続きです。


 あの忌々しい日から二週間が経とうとしていた。
 組織から支給されているマンションの一室。部屋の中に降り注ぐ光は徐々にオレンジから濃紺に変わりはじめ、昼間は蒸し暑かった気温も今では肌寒いくらいに下がっていた。
 綾はパジャマ姿のまま、部屋のベッドの上でお気に入りのぬいぐるみを抱え、呆然と虚空を見ていた。
 検査を含めた二週間の入院の後、退院してからも綾は組織に顔を出す以外はほとんど外出せず、学校も休学していた。
「はぁ……」と、無意識に綾の口からが溜息が漏れる。
 綾の退院を待って開かれた会議の雰囲気は、まるで重油で会議室全体を満たしたかの様に重いものだった。
 いつも冷静な綾専属のオペレーター、紬が珍しく沈痛な表情で、誠心学園で更に二人の行方不明者が出たと報告した。涼による犯行であることは明白であり、報告を聞いた綾はまるで崖から突き落とされた様な気持ちになった。
「私の……せいだ……」
 綾がぽつりとつぶやいた言葉は曖昧に部屋の中に溶けて消えた。
 綾だけが、自分を責めていた。
「あの時、私が涼を止めていれば……」
 誰も綾を責めなかったし、むしろ無事に帰還したことを喜んでくれた。病院の検査ではチャームは少量しか吸収されておらず、精神を完全に支配されるレベルには至っていなかった。
 奇跡的な帰還であったし、組織としても綾ほどの逸材を失わずに済んだことは大きかった。
 だが綾の気持ちは、むしろあの場で堕とされていた方が良かったと思えるほど落ち込んでいた。上級戦闘員である綾が敗北した以上、一般戦闘員を向かわせるわけにはいかない。しかし、決して多くはない上級戦闘員は全て他の人妖討伐に向かっており、やむを得ず誠心学園の件は野放しの状態になっていた。
「私が……やらなきゃ……」
 綾が呟くと、あの夜の出来事が脳裏にフラッシュバックした。口内にねじ込まれた、ゴムを巻いた鉄棒の様な涼の男根の感触と、それが全て溶け出したと錯覚するほど大量に放出された熱くて濃いチャームの味が蘇る。
「うぷっ!?」
 反射的に吐き気がこみ上げ、左手で口元を押さえる。しかし、なぜか下腹部の辺りが徐々に熱くなってくるのを感じた。
(なんで……? 好きでもない人に、無理矢理されたのに……)
 散々腹を責められ、ファーストキスを奪われ、大量に白濁を浴びせられた。その後は朦朧としていたとはいえ、フェラチオをしてしまった。
 今までの生活の中で、将来出来るかもしれない恋人にならまだしも、自分があの様な行為をするとは考えてもいなかった。
 しかし、わずかに吸収されたチャームの影響か、帰還してから綾自身も自らの身体の中に僅かに疼く熱を感じずにはいられなかった。あの日から毎晩の様に夢に見るあの夜の出来事と、その続き……。口での奉仕の後、涼に犯され、嬌声を上げる自分自身……。目が覚めた時にいつも襲ってくる嫌悪感と、否定出来ない身体の疼き。
 綾は強く頭を振ると、ぬいぐるみを枕元において立ち上がった。
「倒さないと……。あいつを倒さないと、私は前に進めない!」
 綾はパジャマと下着を洗濯カゴへ放り込み、シャワーを浴び終えるとクローゼットを開け、戦闘服のセーラー服とグローブを身につけて誠心学園へと向かった。




 既に日は完全に落ち、透明感のある清涼な風が、澱の様にこびり付いた昼間の熱気を押し流す様にグラウンドを吹き抜けていた。
 この時間でもまだ練習を続けている野球部やラグビー部のかけ声が、綾のいる裏口まで響いて来た。
 綾は自転車を漕いで誠心学園の裏門へ到着すると、非常口から校舎内に侵入した。母校なのに侵入というのも妙な話だが、戦闘服に着替えた今の姿を部活動を終えたクラスメイトや友人に見られると厄介なことになる。誰にも会わずに涼を倒さなければならない。
 グラウンドとは違い、校舎内は生徒もほとんど残っておらず静かなものだった。教師が残務処理をしている職員室を身を屈めて横切り、突き当たりのT字路を曲がって重厚な扉が構える校長室の前まで来ると、綾は深く深呼吸をした。
 自然と身体が小さく震えて来るが、意を決して扉をノックする。一瞬間を置いて、中から涼の「どうぞ」という声が帰って来た。綾は息を止めてドアを開けた。

