の顔面は激しく歪んでいただろう。それほどの衝撃で綾の拳は豚の頬を撃ち抜いた。弾き飛ばされた豚は転がるようにしてバルクコンテナに突っ込んで行き、破裂したコンテナから大量のウイスキーが漏れ出した。鼻を突くアルコールの臭いが倉庫内に充満する。
 綾が構えを解き、フッと鋭く息を吐くと、朝比奈の元に駆け寄った。
「朝比奈ちゃん?! 大丈夫なの?」と、綾が朝比奈の肩を抱きながら言った。
「大丈夫です。こう見えても一般戦闘員の中ではランクは上の方なんです……。あの太った男の部下はそこまで強くはなかったので、不意打ちで隙を作って脱出しました。本来であればあの男の部下を制圧しなければならなかったのですが、おそらく皆さんに対して罠を貼っているだろうと思い、ここに戻ってきました」
 朝比奈はダメージがかなり残っている様子だったが、綾に対して気丈にも笑顔を作って敬礼した。綾は小さな朝比奈の身体を抱きしめてやりたい衝動に駆られたが、今は豚に追撃することが優先だ。綾は豚が突っ込んだコンテナのあたりを調べた。豚の姿は見えなかった。どこかに隠れているのだろうか。それとも逃げ出したのか。
 美樹が綾を呼んだ。スノウを背負っている。意識はあるが、ダメージが重く動けないようだ。
「今は撤収しよう。街の様子も気になる」と、美樹が言った。そのまま朝比奈に身長を合わせて「あの状況でよく頑張ったな。偉いぞ」と真剣な顔で言った。朝比奈は歯を見せずに笑い、美樹にも敬礼を返した。
 ふと、男性戦闘員の姿が見えないことに気がついた。
 一人は失神していたはずだ。
 倉庫の外に出ると、男性戦闘員の乗ってきた車も消えていた。「愚かな……」と、美樹が小声でつぶやいた。おそらく戻っては来ないだろう、と残された美樹達は思った。「あなた達は仲間です」という豚の言葉を間に受け、連絡を待つつもりなのかもしれない。
 四人で輸送車に乗り込み、美樹が朝比奈にチャームの解毒薬と回復薬を注射した。スノウが簡易ベッドに横になりながら「あんた……すごいわね……」と朝比奈に言った。自動操縦をアンチレジストの本部に設定する。おそらく鷺沢はまだ残っているはずだ。雨のカーテンの中、車は静かに走り出した。


 三神の視界の先、赤い絨毯が敷かれた部屋の奥の暗がりから、笑みを浮かべたノイズがスポットライトの下に歩いていきた。ぬめるような黒いドレスに深紅のジャケット。所々に赤い毛がまだらに混ざった長い金髪。年齢は若そうだが、誰も逆らえないような雰囲気を纏っている。
「ご苦労様でした」と言って、ノイズは一秒間に一回というゆっくりとしたテンポで手を叩いた。黒いレースの手袋をしているので、音は響かない。
「光栄です」と言って、三神が軽く頭を下げた。そして見ないフリをしながら、ノイズの大きく開いたドレスの胸元を盗み見た。
 この人からの融資を受けて半年以上が経つが、実際に顔を合わせたのはつい先日のことだ。そして初対面の時、三神はその若さと美貌に驚いたものだ。
 半年前、レイズ社の口座に突然見たこともないような大金が振り込まれた。そして三神が融資に気がついて困惑したまさにその時、まるで見ているかのようにノイズから電話がかかってきた。
 電話口でノイズは、自分の指示に従うのであれば今後も融資を続ける、断れば融資はこの一回のみで今後連絡はしないと告げた。そして自分の指示に従えばレイズ社と三神自身をすぐにでも世界的なブランドにしてやるとも告げた。
 正直に言って気味が悪かった。
 しかし当時のレイズ社は背に腹は変えられない状況だった。
 レイズ社は粗悪な海外ウイスキーを日本的な名前を付けて主にアジア向けに販売している零細企業に過ぎず、ウイスキー愛好家からはレイズ社にも三神自身にも白い目を向けられている状況だった。ブランド価値など無いに等しく、銀行からの融資もいつ打ち切られてもおかしくない経営状態で、まさに綱渡りの状態だった。ノイズからの融資は喉から手が出るほどの魅力があり、それに加えて功名心の高い三神にとって「世界的なブランド」という言葉の響きは抗い難い効果があった。
