「アナスタシア…聖書学院…」

 

シオンがつぶやくようにファーザーの言葉を反芻する。困惑したような、理解不能のものを見せられたような、そんな表情だった。

 

アナスタシア聖書学院。

入学には家柄や性格判断、基礎学力や身体能力まで多岐にわたる試験や検査、5回以上の面接を経て選ばれたものだけが入学できるミッション系のエリート進学校である。アナスタシア卒というだけで箔が付き、一流企業や大学も入学時からある程度生徒に目星をつけるという。特に選挙で選ばれた生徒会役員や各部活の部長、優秀選手は卒業と同時に各方面から声がかかるケースも珍しくない。

また、聖書学院とは言っても規律はそこまで厳格ではなく、全寮制と日に数回の礼拝、服装規則以外は男女交際も「結婚を前提としていれば可」とミッション系の中ではかなり自由な校風になっている。もっとも、入学までの厳しい審査項目を見れば、「問題のある学生は1人もいない」という学校側の自信の現れとも取れる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!アナスタシア聖書学院って言ったらシオンさんの…」

 

「はい…私の母校です…。綾ちゃんにはさっき少し話ししたよね。実は、3ヶ月ほど前から生徒が5人ほど失踪しているんです。まぁ、全寮制なので稀に共同生活に馴染めずに逃げ出す人もいるのですが、それでも数年に1人いるかいないか…3ヶ月で5人というのは異常な数なんです」

 

『ふむ…人妖の仕業と見てほぼ間違いないだろう…』

 

「でも、そんなに失踪者がいたら学園でも騒ぎになるんじゃ?」

 

「今は生徒会の力で情報の漏洩は抑えています。生徒達には一時的な帰省と…。私ももしかしたらと思っていたので、役員の皆には私から指示して動いてもらっています」

 

「役員に指示って…シオンさんってまさか?」

 

「ええ、アナスタシア聖書学院の生徒会長です。今回の件は、私に行かせてください。学校内の地理も把握していますし、何よりも学校の皆を守りたいんです!」

 

シオンの強い意志に圧され、会議室には口を開くものはいなかった。当初は次の任務にも志願しようとしていた綾も、自分の母校を人妖に好き勝手に荒らされる気持ちは痛いほど分かるため、手を挙げようとはしなかった。

 

『わかった。今回の件はシオンに一任しよう。いざという時は身の安全を最優先するように。戦闘服の用意はできている。では作戦は………」