こんばんは。
推敲の息抜きに、一撃さんのキャラクター、阿音さんと杏さんを書かせていただきました。
人様のキャラクターをどうこうすることは妙な背徳感があって楽しいですねw


内容は以前書いた一撃失神SSを引き継いでいるため、お時間があればそちらもお読みください。


ではどうぞ




一撃失神SS 二撃目


「ほんとに……いくつになっても無茶するんだから……昔から全然変わってない……」
 阿音の膝に消毒液が滴るほど染み込んだ脱脂綿を若干乱暴に押し付けながら、杏が溜息まじりに言った。
「あひぃぃぃっ?! らめぇぇぇぇぇ!!」
「ちょっと、変な声出さないでよ?」
「も、もっと優しく塗ってよ! そんなに乱暴に塗ったら染みるってば!」
 保健室の狭い空間に阿音の声が響く。杏はベッドに腰掛けたままばたばたと手を振りながら抗議する阿音の様子など意に介さず、慣れた手つきで阿音の膝に包帯を巻いていった。
「女の子なのに欠員が出たラグビー部の助っ人として試合に出場して、ウチの学校の勝利に貢献したのは良いとして、こんなに生傷作るなんて……。女の子なんだから少しは身体を大切にしなさいよね」
 擦り傷のあった場所に包帯を巻き終えると、杏は包帯の上から傷口をぽんと軽く叩いた。阿音の身体が小さく跳ねる。
「で、どうするの? 今夜の任務は。何なら私が付き添ってもいいけど……。軽い怪我だけど、何かあったら大変でしょ? 結構手こずりそうな相手なの?」
「いや、それなんだけど。多分大丈夫だと思うんだ。相手は子供だし」
「……子供?」
「うん、逆にこっちが手加減しないとマズいんじゃないかって思うくらい。この子なんだけど、お姉ちゃんどう思う?」
 季節が夏になり、ノースリーブになったシャツの胸ポケットから阿音は一枚の写真を取り出して杏に差し出す。スクランブル交差点を行き交う人ごみに隠れてしまい身体の一部と顔半分しかわからないが、阿音の言う通り小学校高学年くらいの年代の男の子が、両方の手をハーフ丈のカーゴパンツに突っ込みながらこちらを振り向いている。表情はキャップのツバが作る影に隠れてはっきりとはわからないが、悪戯好きそうな笑みを浮かべながらこちらを向いて、舌をぺろりと出していることがわかった。
「この子がターゲット?」
 杏が写真から目を離して、阿音の顔を覗き込む。阿音も若干戸惑っているらしく、目を逸らす様にゆっくりと天井を見上げた。
「そうみたい。その写真を撮った人が今行方不明になってて、数日後にカメラだけが里の入り口の門に架けられてたんだって。で、メモリーに入ってた一番最後の写真が、お姉ちゃんが今持ってるやつ。写真を撮った人は最近新しく興った隠密流派を追っててね、最後の写真に写ってるその子が何か関係があるかもしれないから、素性調査をしろってこと。まぁその流派自体が異質だから、隠密とは言えないって里長(さとおさ)は言ってたけど」
「隠密とは言えない?」
「ほら、私達って基本的に戦闘は避けるじゃない? 隠密って名前通り、『隠れて密かに』適地に忍び込んで『相手に気付かれずに』任務を成功させることが目的だから、派手に戦闘なんかしたらその時点で半分任務を失敗した様なものでしょ? でもその流派はもの凄く好戦的で、隠れも密かに行動もせずに積極的に敵地に乗り込んで相手側を壊滅させちゃう超武闘派なんだってさ」
 阿音がベッドに胡座を書いて頭をぽりぽりと掻いた。
「しかもその流派のターゲットは私達、隠密なんだって……。伊賀や甲賀系統の分派の里に影みたいに乗り込んで殺戮するみたい……。小さい流派の中には既に壊滅させられた所もあるって言ってた」
