Яoom ИumbeR_55

Яoom ИumbeR_55は「男性→女性への腹パンチ」を主に扱う小説同人サークルです。

2023年11月

ABCD!にて配布させていただいた新刊、[Alto_Luna] がDLsiteで販売開始しました。
こちらのブログで連載していた小説の完結までと、挿絵が入っております。
興味のある方はよろしくお願いします。

【販売ページは下記バナーをクリックしてください】



_本文
 小説(文庫本サイズ):PDF112ページ
 小説(スマホサイズ):PDF195ページ
※文章の内容は文庫本サイズ、スマホサイズ同一です

_イラスト
 フルカラー4シーン(表情、衣装破壊差分など合計16枚)
 イラストレーター:スガレオン様(https://www.pixiv.net/users/1937373)

DLsite サンプル2

DLsite サンプル1

DLsite-サンプル4

※過去作を読んでいなくても楽しめます。
※ラフの状態ですので、製本時には内容が変わっている可能性があります。

1話から読む


 葵は夢中でジムの階段を駆け上がった。
 途中、何度も涙で目の前が霞み、足がもつれて転びそうになったが、それでも足を止めなかった。地上に出てからも夢中で走り、どこかの裏路地に入って、雑多に積み上げられたゴミ袋の奥に座り込んだ。呼吸が整うにつれて瑠奈に言われた言葉が蘇り、葵は膝を抱えて泣いた。
 自分なりに、自分を変えようと努力していたつもりだった。だが結局最後はいつも瑠奈に甘えていた。配達員に襲われた時も、警察に説明することが怖くて瑠奈を呼んだ。凍矢の裏取りをする時も、また沙織と会うことが怖くて瑠奈に任せた。勝手に駆けつけた凍矢との戦闘でも、太刀打ちできなかった。その挙句招いた結果が、唯一の親友に愛想を尽かされるという最悪の結末だ。

 いや、遅かれ早かれ、いつかはこうなっていたのだ。
 瑠奈のことを酷いとは全く思わない。
 瑠奈と自分とでは、そもそも人間としての価値が違う。思えば当然のことなのに、なぜ自分は勘違いをしてしまったのだろう。瑠奈にコーヒーを美味しいと褒めてもらった時、瑠奈と一緒のベッドで明け方まで話をしている時、瑠奈がブイチューバーの活動を褒めてくれた時──もしかしたら自分にも少しは価値があるのではないかと、なぜ自分は勘違いをしてしまったのだろう。
「はは……馬鹿みたい……」
 葵は涙を拭うと、ポケットから小さいカードのようなものを取り出した。戦闘員が常に携帯している小型の通信機だ。最後の仕事として、せめて凛に瑠奈の救援を要請しなければならない。
 全てが終わったらアンチレジストもブイチューバーも全部やめて、これからは勘違いしないように、なるべく人に迷惑をかけないように、静かに生きていこう。

 通信機と一緒に、小さい樹脂片がポケットから地面に落ちた。
「……あ」

 葵が目を丸くする。
 折れたカチューシャのように見えたが、それは紛れもなく瑠奈のヘッドパーツの破片だった。
 葵はそれを発掘したばかりの貴重な化石のようにそっと拾い上げ、無意識に頭に装着した。
 ピリッ……という小さな電流がヘッドパーツから流れたかと思うと、頭上から「葵」と声をかけられた気がした。

 葵はハッとして顔を上げた。
 目の前に、まるで透明なスクリーンに投影された立体映像のような瑠奈が立っていた。薄く発光する瑠奈は、葵から目を逸らして恥ずかしそうに頭を掻いた。
「あのさ……」と、瑠奈が言った。瑠奈が喋ると、その姿は擦り切れる寸前のビデオテープのように大きく歪んだ。
「さっきは酷いこと言って、ごめん……」
 葵が首を振った。「そんなことないよ……。私の方こそ、いつまで経っても全然成長しなくて……」
「葵は十分頑張ってるよ」
「頑張ったって、結果が出てないから意味ないよ……」
「すぐに結果が出なくたって、その頑張れるってこと自体が、そもそもすごいことなの」
 瑠奈は真剣な顔をして葵と向き合った。瑠奈の姿にさらに大きなノイズが走った。
「葵は苦手なことでも絶対に逃げずに、必死に正面から立ち向かってるじゃん。苦手なコミュニケーションだって克服するために講座受けたり、心理学勉強したり、最後にはブイチューバーにもなっちゃうなんて、本当にすごいよ。誰にでもできることじゃない」
「でも……」
「本当だよ。昔から葵はそうだった。あの時だって……小学校の教室で初めて私から話しかけられた時だって、逃げなかったでしょ? それまで一言も喋ったことがない、こんな訳わかんない外国からの転校生から、いきなり声掛けられた時にだってさ。私が葵の立場だったら驚いて逃げちゃうかもしれない……。だからさ、本当に感謝してるんだ。あの時、逃げないでくれてありがとう。もしあの時、葵に拒否られてたら、私は今とは全然違う人生になっていたと思うよ」
 強いノイズが走り、瑠奈の姿が不鮮明になった。
「あ、ごめん。もう限界みたい」
 ノイズが更に激しくなり、かろうじて瑠奈が人差し指を唇に当ててウインクをしている様子がわかった。
「葵、今まで本当にありが──」
 再生中のテレビの電源コードを抜いたように、瑠奈の姿がきっぱりと消えた。
 葵はしばらく瑠奈の消えた空間を見つめていたが、そこには何か温かいモヤのようなものが残っているように感じた。やがて葵は涙を拭うと、通信機のスイッチを押した。
 ワンコールの途中で凛が出た。
「もしもし、あおっぴ? 瑠奈ちなんだけど──」
「申し訳ありません。二人とも命令違反をしています」
「え……? あおっぴ?」
「私も瑠奈も、凍矢のジムにいます。瑠奈がピンチなので、すぐに救援をお願いします。勝手なことを言って申し訳ありません」

