「は……うぅ……こ、こんな……ひどい……」
 シオンは初めて体験する味と臭いに呆然としていた。
 高嶺の花のシオンが、挑発的な格好で精液にまみれている。学院中の男子生徒、果ては教員までもが夢にまで見た光景が眼前に広がり、取り囲んだ男達の心を黒い劣情の炎が包んだ。
「お、おい……どうする……?」
「ど、どうするって……や、やっちまうか?」
「ええっ!? ぼ……僕……経験無いよ……」
「関係ねぇよ。それに、この様子だと会長も経験無いだろ? こんなチャンス滅多にねぇんだ。やらねぇなら俺からやるぜ」
「いや……さすがにレイプは……」
 薄ぼんやりとした明るさの室内に、男達のくぐもった声が響く。お互いに顔を見合わせ、互いに合意を求め合うが、わずかに残った理性が一線を踏みとどまらせている。
 部屋のドアが音を立てて開く。
 空気が流れ、部屋中にべっとりと溜まった重い体液の臭いが僅かに動いた。
「あらあら、女の子を泣かした悪い子は誰かしら?」
 その空間に不釣り合いな柔らかい声が響いた。
 篠崎冷子が、まるで喜劇舞台を観ているような微笑みを浮かべながら、部屋の中央に歩み寄って来た。鑑を含め、部屋の男達が一斉に振り返る。
「どうかしら? この子達の様子は?」
「ええ、攻撃的な言動や行動、射精量などは増加していますが、理性の打ち消しが弱いみたいですね」
「そうみたいね。てっきり今頃如月さんが滅茶苦茶に犯されてる頃だと思って来たけれど……。誰も動こうとしないの?」
「あと一歩といったところでしょうか。やはり人間を人間たらしめる理性を無くすのは容易では無さそうですね」
「あまり無くしすぎるとあの野球部員みたいに馬鹿になっちゃうし。何事もバランスを取ることが一番難しいわ。ところで、身体の方はそろそろいいみたいよ?」 
「ほぉ……それはありがたい」
 鑑の口角がつり上がる。
 冷子と鑑が生徒達の間をすり抜けてパソコンの前まで移動する。冷子が操作をはじめると、試験管を逆さにした様なカプセルの中が青白い光で満たされた。カプセルの中にはかつて綾と対峙した涼の身体が液体に浮かんでいる。脇腹にはうっすらと刺傷が見えた。
「すばらしい……。傷もほとんど消えている……」
「このままでよければすぐに使えるわよ? 器さえ元に戻れば、後は魂を元に戻すだけだもの」
「すぐにお願いします。この身体は能力が低すぎて堪え難い」
「了解。三十分もかからずに終わるわ」
「自分の身体か……エネルギーもかなり減っているでしょうから、すぐに補給しないといけませんね。幸運にも、いい補給元が近くにあることですし……」
 鑑はそう言うと、シオンに一瞥をくれて空いているカプセルに入った。冷子が端末を操作すると、再びカプセルが暗転して中の様子が分からなくなる。
 呆然と二人のやり取りを見ていた男子生徒は、視線を目の前のシオンへと戻した。シオンも少しずつ目に光が戻り、表情も落ち着きを取り戻している。
「み……皆さん。どうか、間違ったことは止めて、すぐに寮に戻って下さい。このことは誰にも話しませんから、皆さんに不都合や処罰が及ぶことはありません。人間は誰でも間違えます……。今日のことは反省していただければ、それで十分ですから……」
 最高級の絹糸のような長い金髪がかすかに震え、同じく金色の長い睫毛にはうっすらと涙が浮かんでいる。服や肌にはまだ生乾きの精液がゼリー状になって残っていたが、それでもシオンは男子生徒達を責めること無く、健気に間違いを正し、諭そうとしている。
 誰も言葉を発すること無く、下唇を噛んでシオンを見つめていた。遠くの方で冷子の操作するキーボードの音だけが微かに響いている。
