「由里もかぁ…」

 

「うん…なんか、恥ずかしいかな…」

 

黒い絨毯に白い壁。どこかの会議室の用な部屋の一面は大きなモニターになっていた。2人はファーザーの指示通りそれぞれ控え室でオペレーターから手渡されたコスチュームに着替えるとこの部屋で合流し、お互いを見つめ合った。

基調としている色が由里がピンク、由羅がオレンジということを除けば全く同じデザインのコスチューム。レオタードのような身体にぴったりした服を基本にしながら、肩には羽根飾りのようなデザインが施され、同色の膝上のタイツを太ももの付け根からガーターベルトのようなもので繋いでいた。否応にも身体のラインが強調され、控えめな胸やキュウッとくびれた腹部の中心にある可愛いヘソ。むちむちの太ももを挑発的なまでに引き立てていた。2人の格好はさながら双子の魔法少女の様であった。

 

「噂には聞いてたけど、キワドいわねぇ。なんかアニメとかに出てきそうだし。まぁ蹴り技主体の私にとっては動きやすいけどさ」

 

「うん、私も袖が無いからパンチは出しやすいかな…。あぅ…でも恥ずかしい…」

 

「由里はプロポーションいいんだから自信持ちなって!まぁ双子の私も同じ体型だけどね~」

 

由羅はモニターの反射を鏡代わりにして思い思いにポーズをとっては満足そうに笑っている。由羅にとってこの格好はまんざらでもないらしい。

 

「由羅…顔がえっちな本見てるオジサンみたいになってるよ…」

 

「!?な、なんですってー!由里!あんた姉だからって調子に乗るんじゃないわよ!」

 

「ひゃあ!いらい(痛い)!いらいいらい!!」

 

由羅が由里のほっぺたをつねり、左右に引っ張る。由里が涙目になりながら手をパタパタさせていると、突然モニターが付いた。

 

「本当に仲がいいな?」

 

「「!!?? ファ、ファーザー!?」」

 

2人はあわてて敬礼をする。もちろん由里は涙目のまま。ファーザーの声には様々な種類があり、今回は抑揚が無いものの、よく通る若い男性の声だった。

「楽しんでいるところ悪いが、早速任務について説明させてもらう…」

 

話によると、2人の住んでいる町の外れにある廃工場付近で、最近女性の失踪事件が増えているとのことだった。若い女性が男に廃工場の中に連れ込まれたという目撃情報もあり、警察も調査に向かったがその警官も帰ってこなかった。人妖事件としてファーザーが情報を握り潰し、調査員のオペレーターを派遣しある程度調査をした上で、今回の2人の派遣に至ったという。しかも、オペレーターの調査によれば、今までの人妖とは容姿や波長が異なるという。

 

「今までの人妖は、男性タイプでも女性タイプでも、俗に言う容姿が端麗で社会活動もしており地位も上なケースが多かったが、今回のはやや違う。まぁ、見てもらった方が早い」

 

モニターに荒い画像だったが1枚の写真が写った。2人の顔が同時に引きつる。

 

「うぇー…」

 

「あぅ…キモオタさん…」

 

「由里…あんた意外と毒吐くわね…」

 

でっぷりと太った体躯にぼさぼさの頭髪、よれよれのポロシャツに汚れたジーンズの男性が、こそこそと廃工場に入って行く写真だった。確かに今までの人妖とは雰囲気が違った。

 

「あのー、コイツ本当に人妖なんですか?えと、その、男性タイプの人妖ってイケメンばかりだってデータを見たんですが」

 

「ふむ…確かに由羅の言う通り、今までの人妖にはそういうタイプが多かったが、今回の人妖は社会活動も一切していないらしい。しかも奇妙なことに、今回は人妖特有のバリヤーも検出されていない」

 

「…生身の人間と同じ耐久力ってことですか?」

 

「その通りだ由里。今までは対人妖グローブやレッグサポーターをしなければダメージを与えられなかったが、今回は大丈夫だろう」

 

「楽勝ってこと?なぁんだ、せっかく由里との初仕事だと思ったのに張り合いないなぁ。仮想エネミーの方がよっぽど強いんじゃない?」

 

「由羅…油断は禁物だよ~」

 

「その通りだ。もしものことがあったら身の安全を第一に考えてほしい。では、今夜23時に突入を開始する。手順は…」

 

 

 

 

 

「で、来てみたわけですが」

 

「あぅー、こんな格好してるところ近所の皆さんに見られないかなぁ…」

 

「だからチャッチャとやっつけて片付けちゃおうよ。それにね、由里」

 

「なに?」

 

「私達、同時に産まれて…まぁ由里の方が少し先だったけど、同時にアンチレジストにも入ってさ、やっと一緒に仕事ができるんだから、精一杯頑張ろうよ。いつまでも一緒だからね!由里姉さん!」

 

「う…うん!そうだね。忘れられない夜にしようね!」

 

2人は廃工場に向かって駆け出した。2人にとってはある意味忘れられない夜になるとも知らずに…。