「ターゲットが隠密……? 何でそんなことを……。隠密は今も昔も主君を陰ながらサポートすることが仕事だから、敵方の主君をターゲットにするならまだしも、隠密自体に直接攻撃をすることはあまり意味をなさないし、何よりリスクが高過ぎる……里長は何と?」
「さぁ……何か知ってそうな感じだったけど、今はその男の子を追えとしか言われてないんだ。しばらく調査してシロかクロか見極めて欲しいって……」
「…………」
 杏は伏し目がちに顎の先を親指と人差し指でつまむ様にしながら思考を巡らせる。杏が持てる知識や洞察力を総動員して深い考察をする時の癖だ。阿音はそれを十分に理解しているから、杏がその仕草をしている時は決して声をかけなかった。
「……レゾンデートル」
 三分ほど杏が考えを巡らせた後、ぽつりと呟いた。
「え? レゾ……?」
「レゾンデートル。存在理由という意味なんだけど……。んー、少し極端なたとえになっちゃうけど、たとえば私や阿音が所属する流派よりも優れた能力を持ち、しかも世の中の依頼者全員を一気に引き受けられるほどの大規模な隠密集団がいたとしたら、私達はどうなると思う?」
「えーと……小規模だからきめ細かい活動で……」
「それも向こうの方が上。あらゆる面で向こうが優れているとしたら?」
「…………私達がいる意味無いんじゃないかな?」
「そう、それがレゾンデートルが無くなった状態。かなり極端なたとえだけどね」
「今回の任務はどう関係があるの?」
「……この前阿音が失敗した任務のターゲットって、私達の里の抜け忍だったでしょ? その人はずっと、いつまでも何かに依存する体質に異議を唱えいたらしいし……。同じ考えを持っている人は私達の里にも外にも少なからず居るんじゃないかしら?」
 阿音は腹部に重石を詰め込んだ様な違和感を感じた。以前、抜け忍を追って返り討ちに合い、手ひどく暴行を受けた場所だ。両手足を壁に拘束され、男数人がかわるがわる腹部を殴打した。目からは涙がこぼれ、口からは絶えず唾液と胃液が溢れて制服を汚した。 失神するとすかさず冷水を浴びせられ、再び腹部を責められた。永遠にも感じた拷問の後、何度目かの失神をした阿音は里の入り口にゴミの様に放置されていたらしい。自分が目を覚ました時に飛び込んできた杏の泣き顔は、今でも脳裏に焼き付いている。
「仮に、そういう考えの人たちが集まって、里長の言っている新しい流派を興したと仮定するとして、その小さな集団が現段階で何を目的に動くのかは想像がつくわ。まだ小さい新興勢力が目指す所は、レゾンデートルの確立。他者と共存したいのであれば他の流派が出来ないことをして差別化を図ればいい。出来ないのであれば消滅するか、あるいは……」
「あるいは……?」
「競争相手を潰す。後ろ向きなレゾンデートルの確立ね」
 沈黙が狭い保健室の中を、足音を立てずに歩く老婆の様に這い回る。何か大きな力が自分たちを取り囲んでいる様な気がして、阿音は背筋が寒くなった。杏も神妙な顔をして顔を伏せる。
「私にはお姉ちゃんの言ってる事が真実だと思う……。じゃあ、この男の子も?」
「そこまではわからないわ。ただ、仮にこの子がその流派のメンバーだとしたら、当然調査中に攻撃を仕掛けてくるでしょうね。ターゲットの方から近づいてくるまたとないチャンスでしょうし……」
「……お姉ちゃん……一緒に付いてきてくれる?」
 阿音が不安そうな顔で杏の顔を覗き込む。こういう甘え上手で、いざという時は頼ってくれる所も昔から変わってない。心配して後を追う様にくノ一になった甲斐があるというものだ。それに阿音に頼られることは杏も嫌いではなかった。
「もちろんよ」と笑顔を作りながら、杏が手の中の写真を阿音に返した。返す途中で写真をちらりと見ると、写真の中で笑っている男の子と目が合った気がした。