 三神はノイズの申し出を了承すると、翌日には豚のような見た目の男(その男は自分のことを「豚」と呼べと言ってきた)が秘書として派遣された。そして豚が抱えてきたアタッシュケースの中身をウイスキーに混ぜろを言ってきたのだ。アタッシュケースの中身は試験管に入った得体の知れない薬液だった。白濁したものと透明なものの二種類があり、いずれも無臭で粘性があった。毒ではないと豚は言ったが、詳細を聞いてもはぐらかされるだけだった。ノイズの融資を受け入れた時点で三神に拒否権は無い。三神は郊外に構えたレイズ社の小さな瓶詰め工場で、自らの手で試験管の薬液をタンクの中に入れ、数千本のウイスキーをボトリングした。豚はプロモーションはお任せくださいと言い、ボトリングしたうちのかなりの数をバーや飲食店に無償で配った。あんな気持ち悪い男が持ってきた悪名高いレイズモルトなど誰も見向きもしまいと三神は心の中で思っていたが、しかし程なくしてサンプルを配った店から捌き切れないほどの注文が舞い込んできた。無償でサンプルを飲んだ客が翌日の開店直後に店に現れて、また飲みたいからすぐにボトルを入れろと言ってきたらしい。中身は従来と同じく粗悪な海外原酒のブレンドなので、明らかに異様な事態だった。アタッシュケースに入っていた薬液の効果であることは三神もすぐに察した。しかし一度勢いがついた人気は止まらず、レイズモルトは噂が噂を呼び、すぐさまボトルの奪い合いやプレミア価格での転売が起きるほどの爆発的人気銘柄となり、三神はたちまちクラフトウイスキーの寵児として祭り上げられた。
 多くの取材依頼が舞い込んだ。いずれも肯定的なものであり、中にはウイスキーとは関係ない三神自身の生活ぶりや人となり、ビジネス成功論やカリスマ性についての取材もあった。
 三神は高揚感に包まれていった。もともと容姿には自信がある方だし、話術にも長けている。メディアへの露出も増え、三神自身を特集するテレビ番組や雑誌も日に日に増えた。レイズモルトも薬液を混ぜなくても作った側から羽が生えたように売れるようになり、有名無名に関わらず苦労して飲んだ連中が「日本の繊細な風土が育んだ、これぞモノづくり大国日本を象徴するジャパニーズクラフトウイスキーである」などと滑稽で的外れな盲目的絶賛をする様子も楽しかった。成功者の社交会のようなものに呼ばれ、一般庶民との明確な違いを実感した。こちらから呼ばなくても、男でも女でも群がるように寄ってきた。まさに絶頂の只中に自分はいると三神は思っていた。そしてノイズからの指示に従っていれば、これからも自分は安泰なのだ。
 だから今日の中継も、三神は承諾した。
 人妖という生物については当日聞かされ、人妖になる薬というものも先ほど飲んだばかりだ(無味無臭のとろりとした液体だった)。
 この中継で自分の信用はおそらく無くなるかも知れないが、このノイズという女がいれば大丈夫だ。
「あなたのおかげです」と、三神は左胸に手を当てたまま絨毯に片膝をついた。求婚するような仕草だった。
 ノイズは三神の顔を両手で挟み、首を傾げるようにして三神の瞳を覗き込んだ。エメラルドのような瞳に吸い込まれそうだ。ノイズは三神の目を見ると、満足げに口角を吊り上げた。
「ちゃんと変化しています。痛くなかったでしょう?」と、ノイズが蠱惑的な響きのある声で言った。三神は窓際に移動し、ガラスに自分の顔を写した。茶色だった瞳が、鮮血のような色に変化していた。
「おお……これが人妖! 人間を超越した存在!」
 三神の高笑いが響いた。
「これでようやく、あなたに見合う存在になれましたな」と、三神がスーツの襟を直しながら言った。ノイズはわずかに口角を上げたまま、首を傾げた。「あなたのお力添えのおかげで、十分な地位が築けました。もはや私は時代の寵児であり、今や人間という存在すら超越した。これからも良きパートナーとして、二人で歩んで行きましょう」
「……何を言っているんです?」と、ノイズが嘲笑するような口調で言った。「あなたの役目はこれで終わりです。あとは好きにしていただいて構いません。今後二度と会うこともないでしょう」
 三神の顔から表情が消えた。
