「うぐっ・・・ぐぁぁ・・・。な、なんで・・・先生が・・・」

「くっくっく・・・私も驚いていますよ。まさか綾ちゃんがアンチレジストの一員だったとはね。以前からその身体には目をつけていたんですよ」

 男の目は既に先生と呼ばれていた頃の面影は無く、飢えた肉食獣のような目つきで綾の豊満な胸や両手で抱くようにかばっている腹部、ミニスカートから覗く白い下着を舐めるように凝視していた。その赤く光る蛇のような縦長の瞳孔は、紛れも無く涼が人妖である証拠を綾に突きつけていた。

「はぁっ・・・はぁ・・・・ふ、不意打ちが当たったくらいで、勝った気でいないでよね・・・」

綾は右手で強烈な一撃を浴びた腹部を抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。

「もう先生が、いや、お前が人妖だってわかったからには容赦しないわ!謝っても許さないんだからね!」

「おお、これは怖いですね。せいぜいお手柔らかに頼みますよ」

「この、なめるなぁああ!」

綾は一気に距離を縮め、高速の突きを涼の腹部に見舞った。

「ごっ!ぐぅっ!?ぐっ!ぐぅぅぅ!」

「ほら!ガラ空きよ!」

ガッ!ドボッ!

左手で顎を跳ね上げると、すかさず右手で涼の腹部に一撃を加える。その流れるような動作は一切の無駄が無く、美しかった。

「とどめぇぇ!!!」

ズボォォッ!!

「ぐおぁぁぁぁ!!」

強烈な一撃を浴び、涼はその場に膝を着く。

「どう?なかなかでしょ?この対人妖グローブは人間の数倍のあなた達の耐久力を、人間と同等まで落とせるのよ。その上で私のパンチの威力が合わさったらどうかしら?おとなしく拘束されるなら、これ以上攻撃はしないわ。その場でうつ伏せになりなさい」

アンチレジストの中でも、綾はとりわけ突き技に関して自他共に認める才能があり、シミュレーション訓練では常にトップクラスを維持していた。そのため普段は横の繋がりの無い戦闘員の間でも話題になるほどであった。勝負はこのまま決したかに見えたが、しかし、涼はしばらく片膝の体制を維持したかと思うと、余裕の表情を浮かべながら立ち上がった。

「まだ抵抗するの?後悔するわよ?」

「ふふふ、私は自信に充ち溢れた顔が絶望に変わる様を見るのが好きでしてね。演出上こういう展開も必要ですから」

「なっ?・・・とことん舐めるじゃない・・・?ならあなたの顔を絶望に変えてあげるわ!」

再び綾は涼に急接近し、猛攻を加える、しかし・・・。

ガッ!ガッ!ドッ!ドボッ!

「・・・・・・・・」

「・・・え?」

「ふぅ・・・最初にお手柔らかにと頼んだのに、酷いじゃないですか?」

「な、何で?嘘・・・効いてない・・・の?」

「言ったでしょう、演出だって」

「こっ、このおっ!」

ガッ!ガシィッ!!

「ああっ!?」

涼は最初の一撃を何事も無かったかのように受けると、その突き出された綾の腕をつかみ、真上に持ち上げると開かれた腹部に一撃を見舞った。

スボォッ!

「うぐぅぅぅぅ!?」

「くくく・・・ガラ空きですよ?」

ズンッ!ズグッ!スブッ!ドムッ!ズボォッ!!

「ぐふぅっ!?うっ!うぐっ!ぐはぁああ!」

綾の膝がガクガクと震え、立っているのがやっとの状態で男を見上げる

「ああ、あああ・・・」

「ふふふふ、その表情ですよ。たまらないのは・・・」

「な・・・んで・・・。グローブが・・・効かないの・・・?」

「さぁ?不良品ではないですか?組織に帰ったらファーザーに文句を言えばいいですよ。もっとも、帰れればの話ですが」

「ファ・・・ファーザーを・・・知ってるの?」

アンチレジスト。対人妖組織のボス、ファーザー。名前以外はまったくの謎に包まれているが、人妖が出没し始めたころから既に組織の元になる団体を作り上げており、構成員から絶大な支持を得ている。組織のの運営や戦闘服やオペレーターの物資支給、果てはその給与までもがファーザーの私財から出ているという。

「知ってるも何も・・・。まぁ、今はそんなことより楽しみましょうか?すぐに気を失わないように気をしっかり持ってくださいね。夜は・・・長いですから・・・」

男はギリリと右のこぶしを握りしめ、綾の腹部に狙いを定めた。綾の顔はすでに、絶望に染まっていた。