 街路樹にとまったアブラゼミは、その短い一生を全世界に誇示するかの様にけたたましく鳴いていた。杏と阿音は手のひらを団扇の様にして顔に風を送っていたが、それでも暑さは少しもマシにはならなかった。
「どう? お姉ちゃん?」
「うーん……普通……」
 テーゲットの男の子はコンビニの駐車場の車止めに四、五人の仲間達と座っていた。立ち居振る舞いからターゲットの男の子がグループのリーダーである事は想像できたが、ランドセルを肩掛けにして、友人達とアイスを舐めながら談笑している姿はどう見ても年相応の男の子で、とても隠密組織の一員には見えなかった。
「今日で四日目だけど、普通に学校と家と友達の家の往復しかしてないわね。友達もごく普通のクラスメイトだし……いっそ家の中に忍び込んで調べてみるしか」
「あ、待ってお姉ちゃん。移動するみたい」
 ターゲットと四、五人の友人達は歓声を上げながら公園の方向へ移動している。ターゲットは写真と同じカーゴショーツのポケットに両手を突っ込み、他の少年達を率いる様に肩で風を切って歩いて行った。杏と阿音もその後をつける。少年達は公園に着くとボール遊びをするでも無く全員公衆トイレに入って行った。杏と阿音はジュースでも飲み過ぎたのかなと思ったが、少年達は十五分以上経っても出て来なかった。蝉は相変わらず二人の頭上でけたたましく鳴いている。
「お姉ちゃん……」
「うん……おかしいよね……」
 二人は文字通り忍び足で公衆トイレに近づく。入り口には「清掃中」の看板が置かれており、杏と阿音はお互いの顔を見合わせた。裏へまわり、忍刀を踏み台代わりにして通気窓から中を覗いく。学校の制服を着た一人の女子生徒が少年達に取り囲まれ、一心不乱に奉仕をしている姿が飛び込んできた。女子生徒はうっとりとした表情を浮かべながら、手で二人の少年達の性器をしごきつつ、口を使ってターゲットの性器を吸っている。
「ぷぁっ! すご……太い……。身体は小さくても、もう立派な男の子なんだね……」
 女子生徒がターゲットの性器を口から離すと、勢いよく跳ね上がってターゲットの腹に当たりパチンと音を立てた。杏と阿音は同時に息を飲んだ。二人は今まで男性器をまともに見た事が無かったが、少年達の男性器は十分に成熟している様だった。
「うぁ……お姉ちゃん……気持ちいいよ……も……もう……」
「ま……また出ちゃうよ……。また白いネバネバしたの、たくさん出ちゃうよ……」
「んふぁぁ……いいよ……お姉さんにたくさん出して……いっぱいかけて……」
 しごかれていた少年二人が同時に射精すると、女子生徒はうっとりした様子で精液を受け止めた。背後にいる少年達も我慢できない様子で自分の股間に手を当てながら、もじもじと順番を待っているようだ。杏と阿音はその異様な光景に釘付けになった。
「ちょっとお姉ちゃん達、なに覗いてるのさ?」
 不意に声をかけられ、杏と阿音が同時に振り向くと、グループの少年のひとりが背後に立っていた。ターゲットの少年ではなかったが、二人は反射的に忍刀から降りて身構える。
「窓の外見たらお姉ちゃん達が覗いてるんだもん。ビックリしたよ。友達と遊んでる最中なんだから邪魔しないでよ?」
「き、君達こそなにやってるのよ?! あんなことして……君いくつなの!?」
「あんな事って?」
「あ……その……皆で女の子囲んで、変な事してたでしょ!?」
 阿音が顔を真っ赤にしながら少年に近づく。こういう事に免疫が無いのだろう。少年は首を傾げながらぽかんとしている。杏はそんな二人を交互に見た。ターゲットはまだトイレの中にいるのだろうか? どちらにしろ、早めにここを離れた方がよさそうだ。