「な……ちょっと待ってください……。私は十分な地位に上り詰めました。あなたのお力添えで、レイズモルトも私自身も、今や世間の耳目を集めるブランドです。あなたに相応しいパートナーとして、これ以上の男はいませんよ」
「お気持ちは嬉しいのですが、私には心に決めた人がいるので」と、ノイズは笑いながら背を向けた。赤いジャケットが翻り、三神を馬鹿にするように裾がはためいた。そして顔だけをこちらに向けた。緑と赤の混ざった目がやけに光って見えた。「あなたは私の指示通りによく動いてくれました。私の狙い通り、あなたは一般人よりも少しだけ有名になり、あなたの作るウイスキーは人気になった。そして『ちょうど良い範囲に』薬剤をばら撒く良い道具になった。ありがとうございます。お礼として人妖にして差し上げましたので、あとは整形で顔を変えて好きに暮らしてください。すぐに世界中に指名手配されるでしょうから、顔は全く別物にしたほうがよろしいかと思います。そうですね……たとえばあなたの秘書の豚さんのような顔などよろしいかと思います」
 クスクスと笑うノイズに、三神が「……おい、ちょっと待てよ」と低い声で言った。眉間にシワが何本も走っている。
「ふざけんなよ! 利用するだけ利用して、後は好きにしろってどう言うことだよ!?」
 三神が椅子を蹴り、撮影用のカメラを蹴飛ばした。
「まぁ、利用したなんて人聞きの悪い。あなたの無為な人生に意味を与えて差し上げたのに。あなたも状況を楽しんでいたでしょう?」と、ノイズが首を傾げて小指を舐めながら、トロリとした口調で言った。「あのまま後ろ指を刺される人生の方が、もしかしてお好みでしたか? 余計なことをして申し訳ありません」
「……人妖ってのは身体能力も人間より数段上なんだよな?」と、三神が地鳴りのようなドスの効いた声で言った。「お高く止まってんじゃねぇぞクソアマ! 下品な身体見せびらかせやがって……ブチ込んで泣き喚かせてやるよ!」
 三神がノイズに飛びかかった。
 それは三神の人生において最も愚かな行為だった。
 ノイズは「くふっ」と笑うと、一瞬で三神の前から消えた。次の瞬間、三神の鼻は潰れていた。ノイズは丁寧にセットされている三神の髪の毛を掴み、一ミリの躊躇いも無く三神の顔面が陥没するほどの勢いで膝を打ち込んだ。「ぶぎゃ!」という間抜け悲鳴が響き、ぐちゃっという音と共に三神の高い鼻が埋没した。白いスーツは赤いペンキをぶちまけたように真っ赤になり、三神は絨毯の上でのたうち回った。ノイズは三神の身体を蹴飛ばして仰向けにさせると、口の端を吊り上げながら靴のヒールを三神の右の眼窩に突き刺した。卵が潰れるような音の後に、地獄のような悲鳴が室内を震わせた。
「まぁ、大丈夫ですか? 正当防衛とはいえ、ここまで大袈裟に痛がられると気の毒に感じてしまいます……」
 眼窩に押し込んだヒールをグリグリとねじりながら、ノイズは他人事のように心配そうな声を出した。
 悲鳴を上げ続ける三神の顔面を踏み続けながら、ノイズは好みの音楽を探すようにスマートフォンを弄った。やがてスピーカーから音楽が流れ始めた。先ほど三神が流した音楽とは違うが、やはり機械的なノイズが所々に混ざっている。
 三神の身体が大きく痙攣した。
 腹部や頭部が膨張し、スーツのボタンが弾け飛ぶ。
「整形手術の手間が省けましたねぇ……」と、ノイズがクスクスと笑いながら言った。悲鳴を上げ続ける三神に背を向け、まるで最初からそこにいなかったかのように、音もなく部屋から去った。



[ NOIZ ] 前編は以上になります。次章更新までは今しばらくお待ちください。
次週からは以前ウニコーンさんに依頼いただいて執筆した[ WISH ]の続きを投稿します。

スクリーンショット 2021-05-04 22.20.26



 雨が降っていた。
 強くはないが、霧のように体にまとわりつく、嫌な雨だった。
 綾と美樹、そしてスノウは戦闘員用の輸送車に乗り込んだ。先に出発した車には男性の一般戦闘員が二人が乗りこんだらしい。アンチレジストの人員の大部分は早急な本部機能の移転のために残らざるを得ず、朝比奈救出は必要最低限の五人で赴くことになった。鷺沢も朝比奈救出には多くの人員を投入したかったが、いつ本部が襲われるかわからないための苦肉の人員配置だ。
