※二次創作としてシオンさんの死闘とその後の祝勝会を書いていただいたのですが、元記事が削除されたため、意思を尊重してリンクを削除しました。
こちらは祝勝会の更に後の話を自分が勝手に書いたものです。
息抜きとして楽しんでいただけたら幸いです。
目抜き通りから少し入った通りには洒落た飲食店が建ち並んでいて、その日はちょうど暑くも寒くもない土曜日だったから、日付が変わったにもかかわらず通りを歩く人の数は多かった。ほとんどの人は晴れ晴れとした顔をしていて、日頃の疲れを癒す様に友人や恋人と連れ添って歩いている。
一軒だけ入口のカーテンが降ろされたレストランには「本日貸切」の札がかかっていた。
その店は雑誌やテレビで何回も取り上げられ、アジアの料理店ランキングに載ったこともある有名店だ。ここを貸し切れるなんてどんな人物なのだろうと通りを歩く人々の何人かは思った。
店の中の凄惨な状況など想像もせずに。
「あの……シオンさん……?」
赤いチェックのスカートにライダースジャケットを羽織った綾が心配そうに声をかけるが、相手からの返事は無い。テーブルの上にはワインやウオッカの瓶が並んでいる(数本は倒れたままになっていた)。綾はオロオロとうろたえ、黒いスーツを着た美樹は諦めたように天井を見ていた。
「あの……」
再び声を掛けようとした綾の肩に、美樹が手を置いて諦めたように首を振る。
「もう無理だ。私が残るからお前も帰れ」
「でも……」
「掃除も片付けも済んでいるから、あとはこいつが目を覚ますのを待つだけだ。二人もいらんさ」
屍累々となったシオンの祝勝会が開かれたイタリアンレストランには綾と美樹、そしてシオンだけが残っていた。綾と美樹の視線が、髪をストレートに下ろしてクラシカルなロングスカートのメイド服を着たままテーブルに突っ伏しているシオンに注がれる。
おそらく高価なものあろうメイド服のエプロンをマダラに染めたまま、シオンは満面の笑みで恐るべき料理を運んできた。そしてそれを食べたアンチレジストの面々は、ある者は椅子ごと後ろに倒れ、ある者はテーブルに額を打ち、ある者は口を押さえたまま固まった。シオンはその様子を見て悲鳴を上げ、すわ敵の襲撃かと能天気にも原因が自分にあるとは露ほども思わずに泣きながら介抱した。
まずかったのは唯一の男性である鑑を介抱した時に「この馬鹿!」と罵られたことだ。「味見くらいしろ! 冗談は痴女みたいな戦闘服だけにしておけ!」
無論、鑑は本心から言ったわけではない。普段の彼は心の底からシオンの人柄や仕事ぶりを尊敬しており、彼女の右腕として生徒会の運営やアンチレジストの任務において陰から日向からシオンをサポートしている。今回彼が発した暴言は、いわば生存本能が発した防御行動だった。自分の命を脅かす敵がとどめを刺そうと近づいてきた時に威嚇する動物的行為。問題だったのは、その防御反応の対象が自分が憧れるシオンであったこと、そして、その威力は彼女にとって効果抜群だったことだ。普段の彼からは想像もつかない暴言にシオンの心は砕け、ギャグ漫画の様に白眼になり、ピシッという音と共にガラスのように固まった。
数刻が経った後、正気に戻った鑑は固まっているシオンを見て困惑し、続々と目を覚ました組織のメンバーに的確に片付けの指示を与え、最後まで残ると言った綾と美樹を除いた他のメンバーを率いて帰路に着いた。
「Ужас!!!!」
突然シオンがテーブルに突っ伏したまま叫んだ。綾の肩がビクッと跳ねる。
「え……なに……? ウジャ……?」
「ウージャス。ロシア語で最悪とか畜生とかいう意味だな」
「……つまり、結構汚い言葉ってこと?」
「まぁ、そうだな……」
ガバッとシオンが顔を上げる。白い肌が赤くなって目が据わっていた。
