「は…はぅぅ…こ、こんな…ひどい…。うっ…、すごい臭い…」

 

シオンは自分の身体にぶちまけられた白濁に呆然自失となり、初めて体験するその味と臭いに顔をしかめていた。学園に咲いた高嶺の花のシオンが、挑発的な格好で精液にまみれ涙ぐんでいる。学園中の男子生徒、果ては教員までもが夢にまで見た光栄が眼前に広がり、取り囲んだ男達の心を劣情の炎が包んでいた。

 

「お、おい…どうする…?」

 

「どうするって…や、ヤっちまうか?」

 

「ええっ!?ぼ…僕…経験無いよ…」

 

「いや…この様子だと…会長も経験無いだろ…?やらねぇなら、俺からやるぞ…」

 

「いや…さすがにレイプはマズいだろ…?」

 

男子生徒達の間にわずかに残った理性が一線を踏みとどまらせる。シオンもショック状態から抜け出せず、かすかに震えるばかりで男達の声は届いていない様子だった。男子生徒が全員すがるように鑑を見た瞬間、入り口のドアからその空間に不釣り合いな柔らかい声が響いた。

 

「あらあら、か弱い女の子を泣かした悪い子は誰かしらぁ?」

 

篠崎冷子がまるで喜劇舞台を見ているような表情で佇んでいた。鑑を含め、男子生徒が一斉に振り返る。カツカツとハイヒールをならして集団に近づき、一直線に鑑に声をかける。

 

「どうかしら?この子達の様子は?」

 

「ええ、皆さんいい感じに欲望に忠実になってますが、ギリギリで理性は残っているようですね」

 

「そうみたいね。てっきり今頃如月さんが滅茶苦茶に犯されてる頃だと思って来たけれど、まだ理性の方が消しきれてないみたい。誰も動こうとしないんでしょ?」

 

「黙って見てましたが、皆さん尻込みするばかりで…。やはり人間を人間たらしめる理性を無くすのは容易では無さそうですね。この地上で最も欲深く暴力的な人類の本能を解放し野生に放てば、簡単に互いに殺し合って全滅してくれると思ったのですが、まだまだ研究が必要ということです」

 

「あまり無くしすぎるとあの野球部員みたいに馬鹿になっちゃうしね。何事もバランスを取ることが一番難しいわ。ところで、身体の方はそろそろいいみたいよ?」

 

「ほぅ、それはありがたい」

 

冷子と鑑がまるで男子生徒などそこに存在しないかのように会話し、2人してパソコンの前まで移動すると冷子が端末で何やら操作をはじめた。直後、試験管を逆さまにしたような入れ物の中が青白い光でライトアップされ、その液体で満たされた容器の中に、かつて綾と対峙した涼の姿が浮かび上がった。脇腹にナイフを刺した傷痕が見えるが、すでにほとんど周囲の皮膚と変わらないほど回復している。

 

「すばらしい。もう傷はほとんど消えていますね」

 

「見た目を気にしなければ、すぐに使えるわよ?死体を蘇らせるのも魂を切り離せるようになってからはかなり簡単になったわ。今までは肉体が死んでしまったらそれに同化している一魂まで一緒に死んでしまって、たとえ肉体を蘇らせても空っぽの器しか残らなかったけれど、変わりの器に転移させているうちに肉体を修復すれば、また元に戻すだけで済むもの」

 

「すぐにでも戻りたいですね。人間の身体はスペックが低すぎて堪え難いので…」

 

「それなら隣のカプセルに入るといいわ。操作はこっちでやるから」

 

「久しぶりの自分の身体ですよ、懐かしい…。それに、生気もかなり減っているでしょうから、すぐに補給しないといけませんね。幸い、いい補給元が近くにあることですし…」

 

鑑はそう言うとシオンを横目で見ながら涼の身体の隣のカプセルに入って行く。冷子が端末を操作し始めると、再びカプセルが暗転して中の様子が分からなくなった。

 

取り残された男子生徒達は呆然と2人のやり取りを見ていたが、すぐに視線を目の前のシオンに移した。シオンも徐々に目に光が戻り、いつもの責任感の強い生徒会長の顔になり、震えがちな声で男子生徒に話しかけた。

 

「み…皆さん。どうか、間違ったことは止めて、すぐに寮に帰って下さい。このことは誰にも話しませんから、皆さんに不具合が及ぶことはありません。人間ですから、誰でも間違うことはあります。今日のことは反省していただければ、それで十分ですから…」

 

最高級の絹糸のような長い金髪がかすかに震え、同じく金色の長い睫毛にはうっすらと涙が浮かんでいる。 芸術的な身体をキャンパスにして白いアートを施されたシオンはまるで淫靡な前衛芸術の彫刻のようだった。 それでもシオンは男子生徒達を責めること無く、健気に間違いを正し、諭そうとする。

全員誰も言葉を発すること無く、下唇を噛んでシオンを見つめていた。しんとした静寂が、透明な塵のようにシオンと男子部員を包み込んでいた。

 

「ぼぼ…僕…。会長に本当に憧れてて…。ああ、何てことを…ご、ごめんなさいぃ…」

 

とうとう相撲部員の男子生徒が泣き崩れた。他の男子生徒も全員神妙な顔をしている。茶髪も口を開いた。

 

「いや…その…何というか…俺達、とんでもないことし……………」

 

突如、茶髪の動きが止まった。不審に思った他の生徒も茶髪を見るが、次々に全員が怪訝そうな顔から無表情に変わって行く。シオンの顔にさっと不安な表情がよぎる。無表情になった相撲部員の巨体の影から、冷子が姿を現した。その両手の指の股には人数分の注射器が握られていた。