 水音が部屋を満たしていた。
 聞いたことのある水音だ。
 部屋の中は、その部屋の主のものである年代物のデスクとチェアが威圧する様に鎮座し、入り口のそばには磨き上げられた応接セットが設置されていた。
 ダークブラウンのカーペットとコーディネートされた趣味のいいアンティークのそれらはおそらくかなり高価なものだろうが、真っ先に綾の目に飛び込んで来たのは涼の姿と、その足下に跪いて一心不乱に涼の男根にしゃぶりついている行方不明になった親友、上代優香の姿だった。
「やぁ、そろそろ来る頃だと思ってましたよ」
 デスクの横に立っている涼が、まるで数年ぶりに再会した友人に話しかける様に、穏やかな口調で綾に言った。綾は涼の言葉など耳に入っておらず、視線は友香に釘付けになっていた。
「……ゆ…………友香………何……して……?」
「ああ……『これ』ですか? 少し待っていて下さい。もう少しで……」
 涼が友香の頭を掴んで激しく前後に揺すると、水音が更に激しくなる。
「ん!? んぅっ! んんんぅ!」
 じゅっぷじゅっぷじゅぷじゅっぷ……。
「や、やめろ!」
 綾が本応的に涼に飛びかかり、右の拳を顔面に向けて放つ。
 涼は素早く対応して綾の拳を捌くと、布地に守られていない腹部に裏拳を埋めた。
 我を忘れていたためか、綾は衝撃に対して何の防御も出来ず、綾は悲鳴を上げることも出きずに嘔吐いた。 
「!? か……ッはっ……」
「そうやってすぐに熱くなるのが貴女の悪い癖だ。すぐに終わるからそこで見ていなさい」
 綾は両手で腹部を押さえながら、両膝をカーペットに突いて苦痛に耐える。本当はすぐにでも反撃に出たかったが、的確に肝臓を貫かれていて身体の自由が利かなかった。
「ゆ……友香……」
 綾は祈る様な目で友香を見るが、友香の視線に綾の姿は入っておらず、ただ涼の男根を猫じゃらしを目の前にぶら下げられた猫の様に目で追っていた。
「ああぁ……先生……は、早く、ご奉仕させてください。それ……友香にしゃぶらせて下さい……」
「いや、ちょっと急用が出来たのでね。先にご褒美を上げましょう。親友の前でその堕ちた姿を存分にさらけ出しなさい。さあ、舌を出すんだ」 
「あ……ご、ご褒美……ぇあ…………」
 友香は言われた通りに舌を出して、薄目を開けて嬉しそうに涼を見上げている。親友のあまりの痴態に綾はただ首を振ることしか出来なかった。
「くっ……いやらしい顔をして……綾、見えますか? いまからこのだらしない友香の顔を、どろどろに汚しますよ。よく見ておきなさい」
 涼は友香の顔を狙って勢いよく男根をしごくと、何の躊躇いも無く友香の顔中に白濁をぶちまけた。
「くッ……ふっ……! 出るぞ……おぉっ!」
「ぷあっ!? あぶっ、えあぁ……」
「くぅッ! おおっ……」
 白濁は勢いよく飛び散り、友香の顔は見る見るうちに真っ白に染まっていた。口の周りを中心に目も開けていられないほど大量にかけられ、重力によって垂れた粘液は顎から床のカーペットにゼリーの様に溜まって行った。
「ふぅぅっ……ははっ、二週間前の君みたいだな。なぁ、綾?」
「友香……お前は……お前だけは、絶対に許さない!」
 綾は震える膝を押さえてようやく立ち上がると、涼に対して身構えた。涼はやれやれと首を振ると机の引き出しからタオルを出して友香の頭にかける。
「熱くなるなと言っているでしょう? ここは職員室も近いですし、大声を出すと他の教師や生徒に気付かれかねない。どうですか、体育倉庫に移動してみては? 貴女にとっても因縁の場所だと思いますが」
「望むところよ……」
 綾が力一杯拳を握りしめると、グローブがギチギチと音を立てて軋んだ。涼が唇だけを歪ませる嫌な笑みを浮かべると、机の引き出しから学校のマスターキーを取り出し、ドアの方へ歩いて行った。
「では、行きましょうか。この時間なら体育館は施錠されていますから、もう生徒は外の男子運動部しか残っていないはずです。時間はたっぷりありますから、楽しみましょう」
 涼が意味ありげな笑みを浮かべて部屋を出ると、綾もそれに続く。振り返ると、虚ろな目をして床に座り、カーペットにしみ込みつつある白濁を何ともなしに眺めている友香の姿が目に入った。
「待ってて友香……絶対に助けるから……」
 その声に友香はピクリと反応したが、すぐにもとの虚ろな表情に戻って行った。