「あんな事って、エッチごっこのこと? あれはお姉ちゃんからしようって言われただけだし、僕たちも気持いいからしてるだけなんだけど……」
「ああいうのはダメなの! ああいう事は好きな人同士でするものなんだから!」
「で……でも……」
「でもじゃない! とにかくああいう事はダメなの!」
「そんな……僕たち悪い事してないよ……お姉ちゃん達ひどいよ……」
 少年が顔を伏せて目の辺りを拭う。阿音の剣幕に押されて泣いてしまったようだ。阿音が「あっ」という顔をして無意識に口に手を当てる。杏が少年と阿音の間に入る。
「ちょっと、阿音。もうそのくらいで……この子に謝りなさい」
「ひっく……ひっく……」
「ご、ごめんね。お姉ちゃんあんまりビックリしたものだから、つい大声出しちゃって……はい、ハンカチ」
「うう……ありがとう……」
 阿音が少年の目線に合わせて中腰になりながらハンカチを渡した。少年はそれを受け取って涙を拭くと、大きな音を立てて鼻をかんだ。杏は小さく溜息をつきながら「とりあえず、一旦ここを離れましょう」と耳打ちした。阿音は杏を振り向いて頷くと。視線を少年に戻した。
 少年が消えていた。
 自分のクナイの刺繍が入ったハンカチだけが、くしゃくしゃに丸まって地面に落ちている。
「……!!」
 背後から湿った砂袋を殴った様な音と共に、杏の声にならない悲鳴が聞こえた。
「? お姉ちゃん……?」
 少年が泣き顔のまま、杏の鳩尾をピンポイントに突いていた。その小さな拳は胸骨の間をくぐり抜け、杏の心臓を直接揺さぶったようだ。杏は今まで見た事も無いほど目を見開き、声にならない悲鳴を上げながら、混乱と苦痛が混ざった様な複雑な表情を浮かべていた。
「え……? お姉ちゃん?」
 事態が飲み込めずに阿音は再び杏に問いかけるが、杏は返事を返す事無く口をぱくぱくと動かした後、前屈みに倒れ込んだ。
 次の瞬間、自分の腹部にも衝撃が走った。胃を潰された衝撃で体中の空気が全て押し出され、声が出ない。
「……ふぅッ!?」
「……お姉ちゃんさっき僕に幾つなのか聞いたよね? 僕はこの歳で身体の成長を止められてるんだけど、お姉ちゃんの倍は生きてると思うよ。それにこの身体は、『なり』はこんなだけど、筋力や精力は年相応に成長するし、諜報に便利だから気に入ってるんだよね」
「……っは……ぅぁ……ぁ……」
 阿音の瞳がぐりんと瞼の裏に隠れ、全身から力が抜ける様にがくりと地面に倒れ込んだ。公衆トイレからはターゲットの少年が写真と同じ悪戯っぽい笑みを浮かべながら、仲間を引き連れて出て来た。
「終わったか……早かったな」
「無防備過ぎて逆に罠なんじゃないかって不安になったよ。油断させるのが僕達の専売特許とはいえ、ここまで簡単に騙されるなんて。本当に隠密なのかな?」
「間違いは無いだろう。そこの一人は前回捕えて拷問した娘だ。さて、どうしたものか……。我々の里に連れて行く前に少し楽しむか? 今のオモチャ達は貧相な身体ばかりだから、この二人はそれなりに楽しめると思うぞ。特にその胸なんか……」
 少年達の視線が失神している阿音と杏の身体に注がれると、どこからか生唾を飲む音が聞こえた。少年達は目配せをすると、協力して二人を公衆トイレに運び込んだ。
 公園にはクナイの刺繍の入ったハンカチだけが残されたまま、そして誰もいなくなった。


ありがとうございました。
今回は一撃さんの描かれたこちらのイラストを元に妄想させていただきました。
直前で当て身をするキャラが本人でなくなってしまいましたが、こちらの方が話が膨らみやすかったのでご勘弁を。

ではまた次回