「ぼぼ……僕……会長のこと本当に憧れてて……。ああ、何てことを……ご、ごめんなさいぃ……」 
 相撲部員の男子生徒が泣き崩れた。他の男子生徒も全員神妙な顔をしている。テニス部も口を開いた。
「いや、その、何というか……。俺達、とんでもないことし」
 言葉が途中で途切れる。
 不審に思った他の生徒もテニス部を見るが、次々に全員が怪訝そうな顔から無表情に変わって行く。シオンの顔にさっと不安な表情がよぎる。無表情になった相撲部員の体の影から冷子が姿を現した。両手には人数分の注射器が握られている。
「皆ダメじゃない。お薬を飲み忘れたら……」
 冷子は理性を取り戻しそうになった男子生徒全員に薬剤を注射し終えると、注射器を背後に放った。乾いた音を立てて地面の上で注射器が爆ぜる。
「あなた本当にすごいわぁ……。こんな仕打ちを受けてもまだ相手を信頼して説得しようとするんだもの。危うく薬の効き目が予定より早く切れそうになったじゃない。夜は長いんだから、もっと楽しまなきゃダメよ」
 冷子が指を鳴らすと、生徒達が操り人形のようにぐりんと首だけをシオンに向け、取り囲む様にシオンに歩み寄った。
「あ……皆さん……?」
 視線が泳ぎ、声がうわずる。再びテニス部が座り込んでいるシオンの背後に回り、興奮した様子で口を開く。
「変かもしれないけど俺さ……。さっき腹を殴られてる時の会長の顔、すごくエロく見えたんだけど……」
「ぼ、僕もそう思う! 普段は見れない切羽詰まった感じが……」
「じ、実は俺も……やべ……思い出したら勃っちまった……」
「何言ってんだよ? 最初からガチガチじゃねぇか。なぁ……俺らも殴ってみないか? レイプがやべぇっつっても、これくらいはさせてもらわねぇと納まらねぇぜ」
 ボクシング部が周囲を見回す。全員が頷いた。
「じゃあ……決まりだな……」
 テニス部が背後からシオンの腕を掴んで立たせると、シオン両肘の間に自分の腕を通し、閂を通したように固定する。
「あ……あぐっ……い、痛い……! や……止めて下さい。目を覚まして」
 シオンの胸が上半身を反らされた反動で上下に波打つ。清楚な印象の整った顔に、際どいコスチュームに包まれた挑発的な身体。男達の生唾を飲み込む音がはっきりとシオンの耳に届いた。
 サッカー部の部長が興奮した様子でシオンの前に立つと、引き締まった槍のような膝をシオンの下腹部に突き刺した。
「んぐうっ?!」
 シオンの身体が電気ショックを受けた様に跳ね、喉から濁った悲鳴が絞り出される。滑らかで日本人よりも白い柔肌に、浅黒い男の膝が痛々しくめり込んでいた。
「へへ……やわらかいな……。サッカーボールよりこっち蹴ってる方が楽しいかもなぁ……」
「あ……あぅ……ぐぷっ! あ……うぁ………」
 シオンは荒い息を吐きながら、視線だけで「馬鹿な真似は止めてほしい」とサッカー部に訴えた。しかし彼にはまるでシオンが責め苦を受けながら許し請いている様な表情に見え、その加虐的な欲望が更に燃え上がった。
「やべぇ……。女がフェラしてる時の表情にそっくりだ。お前もやってみろよ。ボクシング部だから殴り慣れてるだろ?」
 サッカー部に促され、全身を攻撃に特化する様に鍛え上げた丸刈りの男が、興奮した様子でシオンの正面に立つ。
「言われなくてもやるに決まってんだろが! へへへ……実は普段から女を殴りたいと思っていたんだが、まさか会長で叶うとは思ってもいなかった……ぜっ!」
 ぐじゅっ……という湿り気を帯びた音が轟き、ボクシング部の拳がシオン腹に飲み込まれた。ミシリと生木を擦り合わせた様な嫌な音が背骨を伝わってシオンの鼓膜を震わせ、全身の皮膚が粟立つ。
