Cessさんからリクエストを頂きましたので書いてみます。
二次創作はシャーさんや一撃さんのキャラクターで書かせていただきましたが、東方などのメジャー所を書くのはこれが初めてです。

※独自解釈です
※キャラクターを勉強しながら書いたので、一般的なイメージと違うかもしれません。
※今回はバイオレンスシーン無しです


今回は「こんな雰囲気で書いてます」と言う紹介の様なもので、雰囲気だけでも伝わったら幸いです。
完成したらあらためて公開します。

では、よろしくお願いします。






昔話をしようか



「そうだな……昔話をしようか……?」
 重厚で、それでいて透き通った声で囁くと、彼女は後ろ手に縛られている僕の前で跪いて、人差し指と親指で、くい、と僕の顎を持ち上げた。白いドレスを着た、一見すると十歳にも満たない姿の少女の背中からは、その小さな身体からは不釣り合いなほどの巨大な蝙蝠の様な羽根が生えていた。
「今の私はとても気分が良い……。あと数刻でうちの優秀なメイドが、貴重な貴重な臨月の妊婦を連れてくる。妊婦の、特に臨月を迎えた女の血はとろけるほど美味い。体温の高い濃厚な母体を堪能した後は、子宮の中のまだ産声すら上げていない瑞々しい命を取り出して啜る……。その味は私の舌を包み込んでとろけさせるだろう……想像しただけで口の中に唾液が溢れてくる……。最も、私の胃は小さいから半分も食べられないだろう。それではせっかくの最高級の食材に対して失礼だ……。だが、幸い私の妹は大食家だ。肉から臓腑から目玉から臍の緒まで、うちの優秀なメイドが最高級のコースに仕立て上げるだろうし、妹はそれを決して残さないだろう……」
 山の中で山菜を採っている最中に捕まり、この館へ連れて来られた。地下牢へ幽閉され、始めに目の前の幼い少女を見た時は正直言って「上手くいけば力づくで逃げられる」と安心したものだ。だが、今は確信を持って言える。目の前の少女は、紛れも無く「悪魔」だ。僕たち人間を、意思の疎通の出来る存在を「食材」としか見ていない。
 だが、人間のものではない深紅の瞳からは不思議な魅力が溢れ、このような状況ながらも僕は「美しい」と感じた。
「その妊婦のお陰でお前の命は一日延びた。今日の夕食から明日の夕食へと。お前もそれまで退屈だろうし、妊婦と聞いて思い出したことがあるから、冥土の土産として聞いておけ……聞きたくなくても、夕食までの私の暇つぶしに付き合え」
 そう言うと、幼い少女はまるで子供が人形に話しかける様に、実に楽し気にゆっくりと言葉を紡ぎはじめた。

 今から少し前だ。幻想郷が今よりももう少し殺伐としていた頃。
 その頃の幻想郷には、怖い怖い巫女が居た。今の巫女とはまた違った怖さだ。今の巫女の様に妖怪共と「なあなあ」にならず、「ごっこ」なんかで茶を濁さず、自らの拳だけを武器に、どちらかが地面に伏せるまで力と力をぶつけ合う、清々しいほどの怖い巫女だ。
 その巫女は奇妙な格好をしていた。腰まである長い黒髪は結わずにそのまま流れるにまかせ、身体にぴったりと貼り付く様な黒いボディスーツは筋肉質な肩口や腹部、豊満な胸のシルエットを浮かび上がらせていた。巫女らしいものと言えば緋色の袴と、二の腕に括り付けられた朱色の飾り縫いの入った白い袖くらいで、上半身を覆っているものはボディスーツのみだ。
 もちろんその巫女は酔狂な趣味でその様な格好をしているのではない。
 格闘を主にするために動きやすさを考慮して白衣や襦袢を羽織らずに肩口を露出し、袖の長さも袴の長さも寸足らずだ。だがそもそも人間と妖怪とでは身体能力に雲泥の差がある。真っ当にやり合えばすぐに手足を捥(も)がれて頭から喰われるのがオチだ。
 その致しがたい差をを補うのが、博麗の家系に代々伝わる特殊な紅い蚕(かいこ)だ。
 その紅い蚕から紡がれる真紅の絹糸は人間の潜在能力を飛躍的に高める効果があり、それで織られた衣を纏えば、妖怪と素手で渡り合えるほどの身体能力と、護符の効果を爆発的に高める霊力が備わる。代々博麗の巫女が人間でありながら幻想郷の秩序を守って来られたのはその紅い蚕のお陰だ。その巫女は袴と袖の飾り縫いにその紅い絹糸を使い、自分の身体能力を高めている。
 もちろん今の博麗の巫女も、その蚕の繭から紡がれた絹糸で出来た服を身に付けている。
 