「なんですか……?」シオンが頬を膨らませながら言った。「私の料理がそんなに汚いって言うんですか?」
「え……? 誰もそんなこと……」
綾がオロオロしながらフォローを入れる。
「いいんですよ……どうせ私は料理下手で、痴女みたいなメイド服を喜んで着ている露出狂ですから。露出狂のロシア人って語呂が良くてなんだか素敵じゃないですか……はは……は……笑ってくださいよ」
シオンが床に視線を泳がせたまま、半笑いで器用にグラスにワインを入れる。
「いいんですよ別に……気がつかないふりをしていましたけれど、アンチレジストや学院の皆さんから自分がなんて言われているのちゃんと知っているんですから。いやらしい身体をしているから遊びまくっているはずだとか、完璧に振舞っているけれど根はエッチなこと考えているとか、ドスケベメイドとか……ドスケベメイドとか!」
「お、おい……」と言いながら美樹は嗜めるが、シオンはグラスに注いだワインをひと息で空けた。
「なんでいつもいつもエッチな目で見られなきゃいけないんですか! わ、私は……男性とはお付き合いをしたことも無いんですよ!」
シオンが両手で作った握りこぶしで机を叩いた衝撃で、ワインの瓶が数本床に倒れた。もう何本空けたのだろうかと綾は思った。
鑑の暴言でフリーズから溶けたシオンは虚ろな目をしたままフラフラと勝手に店のワインセラーを開け、棚からウオッカの瓶を取り出し、無言のまま飲み始めた。美樹の付き合いでグラスひとつくらい付き合うことはあったが、ここまでしっかりと飲酒しているシオンを見たのはこれが初めてだった。
「なんで自分が可愛いと思う服を着ただけで笑われなきゃいけないんですかぁ……それにこの身体だって好きでこうなったわけじゃないのに……私だってスレンダーな身体に憧れてもいるんですからぁ……」
「重傷だな」美樹が頭を掻きながら言った。「いいかシオン、片付けはもう済ませたから、あとは何も心配せずに家に帰って寝るんだ。タクシーの手配をしよう。そして朝起きたら熱いシャワーを浴びて、いつもみたいに紅茶を淹れて飲め。心配するな、これくらいで誰もお前を嫌いになんかならないさ」
殺されかけたことは「これくらい」とは言えないんじゃないかなぁと綾は思ったが、黙っていることにした。
「まだ飲みたいです……」
「ダメだ、もう帰るんだ。一応入口のカーテンは閉めてあるが、巡回に来た警察に見つかったら補導だぞ。アナスタシア聖書学院の生徒会長が未成年飲酒で補導なんてシャレにならん」
「ロシアでは十八歳から飲酒が認められていますからセーフです……」
「アウトに決まっているだろう。ここは日本だぞ。郷に入れば郷に従え」
「うぅ……わかりました……」と、シオンは残念そうに頷いた。
「じゃあ、タクシーの手配をするからな」美樹がタバコを咥え、スマートフォンを耳に当てながら店を出て行った。
美樹がいなくなり、店内は水を打ったように静かになった。はぁ……とシオンが深いため息を吐く。
「ねぇ……綾ちゃん……」とシオンがグラスの縁を指先でなぞりながら言った。「私って……そんなに変なのかなぁ」
「へ、変じゃないよ。私は好きだよ……シオンさんのこと」と綾は本心からそう言った。
「ありがとうございます……私も綾ちゃんのことが好きですよ」
とろんとした目をしたままシオンが言った。上気した顔で上目遣いで見つめられ、綾は同性ながらどきりとした。ビスクドールが動き出した様な見た目は怖いくらい美しかった。その顔はずっと眺めていられるほど整っている。まるで吸い込まれるようにシオンの顔を近くに感じた。今ではシオンの吐息まで感じられる。
「好きですよ……」
目の前でシオンが言った。
目の前?
