「いぎっ…いぎぃ……」
男はかれこれ1時間ほど2人の攻撃を受け続け、コンクリートの床に芋虫のように転がっていた。由羅に蹴られ、由里に殴られても、男は反撃らしい反撃を殆どせず、むしろ攻撃されるのを喜んでいるようであった。
「はぁ…はぁ…どうなの…?もう満足したでしょ?いい加減にくだばりなさいよ…」
由羅が息を切らしながら男に尋ねる。一方的に攻撃しているとはいえ、休む間もない攻撃の連続はかなりの体力を消耗する。しかし男はどんなに攻撃を受けても、何度も立ち上がり一向に力尽きる様子は無い。再びむくりと男が起き上がる。
「ふぅ…ふぅ…。す、すごいよ。2人とも、す、凄く強いんだね。ぐふふ。も、もっと、もっと攻撃して…ゆ、由里ちゃぁぁん!!」
男は由里に突進し、抱きつくように両手を広げる
「い、いやぁぁぁ!こ、来ないでください!」
由里のアッパーが男の顎にしたたかに入り、すぐさまがら空きのブヨブヨの腹に強烈なストレートを見舞った。
「何してんのよぉぉぉ!!」
後頭部めがけ由羅の飛び膝蹴りが決まり、前のめりに倒れかけたところを由里のボディブローが見事に入った。
「ぐぶぉぉぉぉ……ぐふ…ぐふふ…」
男はヨロヨロと数歩下がり腹をおさえて呻くが、その顔には笑みが浮かんでいた。
「え……?」
「た、倒れない…の?」
今まで由里か由羅のどちらか一方の攻撃を受けても昏倒していた男が、アンチレジストでもトップクラスの2人の連携技をまともに食らって倒れないはずがない。 様子が違う男の態度に2人は動揺していた。
「ど、どうしたんだい…は、早く、も、もっと殴ったり蹴ったりしてよ…ゆ、由羅ちゃんも、もっと罵ってよぉ…」
「こいつ!たまたま甘く入ったくらいで、調子に乗るんじゃないわよ!」
「もう…次で決めるから!」
2人は同時に男に向かって駆け出す。由羅は甘く入ったと言うが、そんなはずが無いことは自分が一番よく知っている。あれは確実に男の後頭部をとらえていた。それに加え直後に由里のボディーブローもまともに入っている。あれほどの攻撃で倒れないわけが無い。
「うぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁぁ!」
左右から同時に由羅の蹴り、由里の突きが男にショットガンのように襲いかかる。しかし、見る見るうちに男の様子は変わって行った。
「ぐっ!痛い!い、痛いぃぃ!も、もっと…もっとだよぉ…」
「ぐっ!、こ、このぉ!!」
「えいっ!えいっ!…な、何で?」
男はもはやよろけることも無くなり、最初こそ痛がっていたものの、15秒ほど攻撃を受けている間には徐々にダメージすらも受けてないように見えなくなって行った。由里と由羅の表情に焦りと戸惑いの色が現れる。
「ほらぁ…もっと蹴ってぇ…由里ちゃんも、も、もう少し強く殴ってくれないと、ぜ、全然感じないよぉ…あれ?な、何でやめちゃうんだい?」
「はぁっ!はぁっ!はぁっ…な、何なの?」
「う…嘘…。全然…きいてない…」
「ほ、ほらぁ…な、なんで来てくれないの?こ、こここ、来ないなら…」
男の目がぎらりと光る。
「こ、こっちから行くよ!」
ズギュッ!!!
ドブゥッ!!!
