スクリーンショット 2022-03-27 21.06.25


 首都高からでも、アナスタシア聖書学院の礼拝堂が空を焼く灯がかすかに見えた。
 ノイズはそれを横目に見ながら、車内のインターコムを使って数人の相手と連絡をとった。アナスタシア聖書学院に残った者からは、美樹が凍るような表情でバイクを駆って行ったと報告が入った。その他の細かい準備も順調に進んでいるようだ。
 何よりだ。世界は順調に崩壊と再構築に向かっている。
 ラジオをつけてみると、世の中は相変わらず混乱していた。三神が人妖の存在を明るみにして以来、疑心暗鬼による傷害事件や殺人事件が増えていた。小規模な略奪も発生しており、店舗に営業時間を短縮するよう政府が求めていた。その裏番組では若手の芸能人が呑気に高校生の恋愛相談に応じていた。誰も自分が当事者になるなんて想像すらしていない。だからこそ気がついた時にはもう遅いのだ。
 ノイズはあらかた指示を出し終えると、深く息を吐いて包み込まれるようなシートに身体を預けた。
 とろけるようなレザーシートの感触が心地良い。
 あと三日だ。
 あと三日で世界が変わる。
 シオンが人間以上の存在だと、ようやく世界が認めるようになる。
 ノイズが口角を上げた瞬間、突然激しい頭痛に襲われた。まるで脳の中心に無数の針が出現したような痛みだった。ノイズはシートから跳ね起きて、両手で頭を抱えてうずくまる。運転手と助手席に座る秘書はすぐに異変に気がついた。見かねた運転手が車を止めるか聞いてきたが、ノイズは必要ないと吐き捨てるように言った。 
「……シオン?」と、自分の意図に反して口が動いた。
 いや、あり得ない。シオンが私を認識することはないはずだとノイズは思った。シオンが私を認識するということは、お父様の死をシオン自身が認識するということだ。それだけは何があっても避けなければならないし、そうならないように、あの日、精神科医を脅してシオン側からは不可侵の壁を築かせたではないか。シオンは私を知らない。そしてお父様の死は私が全て持っていく。だからこの頭痛は、決して親友の美樹に対して行った自分の仕打ちに、シオンが抗議しているわけではない。
 潮が引くように頭痛が消えて行ったと思ったら、今度は胃を締め上げられるような感覚があり、ノイズは目を見開いて反射的に口を抑えた。
 胃の中は空っぽのはずなのに、胃そのものが喉から飛び出してきそうな激しい吐き気だ。
 前席からの視線に気がつき、ノイズは手探りでアームレストのスイッチを押して前席との間のパーテーションガラスを不透明にした。
 運転席との通信も切れ、エンジン音すら聞こえないほどの静寂に包まれる。
 しばらく彫像のように動かないでいると、発作の嵐が去ったのか徐々に感覚が戻ってきた。額と口元を押さえていたレースの手袋が脂汗でぐっしょりと濡れている。
 時間が無いのかもしれない。
 もし自分が主人格のうちに消滅してしまったら、シオンの人格はどうなるのだろうとノイズは思った。都合よくシオンが目覚めてくれればいいが、もし目覚めなかったとしたら人格の無い空の器になってしまう。それだけはダメだ。
 ノイズは初めて恐怖を覚えた。
 あと三日……三日で全てを終わらせなければならない。世界も、自分も。

 豚はシャワーを浴び終えると、鼻歌を歌いながらゲランの香水を首筋と股間に吹きかけた。
 深紅の絨毯が敷き詰められた広い室内を全裸で横切りながら、腹や胸の肉の間に残った汗をタオルで拭いている。部屋の隅には三毛猫柄のマイクロビキニを身につけた年端も行かない少女が控えていて、豚のためにペリエをグラスに注いだ。豚はそれを一息で飲み干すと中央の朝比奈を一瞥した。
「ブランデーや葉巻でも嗜めば格好がつくのだろうが、あいにく私は自ら進んで毒物を体内に入れるマゾ的な趣味は持ち合わせていなくてね。酒やタバコなんぞをやる奴は自殺願望があるか、それとも致命的なバカのどちらかに違いない。そうは思わないかね?」
 豚の粘つくような視線を朝比奈が睨み返す。