 葵が再びジムのドアを開けると、微かに漂う汗の匂いに混じって、獣じみた気配が身体にを包んだ。天井に埋め込まれたハイエンドのエアコンでも除去しきれないそれは、フロア中央のから漂っていた。
 瑠奈はまさに今、服を脱がされようとしているところだった。
 瑠奈はベンチプレス台に座らされ、背後から胸を鷲掴みにされていても、まるで魂が抜けたように抵抗も拒絶もしていなかった。両腕は脱力してだらりと垂れ、目からも光が消えている。もちろん声を発したり、自分から何かすることもない。
 無反応な瑠奈に、凍矢は苛立っているようだった。 
「おいおい、ダッチワイフじゃねぇんだぞ? 少しは反応しろや」
 声をかけられても、瑠奈は反応しない。無視をしているというよりも、全く聞こえていない様子だった。業を煮やした凍矢が舌打ちをして瑠奈の胸の部分のスーツに手をかけた時、葵に気がついた。
「……なんだ、またお前かよ」凍矢が呆れたように立ち上がった。「こいつ見捨てて尻尾巻いて逃げたくせに、なんで戻ってきたんだ? 俺に犯されたくなったのか?」
 瑠奈もゆっくりと顔を上げ、葵の姿を見ると目を丸くした。
 葵は何かを振り切るようにギリッと歯を食いしばり、頭に付けている瑠奈のヘッドパーツの破片に触れた。
「わ……わ……」
「あ? まともに喋れねぇなら黙ってろよ」
 凍矢があざ笑いながら立ち上がった。
「わ……私の親友に……酷いことをするな!」
 一瞬、凍矢の動きが止まった。

 叫ぶと同時に、葵は凍矢に突進した。凍矢が身構える。葵は素早く距離を詰め、凍矢が伸ばした腕をかいくぐると、その顎を掌底で突き上げた。
「……お?」

 強烈に床を踏み込み、腰を落とした一撃だった。
 凍矢が天井に埋め込まれたライトの眩しさに目を細める。
 瑠奈のヘッドパーツから、冬の太陽のような暖かい熱が伝わってくる。その熱は葵の全身の筋肉を満遍なく解きほぐし、生まれ変わったような自信をもたらした。
 葵は凍矢の右手首とティーシャツを掴むと、独楽のように素早く回転して凍矢の内股を跳ね上げた。凍矢の身体が水車のように回転し、背中から床に叩きつけられる。
 回転の勢い余って葵は凍矢の上に仰向けに寝る。凍矢が背後から葵の身体に腕を回した。再び締め上げるつもりだったが、葵は身体を反転させて凍矢に向き合うと、マウントポジションから両腕をクロスさせてティーシャツの奥襟を掴み、凍矢の頭を胸に抱くようにして引き付けた。
「がッ?!」
 十字締めが極まり、凍矢は両腕で葵を押し除けようとするが、葵も必死に凍矢の頭に覆い被さるようにして耐える。しばらく攻防が続いた後、凍矢の動きが徐々に弱くなると、やがて完全に意識を手放した。
「ぷはッ! はっ……はぁ……はぁ……」
 葵がようやく顔を上げた。葵も息を止めていたのか、滝のような汗が顎を伝って凍矢の身体に落ちる。
「葵……」と言って、瑠奈が葵に近づいた。その顔は最初困惑した表情を浮かべていて、次に泣きそうになりながら、最後に笑った。
「あんた……ちゃんと喋れるじゃん?」
「……え? あれ? 本当だ」
 葵も笑って、恥ずかしそうに頭を掻いた。その時、葵が装着していたヘッドパーツに大きなヒビが入り、役目を終えたことを悟ったように崩れて床に落ちた。
「また瑠奈に助けられちゃった……」
「なに言ってんの。助けられたのはこっちじゃん」
「違うよ。必死に逃がそうとしてくれたし、凍矢に勝てたのもこのヘッドパーツのおかげだし。それに──」と言って、葵はイタズラっぽい笑みを浮かべた。「喋れるようになるためのショック療法も、この通りすごく効いたしね」
 瑠奈は「うぅ」と呻いて両手で顔を覆った。耳まで真っ赤になっている。
「あと十年はこのネタで擦られそう……」
「たぶんもっと長く擦るかな。へへ」
 瑠奈は顔を覆っていた両手を外すと、大粒の涙を流しながら葵を抱きしめて声を殺して泣いた。
「ちょっと、どうしたの?」と言って、葵は瑠奈の頭を撫でた。
「ごめん……酷いこと言って……」
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから……。ね、とりあえず帰ろう?」
 葵も泣きそうになるのを堪えて笑った。