 豚の車に取り付けた発信器は、港湾倉庫の一角で止まったまま信号を送り続けていた。輸送車はその信号を追い、自動運転で目的地まで向かう。内部はスポーツ選手の控え室のようになっていて、ストレッチやウォーミングアップをするのに十分は広さがあった。精密機械用のサスペンションが組み込まれていて、車が発進してもほとんど振動を感じない。綾と美樹、そしてスノウは思い思いにウォーミングアップを済ませると、向かい合ってベンチに座った。三人とも無言のまま、綾は麻酔薬を吸引し、美樹は小さな嵌め込み式の窓を見ていた。窓についた水滴が音も無く後方に流れていった。
「お姉様を嫌いにならないで……」と、スノウが飲みかけのペットボトルを見つめながらポツリと言った。綾と美樹は黙って話の続きを待った。
 綾や美樹が知っているシオンこそが、本当のシオンなのだとスノウは言った。シオンにノイズのような存在への変身願望は無く、そもそも自分の中にノイズという人格が存在していることすらシオンは知らないのだ。ロシアを離れて日本に移住したのも、あえて高等教育に飛び級しなかったのも、違う世界で新しい友人を作って見聞を広めた方がいいという家族のアドバイスにシオン自身が納得してのことだった。決して騙していたわけではなかったのだとスノウは言った。
「そんなの今さら言われなくても大丈夫よ」と、綾が背もたれに身体を預けながら言った。「私はこのままシオンさんと二度と会えないなんて絶対に嫌。たとえ任務を受けなくても勝手に動くつもりだったんだから。私も美樹さんも、組織や任務に関係なくシオンさんは大切な友達なの。友達を助けに行くのは当たり前でしょ」
 美樹が頷いた。「全部収まったら、みんなでシオンの家に泊まるか。あいつが料理を作り始める前にケータリングを取ってな」
「それはマストですね」と言って綾が笑った。「もちろんスノウも来なきゃダメだからね。シオンさんが料理作りそうになったらちゃんと止めてよ」
 綾がウインクして、スノウが少しだけ笑って頷いだ。
「しかし、気になるのはノイズの目的だ」と言いながら、美樹が体を屈めて膝の上で手を組んだ。「あの豚野郎の言った言葉が全て本当だとして、それでノイズに何の得があるんだ? 人妖に肩入れする理由がまるでわからない」
「人間を人妖にする方法を確立した……って言ってましたよね」と、綾が言った。「まさか……ノイズ自身が人妖になるつもりなんじゃ」
「それならシオンまで人妖になってしまうな……」
「冗談じゃない」と、スノウが首を振りながら言った。「ただ、私にもノイズの目的がわからないの……。子供の頃にノイズは『私の生まれた理由はシオンの罪を被って、シオンを「良い子」にし続けることだ』って言っていたけれど、人妖とは何の関係も無いし」
「『良い子』と『悪い子』なんて、そう簡単に線引きできるものじゃないんだけどね……」と言って、綾が天井を向いてため息を吐いた。「目的が何にせよ、ノイズを止めるしかないか……」

 輸送車は港湾エリアの奥の小さな倉庫で停まった。
 先に到着した男性戦闘員の二人は入り口に放置された二台の車を調べていた。二十代半ばと、三十代前半の一般戦闘員だ。
「車内に人影はありません。やはり、倉庫の中かと」
 年上の男性戦闘員がスノウたちに駆け寄り、敬礼しながら報告した。
「何かあればすぐに逃げろ。先頭は私が行く」と言って、美樹はタバコに火を付けて鋭く煙を吐いた。綾もグローブを締め直している。
 五人はスノウを真ん中にして倉庫に入った。倉庫内は煌々と照明が点いていて、一メートル四方のポリタンクが山積みになっていた。ポリタンクはケージに入れられ、下部にはコックの付いたキャップがついている。中身は液体のようだ。
「液体輸送用のバルクコンテナだわ」と、スノウが周囲を見回しながら言った。「この匂い……中身は海外から輸入したウイスキーでしょうね。一箱だいたい千リットル。おそらくここは、レイズ社の原酒保管庫でしょうね」
 正解でございます、と言う声がコンテナの奥から聞こえた。
 全員が身構える。
 コンテナの影から、豚がのっそりと姿を表した。