「うぐぅっ!!??うぐぅあぁぁぁぁぁ!!」
「うぶぅっ!?……ぁ……ぁ……!!!」
男の左右の手が同時に高速で動き、脂肪で膨らんだ鈍器のような拳が正確に由里と由羅の腹部にめり込んだ。由羅は目を見開いて嘔吐き、由里は呼吸もままならないほどの衝撃を受け止めた。
「ぐふふふふ……ふ、2人とも…仲良く食らっちゃったねぇ…ど、どうだい?ぼ、僕の攻撃は?」
「あ…あぐ…ぁ…。ま、まぐれ当たりで…いい気になるんじゃ…ないわよ…。は、早く…これ…抜きなさいよぉ…」
男は2人の腹部に拳をうずめたまま、にやぁと下品な笑みを浮かべた。
「んん~。そ、そんなこと言っていいのかい、ゆ、由羅ちゃん?だ、大好きなお姉ちゃんが、く、苦しんじゃうよ?」
由羅はびくりとなって男にすがるような目を向ける。この日初めて見せた弱々しい表情だった。
「な、何する気?ゆ…うぐっ…由里を…離してよ」
由羅は自分も同じように拳を突き刺されたままの状態であるにもかかわらず、由里の解放を求める。由里は下を向いたまま、息が継げない状態で小刻みに痙攣していた。
「ほ、本当にお姉ちゃんが大好きなんだねぇ…由羅ちゃんは…。ぐふふ、ゆ、由里ちゃんの方が、こ、拳が深く入っちゃったから、く、苦しいだろうねぇ?」
「げ、外道!…うぅっ……ゆ、由里だけでも…離して」
「んふぅ~。そ、そうはいかないよ?んー、こ、これは由里ちゃんの胃かな?ぐふふ、隣でお姉ちゃんが苦しむ様子を見せてあげるからね…」
「な、なに…する…や、やめ…」
由羅が精一杯静止の言葉を口にするが、男は容赦なく由里の胃を捕まえ、強引に握りつぶした。
グギュゥゥゥゥゥ!!!
「ぐ!?ぐぶっ!!??ごぶぅぇぇぇぇぇぇ!!」
「ゆ、由里!?由里ぃぃ!!」
ビクンと由里の身体が跳ねると、大きくガクガクと痙攣したまま黄色い胃液を吐いた。
「あ…ああ……ああああ……」
「い、いやぁぁぁぁ!」
白目を剥いて痙攣し続ける由里を見て、由羅が悲鳴を上げる。男は投げ捨てるように由里を地面に突き倒した。
「ゆ、由里!?んむぅぅぅぅ!!??」
由羅は慌てて由里に駆け寄ろうとするが、すぐさま男に捕まり、右手で口を塞がれる。喋れない状態のまま キッと男を睨みつけた。
「ん、んんー!!んー!!」
「ぐふぅ…ゆ、由羅ちゃん…さ、さっきはたくさんたくさん蹴ってくれたよねぇ…す、凄く気持ちよかったよ…ぐふふ、お、お礼に、こ、今度は僕がたくさんたくさんたくさんたくさん…蹴ってあげるからねぇ…」
「ん!?んん…んんー!」
由里の瞳に恐怖の色が浮かび、目が泳ぎはじめる。逃れようとするが、男の強い力で押さえつけられており、首をわずかに動かすことで精一杯だった。
「膝蹴りが凄く気持ちよかったよ…こ、こんな短い足で申し訳ないけど…ぼ、僕も膝で蹴ってあげるね…」
ズギュゥッ!!
「ぐっ!?ぐむぅぅぅぅ!!!」
男は強引に由羅の身体を直立させると、丸太のような膝を由羅の細い腹部にめり込ませた。想像を絶する衝撃に由羅の身体がくの字に折れ、男の手の間からくぐもった悲鳴が漏れる。
ズギュッ!ズギュッ!ズギュッ!ズギュゥゥッッ!!
「ぐぶっ!!ぐむっ!んむぅっ!!んぶぅぅぅっ!!!」
口を塞がれているせいで、まともに悲鳴すら出せない由羅。男の一撃一撃は非常に重く
、食らうたびに視界が狭くなって行くのを感じた。
「ゆ、由羅ちゃん、や、止めて欲しい時はいつでも言ってねぇ?あんまり我慢してると…」
男は笑みを浮かべると由羅の口をおさえている手に力を込めた。
「死んじゃうかもよ?ちゃあんと『止めて』って言ってねぇ…」
由羅の瞳が絶望に染まる。下を見るとものすごいスピードで男の膝が自分の腹に飛び込んでくる所だった。