 瑠奈も立ち上がって涙を拭う。
「……うん」
「凛さんには連絡してあるから。もうすぐ来ると思うし」
「……めっちゃ怒られるだろうね」
「だろうね。その時は一緒に──」
 突然、ドグリュッ……! という異様な音を立てて、葵の身体がくの字に折れた。
 なにが起こったのか分からず、彼女達の表情が凍りつく。
 葵は恐る恐る衝撃のあった箇所に視線を落とした。
 目に見えない硬いものが腹部にめり込み、剥き出しの腹に大きなクレーターができている。
「ん゙ッ?!」
 葵は突然込み上げてきた猛烈な吐き気に両手で口を押さえると、支えが無くなったように両膝を床に着け、そのまま額を床に打ちつけた。四つん這いの姿勢でうずくまり、ビクビクと激しく痙攣しながら嗚咽を漏らしている。
「ゔぇっ……?! ぐっ……がはッ……?!」
「え……? 葵……?」

 なにが起きたのか理解できない。

 凍矢は失神したまま微動だにしていない。
 瑠奈が素早く周囲を見回した瞬間、グジュッ……という音を立てて瑠奈の鳩尾のあたりが大きく陥没した。
「ふぅッ?!」
 一瞬で瑠奈の瞳孔が収縮する。
 その直後、絶望的なダメージが脳内を駆け巡った。
「ゔぶッ?! ぐぶぇッ!!」
 人体急所を不意打ちされ、瑠奈はたまらずに片膝を着いた。ガクガクと震えながらも必死に歯を食いしばり、倒れ込むことをなんとか耐えて周囲に注意を向ける。葵もようやく顔を上げたが、とても動ける状態ではない。
「……まったく。本当に私の部下は使えない奴ばかりだな。交渉失敗の尻拭いをして帰ってきたら、今度は小娘二人にKOされているとは」
 声のした方に視線を送っても、何も見えない。だが突然、凍矢の身体が弾き飛ばされたように吹っ飛んで、派手な音を立ててダンベルラックに突っ込んだ。凍矢は衝撃で目を覚ますと、勢いよくその場で土下座した。
「す、すみませんでした! 凍矢さん!」
 凍矢は切れた唇から血が流れているもの構わず、震えながら額を床に擦り付けている。その先の空間に一瞬ノイズが走ると、虚空から男が現れた。
 スキンヘッドで全裸の中年男性。
 腕や足が丸太のように太く、腹回りもでっぷり突き出ている。まるで引退したプロレスラーかボディビルダーのような体格の男だった。
「亜冷(あれい)、わかっているな? 次に何かヘマをしたら君は終わりだ。この前アンチレジストに捕まったバカと同じ目に遭わせるぞ? もちろん君が大切にしている例の女も一緒にだ」
「……はい! すみません!」
 自分の首を絞める仕草をする凍矢に、亜冷は怯え切った様子で床に額をつけながら叫んだ。凍矢は視線をゆっくりと葵と瑠奈に向ける。
「まぁ、女運は相変わらず良いみたいだな。二人ともタイプは違うが、かなりの上玉じゃないか。客に出すのが惜しいくらいだよ──プレイルームに運べ」



【新作告知】

こちらの葵ちゃんと瑠奈ちゃんが主役の新作[Alto_Luna] が完成しました。
下記イベントで配布させていただきます。
短編読切のため1冊で楽しめる内容です。
よろしくお願いします。