 相変わらず媚びるような笑みを浮かべたまま、両手を胸の前で擦り合わせている。
「おやおや! これはこれは!」
 豚が素っ頓狂な声を上げて、わざとらしく仰け反った。
「いったいどうされたんですかスノウさん! そんな水着みたいな格好をされて。目のやり場に困ってしまいますよ」
「うるさい! この変態!」
 スノウが豚を睨みながら指を差した。「あんたと話すつもりはないのよ。痛い目に遭いたくなかったら、さっさと朝比奈を解放することね。その後にノイズのいる場所に案内してもらうわ」
「残念ながら、どちらも不可能でございます」と、豚が眉をハの字にして言った。「ここに残っているのは私一人だけでございます。朝比奈ちゃんはすでに私の部下が別の場所に移送しておりますし、ノイズ様の居場所は私にもわかりません。あのお方からは的確な時に的確な指示をいただけるのみで、どこにいらっしゃるのか全くわからないのです。我々の前に姿を現されるのはそれが必要な時のみで、ほとんどは電話で一方的に指示をいただくだけでございます。電話番号も毎回変わりますので、こちらから連絡を取ることも出来ません」
「それならなぜ貴様はここに残ったんだ? この人数差だ。抵抗しても勝ち目は無いぞ」
 美樹が冷たい目で豚を睨み、タバコを地面に捨ててブーツの底で踏んだ。
「それはもう本日が特別な日になるからでございます。我々がようやく日の目を見るのです。こうして特等席にアンチレジストの上級戦闘員様をご招待したのに、対応を部下に任せて万が一粗相があってはいけませんので、私が直接ホストを勤めさせていただく所存でございます」と、豚が言った。
 豚がスマートフォンを操作すると、バルクコンテナの間に設置されているプロジェクターが起動して倉庫の壁に映像が映った。NHKのニュースが映り、ライトグレーのスーツを着たキャスターが昼間に首都高で発生した交通事故の原稿を読んでいる。
「何をするつもり?」
 綾が一歩前に出て言ったが、豚は何も答えない。
 突然、NHKのニュース映像にノイズが走って画面が切り替わった。
 レイズ社の社長、三神が映っていた。
 三神は薄暗い部屋の中で一筋のスポットライトを浴びながら、白いスーツを着て椅子に座っている。右足を上にして足を組み、その上に両手を組んで乗せている。まるでシャワーを浴び終えた後にソファーでくつろいでいるようなリラックスした座り方だ。顔には余裕のある微笑が浮かんでいた。豚は何回かチャンネルを変えたが、どのテレビ局も同じ映像を流している。豚は満足げに頷いた。
 綾がスマートフォンのニュースサイトを見た。「速報、日本全国で大規模電波ジャック発生」という見出しが踊っている。三神はその姿勢からたっぷり五分は動かなかった。最初は静止画かと思ったが、三神がまばたきするのが確認できた。この電波ジャックが広がるのを待っているようだ。
 やがて三神は、わずかに顔を上げた。
「皆様、おくつろぎのところを失礼いたします」
 三神は聞き取りやすい低音の声でそう言った後、たっぷりと時間をかけて頭を下げた。
「わたくしは、レイズ社の代表取締役をつとめさせていただいております、三神冷而と申します。ご存知のない方もいらっしゃるかとは思いますが、主にレイズモルトというウイスキーを作り、皆様に提供させていただいております。このたびは高まる需要に供給が追いつかず、市場価格が高騰し、皆様にご迷惑をおかけしていることを深くお詫びいたします」
 三神ふたたび時間をかけて頭を下げた。
「さて、本日は皆様にご報告があり、勝手ながらお時間をお借りしております。皆様は『人妖』という言葉をご存知でしょうか?」
 アンチレジストの面々の背中を、氷の虫が這った。
 なぜ三神の口から人妖という言葉が出る? しかも公共の電波を乗っ取ってまで。 