「その蚕の存在は幻想郷の中ではトップシークレットだ。つまり、その蚕が存在しなければ博麗の巫女はただの人間……。天才とか呼ばれている今の巫女にしても、服を脱いだら空を飛べるかどうかすら怪しいな。そして、そんな気持ちの悪い芋虫をいつ、誰が博麗に与えたのか……? おおかた想像はつくが、まぁ知らない振りをしておこう。話を続けようか……」

 とある新月の夜。人里から少し離れた森の入り口で、地面が割れる様な低い地鳴りと、大木が切り倒された時の様な地響きが轟いた。
「言ったはずだ。一度目は半殺しで済ませよう。だが、二度目は殺すとな……」
 巫女は口の端から垂れる血を白地の袖で拭いながら、哀れみを含んだ視線を地面に伏せるものに送った。さっと風が吹いて、水に濡れた烏の羽根の様な艶のある黒髪が揺れる。脇腹や鎖骨の辺りの黒い布が破れ、白く透き通る様な肌には血が滲んでいた。
「博麗様!」
 歳は六十程度だろうとおぼしき男女が、その巫女の足下にひれ伏した。
「ありがとう御座います! 娘を人外から守っていただいて……何とお礼を申し上げたらよいか……」
 老夫婦の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。それもそうだ。ついこの前、嫁ぎ先が決まった大切な大切な一人娘を妖怪に取って喰われかけたんだ。巫女は地面に頭を擦り付けている夫の肩にそっと手を置いて、優しく微笑みながら語りかけた。
「どうか顔を上げて下さい。私はただ博麗の巫女として、人間側に立って行動しただけのこと。お礼を言われる様なことは何もしていません」
「し、しかし……」
「ここは人里から距離があって危険です。すぐにでも人里へ帰った方がいいでしょう。本当は私が送って差し上げたいのですが、妖怪はすぐに後処理をしないと仲間が集まってきますので……どうかお気をつけて……」
 老夫婦は何度も振り返りお辞儀をしながら、気絶している娘を背負って人里の方へ去っていった。巫女は老夫婦の姿が見えなくなるのを確認すると、地面に横たわったいる亡骸を見下ろした。
 体躯は三メートルはあるだろうか。身体は鍛え上げた人間の男性の様な身体つきだが、頭部は角の生えた牛の頭そのものだ。
「すまないな……。共に幻想郷に生きるものとして、出来ればお前も救いたかった。祓うことしか出来ない私を許してくれ……。せめて、来世では幸福になれる様に手厚く葬らせてもらう」
 巫女はどこからともなく大幣(おおぬさ)を取り出すと、人外に対して丁寧に祝詞をあげはじめた。
 おかしな話だ。
 絶対的な人間の味方である博麗の巫女が、妖怪に祝詞なんてあげて見ろ。信頼が地に落ちるどころか、妖怪と結託したなんて噂が立ってしまう。人間というのは面倒くさいことに、全てを悪い方向に考える生き物だからな。
 巫女は祝詞をあげ終えると、明け方までかかって妖怪を手厚く埋葬した。簡単に塚を作り、大幣を近くの小川に流すと、文字通り飛んで山のふもとにある神社へと帰って行った。
 その怖い巫女は、人間だけではなく、幻想郷に存在する全ての命を愛していた。
 だが妖怪達は博麗の巫女というだけで鼻をつまむ。当然だ。自分たちの敵以外の何者でもないからだ。今では想像もつかないだろうが、機会さえあれば全ての妖怪が……たとえ山の河童や天狗でさえ巫女の首を捥(も)ごうと月夜を徘徊していたものだ。

「想像出来るか?」

 少女の姿をした吸血鬼はさも愉快そうにワインを傾けながら聞いてきたので、僕は首を横に振った。今の巫女……博麗霊夢と妖怪との関係はとても友好的だ。時たま妖怪達が起こす異変も、その霊夢との関係を崩すまいと気遣っているのか、あえてお遊びの様な異変を起こしたり、異変自体が妖怪のお遊びだったりする。また、既に「妖怪が人間を襲う」「人間が妖怪を退治する」こと自体が既に形骸化し、すべてが「ごっこ遊び」に成り果てている。僕自身、人里では普通に妖怪と酒を飲み交わしたこともあるし、その席で気の合った妖怪に連れられて迷いの竹林の入り口にある夜雀の経営する屋台へ連れて行ってもらったこともある。
「では、何故その巫女が、今この幻想郷に居ないのか分かるか?」
 吸血鬼の問いかけに僕は再び首を横に振った。
「簡単なことだ。妖怪に負けたからだ……」