_イベント
 2023/11/12 ABCD!9 綿商会館
http://www.ippan-seiheki.com

_スペース
 B-14 / Яoom ИumbeR_55

_新刊
 [Alto Luna]
 B5/小説63p/挿絵4シーン(差分多数)
 ¥1,000-

_サンプル
http://roomnumber55.com/archives/cat_244460.html

SNS用ポスター入稿用

※過去作を読んでいなくても楽しめます。
※ラフの状態ですので、製本時には内容が変わっている可能性があります。

1話から読む


 凍矢の放った拳を葵は素早く避けた。
 小柄な体格を活かして凍矢の死角に潜りながら、踊るように足元にまとわりつく。
 やがて、隙を見て凍矢の腕を掴んで一本背負いの体制に入った。
「うおおッ!?」
 凍矢の身体がふわりと浮き、背中から床に落下する。葵は背後を取ったまま凍矢の上半身を起こし、顎の下に腕を滑り込ませて裸締めを試みた。凍矢は身体を反転させ、向かい合うようにうつ伏せになって防ぐ。だが葵も凍矢の腕を掴んで、素早く首と脇の下に太ももを絡めて三角絞めの姿勢に入った。動脈を極められ、瞬く間に凍矢の顔が鬱血するが、凍矢は意識を失う前に力任せに立ち上がった。
 三角絞めを極めた状態で抱え上げられるという予想外の事態に、葵は驚いて床を見下ろした。
 葵の身体は凍矢の頭上まで掲げられ、ハンマーを振り下ろす要領で背中から叩きつけられた。
「がはぁッ?!」
 葵はたまらず三角絞めを緩めた。
 凍矢が葵の腹を踏みつけようとするが、葵は直前で避けて素早く起き上がる。すかさず凍矢の右手首とトレーニングショーツの腰紐を掴んで投げの体制に入るが、凍矢は腰を落として堪えた。まるで根が生えたように動かない。
「なるほど、柔術か。珍しいな」凍矢が葵の耳元で囁いた。同時に背後から太い腕をまわし、軽々と葵の身体を抱え上げた。「柔道なら確かに多少の体格差や筋力差は覆せるが、それはあくまでも人間同士での話だ。それ以上に筋力差があると関係なくなるんだよ」
 凍矢が葵の身体を持ち上げたまま、万力のような力で葵の身体を締め上げた。
「がッ?! ああああッ?!」
 背後から両腕ごと胴体を締められ、葵の全身からメキメキという嫌な音が鳴る。両足は完全に床から浮いており、踏ん張ることもできない。
「へへ、軽いな。このまま骨を砕いてもいいが、少し遊んでやるよ」
 凍矢は締め上げたまま葵のヘソの前で握り拳を作り、もう一方の手で包み込むと、自分の身体に引き付けた。
 葵の腹が強烈に圧迫され、岩のような凍矢の拳が葵の腹にめり込む。
「ぐぼッ?!」

 胃を潰され、窄めた葵の口から絞り出されるように唾液が噴き出す。
「拳骨が背骨に当たってるのがわかるか? このまま腹の中シェイクしてやるよ」
 ぐっぽ、ぐっぽ、ぐっぽ、ぐっぽ……という水っぽい音を立てて、凍矢はリズミカルに葵の腹を圧迫した。殴打のような派手な衝撃は無いものの、プレス機のような力で何度も腹を潰されるというあり得ない苦痛に葵は身体を悶えさせながら叫んだ。
「ゔッ?! ぶッ?! んぶッ! ごぶッ!? お゙ッ?! お゙ぇッ!? ゔぐッ!? ゔあああぁッ!」
「なんだお前? 目つき悪い割に声はずいぶん可愛いな」
 凍矢は葵の腹を圧迫するのを止め、左手で葵の右手首を掴んだ。葵の左腕も脇の下に挟んでガード不能にすると、自分自身を殴るようにして葵の腹にハンマーのように拳を打ち込んだ。
「ゔぐぇッ!?」
 部屋全体に土木工事のような音が響き渡る。
 凍矢の鉄板のような腹筋と鈍器のような拳に挟まれ、葵の剥き出しの腹は惨たらしく何回も潰れた。
「ゔぶッ!? ぐあッ! おごッ! ぶぐっ?!」
「本当にそそる声だな。もっと聞かせろよ」
 逃げ場の無い状態で拷問のような攻撃を受け続け、葵はとうとう白目を剥いたままガクガクと痙攣し始めた。