「人妖の存在は、都市伝説として耳にされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。人妖とは我々人間と全く同じ姿をしている別の生物であり、気付かぬうちに人間社会に溶け込んでいるバケモノである。容姿や頭脳や身体能力に優れ、食事や排泄を必要とせず、我々の性行為に似た捕食行動で活動し、なおかつその捕食行動は我々人間にとってこの上無い快楽をもたらす……というものです。結論から申し上げると、人妖の存在は事実です。各国の政府はひた隠しにしておりますが、未解決の行方不明事件の何割かが、人妖の手によるもなのです。事実、私は何名かの人妖と実際に接触を持っております。私は人妖との接触を通じて、人妖とは人間の完全な上位交換であるという結論に至りました。今後人間は、人妖の栄養源としての価値以外は無くなるであろうと考えています」
 綾はSNSのアプリを立ち上げた。話題のトレンドが三神の電波ジャック一色になっている。
「皆様はおそらく、私の頭がおかしくなったと思っているでしょう。ですが、私は事実を話しているだけです。怪しい宗教や陰謀論の話をしているのではありません」と、画面の中の三神が言った。その顔にはいまだに余裕のある微笑が浮かんでいる。「なぜこのような話を私がしているのか……。私のパートナーが、人間を人妖に進化させる薬剤の開発に成功いたしました。そして私はかねてから、私の作ったウイスキーを飲んでいただいた方に何らかのお礼がしたいと考えておりました。私のウイスキーは幸い市場に好意的に受け入れられています。いささか好意的過ぎると言ってもいいかもしれません。私のウイスキーを一杯飲むために、大変な経済的苦労をされた方も多いと聞いております。そのような苦労をされた方に、人妖に進化できるチャンスを進呈することにしました。私は数ヶ月前から発売したウイスキーの一部に、人妖に進化するための薬剤を混ぜております。本当は私のウイスキーを召し上がられた全ての方に人妖に進化していただきたいのですが、残念ながら薬剤には限りがあり、今回は抽選のような形を取らせていただきました。不幸にも今回漏れてしまった方は、次の機会をお待ちください。そして、今回選ばれた幸運な方は、どうぞ素晴らしい人生を──」
 スポットライトが徐々に減光し、三神の姿が闇に溶けるようにゆっくりと消えた。同時に、奇妙なノイズが混ざった音楽が流れ始めた。クラシック音楽のようで、教会の鐘のようなピアノの後に、重厚な旋律が追いかけてくる。決して耳障りの良いものではない。豚だけは目を閉じて、その奇妙なノイズ混じりの聞き苦しい音楽に身を任せていた。
「ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番……お姉様が好きだった曲……」と、スノウが呟いた。
 画面が暗転してから、約三分ほど音楽が流れた後、唐突に画面が元に戻った。インカムに手を添えて混乱した様子のキャスターが映される。
「えー、今、放送が回復しました。ただいま日本で大規模な電波ジャックが発生した模様で、えー、警察は事件に関与していると思われる株式会社レイズの三神冷而氏から事情をうかがうべく──」
 そんなことは今見たから知っている、と誰もが言いたくなるような内容をアナウンサーが喋った。しかし、現場が混乱していることだけは伝わってきた。アナウンサーは同じ内容を繰り返して発言し、その声に被せるようにスタッフと思しき複数の人間が怒号を発している。おそらく他局でも同じような状況なのだろう。
「あんた達いったい何したのよ!」と、綾が叫んだ。
「聞いての通りです。我々が発売したウイスキーのごく一部のボトルに、ノイズ様が造られた神の蜜を混ぜました。全ては滞りなく、ノイズ様のご指示の通りに進んでおられる……」と、豚が両手を広げて言った。まるで最上級のコース料理を堪能し終えたような、うっとりとした口調だった。「そして、そのウイスキーを飲んだ人間にノイズ様の紡がれた特殊な旋律を聞かせると、脳の一部に作用して人妖に進化できるのです。ボトルが誰の手に渡ったのかは我々にもわかりません」
「……なんてことだ」と、美樹が呟くように言った。背後を振り返り、男性戦闘員に指示を出す。「お前たちは本部に戻れ。人妖の存在が知られたとなると──」
 美樹の言葉が途中で止まった。
 男性戦闘員二人の瞳が赤く光っていた。
 人妖の目だった。

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