綾がはっと気付いた時にはもう遅かった。
シオンはいつの間にか綾とゼロ距離の間合いに移動していた。しまった、と綾は思った。そうだ、この人は人の死角の中を移動できるのだ……。
ふにゅっと唇にマシュマロの様な柔らかいものが触れた。
「んぅッ?! ゔぅッ?!」
キスされた! と思った瞬間に綾は負けていた。シオンは一瞬のうちに綾の腰に片手を回し、同時にもう片方の手で綾の後頭部をがっしりと固定していた。身長差もあり、綾は上から押さえつかられるように押さえ込まれていた。
「んぅッ?! んんー! んふぅッ?!」
一瞬のうちにシオンの舌が綾の口内に侵入し、綾の上唇や舌の裏側をなぞった。ぞわりという刺激が綾の背骨を駆け上がり、腰から力が抜けるのを感じる。軽いアルコールに花とミルクを混ぜ合わせた様な甘く蠱惑的な香りが綾の鼻をくすぐった。その間にもシオンは天才的な頭脳で綾の口内の弱いところを的確にさぐり当て、容赦のない暴力的な愛撫を続けていた。
「ん……んふぁ……んぅっ……」
全身の骨を抜かれてしまった綾が蕩けきった表情でシオンの腰に手を回したと同時に、美樹が店に戻ってきた。そしてそのまま何も見なかった様に店から出て行った。
こちらは祝勝会の更に後の話を自分が勝手に書いたものです。
息抜きとして楽しんでいただけたら幸いです。
目抜き通りから少し入った通りには洒落た飲食店が建ち並んでいて、その日はちょうど暑くも寒くもない土曜日だったから、日付が変わったにもかかわらず通りを歩く人の数は多かった。ほとんどの人は晴れ晴れとした顔をしていて、日頃の疲れを癒す様に友人や恋人と連れ添って歩いている。
一軒だけ入口のカーテンが降ろされたレストランには「本日貸切」の札がかかっていた。
その店は雑誌やテレビで何回も取り上げられ、アジアの料理店ランキングに載ったこともある有名店だ。ここを貸し切れるなんてどんな人物なのだろうと通りを歩く人々の何人かは思った。
店の中の凄惨な状況など想像もせずに。
「あの……シオンさん……?」
赤いチェックのスカートにライダースジャケットを羽織った綾が心配そうに声をかけるが、相手からの返事は無い。テーブルの上にはワインやウオッカの瓶が並んでいる(数本は倒れたままになっていた)。綾はオロオロとうろたえ、黒いスーツを着た美樹は諦めたように天井を見ていた。
「あの……」
再び声を掛けようとした綾の肩に、美樹が手を置いて諦めたように首を振る。
「もう無理だ。私が残るからお前も帰れ」
「でも……」
「掃除も片付けも済んでいるから、あとはこいつが目を覚ますのを待つだけだ。二人もいらんさ」
屍累々となったシオンの祝勝会が開かれたイタリアンレストランには綾と美樹、そしてシオンだけが残っていた。綾と美樹の視線が、髪をストレートに下ろしてクラシカルなロングスカートのメイド服を着たままテーブルに突っ伏しているシオンに注がれる。
おそらく高価なものあろうメイド服のエプロンをマダラに染めたまま、シオンは満面の笑みで恐るべき料理を運んできた。そしてそれを食べたアンチレジストの面々は、ある者は椅子ごと後ろに倒れ、ある者はテーブルに額を打ち、ある者は口を押さえたまま固まった。シオンはその様子を見て悲鳴を上げ、すわ敵の襲撃かと能天気にも原因が自分にあるとは露ほども思わずに泣きながら介抱した。
まずかったのは唯一の男性である鑑を介抱した時に「この馬鹿!」と罵られたことだ。「味見くらいしろ! 冗談は痴女みたいな戦闘服だけにしておけ!」
無論、鑑は本心から言ったわけではない。普段の彼は心の底からシオンの人柄や仕事ぶりを尊敬しており、彼女の右腕として生徒会の運営やアンチレジストの任務において陰から日向からシオンをサポートしている。今回彼が発した暴言は、いわば生存本能が発した防御行動だった。自分の命を脅かす敵がとどめを刺そうと近づいてきた時に威嚇する動物的行為。問題だったのは、その防御反応の対象が自分が憧れるシオンであったこと、そして、その威力は彼女にとって効果抜群だったことだ。普段の彼からは想像もつかない暴言にシオンの心は砕け、ギャグ漫画の様に白眼になり、ピシッという音と共にガラスのように固まった。
数刻が経った後、正気に戻った鑑は固まっているシオンを見て困惑し、続々と目を覚ました組織のメンバーに的確に片付けの指示を与え、最後まで残ると言った綾と美樹を除いた他のメンバーを率いて帰路に着いた。
「Ужас!!!!」
突然シオンがテーブルに突っ伏したまま叫んだ。綾の肩がビクッと跳ねる。
「え……なに……? ウジャ……?」
「ウージャス。ロシア語で最悪とか畜生とかいう意味だな」
「……つまり、結構汚い言葉ってこと?」
「まぁ、そうだな……」
ガバッとシオンが顔を上げる。白い肌が赤くなって目が据わっていた。