 だが、凍矢は攻撃を止めなかった。
 凍矢はグロッキーになっている葵を対面するように抱き直し、丸太のような腕で一気に締め上げた。凄まじい圧力に、葵の身体がエビの様にそり返る。
「あがッ?! ぐあああああッ!」
「へへへ……いいぞ。もっと苦しめ」
 凍矢は叫び声を上げる葵の顔を覗き込みながら、満足げな笑みを浮かべた。
 葵の華奢な身体が凍矢の厚い身体に押し潰され、全身からミシミシという骨の軋む嫌な音が響く。
 葵は自由になった両手で必死に抵抗するが、もちろん投げ技をかけることなどできず、ただ凍矢の太い腕を無意味に掴むだけに留まった。
「お前、あのウサギ女に比べたら面白くねぇ身体してんなと思ったけど、腰回りや太ももは悪くねぇな。可愛い声してるしよ……ガン突きしまくって泣き叫ばせてやるよ」

 衝撃があり、凍矢の身体がぐらついた。
 瑠奈が背後から体当たりをした。当たりどころが良く、三人が重なるように倒れた。地獄のような締め付けから解放された葵はうずくまって激しく咳き込んでいる。
 凍矢が葵に手を伸ばすが、瑠奈が満足に力が入らない身体で凍矢にしがみついた。
「おとなしく寝てろ!」
「やめろ! 葵に手を出すな!」

 凍矢が舌打ちをして、まとわりつく瑠奈と揉み合う。
「葵!」と、瑠奈が叫んだ。「葵だけでも逃げて! 早く!」
「や……やだ……」
 ようやく葵も身体を起こしたが、膝が笑っていて立っているのがやっとの状態だ。
 葵に駆け寄ろうとしている瑠奈の首に、凍矢の太い腕が背後から巻きついた。
「ぐあッ!?」
「る……瑠奈!」
 顎を引いてかろうじて気道が締まるのを防いでいるが、瑠奈の顔がみるみる赤くなっていく。
「チアガールちゃんよ、逃げたらわかってんな?」と、凍矢が言った。「脱げ。服を全部脱いで土下座しろ。このウサギ女の首折られたくねぇだろ?」
 葵の顔が真っ青になった。
 無理に攻撃しようとしても、勝ち目はないかもしれない。下手に刺激して瑠奈に危害が加わるのもまずい。
「葵……! 私のことはいいから……あぐッ?!」
「うるせぇ。俺は今チアガールちゃんと話してんだよ。お前もちゃんと犯してやるから安心しろ。おい何やってんだ! 早く脱げ!」

 葵の小さい肩が震えていた。
 凛の懸念を無視して飛び出してきた挙句、瑠奈を助けることもできず、こんな状態でも瑠奈に庇われている。結局いつものように、自分はただ周りに迷惑をかけているだけの存在じゃないか。
「うぶっ!? お゙ぇッ……!」
 胃を締め上げられるような猛烈な吐き気を感じ、葵は口元を押さえた。
 表情には深い絶望の色が浮かんでいる。

 もういい。
 役立たずの自分が身体を差し出すことで、瑠奈が助かるチャンスがあるのならそれでいい。
 自分が酷い目に遭っているうちに、もしかしたら瑠奈が逃げ出せる隙が生まれるかもしれない。
 それにこれ以上、瑠奈が苦しむ様子を見たくない。
 葵が震える手でジャケットに手をかけた。
「お……お前いい加減にしろよ!」

 葵の手が止まった。
 恐る恐る顔を上げると、瑠奈が今まで見たこともないような恐ろしい顔をして葵を睨んでいた。
「あんたさ……なんでいつもそんなにビクビクしてんの?」と言って、瑠奈は蔑むような笑みを葵に向けた。「前からムカついてたんだよ。いつまで経っても喋れないし、自信は無いし、ずっと私の後ろに隠れてるし……。私がいなかったらこれからの人生どうすんの? というかさ……マジで私と釣り合ってると思ってるわけ?」
「……え?」

 葵は絶句して固まった。

 瑠奈の発する言葉の意味が理解できなかった。
「え、じゃねぇだろ……? 私がなんでいつもあんたと一緒にいるのか教えてあげようか?」

 耳を塞ぎたくても、身体が動かなかった。
 強烈な吐き気が再び込み上げてきて、葵は無意識に両手で口元を押さえた。
 だが、瑠奈から目を逸らすことができなかった。
「あんたみたいなダメな奴と一緒にいるとさ……安心するんだよ」
 やめて。
「こんな奴でも生きていけるんだって思えるじゃん?」
 やめて。
「引き立て役って知ってる?」
 やめて。
「あんたがそれだよ」
 やめて!
「みんな言ってるよ? 瑠奈はあんなダメな子にも対等に接してあげて優しいねって──」
「やめて!」
 吐き出すように葵が叫んだ。
 下を向いているので表情はわからないが、肩と膝が大きく震えている。
 葵は顔を上げることなく、瑠奈と凍矢に背を向けると走ってジムから出ていった。
「おい、待て!」