 

「うふふふ…、皆ダメじゃない、お薬を飲み忘れたら…」

 

何が行われたのかは火を見るより明らかだった。一瞬のうちに冷子は薬の効き目が切れかけ、理性を取り戻しそうになった男子生徒全員に再び薬剤を注射したのである。

 

「あなた本当にすごいわぁ…。ここまで汚されてもまだ相手を信頼して説得しようとするんだもの。危うく薬の効き目が予定より早く切れそうになったじゃない。でも、それもオ・シ・マ・イ。夜は長いんだから、せいぜい楽しんでね」

 

そう言うと、冷子はパチンと指を鳴らした。男子生徒達が古い操り人形のようにぐりんと首だけをシオンに向け、その後ゆっくりと体全体の向きを変え、シオンを取り囲んだ。

 

「あ…あの……あの………」

 

シオンも思わず目が泳ぎ、声がうわずる。茶髪が再び座り込んでいるシオンの背後に回り興奮した様子で荒く息を吐きながら口を開く。

 

「…変かもしれないけど、俺さ…さっき腹殴られてる時の会長の顔、すごくエロく見えたんだけど…」

 

「あ…ぼ…僕もそう思う!なんか普段は見れない切羽詰まった表情が何とも…」

 

「じ、実は俺も…やべ…思い出したら勃っちまった…」

 

「何言ってんだよ?最初からガチガチじゃねぇか。なぁ…俺らも…殴ってみないか?さすがにレイプはマズかもしんないけど、それくらいならいいだろ?」

 

「じゃあ…決まりだな……」

 

茶髪が背後からシオンの腕を掴んで無理矢理立たせると、シオン両肘の間に自分の腕を通し、まるで閂を通したように固定する。プロレス技で言うチキンウィングの形に極められ、無理矢理腹と胸を正面に突き出された形になった。

 

「あ…あぐっ…い、痛い…!や…止めて下さい。目を覚まして…」

 

童顔で涙目になっているシオンに、ミスマッチなほど挑発的な身体。胸を突き出された拍子に、ぶるんという擬音が聞こえそうなほどの勢いでシオンの巨乳が上下に波打つ。男達の生唾を飲み込む音がはっきりとシオンの耳に届いた時、槍のような膝がシオンの下腹部に突き刺さっていた。

 

ドグジュッ!!!

 

「がっ…!?ごぶぅ!!う……うぐぁぁぁぁ!!!」

 

シオンはガクガクと痙攣し、膝がめり込んでいる自分の腹部を見つめた。痛々しいほどにへその位置に膝がめり込んでいる。

 

「へへ…やわらかいな…。普段蹴ってるサッカーボールより蹴り甲斐がある…」

 

「あ……あぅ……ぐぷっ…!…あ……はぁぅ………」

 

シオンは声を発せない状態だったが、「どうか馬鹿な真似は止めてほしい」という気持ちでサッカー部を上目遣いで見た。しかし彼には、まるでシオンが責め苦を受けながらも許しを請うような表情に見え、そのサディスティックな情欲の炎に油を注ぐだけだった。

 

「へへ…こいつはやべぇ…。フェラしてるときの女の表情にそっくりだ…。いや、それ以上にそそる…。お前もやってみろよ…ボクシング部だろ?」

 

見るからに鍛え上げたれた丸刈りの男が興奮した様子で近づいてくる。やられる…、とシオンは本能的に思った。

 

「言われなくてもやるに決まってんだろが!へへへ…こんなやべぇ身体見せられたらたまんねぇよ。それに、実は普段から女を殴りたいって思ってたんだが、こんな最高な形で叶うとは思っても無かった……ぜっ!!」

 

ゴギュウゥッ!!ズブゥッ!!!

 

「うぐうぅっ!!あ……げぶぅっ!?ごぶっ……う………あぅ………」

 

正確無比に、洗礼されたパンチは見事にシオンの両胸の間にある鳩尾を貫き、立て続けに胃袋を押し潰した。強制的に舌と黄色い胃液が吐き出され、シオンの緑色の瞳孔が小さな点になる。数瞬ビクビクと身体を痙攣させた後、一瞬で意識が谷底の暗い深淵へと突き落とされ、ガクリとシオンの頭が落ちた。

 

「お…おい!?まだ俺殴ってないぞ?」

 

「そ…そうだよ?ぼ…僕だって!」

 

すぐさま残りの2人から不満の声が上がる。特に後ろからチキンウィングを極めていたテニス部の茶髪は不満そうだ。しかし、ボクシング部は手をひらひらをさせながらシオンの肋骨が終わるあたりに親指を付ける。

 

「まぁ慌てんなって…。落ちた相手を起こす方法なんて簡単なんだよ。ボクシングでもよくあることでな、気ぃ失ってもこうすれば…」

 

ボクシング部が押し当てた親指を強く押し付けると、シオンの身体はビクリと電気ショックを受けたように跳ね上がり、一気に意識が覚醒した。

 

「ぷはぁっ!?はぁ…はぁ…あ……え…?」

 

一瞬気絶してたことにも気付かなかったのか、軽いパニック状態になり、状況が飲み込めずに辺りをきょろきょろ見回した。視線に入ったのはニヤニヤと笑う男の顔ばかりだった。

 

「こいつはいいや……」

 

「な?遠慮するこたぁねぇぜ?気絶してもまた起こしてやるよ」

 

「長い夜になりそうだな、会長さん」

 

シオンの前には別の男が拳を握って佇んでいた。