「なんですか……?」シオンが頬を膨らませながら言った。「私の料理がそんなに汚いって言うんですか?」
「え……? 誰もそんなこと……」
綾がオロオロしながらフォローを入れる。
「いいんですよ……どうせ私は料理下手で、痴女みたいなメイド服を喜んで着ている露出狂ですから。露出狂のロシア人って語呂が良くてなんだか素敵じゃないですか……はは……は……笑ってくださいよ」
シオンが床に視線を泳がせたまま、半笑いで器用にグラスにワインを入れる。
「いいんですよ別に……気がつかないふりをしていましたけれど、アンチレジストや学院の皆さんから自分がなんて言われているのちゃんと知っているんですから。いやらしい身体をしているから遊びまくっているはずだとか、完璧に振舞っているけれど根はエッチなこと考えているとか、ドスケベメイドとか……ドスケベメイドとか!」
「お、おい……」と言いながら美樹は嗜めるが、シオンはグラスに注いだワインをひと息で空けた。
「なんでいつもいつもエッチな目で見られなきゃいけないんですか! わ、私は……男性とはお付き合いをしたことも無いんですよ!」
シオンが両手で作った握りこぶしで机を叩いた衝撃で、ワインの瓶が数本床に倒れた。もう何本空けたのだろうかと綾は思った。
鑑の暴言でフリーズから溶けたシオンは虚ろな目をしたままフラフラと勝手に店のワインセラーを開け、棚からウオッカの瓶を取り出し、無言のまま飲み始めた。美樹の付き合いでグラスひとつくらい付き合うことはあったが、ここまでしっかりと飲酒しているシオンを見たのはこれが初めてだった。
「なんで自分が可愛いと思う服を着ただけで笑われなきゃいけないんですかぁ……それにこの身体だって好きでこうなったわけじゃないのに……私だってスレンダーな身体に憧れてもいるんですからぁ……」
「重傷だな」美樹が頭を掻きながら言った。「いいかシオン、片付けはもう済ませたから、あとは何も心配せずに家に帰って寝るんだ。タクシーの手配をしよう。そして朝起きたら熱いシャワーを浴びて、いつもみたいに紅茶を淹れて飲め。心配するな、これくらいで誰もお前を嫌いになんかならないさ」
殺されかけたことは「これくらい」とは言えないんじゃないかなぁと綾は思ったが、黙っていることにした。
「まだ飲みたいです……」
「ダメだ、もう帰るんだ。一応入口のカーテンは閉めてあるが、巡回に来た警察に見つかったら補導だぞ。アナスタシア聖書学院の生徒会長が未成年飲酒で補導なんてシャレにならん」
「ロシアでは十八歳から飲酒が認められていますからセーフです……」
「アウトに決まっているだろう。ここは日本だぞ。郷に入れば郷に従え」
「うぅ……わかりました……」と、シオンは残念そうに頷いた。
「じゃあ、タクシーの手配をするからな」美樹がタバコを咥え、スマートフォンを耳に当てながら店を出て行った。
美樹がいなくなり、店内は水を打ったように静かになった。はぁ……とシオンが深いため息を吐く。
「ねぇ……綾ちゃん……」とシオンがグラスの縁を指先でなぞりながら言った。「私って……そんなに変なのかなぁ」
「へ、変じゃないよ。私は好きだよ……シオンさんのこと」と綾は本心からそう言った。
「ありがとうございます……私も綾ちゃんのことが好きですよ」
とろんとした目をしたままシオンが言った。上気した顔で上目遣いで見つめられ、綾は同性ながらどきりとした。ビスクドールが動き出した様な見た目は怖いくらい美しかった。その顔はずっと眺めていられるほど整っている。まるで吸い込まれるようにシオンの顔を近くに感じた。今ではシオンの吐息まで感じられる。
「好きですよ……」
目の前でシオンが言った。
目の前?
綾がはっと気付いた時にはもう遅かった。
シオンはいつの間にか綾とゼロ距離の間合いに移動していた。しまった、と綾は思った。そうだ、この人は人の死角の中を移動できるのだ……。
ふにゅっと唇にマシュマロの様な柔らかいものが触れた。
「んぅッ?! ゔぅッ?!」
キスされた! と思った瞬間に綾は負けていた。シオンは一瞬のうちに綾の腰に片手を回し、同時にもう片方の手で綾の後頭部をがっしりと固定していた。身長差もあり、綾は上から押さえつかられるように押さえ込まれていた。
「んぅッ?! んんー! んふぅッ?!」
一瞬のうちにシオンの舌が綾の口内に侵入し、綾の上唇や舌の裏側をなぞった。ぞわりという刺激が綾の背骨を駆け上がり、腰から力が抜けるのを感じる。軽いアルコールに花とミルクを混ぜ合わせた様な甘く蠱惑的な香りが綾の鼻をくすぐった。その間にもシオンは天才的な頭脳で綾の口内の弱いところを的確にさぐり当て、容赦のない暴力的な愛撫を続けていた。
「ん……んふぁ……んぅっ……」
全身の骨を抜かれてしまった綾が蕩けきった表情でシオンの腰に手を回したと同時に、美樹が店に戻ってきた。そしてそのまま何も見なかった様に店から出て行った。