 凍矢は瑠奈の身体を放り出すと、葵を追いかけた。
 誰もいなくなったジムに、しばらく瑠奈の呼吸音だけが響いていた。呼吸音はやがて啜り泣く声に変わり、床にうずくまった瑠奈は綺麗な金髪をまるで何かの罰のようにぐしゃぐしゃと掻き回して、血が滲むほど頭皮に爪を立てた。そして最後に、右耳にひとつだけ付けている青い花のピアスをそっと撫でた。
「……ごめんね。ごめんね葵……元気でね……」
 瑠奈は顔を伏せたまま嗚咽を漏らし続けた。
 深海で座礁した潜水艦の中に独りで取り残されたような孤独感と悲壮感が、瑠奈の周囲に漂っていた。


11月12日のイベントに参加します。


y42F1XKa.jpg-large

※過去作を読んでいなくても楽しめます。
※ラフの状態ですので、製本時には内容が変わっている可能性があります。

1話から読む


 夜ノ森メルルの配信が終わった。
 時計の針は夜九時を指していた。
 葵はいつものように汗で濡れたヘッドフォンを拭き、冷めたコーヒーを一息で煽ると机に突っ伏した。五分ほどじっとした後、むくりと起きて洗面所で身支度を整える。
 以前なら配信後はたっぷり三十分は動けなかったはずなのに、最近は消耗度合いがかなり減ってきた。喋りも心なしか滑らかになってきた気がする。瑠奈にもどんどん喋れるようになってきたと言われたばかりだし、いよいよブイチューバー活動の効果が出てきたのではないだろうか。
 瑠奈といえば、今日はやけに来るのが遅い。
 沙織のとこで凍矢の人相確認をすればいいだけなので、そこまで時間はかからないはずだ。お互いの合鍵を持っているので、いつもなら葵が配信中に静かに入ってきてリビングで待っていることが多いのに。

 リビングを覗いてみたが、やはり瑠奈の姿は無かった。
 なにかのはずみで倒れたのか、テーブルの上のパキラの鉢が倒れて土がこぼれている。
 ふと、強い胸騒ぎのようなものを感じた。
 瑠奈に電話をかけようとしたとき、スマートフォンのディスプレイに表示されたニュースアプリの通知が葵の目に止まった。

『新宿区、未成年保護ボランティアのテントで通り魔? 複数人が緊急搬送』

 葵は考える間もなく通知をタップした。

『本日午後七時ごろ、東京都新宿区の路上で「複数の人が倒れている」と警察や消防署に連絡があった。場所は家出した未成年が多数集う通りで、警察によると被害者の五人はいずれも現地で保護ボランティアとして活動しているメンバーだという。被害者は頭や体を強い力で殴られたとみられ、代表の牧村沙織さん(十七)は重体で集中治療室に入っている。凶器は見つかっておらず、警察は話ができる被害者から事情を聞くなどして詳しい状況を調べている』

 葵は瑠奈に電話をかけたが、数回コールした後に留守番電話になってしまった。
 一瞬躊躇ったが、凛にも電話をかけた。
 凛はワンコール目の途中で電話に出た。
「もしもし、あおっぴ? 珍しいね電話なんて」
「あ……う……る、瑠奈……」
「え? 瑠奈ちがどうしたの?」
「れ、連絡……いってないですか?」

 電話の向こうで、凛が思案する気配があった。
「私のところには何も来てない。そっちにも帰ってないってことだよね?」
「あ、さ、沙織さんのテ、テントが、お、襲われたみたいで……」
「……え?」電話の向こうでキーボードを叩く音が聞こえた。「本当だ……。ここ、瑠奈ちが裏取りしに行った場所だよね? あおっぴ、まずは落ち着いて。まだ瑠奈ちが巻き込まれたって決まったわけじゃないから。こっちで情報収集して、なにかわかったらすぐに連絡する。それまでは動かずに自宅待機でお願い」
「は、はい……」

 電話を切ると、耳が痛くなるほどの静寂が葵を包んだ。
 葵はひとまず倒れたパキラの鉢を元に戻し、こぼれた土を集めて捨てた。テーブルを拭いた後、ぼうっとしたままダイニングチェアに座る。目の前の椅子に、いつも通り胡座をかいて座る瑠奈の幻が見えた気がした。
 世界から自分以外の人間が死に絶えたような気がした。
 時計は凛との電話を切ってから五分しか進んでいなかった。
 居ても立ってもいられず、葵は合鍵を持って瑠奈の部屋に向かった。エレベーターを三階分降りて、「真白」と書かれたプレートの嵌っているドアの前に立った。呼び鈴を押しても返事がない。念のためにドアに耳を押し当てても、物音がしない。そもそもこのマンションは室内の音がほとんど外に漏れ出ないのだ。
 鍵を開けて中に入る。