「まぁそう睨まずに再会を喜ぼうじゃないか。どうかくつろいでおくれ。ここは私が趣味で持っているラブホテルで、この部屋は私専用のプレイルームだ。何棟か他にも持っているが、ここが一番気に入っている。もちろん間違っても従業員や部外者が勝手に入ってくることはない。ああ、この子のことは人間と思わなくていい。『ティッシュ』みたいなものだ」と言うと、豚がビキニ姿の少女の頭をぽんぽんと叩いた。少女は豚に触られると発情したような表情になった。
 室内の照明はダウンライトのみで薄暗い。奥に設置されたキングサイズのベッドには黒いシルクの寝具で完璧なベッドメイクが施されている。そして部屋の中央には場違いなほど本格的なサンドバッグが置かれ、朝比奈はそこにロープで拘束されていた。
 さてとと言いながら豚が朝比奈に近づくと、バトルスーツに包まれた朝比奈の身体を舐めるように見回した。全裸なので男性器が限界まで勃起していることがわかり、朝比奈はたまらず目を逸らした。
「今まで神はいないと思っていたが、どうやらノイズ様がそうであったらしい。こうして二度も朝比奈ちゃんと巡り合わせてくれたのだからね」
 ぐいと近づけた豚の顔に、朝比奈が唾を吐いた。豚は満面の笑みで顔についた唾液を舐め取ると、朝比奈の腹に鈍器のような拳を埋める。数十キロはあるかというサンドバッグが大きく跳ねた。豚の拳に挟まれた朝比奈の身体がくの字に折れる。
「うっぶぇあ゙ッ?!」
 朝比奈の華奢な身体に鈍器のような腕が痛々しく埋まり、苦痛に目と口が大きく見開かれた。
「おっと、少し強かったかな? すぐに壊さないように注意しないと長く楽しめないからねぇ」
 朝比奈は激しく咳き込みながらも、気丈に豚を睨み上げる。
「げほっ……卑怯者。女の子一人拘束して、恥ずかしくないんですか?」
「卑怯? 勘違いしてはいけないよ朝比奈ちゃん。卑怯とは勝負に勝つために汚い手を使うことだ。これは勝負ではない。朝比奈ちゃんをサンドバッグにして一方的に蹂躙したいという私の欲望を満たしたいだけだ。頑張って私にご奉仕して気持ちよくしておくれ」
 豚は腕を引き絞り、朝比奈のへそのあたりの腹部に鈍器のような拳をぶち込んだ。当然防御など出来るはずがない。どっぶ……という聞いたこともないような重い音が響き、朝比奈を括り付けたサンドバッグがくの字に折れる。もちろん豚の拳とサンドバッグの間に挟まれた朝比奈の腹部は大きく陥没し、逃げ場の無いダメージが容赦無く朝比奈の小さな体を襲った。
「ゔぶぇッ?! お……うぐぇああああああああ!!!」
 普段のしゃんとした朝比奈からは想像できないような濁った悲鳴が反響した。たった一撃で朝比奈の瞳は点のように収縮し、限界まで開いた口から大量の唾液が飛び散った。
「力の加減が難しいな。ノイズ様の薬を飲んでから身体に力が漲りすぎてね。華奢な朝比奈ちゃんのお腹に合わせて、少し軽くしてあげよう」
 ずぷん……と朝比奈の下腹部に拳が埋まる。「ゔッ?!」と朝比奈の口から搾り出すような悲鳴が漏れ、サンドバッグが振り子のように大きく振れた。そして戻ってくる勢いを生かして豚が朝比奈の鳩尾を貫く。ぼんっ、という音と共に、朝比奈の鳩尾が陥没した。
「おぎゅぅッ?!」
 身体の中心が破壊されたような感覚があり、朝比奈の意識が飛んだ。かくんと頭が落ちそうになる朝比奈の髪の毛を豚が掴む。
「ダメだよ朝比奈ちゃん。ちゃんとエッチな顔を見せてくれないと」
 豚が強制的に持ち上げた朝比奈の顔を覗き込んだ。朝比奈は朦朧とする意識の中で唾液を垂らしながらも、まだ豚を睨んでいる。
「良い顔だねぇ。これは私の経験だが、お腹を殴られた時の顔はセックスで絶頂してる時の顔と同じだ。朝比奈ちゃんはどんな顔でイっちゃうのかよく見せておくれ」
 朝比奈の顔を上げさせたまま、豚が重い拳の連打を朝比奈の腹に埋めた。ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ! と衝撃が響くたびに、苦痛に歪んだ朝比奈の顔が豚の前に晒される。
「ぐぷッ! ぐぇッ! ごぇあッ! ゔッ! ゔぁッ! ごぶッ!」
「んーいいね。なるほど、朝比奈ちゃんはこんな顔でイっちゃうんだねぇ。普段の澄ました顔とは大違いだ。後でレイプして確かめるのが楽しみだよ」
「げぼッ……ゔッ!? うぐぇッ! おぐッ!」