「うぐぅッ!? う……ぐぷっ?! う……うえぇぇぇ……」
 正確無比に洗礼されたパンチは無慈悲にシオンの鳩尾を貫き、立て続けに胃袋を押し潰した。強制的に舌と透明な胃液が口から飛び出し、シオンの緑色の瞳孔が小さな点になる。身体を痙攣させながら粘つく胃液を吐いた後、瞳がまぶたの裏に隠れて全身の筋肉が弛緩した。
「お……おい!? 俺まだ殴ってないぞ?」
「そ……そうだよ! ぼ……僕だって!」
 自分の番を待ちかねていた男達から不満の声が上がり、非難の視線がボクシング部に向けられる。しかし、当の本人は手をひらひらさせながらシオンの肋骨と鳩尾の境目あたりに親指を添えた。
「まぁ慌てんなって。落ちた相手の気付けをするくらい簡単なんだよ。ボクシングでも上手く入るとよく飛ぶからな。気ぃ失ってもこうすれば……」
 ボクシング部が親指を強く押し付けると、シオンの身体はビクリと電気ショックを受けたように跳ね上がる。
「ぷはぁっ!? はぁ……はぁ……はぁ……え……?」
 気絶していたことにも気付かなかったのか、軽いパニック状態になり、状況が飲み込めずに辺りを見回した。シオンの視線に入ったのはニヤニヤと笑う男の顔ばかりだった。
「こいつはいいや……」
「だろ? 遠慮はいらねぇぜ? 気絶してもまた起こしてやるよ。さて、続きだ。長い夜になりそうだなぁ、会長?」 
 シオンの唇が動き「や……やめ……」とかすかに声を発した瞬間、ずぶりという音と共にボクシング部の骨張った拳がシオンの腹部に侵入した。
「か……かふっ……!」
 体中の空気がすべて吐き出された様な感覚の後。津波の様に苦痛が身体の底からせり上がってきた。苦痛と同時に、押し潰されて居場所の無くなった内臓が出口を求めて口から飛び出そうとせり上がってくる様な錯覚を憶える。
「おぶっ?! ぐえぇぇぇ!」
 シオンの身体が殴られた反動でくの字に折れるが、後ろからテニス部に閂を決められているため、倒れ込むことも出来ない。
「おら、もう少し頑張れよ。気絶しない様に手加減してやってんだから……よっ!」
 肉のぶつかる音というよりは、鉄の塊と水袋が衝突した様な音だ。普段人を殴り慣れているボクシング部の拳は攻撃に特化し、長年の殴打の蓄積で石の様に固いタコが出来ていた。その上、人体急所をピンポイントで突く技術、当たった瞬間に拳を捻り込み、更なる苦痛を与える技術は、シオンの脳内を苦痛一色に染め上げるのに十分だった。
「うぐっ! あうっ! ゔっ! ぐぶっ!? ごぽぉっ!」
 臍の辺りに打ち込まれた拳が周囲の柔肌を巻き込んでねじ込まれると、恐ろしい悲鳴がシオンの口から漏れた。口内に溜まった唾液が衝撃で糸を引いて飛び散り、苦痛により目は大きく見開かれ、緑色の瞳の半分が上まぶたに隠れた。舌が限界まで露出し、いわゆるアヘ顔に近い状態だ。普段の穏やかで凛としたシオンからは想像出来ない声と表情に、男達の興奮は昂って行った。
「あ……あぅ……うぁ……」
「おい……そろそろ代われよ……」
 シオンを後ろ手にロックしていたテニス部がボクシング部を睨む。至近距離でシオンの苦悶する様子を見せられ、生殺し状態にあった彼の目は血走り、呼吸は極度の興奮のためか不規則に荒く、唇はわずかに震えていた。
「わりぃわりぃ、興奮してつい……な。おい、お前が押さえてろ」
 ボクシング部に促され、サッカー部とテニス部が入れ替わる。
 テニス部はシオンの正面に回り込むと、シオンの顔に自分の鼻先が付きそうなほど顔を近付け、シオンの顔を仔細に観察した。目の形や鼻筋から眉に至まで見事にシンメトリーに整い、「怖いぐらい」という表現が誇張ではないほどの容姿だった。 