 嗅ぎ慣れたルームフレグランスの優しい香りが出迎えた。
 間取りは葵の部屋と一緒だが、ウォルナットとグリーンを基調とした葵の部屋とは違い、瑠奈の部屋は白とステンレスにナチュラルウッドを用いた極力生活感を排したインテリアでまとめられている。
 整理整頓は行き届いていた。
 リビングとダイニングのそれぞれの壁には、白く塗られた大小さまざまな木のブロックがランダムに配置された板が一枚ずつ掛けられていた。光の当たる角度でブロックが陰影を生み出す立体アートで、瑠奈がアメリカで買い付けてきたものだ。食器やカップも全て白で、同じものが二つずつ揃えられていた。
 もちろん瑠奈はいない。
 勉強部屋や洗面所もいつもと変わらない様子だったが、葵が最後に寝室に入ると、ようやく異変が見つかった。
 クローゼットが開けっ放しで、別れた時まで瑠奈が着ていた制服や下着が床に投げ捨てられていた。
 瑠奈が脱いだ服を床に放置したまま出かけるなどありえない。そして、葵はクローゼットの中の何がなくなっているのかすぐに理解した。
 アンチレジストのバトルスーツがなくなっている。
「凍矢のところに行ったんだ……」と、葵はつぶやくように言った。
 ベッドのヘッドボードには、葵と二人で撮った写真が何枚も置かれていた。
 葵は写真の中の瑠奈の笑顔をしばらく見つめた後、部屋を飛び出した。自室に戻って服を全て脱ぎ、バトルスーツに着替えてから大きめのスポーツウェアを重ね着した。外に出てタクシーを拾い、あらかじめスマートフォンに表示しておいた住所を運転手に見せた。
 一瞬、凛に連絡しようと思ったが、昼間の凛の言葉が蘇り思い止まった。

『縁起でもないけど、敵が強力すぎて上級戦闘員が二人同時に欠けるのは避けたいし』

 瑠奈と自分のどちらかが欠けるのなら、自分が欠ければいい。
 自分の人生は、瑠奈がいなかったら、死んでいたも同然なのだから。

 ジム全体を揺らすような衝撃が響いた。
「ゔぐッ?!」
 チンニングマシンが軋んで悲鳴のような音を立て、それに拘束されている瑠奈の身体がくの字に折れた。
 ぐぽっ……と音を立てて、瑠奈の腹に深々と刺さった拳が抜かれると、瑠奈は全身の力が抜けたようにがっくりと項垂れた。両手足を大の字に開いた状態で拘束されているので倒れ込むことができず、ただ苦しそうに肩を上下させている。
「おら、そろそろ限界だろ? 素直に抱いてくださいって言えよ」
 凍矢が瑠奈の髪を掴んで顔を覗き込んだ。積み重なったダメージでボロボロになりながらも、瑠奈は鋭い視線で凍矢を睨む。
「へぇ……まだそんな顔ができるのか。まぁいい。生意気な女は嫌いじゃないからな」
 凍矢はマシンをいじり、背当てパットを瑠奈の腰にあてがった。凍矢の意図を理解した瑠奈の顔から血の気が引く。
 ずぐんッ……! という重い音が室内に響いた。
「お゙お゙ッ?!」
 瑠奈の瞳孔が一気に収縮し、大きく開けた口から唾液が噴き出した。凍矢の拳は瑠奈の背骨に触れるほど深くめり込み、拳とパットに挟まれた瑠奈の腹は目を逸らしたくなるほど痛々しく陥没している。
「どうだ? 背中に衝撃が抜けないからかなり効くだろ?早く仲間を裏切って僕の女になれよ」
「ゲホッ……は? バカじゃないの? あんたみたいなキモいナルシストの女になるくらいなら、死んだ方がマシなんだけど」
 ズブンッ……! という水っぽい音と共に、瑠奈の腹がまた陥没した。
「ゔッ?!」
「調子に乗るなよ? 自分の立場わかってんのか?」
 凍矢は瑠奈の頭を自分の腹を覗かせるように押さえつけ、そして固めた拳を瑠奈の腹に連続で打ち込んだ。一撃一撃が重い攻撃をピストンのように連続で打ち込み、瑠奈の腹は陥没がおさまらないほどの速さで潰れた。
「ゔッ! んぶっ!? お゙ッ?! ゔぐッ?! がッ!?ゔあッ?! あぐッ! んお゙ッ!!」
「おらおら、自分がどんな風に腹ブッ潰されてんのかちゃんと見ろよ。ガキができねぇ身体になっても知らねぇぞ」
 両手足を拘束されているため、もちろん瑠奈は攻撃を躱すどころか防御することもできない。そのうえ背中もパットに押し付けられているため、衝撃は逃げることなく全て瑠奈の腹に集約された。
 凍矢の容赦の無い腹責めがようやく終わると、瑠奈は全身を脱力させて崩れた。両手首を拘束具で吊らているため倒れ込むことはないが、両足は内股になり体を支えきれていない。
「焦らしてんのか知らねぇが、そういうのは相手を選んでするんだな。俺の女になれるチャンスなんて滅多にねぇぞ?」
 凍矢が朦朧としている瑠奈の顎を持ち上げ、徐々に顔を近づける。唇が触れそうになった瞬間、瑠奈は反射的に顔を引き、凍矢の眉間に唾を吐いた。
「……てめぇ」