 腹を殴られるたびに、朝比奈のバトルスーツが激しく引き攣れて陥没した。朝比奈の痛々しい悲鳴が部屋に響くが、豚は朝比奈の感じている苦痛など意に介さず、まるでおもちゃを弄ぶように朝比奈の腹を殴ち続けた。大きな肉ダルマのような豚が小柄な朝比奈をサンドバッグに拘束して、抵抗はおろか防御すら不能にした状態で腹を殴り続けるという、常人であれば目を背けたくなるような光景が目の前に広がっている。だが止める者は誰もいない。朝比奈は文字通りサンドバッグのように、ただ豚の攻撃を受け入れるしかなかった。
 豚はフルコースの料理を楽しむように、的確に殴り方を変えた。
 ズンッ! ズンッ! ズンッ! と下腹部、腹、鳩尾と連続して殴ったと思ったら、脇腹を殴り、再び腹に拳を埋めると数十秒抜かないようにした。
 的確な残酷さで与えられる苦痛に朝比奈も様々な悲鳴を上げ、ただ無様に苦しむ顔を豚に晒すしかなかった。そしてその顔を見て豚はさらに興奮した。
「最高だよ朝比奈ちゃん。こんなに興奮したのは久し振りだ。スノウちゃんとどっちが具合が良いか、確かめるのが楽しみだよ」
「げぼっ……く……くた……ばれ……ッ……!」
 気丈に返す朝比奈に、豚は満面の笑みを浮かべた。バトルスーツの下腹部のあたりを掴むと、そのまま強引に引っ張る。かなりの伸縮性のある生地で豚の力を持ってしても容易には引きちぎれない。
「なるほど、衝撃吸収スーツだとは聞いていたがここまで高性能だとはな」と言いながら、豚はさらに力を込める。
 とうとう生地が耐えきれなくなり、引き攣れるような音を立てて腹部のあたりが大きく破り取られた。朝比奈の顔に今まで以上に絶望感が濃く浮き上がる。
 豚が朝比奈の生腹に狙いを定めて拳を埋めると、どぷん……という重い音が響いた。スーツ越しに殴っていた時とは明らかに違う水っぽい音だ。
 そしてその一撃で、朝比奈の瞳がグリンと裏返った。
「えぐぁッ?!」
 叫ぶような悲鳴が朝比奈の喉から漏れた。明らかに感じているダメージが今までの比ではない。豚は壊さないように注意しながら、容赦のない攻撃を続けた。
「おぶッ?! ごぇッ?! ぐぇあぁッ!」
 朝比奈は白目を剥きながら舌を限界まで伸ばし、苦痛に歪む無様な顔を豚に晒している。何も守るものが無くなった生腹に豚のゴツゴツとした拳が埋まるたび、電気ショックを受けたように朝比奈の身体が跳ねた。
「ええぃクソッ!」  豚が控えていたビキニ姿の少女の髪を掴み、雑巾のような扱いで自分の男根を少女の口に捩じ込んだ。
「むぐッ?! んんんんッ?!」
 少女は突然の衝撃に目を見開き、自分を支配している豚を上目遣いで見る。豚の男根を咥えている時は絶対に豚の顔を見るように教え込まれているのだ。
 豚は両手で少女の頭と顎を挟むように持つと、少女の後頭部を男根で貫通させるような勢いで激しく前後に揺すった。喉奥を顎が外れそうな極太で突かれ、少女の口からは地獄のような嗚咽と悲鳴が漏れるが、豚は意に介さずに恍惚とした表情を浮かべた。やがて歯を食いしばったまま呻くと、常人の男性の数回分はあるほどの量の白濁液を放った。
「ごぼッ?! んぶッ?! ごぶぇッ?!」
 少女の口や鼻から白濁液が逆流するが、豚はさらに少女の顔を自分の腹に押し付けた。食道までねじ込んだ男根から直接胃に粘液を吐かれ、呼吸もままならない少女はすぐに白目を剥いて痙攣し始める。
「ふぅぅぅぅぅ……あぁ……出る出る出る……」
 死にそうな少女の顔とは対称的に豚は恍惚の笑みを浮かべた。長い放出が終わると、失神した少女の髪を掴んでゴミのように床に投げ捨てた。そのまま腹を蹴飛ばして部屋の隅に転がす。少女は失神したまま口から噴水のように白濁液を吐き出した。  朝比奈も項垂れたまま意識が飛びかけているようだ。
 豚は朝比奈の鳩尾を軽く弾いた。
「ひゅぐッ?! ぐぁッ!」
 電気ショックを受けたように朝比奈の身体が跳ねる。そして目の前の豚の顔を見ると、さっと顔から血の気が引いた。
「ダメだよ朝比奈ちゃん。夜は長いんだから勝手に居眠りなんかしちゃあ……」と、豚が朝比奈の耳元で囁くように言った。「それじゃあ早速、第二ラウンドといこうか?」