「へへ……まさに反則的だな……」
「この顔が苦痛で崩れるんだぜ? まぁ、崩れてもすげぇ綺麗だけどな。綺麗なものを汚す快感ってやつか?」
「それに腹を殴ったあの感覚、すごく良かったな。セックスみたいに相手の身体の深い所で繋がっている気がしてさ」
 ボクシング部とサッカー部が口々に感想を言い合い、テニス部の興奮を煽る。シオンは繰り返される責め苦に意識が混濁し、僅かに首を振って精一杯の抵抗をするが、男達には何も伝わらなかった。
「はぁ……はぁ……じ……じゃあ……いくぜ!」
 テニス部は恐る恐るという感じでシオンの剥き出しの腹部を殴った。肌がぶつかる乾いた音が響く。シオンの腹部が僅かに赤く染まって行くが、ダメージはほとんど無さそうだ。
 見かねたボクシング部がテニス部に殴り方の指導をし、徐々に威力を増して行く。
「こふっ! うあっ! あ……んむつ!」
 徐々にシオンの口から悲鳴が漏れる様になり、表情に余裕が無くなってくる。テニス部もようやくコツを掴んだのか、一撃、一撃と繰り返すうちに徐々に威力が上がり、殴られた時の音も肌と肌がぶつかる音から、水っぽさが増した重いものに変わって行った。
 ぐじゅんと一際大きな音が響くと、シオンの瞳からは大粒の涙がこぼれた。顔は興奮した様に上気し、口を開けたまま苦しそうに喘いでいる。
 「すごいな……会長の顔がこんなに崩れて……」
 テニス部はアンダーサーブの要領で腕をしならせながら、シオンのくびれた脇腹を抉った。ピンポイントで肝臓を貫かれ、周囲の臓器を巻き込んで体内の至る所が悲鳴を上げる。
 呼吸困難に陥いっていたシオンを、横で見ていたボクシング部の非情なボディーブローが突き上げた。胃が押し潰された衝撃で、反射的に胃の内容物がせり上がつ。 
「うぶぅぅぅっ! うぇっ……!」
 ボクシング部は、顔中を苦痛に歪ませ、もはや悲鳴すら上げることの出来ないシオンの顔を覗き込んでサディスティックな笑みを浮かべる。シオンの胃を突き上げた拳はそのまま抜かず、長い苦痛を与え続けた後、捻るように更に体内に突き込んで胃を押しつぶした。
「ぐむっ?! むぐぅっ!?」
「へへ……捕まえたぜ」
 ボクシング部の手が、握りこぶしほどの大きさの柔らかい袋に触れる。強引に手を開いてシオンの胃を掴むと、そのまま握り潰す様に手を閉じた。
「ごぷっ!? ぐぶっ……ゔぇぇぇっ!」
 シオンが白目を剥き、喉からごぼりと水音が響いたと思うと、透明な胃液が強制的に吐き出された。身体はビクビクと痙攣し、一瞬顔を上げようとした後、糸の切れた人形の様に失神した。
「へへ……またやっちまった。さぁて…そろそろおっきする時間ですよっと」
「あ……あの……そろそろ僕もやっていいかな?」
 ボクシング部が再びシオンを覚醒させようとすると、背後から終止男達の行為を見ているだけだった相撲部が声をかけた。眼前で繰り広げられる光景に彼の股間は破裂せんばかりだったが、驚いたのはその大きさだった。周囲の男子生徒達の二周りほど大きい。
「おお、もちろんだ。はは……それにしてもお前でけぇなぁ。それで使ったこと無いなんて宝の持ち腐れだぜ? じゃあ、また眠り姫を起こしてやっか」
「腕も太いな……。力み過ぎて俺まで吹っ飛ばさないでくれよ?」
 背後でシオンを押さえていたサッカー部が茶化す。
「い、いや、あの……僕……やってみたいことがあるんだ……」
 一同が不思議そうな顔で相撲部を見る。相撲部は顔を赤くしながら、まるで花瓶を割ってしまったことを母親に報告する子供の様な声で話しはじめた。