 凍矢の眉間に、まるで縦に裂けたようにシワが寄った。次の瞬間、大砲を打つような重い音が部屋を揺らした。
「ひゅぐッ?!」

 凍矢が瑠奈の鳩尾を、両足が完全に浮くほどの威力で突き上げた。凍矢が手早く瑠奈の拘束を解くと、瑠奈はビクビクと痙攣したまま崩れ落ちるように床に倒れ、腹を抱えるようにして悶絶した。
「がはッ……?! ゔあッ……! あがッ……!」
「手加減無しの鳩尾、かなり効くだろ? 格闘技やってる男でも十分はまともに動けねぇ」と言いながら、凍矢は悶絶する瑠奈を見下ろした。「ま、今回は俺の負けだ。そんなスケベな格好でスケベな身体を見せつけられたらさすがに我慢できねぇ。無理矢理は俺のガラじゃねぇんだけどな」
 凍矢は瑠奈の腕を掴んで無理やり引き起こすと、見せつけるようにじりじりとトレーニングショーツを下ろした。やがて常人のふた周りほど太い男根が勢いよく跳ね上がり、ベチッと音を立てて瑠奈の頬に当たった。
「……は? え? ひ、ひぃっ!」
 瑠奈はしばらく何が起きたのか理解ができない様子だったが、頬に触れている現実を理解すると顔色がみるみる青ざめた。
「こんなにバキバキになったのは久し振りだ。朝までには今までの男、全員忘れさせてやるよ」
「やっ、やだっ! 来ないで!」
「おいおいビビり過ぎだろ。ま、こんなにデカいチンポは初めてかもしれねぇがな」
 瑠奈は身体が思うように動かない中、必死に顔を背けて逃れようとする。しばらく揉み合いが続いたが、男性器を見ないように必死に目を瞑って逃れる瑠奈の様子に、凍矢にある疑問が湧き上がってきた。
「……おい、お前まさかとは思うけどよ、その見た目で処女とか言うんじゃねぇだろうな?」
 凍矢の一言に、瑠奈の肩がビクッと跳ねた。
 それが無言の回答になっていると気がつき、瑠奈もしまったと思ったのか、二人はしばらく無言のまま動かなかった。
「おいおいマジかよ」凍矢がせせら笑いながら髪を掻き上げた。「そうかそうか。ならビビんのも仕方ねぇな。じゃあ特別に俺がパーソナルトレーニングしてやるよ。どういう風にお前の身体使えば男が喜ぶのか、イチから全部教えてやる」
 きぃ……という金属が擦れる音がして、凍矢と瑠奈はジムの入口に視線を向けた。
 ピンク色に白いラインの入ったプリーツスカートにショートジャケット。チアガールを軽量化したようなバトルスーツに身を包んだ葵が静かに入ってきた。
 カツン……と音を立てて、葵のつま先に瑠奈の壊れたヘッドパーツの破片が当たった。葵は廃墟で古い写真立てを見つけたように、そっと手に取った。
「葵……? なんで……?」と、瑠奈が目を丸くしながら言った。
 葵はボロボロになって座り込む瑠奈の姿を認めると、息を呑むような表情になった。
「ったく、今日は妙な客が多いな。バニーガールの次はチアガールかよ」
 凍矢は不快感を隠さずにトレーニングショーツを乱暴に引き上げると、瑠奈の腹を蹴飛ばした。瑠奈は壁に背中を強打し、くぐもった悲鳴をあげてうずくまる。
 葵が歯を食いしばり、凍矢に向かって床を蹴った。

11月12日のイベントに参加します。

1-a-QJfe.jpg-large

↑このページのトップヘ